第5回日本老年医学会プレスセミナー開催
2017年5月8日(月)13:30~朝日生命大手町ビル27階大手町サンスカイルームB室において、第5回日本老年医学会プレスセミナーが開催された。
大阪大学大学院医学系研究科老年・総合内科学教授・日本老年医学会理事長の楽木宏実氏は、開会の挨拶で〝老年医学会がプレスセミナーを年1回開催するようになってから定例で5回目です。
今年の1月に「高齢者の定義を変更する」として提言をさせて頂き、その際にプレスセミナーの形をとらせて頂いた。
この定例セミナーは〝老年医学会がどういうことを目指しているのかをメディアの方と共有していきたい〟ということで、勉強の意味も兼ねてセミナー形式で開催させて頂いています。
本日は「生活習慣病」ということで開催します〟と述べ、昨年のセミナーから1年間の活動内容について〝いま、4つのガイドラインを作成中で、糖尿病に関しては糖尿病学会と合同の委員会を作り進めており5月の糖尿病学会で最初の版が出る予定です。昨年5月に血糖の管理目標をプレスリリースし、実際に今それが使われていますが、根拠となるガイドラインが出される予定で、ガイドも出版予定です。
高血圧は、パブリックコメントも終わり、7月の老年医学会の雑誌に掲載する方向で、遅くとも7月にはウエブサイトで公開できると思います。脂質異常症は今パブリックコメント直前の段階で、肥満についても原稿を作成中です。この4つが揃った段階で、一般向けも作りたいと考えております。
難しいテーマになるかもしれませんが、ガイドラインを使われるのは基本的にはドクターです。医療従事者だけではなく、それを基に患者さんサイドがどのような注意をしなければいけないのかが分かるものを発表していきたい。
その他の活動としては、9月に発表した「フレイル白書」、これは国際老年学会が出している概要を日本語に訳し公表しましたが、国立長寿研の新井先生が中心になって語訳版を作成し、老年医学会のHPで見ることができるので是非ご覧頂きたい。
10月に行われた多職種による包括的な「転倒・骨折・骨粗鬆症、サルコペニア予防に関するシンポジウム」は、多くの学会が合同で行う活動を始めたことを知って頂きたいとして開催しました。1・2の学会で合同のものは従来から行っていますが、多職種を含めて非常に広い範囲での活動が今必要になってきています。かなりの学会に呼びかて〝日本は如何いう対応をしていくべきなのか〟と前向きに取り組んでいます。
11月に出したパンフレット「多すぎる薬副作用」は、一昨年の11月に発表した高齢者の薬物に関する一般向けのガイドラインです。薬物療法に対しても一般向けのものは非常に大事という観点で、他の学会と合同で作成しました。現在、医師会と共同で実地化に向け、より分かっていただけるものを作成中です。
1月には高齢者に関する定義の検討について発表しました。今日お集まりの皆様方のご協力を得て多くの国民の皆様に意見を届けることが出来ました。どのように取り組んでいくのかは、私ども学会に課せられた課題だと思っています。
3月の改正道路交通法に関するQ&Aの作成は、当学会だけではなく認知症に関わる多くの学会が中心になって行われる中で、当学会でもQ&Aのパブリックコメントを募集して、鳥羽先生達が纏め進めています。まだまだ日本全体で対応していくべきことは沢山あります。
警察のほうも対応を検討されていることが多々あり、アカデミアと実際の現場の中で一緒に対応していくべきものだとして取り上げました。
もう1点、基礎老化研究に関する大型予算が認められ、各大学で行われている基礎老化研究を繋いで、日本の将来像を考えていかなければならないとする考え方が出てきました。これは日本老年医学会も関連していろいろ取り組んできた課題で、漸く基礎老化の分野にも国が予算をつけていただける状況になりました〟等、報告した。
引き続き第59回日本老年医学会学術集会会長で国立長寿医療研究センター理事長の鳥羽研二氏が「第59回日本老年医学会学術集会」の紹介を行った。
6月14日から名古屋で開催される学術集会について鳥羽会長は〝いま楽木理事長からお話がありましたように、高齢者の定義の年齢区分を行いました。
新しく区分した65歳~75歳の人にはどういう医療や気配りが必要か、75歳~85歳の人、或いは85歳~90歳の人にはどういう気配りが必要か。
全てに問題意識を持って、様々な観点から医療、介護情報を提供して解決策を探ることが老年医学の学術集会の目的です〟と述べた後、鳥羽氏自身の老年医学の考え方を簡単に述べたいとして〝1970年代と比較して年齢区分の変化、65歳以上の人口、また100歳以上の人口が1000倍以上に増えていることで、労働力も増えるというのは明るい反面、寝たきりの高齢者や認知症の高齢者が激増する等、ここ50年間に高齢者の実態が随分変わりました。
