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(公社)日本柔道整復師会第41回近畿学術大会奈良大会 開催

トピック

平成28年10月23日(日)、奈良県社会福祉総合センター(奈良県橿原市)において、公益社団法人日本柔道整復師会第41回近畿学術大会奈良大会が開催された。

(公社)日本柔道整復師会第41回近畿学術大会奈良大会 開催
工藤鉄男会長

主催者である(公社)日本柔道整復師会・工藤鉄男会長は〝今日は若い柔道整復師や学生の方々も参加されているので、日本柔道整復師会が公益社団法人として行っている活動についてお話ししたい。まず、保険取扱いの制度改革を29年度からスタートしたいと考えている。現在、保険者による厳しい患者調査が行われているが、我々は審査会の権限を強化し、患者調査のあり方を見直し理不尽な調査を止めさせようとしている。行政に対しては、柔道整復も医科と同様に支払基金を通して支払いが行われるようにできないかと要望している。しかしそのためには、まず全国統一した様式で請求を行うようにしていきたい。これにより、医科と同様に電子請求が実現できる可能性が出てくる。これには行政も前向きに動き始めている。その気運が高まってきた背景には、昨年問題となった、医療関係者が反社会的勢力と結託して働いた医療費および療養費詐取事件がある。保険取扱いについては、養成校を卒業してすぐに開業すること自体は問題ないが、受領委任払いを利用するためには3年間の実務経験を課すことを検討している。これには行政や保険者等も大いに賛成している。我々はより良い柔道整復業界を後世の柔道整復師に残すためにも、未来に向かって改革を進めていこうと尽力している。皆さんには今日学んだことを明日の糧にしていただきたい〟と挨拶した。

特別講演
『スポーツ現場におけるリスクマネジメント』

国立大学法人 奈良教育大学 保健体育講座
学校保健・スポーツ医学研究室 教授 笠次 良爾氏

笠次氏

笠次氏は〝私は現在教育大学に勤務しているがもともと整形外科医であり、マラソンやトライアスロンに関わっている。今日は医師という立場も含めて、現場でどうリスク管理を行うかを中心に話していきたい〟として講演を開始した。

スポーツ現場における柔道整復師の活動については〝大会救護とクラブチームのサポートが多いと思う。現場に医師がいる場合もあるが、いない場合のほうが多いのではないだろうか。この時に柔道整復師は脱臼又は骨折の応急処置や打撲・捻挫・挫傷・筋腱などの軟部組織損傷に対する施術を行う。医師がいる場合には、医師が診断をし、医師と看護師が内科的疾患、そして柔道整復師や理学療法士などが運動器疾患の治療にあたる〟と説明。スポーツ現場に出る際には、どのような傷病が多いかということを予め把握しておく必要があるとして〝トライアスロンでは、傷害が7割、疾病が3割であり、傷害の中でも擦過傷が大半である。つまり、重症度の高い内科的疾患がある可能性も踏まえながら、多くの運動器疾患の患者に対応しなければならない。では柔道ではどうか。柔道は体育活動中の頭頚部の死亡・重度の障害事故の割合が多く問題となっている。平成23年度までの14年間では死亡・重度の障害事故は167件、うち死亡が57件、重度の障害が110件であった。死亡のうちの9割を占める頭部外傷の中で、運動部活動の柔道では21件も起こっている〟と事故の多い事例等を報告し、頻度の高い傷病に常に対応しながら、重症度の高い傷病患者が来た時にいつでもすぐに対応できるような心構えをしておく必要があるとした。

リスクマネジメントは時系列で見ると、リスクを断ち切るためにあらかじめ準備しておく「事前管理」(狭義のリスクマネジメント)、現場での対応である「渦中管理」、被害を最小限に留めるための「事後管理」(クライシスマネジメント)に分類される。
リスクマネジメントとは、〝『安全配慮義務を尽くすこと』という一言に尽きる。①自らを守る方法を教える、②重症の怪我を負わせないための活動計画の立案および実施、③安全対策を立てる、④最悪を想定し活動の中止を恐れない、⑤地域やスポーツの実情に合わせたマニュアル作り、⑥保険への加入、等が重要だ〟と弁護士の菅原哲朗先生の書籍から引用され要点を解説。クライシスマネジメントは、〝被害を最小限に抑える努力をし、最小限の費用で最大限の効果が上がるように損害を減少し、被害を回復させるということを考えていかなければならない。ポイントとしては、①人命救助などの果たすべきところは果たす、②事実関係を把握し記録する、③様々な情報源からの情報収集を心がけて先例を学ぶ、④自分が行ったことの証拠を写真や文書で残しておく、⑤日頃から仲間や保護者、家族等と信頼関係を築いておく、⑥最新の情報や知識を基に、自分の行動は正しいという信念を持つこと、等が大切である。常に設備や施設などの物理的環境、自然環境、社会的環境などの外的要因、児童自身の既往歴などの内的要因に気を配り、その中で改善できるものについて変えていくことが、我々がスポーツ障害を予防するために行うべき対策だ〟として、スポーツに参加する前のセルフチェックポイント等を紹介した。

