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未来健康共生社会研究会 第10回公開シンポジウムを開催

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未来健康共生社会研究会第10回公開シンポジウムが『少子高齢社会における未来型の健康な住居とコミュニティの創成』と題し、2018年3月4日(日)午後1時から、東京大学医学部教育研究棟13階第6セミナー室で開催された。

渥美氏

主催は、(一財)渥美和彦記念財団。
まずはじめに、渥美和彦氏から〝第10回になりますが、会場が満員で大変うれしく思います。渥美財団は、これからの医療が如何あるべきなのかを世界に発信していく会だと思って頂きたい〟等挨拶で述べた後、これからの医療について〝自然科学、予防医療、現代医療、相補代替医療が連携することで、我々が理想とする統合医療が将来の医療になっていくと考えます。生まれてから死ぬまでの包括医療が、人間の医療の究極の目的になるような、所謂人間学ではないか。いろんな構想があり、統合医療センターを各地域に作っていきたい〟等、今後の構想を述べた。

長澤氏

シンポジウムコーディネーターで東京大学・工学院大学名誉教授・未来健康共生社会研究会住環境部会長・長澤泰氏が〝衣食住と先端医療の面から、健康な社会をどうしていくかを考えています。病気を治すのではなく健康を回復し、維持する方向にいかなければならないというのが持論です。今まではヘルスケアシステムではなく、シックケアシステムであり、病気にしてから治すというように病院が真ん中にいたが、21世紀は「自宅で死ぬ」ということを一般化し、「健康共生社会」が出来るのではないか。今日は3つのセッションがあります。もっと一般の方にこういう意識を持ってもらいたいとして公開シンポジウムにしました〟等話した。

セッション1「ZEH住宅からコミュニティに拡がる健康な住環境」

日本の暮らしを省エネ快適健康に~住宅の性能向上で変わる日本の家~

東京大学工学系研究科建築学専攻准教授・前真之氏

前氏

前氏は、環境工学の視点からみた住居環境の影響要因「住む人建てる人が幸せになる家造りは?」として〝家を買うまでに至る人は相当な勝ち組です。やはり良い生活をしたいから手段の1つとして家を買っている。家を買うということは生活のためで、建築産業が家を売るということは、生活を売っている訳です。
単にハードを売っているのではなく「健康と楽しい暮らし」を売っているということです。今はゼロエネルギー住宅というのができて、年間10万戸以上の家がZEH化される。建物を作って、高効率な給湯器やエアコンを入れるなどやればZEH化になる。更に国交省はZEH計画で、エネルギーを減らし日本の輸入燃料を減らすとやっています。全国平均で家の光熱費が22万円位、車のガソリン代が10万円位かかっています。光熱費を減らしていくことは非常に大事です。

地域で暮らし続けゼロエネルギー化、ゼロコスト化していくために、家単体のゼロエネルギー化は当たり前、車もゼロエネルギー化していく。自分さえよければ快適という考えで町並みは全く考えない家が非常に多くなってきている。あくまでコンセプトは暮らす人たちの生活です。お金持ちだけが安全で快適という究極の格差社会。高性能はオプションだという考え方。
お金のある時だけやるという発想が回り回って日本を貧しくしていく。特に地方は貧しくなっています。各地域で電気代が上がり特に北海道は月々5万円がザラにある。35年の家のローンの他に電気代が1千万円位かかる。残念ながら日本は衰退期に入っていて〝本当に今日は寒い。ごめんね。我慢して〟と。因みにイギリスでは月々の収入の20%以上が暖房で消えてしまう家を「燃料貧乏」と言って、今900万人位がいる。こういった人たちが日本でも膨大に出てくる。段々苦しくなっていく中で、それでも日本人はみんな快適に健康に暮らせる社会をつくっていく、少しでも良くしていく。ここ5年間に家を買った人にアンケート調査したところ、間取りや耐震に拘る人が非常に多い。意外に環境面が多い。間取り、耐震、デザインなど目に見えるところは拘っている。実は毎日の給湯・照明が暖房や冷房より遥かにエネルギー消費の金額は大きい。

精神論で冷房を削減するとか省エネの話になるが、根本的には関係ない。やはり快適性のために家の性能を上げなくてはいけないことが今問われているのです。日本人は暖房で寒さを凌ぐしかないと勘違いをしています。私の広島のばあちゃんの家は築50年93歳。ストーブの周りだけ暖かい、離れると寒い。実は入浴中の事故は交通事故より多い、ヒートショック。