老年医学は大体60位から患者さんをみはじめて、その方が100歳、或いは亡くなるまで看る訳です。ご本人の医療ニーズ・生活ニーズも変わってくると同時に医療や福祉構造の変化に伴い医療・福祉のニーズが変わってきているのが老年医学の大きな特徴と思います。
これから増えていくのは75歳以上ですが、それとともに急増する2つの代表的な状態は、「認知症」と「フレイル」で、いずれも右肩上がりに年齢とともに増える。
従って、認知症と正面向かって取り組む必要があり、老年医学の主題です。
特に「認知症」、「ロコモ」、「フレイル」等、運動器の問題が寝たきりの6割位を占めるようになったのがここ数年の特徴です。
以前は脳血管障害が4割位寝たきりの原因でしたが、知らない間にそれが2割以下になり、逆に多くなったのが「認知症」と「フレイル」です。心身の自立をはかるためには、これから激増する認知症・フレイルに対して正面切って向かっていかなければなりません〟と話した。
また今回の学術集会の内容について〝老年医学は特に老化に伴う心身の衰弱と症状について生活習慣或いは運動、交流といったアドバイス、又は本日の主題である生活習慣病の診断と予防、更には病気を持っても個別指導による多病の管理と最小限の薬、生活支援等、個人の年齢と生活機能の変化に基づいた個別的なアドバイスが出来るような多くの臨床領域からの発表があり、これらを支えるものとしての研究・連携、及び基礎研究の着実な進展が臨床に反映されていくことが学術集会への我々の興味と楽しみであります。
第59回老年医学会のキーワードは「心身の自立(生活機能評価)」であり、この自立をはかるものとして生活機能状態に着目し、その解決手段には様々な臓器別があること、またご本人の個別化医療に着目した巧みな戦略が求められ、この巧みな戦略といったものを「アート」と表現し、今学会のテーマを「老年医学とアート」にさせて頂いた。
中でも特に多いトピックスは、生活習慣病に着目した認知症予防について5つ以上のシンポジウムがあります。また生活自立を目指したフレイル研究は、学会の演題の中で最多の演題数です。
このフレイルに関する国際大規模研究の特別講演も予定されており、高齢者の運転問題では市民公開講座を予定しています。先ほど言った本質的な老化予防につながるような遺伝的なもの、或いは代謝的なものの新しい切り口として加齢とオートファジイという特別講演を予定しています。
個人の年齢変化によって生じる様々なニーズ、臓器別或いは社会的な切り口で多くの演題やシンポジウムが予定されています。更にエンドオブライフケア、所謂昔からいう終末期医療のシンポジウムを2つ企画しています。
会員をはじめ一般参加の方、或いは市民公開講座では広く市民の方にも参加いただいて、老年医学は〝何をやっているのか、社会にどのように役に立っているのか〟ということを広く知っていただいて、又メディアの方々に評価いただいて紹介いただければと思っております〟と結んだ。
その後、鹿児島大学心臓血管・高血圧内科学教授・大石充氏が『来たるべき心不全パンデミックにどう備えるか?』と題して講義を行った。
大石は〝2030年問題がクローズアップされており、何故なら団塊の世代が80歳を超えるからです。80歳になると何故ダメなのかというと、実は2つの大きな区切りがあります。心不全、心房細動は80歳になると急に増えてきます。特に心不全の場合には、75歳からの5年間と80歳からの5年間は2.5倍になることが分かっています。
団塊の世代が80歳になると救急車が足りなくなるだろうと言われており、我々も心不全を発症したら処置、治療を考えるのではなく、発症を考えていかなければならない段階に入ってきたと考えます。〟と述べ、理論的・生理的降圧療法の実践、リアルワールドの降圧薬使用を把握すること、服薬アドヒアランスの改善、そして超高齢社会への対応としてチーム医療の推進と専門知識の共有、医師の意識改革をあげる等、重要なレクチャーを行った。
第二部は、千葉大学大学院医学研究院細胞治療内科学講座教授・横手幸太郎氏による『超高齢社会における脂質異常症の管理』、東京都健康長寿医療センター糖尿病・代謝・内分泌内科 内科総括部長・荒木厚氏による『認知機能低下とフレイルを考慮した高齢者糖尿病の治療』の2題が行われた。
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