安全対策については、〝児童や選手に対し安全教育を行うことが最も重要となる。そうすると児童や選手は自らの安全を守ることができるようになり、管理者は人命にかかわる最も重要な部分を管理するだけで済むようになる。選手自身に管理させるためには、まず「自分にも出来る」と感じさせること、そして役割を与え、その行動自体をかっこいいと思ってもらえるようになることが大切だ。選手を巻き込むことによって、チームで安全を守ることができる〟と述べ、具体的事例として、災害医療の考え方をトライアスロン大会の救護体制構築へ応用した例を用いて、重症度判定の方法や搬送時の注意点、伝達すべき事項、初期対応の手順に至るまで詳細に解説した。

基調講演
『肩関節拘縮の運動療法 ―理学療法士からの視点―』

さくらい悟良整形外科クリニック リハビリテーション科 科長 榮﨑彰秀氏

榮﨑氏

榮﨑氏はまず、五十肩のメカニズムについて〝腱板の機能低下が上方でインピンジメントを引き起こす。そのためその周辺組織に炎症が起き、それに伴って癒着瘢痕が形成され拘縮が起こる。ほとんどの場合はこのような流れとなっている。烏口肩峰靭帯は年齢とともに硬くなる傾向にある。インピンジメントが繰り返されると、炎症が起き肩峰下滑液包の滑膜が烏口上腕靭帯(CHL)を覆っているため、炎症がCHLや腱板疎部にも波及する。肩峰下滑液包や腱板での炎症は、最終的に関節内に波及する。起炎物質であるブラジキニンを関節に注射すると、筋電図は棘上筋などの深層筋の腱板筋のみで大きく振れ、浅層筋ではあまり反応しない〟等と説明。肩関節の奥で炎症が起きるとそれに近い深層筋に大きく影響が出るため、治療のターゲットは深層筋となることを示した。

運動療法については〝どこに狙いをつけるかが重要。動かないということはどこかに問題が生じているということなので、ポジション別の運動方向により制限因子をある程度断定する必要がある〟として、各肢位における緊張変化について詳細に解説した。さらに〝肩関節拘縮の原因のほとんどは、攣縮・短縮・癒着であるが、治療対象を区別して考えなければならない。最も重要なのが圧痛所見である〟として圧痛所見による見分け方を解説。その後、脊髄反射を使った抑制操作の仕組みや等尺性収縮を用いた肩関節ROM訓練等を紹介した。

特別講演2
『次世代の柔道整復術を考える ―超音波画像診断装置を自在に操る時代へ―』

日本超音波骨軟組織学会 会長 山田直樹氏

山田氏

山田氏は、はじめに超音波画像診断装置の仕組みについて〝プローブ(探触子)から音が出て生体に入って、返ってきたものの時間軸を計算して可視化している。プローブ走査として、輪切りになった状態を短軸走査、縦に割った状態を長軸走査と言う。運動器には高周波が適しており、最近の機械ではフルデジタルでかなり鮮明に画像が見えるようになっていて深いところでも良く見える〟と説明。加えて、〝ほとんどの場合は患者自身で骨折しているかどうか判断がつかない場合に来院されるため、それをきちんと見分けられなければならない。正しく診ることができれば骨折を見落とすことはない。柔道整復師の超音波画像診断装置使用の可否については、平成15年9月9日、厚生労働省医政局医事課長から「検査自体に人体に対する危険性がなく、かつ、柔道整復師が施術に関わる判断の参考とする超音波検査については、柔道整復の業務の中で行われていることもある。ただし、診療の補助として超音波検査を行うことについては、柔道整復の業務の範囲を超えるものである」との通知が出ている。非常に分かり難いが、接骨院の中で装置を使用するのは合法であるということ。しかし診断権はないので「折れている」「切れている」という断定表現をせず、「折れている可能性がある」という程度に留めて、適切な医療機関への対診を勧める必要がある〟として、超音波画像診断装置使用上の留意点等を解説した。