ISO7730における快的な温熱環境というのは、体全体で適度に放熱できること。体の中で生産される代謝熱が体表面の放射熱と釣り合い、もし放熱が多すぎると体が冷え切って寒さで死んでしまう。逆に放熱が足りなすぎると体に熱がこもってオーバー熱で死んでしまう。バランスが重要です。空気と放射温度両方整えて快適な健康な環境を作るということが問われ、寒さが人を殺すということが非常に注目されています。そもそも日本というのは土地にしか価値がない。借りるより買ったほうが安いとして買っているだけです。こういうことをやっていると日本はドンドン右肩下がりの経済の中で負の再生産をし続けるのではないか。因みに海外、ドイツやスイスでは土地に大した価値はない。
建築物は人が住んで初めて価値が生まれるとされており、従って資産価値を守るように新築の数が厳しく決まっている。とにかく家の資産価値が徹底的に守られている。
ベルリンでは都市計画をちゃんと示し、まちづくりを市民にちゃんと模型で見せています。役所が管理している集合住宅のエネルギー調査を全て行い、エネルギー消費を変えていくところから段々改修しています。

日本というのは、だまされるのは全て自己責任という恐ろしい国になっていると私は思う。やはり「我々の国は、国民を見捨てない」とするドイツは、凄い。断熱改修も一生懸命やって年間20万戸改修される。日本は各世代ごとにスクラップビルドを繰り返している。ベルリンでは、避難地域を優先的に分厚い200ミリのロックウッドという凄い断熱材を全部に使って改修して、そこに住んでいる。更に窓が凄い、三重のトリプル樹脂サッシを当然のように使っています。
しかし、日本は高級な物件にしか使いません。こういった一番貧しい地域の断熱改修に高性能な素材を使ってインフラを引き継ぐ。こういうところがやはり国民を見捨てないということで、ドイツは凄い国だと思う訳です。

日本もちゃんと性能を確保して家を資産にしていく。そういうことを続けていって初めて日本は幸せになると思います。自分だけ幸せになるは、エコハウス転じてエゴハウスです。幸福はやはり人との繋がりが一番重要です。究極的には、貴方が家を建てて良かったと言ってくれるようになれば建築産業もたいしたもんだとなる。周りの人の幸せも自分の幸せである。街並でエコにしていく。周り全体、日本全体を幸せにしていく。それが次の世代に引き継がれていく。そのことに貢献してこそ、建築産業はたいしたものだと言われる。是非そうなることを祈ってます。〟

超高齢社会での居場所づくりとコミュニティ

東京大学工学系研究科建築学専攻教授・大月敏雄氏

大月氏

大月氏は〝現在、地域包括ケアシステムが行われており、住み慣れた地域に、医療・介護・介護予防・住まい及び自立した日常生活の支援が包括的に確保される体制を地域で作っていくという格調高い掛け声で大賛成です。これを実現する役割を担っているのは市区町村が主体で、基本的に医療・介護の職種連携など情報の共有も優れています。
地域包括ケアシステムを説明する時のイラスト・図の真ん中に「住まい」があるが、「住まい」を作っている建築屋は、この絵を殆ど知りません。そうした中で、「住まい」を地域包括ケアシステムの中で如何作り変えていくべきか。
今後我々建築住宅関連の人間が頑張らなければならないのは、地域包括ケアシステムに対応した家の造り方はどうあるべきかという議論が必要であると思っています。

1973年の朝日新聞のお正月版に載った「住宅双六」で、上がりが庭付き郊外一戸建て住宅。
また2007年の新しい住宅双六に、高齢者になって何所に住むべきかということで〝海外に移住しましょう〟〝都心のマンションで暮らしましょう〟等6つの上がりがあるが、「生涯現役自宅」というのがあり、おそらく多くの人々が望んでいるのは、自分の家で生涯元気でいたいだと思われる。

この双六に描かれていないことが2つあり、その1つは、ある場所からある場所に移る「引っ越し」です。実は「引っ越し」は学問的にあまり考えられていない。
もう1つは、引っ越し先の住まいが何処にあっても良いとして、引っ越しするのであれば東京の多摩ニュータウンでも下町でも、都心でも高齢者で住めたら良いではないかと。引っ越しをどうするかということ、終の棲家をどの辺に作るべきかといったことがあまり認識されていない。それらを考えるための視点の1つは、「時間」という視点です。

東京近郊のある都市の行政データを調べ、築何年の戸建住宅に住んでいる人は何歳か。新しい戸建は35歳の両親と生まれたての子供たち、築10年は35~45歳位の両親と小中学生位の子供たち、築20年は55~60歳位の両親と大学生(子供の数は半減)、築30年は60歳代の両親と30過ぎても家に残っている子供等。分譲マンション・集合住宅でも全体の動きは変わらない状況であり、面白いのは賃貸アパートで、新築は25歳の夫婦と生まれたてが殆ど住んでおり、築10年も築20年も25歳~30歳で生まれたてがピークでした。つまり分譲系の戸建住宅や分譲マンションと違って賃貸は比較的若い親子と生まれたての子供を引きつけている住まいだと言える。これが集合的に作られると団地になる訳で、大体どこの団地もこういう傾向を示しています。

日本とアメリカを対比した図では、日本の終身雇用は壊れつつあるが年功序列の場合、給料が伸びていって50位になったら殆ど上がらなくなる。30歳位になると結婚したり出産したり、子どもがちょっと大きくなると賃貸か分譲かで思い悩む。30歳過ぎて35年の住宅ローンだと65歳で定年になってしまう。日本の場合は引っ越すと損だから、家には追加投資をしない。断熱投資もしない。住環境に無関心な人が増える。逆にアメリカの例をみると、自分の給料を上げたかったら転職するしかない。給料のいい会社に変わるために引っ越しを伴いながらセルフプロモーションをしていく。引っ越すことが前提の社会では、買った家をちゃんとした値段で売ることも前提な訳です。

実は、アメリカのお父さんのイメージは、日曜日に芝の手入れや日曜大工をしたりするのは、寧ろ家をいつ売っても良いように常に家の周りを綺麗にしておくことによってインスペクションという、検査をしてくれる人が居て、住宅に追加投資をするとそれを計測して値段に反映してくれます。日本は逆で、築何年だとマイナス30%の査定だとか30年も経てばゼロ円に査定されてしまう。追加投資をしても誰も報われることがないからリフォームをしない。空き家が増加していくのは、放ったらかしにして問題を先延ばしにしようということです。家の売買の時にインスペクション制度を導入して、住宅に追加投資することを重視するような動きが少しずつ出てきています。

もう1個の視点は、「世帯と家族は違うのではないか」ということです。例えば、茨城にある半分位空き家になっているような団地。東京、大阪近郊の大団地でこういうところが沢山ある。1世帯、1住宅、1敷地じゃないようなパターンというのが実に世の中に沢山あり、その典型的な例が、「近居」です。近居というのは家族、兄弟とか親戚とか親子が1時間以内位の距離に住んでいて、お互いに助け合いながら生きていくという様なことです。ある地域に家族で住んでいくことが、実は緩い見守り社会を形成する1つのポイントではないかと考えます。昭和に作られたニュータウンは、じいちゃんばあちゃん団地になりつつあり、100メーター200メーターの所に引っ越すのが流行っています。ニュータウンの中に空き家が出たら、どういう人が何処から入ってくるかを調べてみたところ、全体の3分の1はこのニュータウンで生まれ育った人がブーメランみたいに戻ってくる。目的は近居です。

最近は共働きが多いので子育てが大変である、60そこそこで未だおじいちゃんおばあちゃんは元気でいる。そこでニュータウン組が近居を目指してやってくる。また賃貸アパートを調べると母子家庭の人が多い。今や日本のカップルは3カップルに1カップルが離婚している。母子家庭・父子家庭のニーズが非常に高い。あまり離婚をしなかった日本人がどんどん離婚して多様な家族形態が生まれて、多様なニーズが出てきてそれをニュータウンが受け止められるかどうか。

次の視点は「居場所」です。高齢社会で単身社会になっていく、しかも「近居」みたいなものを私は家族資源と呼んでいますが、ますます頼るべき家族が居ない人が増えていく中、共同生活を営んでいく上で重要なのはコミュニティで、疑似家族的に如何近所と仲良くしていくかということです。大震災の時に東北の釜石の仮設住宅を提案・実現した住宅で、長屋同士を向かえ合わせにして、廊下を作って上に屋根をつけた。女性を中心に「お茶っこ」を開いている。こういう空間を作るとこういう風に利用されるということが分かっていた。地域包括を考える場合に小学校・中学校区単位の中で住宅をどういう風に多様性を持って作ることが出来るか、家の中と外をとりもつエクスポージャーとしての会場等を作ることが重要です。また病院から住宅までラインナップされている等、今後地域で考えていくことが重要ではないかと思っています〟。