超音波画像診断装置の機能については〝外傷による損傷部位の特定、程度の判断が可能だ。また骨折等を診る際に、血管の反応を見ることができる「カラードプラ」という機能がある。例えば骨の不正像はないが疲労骨折の症状があり、整形外科で診てもらうとレントゲンでは異常がないという場合に、カラードプラで確認すると健側では大きな血管の反応しかないのに、患側では小さな血管の反応がたくさんあることがある。骨折が起こると修復するために新生血管ができることがわかっているので、その反応だと判断できる。また、動的観察ができるため疼痛出現時の関節構成体の動きを見て病態を把握することも可能だ。骨や軟部組織を診る専門家として、超音波画像診断装置を自在に操り、傷病を見極める知識が必要となる〟として、写真・超音波画像とともに症例を紹介し、プローブの当て方、画像の見方など詳細に解説を行った。さらに足関節のエコー観察を実演し、聴講者は真剣な顔つきで見入っていた。

この他、(公社)日本柔道整復師会保険部介護対策課による活動報告、同国際部による活動報告、会員発表5題、養成校ポスター発表12題、近畿超音波画像観察小委員会運営のポスタースライド展示1題および演題発表2題が行われた。全発表終了後、発表者に対する表彰が行われ、本大会は盛会のうちに幕を閉じた。

介護保険活動報告

  • 2016・柔道整復師と介護保険について
    -柔道整復師の地域包括ケアシステムへの貢献-
    (公社)日本柔道整復師会保険部介護対策課

国際部活動報告

  • JICA草の根事業(パートナー型)日本伝統治療(柔道整復術)
    指導者育成・普及プロジェクト -プロジェクト終了時評価を迎えて-
    (公社)日本柔道整復師会国際部

会員発表

  • 2015紀の国わかやま国体・大会における救護トレーナー・トレーナー活動岸田昌章(和歌山県)
  • 同側、同時、肩・肘関節脱臼の一症例西尾勝彦(奈良県)
  • 肩関節の代償動作から考察する頸部傷害へのアプローチについて寺田寛幸(滋賀県)
  • 鵞足炎の一症例について上村雅章(京都府)
  • 脛骨遠位端骨折の一症例清家万義(兵庫県)

養成校ポスター発表

  • 肩甲骨の安定性と握力の関係性履正社医療スポーツ専門学校 中筋勲
  • 足関節背屈制限と跳躍高の関係履正社医療スポーツ専門学校 田中優唯
  • 臨床実習および卒後臨床研修について臨床現場に求められるものとは近畿医療専門学校 講師 浅見有祐
  • 誰でもできる、ロコモにならないための最小限トレーニング大阪行岡医療専門学校長柄校 枝祐樹
  • 柔道におけるケガの予防について大阪行岡医療専門学校長柄校 菅野利亮
  • 片足立ちバランスでのタオルギャザーの効果について京都医健専門学校 森原敬貴
  • セルフトレーニングによる内反膝の改善法京都医健専門学校 吉田尚史
  • 外傷に伴い発生した橈骨神経浅枝障害の報告(自験例)京都仏眼医療専門学校 近藤由奈
  • エナジードリンクが敏捷性と集中力に及ぼす影響について大阪ハイテクノロジー専門学校
    乾紘/宇治山大貴/成宮瑞貴/柳本直斗/山内飛和
  • ストレッチ・手技療法がもたらす股関節可動域改善について兵庫柔整専門学校 大橋昌浩/渡代誠/戎正
  • 4スタンス理論における重心位置の効果の検証兵庫柔整専門学校 得田武史/藤本侑季/三戸森貴之
  • 伸縮テープによる筋力への効果兵庫柔整専門学校 内海慶彦/成田修斗/原武憲一

近畿超音波画像観察小委員会運営

ポスタースライド展示 テーマ:「超音波の原理」

超音波画像観察装置の基本操作法

演題発表 テーマ:「超音波で下肢をみる」

近畿超音波画像観察小委員会の変遷と活動指針―2016年度

委員 辻岡伸一

柔道整復師の行う下肢に対する超音波画像観察 ―基礎から現場での活用―
実技を交えて

副委員長 藤井憲之

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