セッション1の座長は、ナイスパートナーズ会長・未来健康共生社会研究会住環境部会幹事・水野統夫氏が務めた。

セッション2「未来型多世代共生コミュニティの果たす役割」

講演:医療福祉がハブとなり生活全般を支援する未来のまちづくり

京都大学経営管理大学院特定教授・高齢者会街づくり研究所顧問・岩尾聡士氏

岩尾氏

岩尾氏は〝2018年、今年の4月が医療と介護の同時改正で次の同時改正が2024年です。この6年の間に病院も介護事業所も再編されると考えています。
日本の病院は機能化されていないので、IHN(医療統合ヘルスケアネットワーク)が非常に難かしい。それが出来るチャンスが1回だけあるのではないかと私は思っています。この6年間に平均在院日数が今16日間位のところが9日位になる。これは病院にとっては死活問題です。その時に在宅がしっかりしていれば医療を立て直していくモデルが出来るのではないか。2060年前後まで後期高齢者が増え続けます。従って後期高齢者が増えることで介護の世界に医療が必ず入ることになります。世界に介護と医療を同時に教える学校が無いのは問題です。

日本で、女性は要介護期間が13年を超えています。最後の10年間は寝たきりか認知症かという、それが現実です。マイケル・ポーターが〝高齢者は最後まで歩いて孫の手を引っ張って公園に行きたいし、ご飯を美味しく食べたい。ヘルスケアをやらないと先進国は経済成長をしない〟と言いきっています。大変だけれども我々にはチャンスもある。

私は安倍総理に「多死社会、多認知症社会に如何対処をするか」と政策提言させて頂きました。みんなが助け合って生きていける社会が必要です。同時にIOT、センサー、AI、ロボット等により飛躍的に生産性が上がりそうな兆しがあり、それをヘルスケアの世界に投入すべきであると考えています。医療言語の分かる看護師や医療言語の分かる介護士を育てる。旧来型の社会保障制度というのは病院が全て行っていました。しかし今のままだと医療・介護を受けられない医療難民、介護難民が続出します。今年の4月に医療と介護の同時改正で、7:1だった看護師配置基準が殆ど10:1になることで、ベッドが減少します。つまり医療モデルから生活モデルへの転換しかないと考えています。

日本というのは異常な国で国家資格を持って働いている看護師さんが150万人で国家資格を持って働いていない看護師さんが72万人も居ます。他の国は100%近く働いています。働き方改革を進めないと無理です。今何が起こっているかというと、9200か所の訪問看護ステーションの6割以上が5人以下です。5人以下の所で医療度が高い人を看ると1日も休めない。どんどんバーンアウトしていく。やはりこの人たちがQOLよく働けるような仕組みが必要です。今までの医療や介護は箱物サービスで、箱に働く人が来て箱に医療や介護を受ける人が来る。技能検定をして何所にどういうレベルの専門職が居て何所にどういうレベルの医療・介護が必要な人が居るかをマッチングしましょう。世の中の制度も変えていきましょうと。院内サポートをしてEラーニング等で在宅ケアの専門教育を推進していこうと思っています。

私がやりたいのは医療と介護をやりたいのではなく、医療と介護をハブにした生活総合商社を作りたい。我々が名古屋でやっているスキルドナーシングファシリティでは、60人の患者さんに対して、看護師は40人で理学療法士が4人、作業療法士4人、言語聴覚士、嚥下をやる人5人、ケアマネジャー3人、管理栄養士3人がいる施設です。カンファレンスを行って一人一人の患者さんの医療介護度に応じたファシリテーター、理学療法士や看護師、医者も入ってみんなで医療プラン、介護プランを作って、1か月後のターゲットのチームを決めて行う作業をやっています。

国が提唱している全て在宅は絶対無理で、ある程度、医療だ介護だといった時に看れる集合住宅みたいなものは必須です。そういうのは地域密着型でやるのが良いだろうと思います。社会的起業家を育てて超高齢化社会の解決をはかるということが重要ではないか。いつまでも健康でいられるまちづくりというのがやはり理想です。私がやりたいのは未病予防から終末期までです。健康管理の推進ということで、生涯の母子手帳みたいな「生涯健康手帳」を今作っています。

また、これからは痛みとリハビリの時代になると思います。しかし日本の医療というのは殆ど痛みを無視しています。医療の必要な介護では、「痛みを取り除くこと」と「リハビリ」が大事です。それは生き甲斐も含めた心の問題も関わってくるので、例えば西本願寺さんと一緒にやれないかと思っています。

これからはハードもそうですが、ソフトと教育が物凄く重要になってくると思います。「医療である介護」は、日本でしか出来ないのです。メイドインジャパンの食事、運動、休養の取り方、アンチエイジングなトレーニングが人生90年、人生100年時代には必要になってきます。

それを今名古屋でやっています。この仕組みを3大都市圏で先ずやりたいと考えています。そうすることによって病院からどんどん流れていっても不安のない社会が出来るのではないかと思っています〟。

講演:子育て共助・多世代交流と市民協働の取り組み

株式会社AsMama代表・甲田惠子氏

甲田氏

甲田氏は、〝私がAsMamaという会社を立ち上げたのは約10年前です。これからの時代、どうなるのかを考えた時に、第一子妊娠出産を機に仕事を辞められる方が当時6割と言われており、いま7割位が働き続けられるようになったとされていました。
また女性が男性並みの働きになればGDPが12~15%底上げされると言われており、女性の活躍推進が10年程前からこれから先もっと推進される時代になるということは想像がつきましたし、共働き世帯と片働き世帯を比較した時に共働き世帯のほうが出生率が高いということを考えると生み育てて働き続けられる環境、国が総力を上げて推し進めるような時代になるだろうと容易に想像がつきました。私たちが注目したのは、子供を生み育て働きやすい環境を作るには、専門知識を持った人に預けるよりも子育ての経験があったり、親の気持ちを理解してくれる人が居れば〝子供を預けて働きます〟というのが今の時代の傾向であったことです。自分のライフスタイルや子育てスタイルを理解してくれる人が身近に居なければ〝自分は仕事を辞めて子育てに専念する〟という人が非常に多い。

宅児サービスには、公共サービスか民間サービスしか基本的には2つしかありません。公共サービスというのは国や自治体が行っているので安心感があるように感じますが、実は手続きが凄く大変です。仕事の途中で子供が熱を出して迎えに来てくれと言われる等々があります。またベビーシッターサービスで大手のシッターサービスになると1時間3千円~4千円を超える金額です。

そこで私達が目をつけたのは、昔の長屋、近くのお爺ちゃんお婆ちゃん、もしくは手の空いている主婦の方です。自分の家が片親家族であるや土・日出勤で働く家庭環境だったとしても、そういった家庭環境を理解して自分の子供をみてくれる、又その子が例えば発達障害を持っていたり、身体障害を持っていたとしてもそんな特徴をキチンと理解して預かってくれる、そういったお互いの預かり合いを無料ではなく、一定のお礼を定めた仕組みを作って行っています。

具体的に何をしているのかというと、いま日本全国の85%が核家族と言われ、都心になると90%と言われる地域もあり、隣近所で助け合いましょうと言っても、隣近所を知らない。私自身もマンションに住んでいて隣どころか上も下も知らない状況です。私たちはお節介おばさん、お節介おじさんを日本中から募集して人材育成をして、その人たちに各自治体やその地域に根差した活動をしている市民団体、様々な企業と一緒に全国で地域交流イベント、親子交流イベント、多世代交流イベントを実施しています。

企業や自治体、信頼ある市民団体と一緒に組むことによって独自で開発している子育てを近所の人たちとシェアし、インターネットを介した仕組みを日本全国に拡げる取り組みをしています。特徴的なのは、例えば送迎・宅児を頼り合う仕組みやサービスをインターネットだけの力を利用して拡げようとするものが多いが、支援してほしいと思っているような子育て世代の方、このサービスを使って支援したいと思っている方は、必ずしもインターネットリテラシーが高い人たちではない。AsMamaの企業と人を繋ごう、自治体と人を繋ごう、地域の人同士を繋ごうという取り組みに共感しているAsMama人間サポーター、略してママサポが、口コミで子育て世帯の人たちが居る所や子育てを支援したいと思っているような市民ボランティアの方が居る所に行って〝子育てシェアという仕組みを使ってみませんか?〟と。

このママサポの役割は基本的には自分で情報発信をして、自治体や市民団体、企業のサービスを使えるという「情報発信ママ」、空き家や公共施設を使って多世代の交流機会をつくる「イベントママ」、自らの送迎や託児の担い手になる「お預かりママサポ」、この3つの役割の1つだけでも良いし全てでも良いとしています。

コミュニティビジネスというのは、企業や自治体から得た資金を活動資金に充てることで広報活動やイベントを行っています。インセンティブを支払って、地域で活動を活性化するような取り組みをしています。預ける預かるに関しては、手数料を一切とりませんが、1時間5百円というルールを設けています。実は、高齢者の方も5百円が欲しい訳ではない。

ただ、この5百円をもらうことで自分の孫にお菓子を買ってあげたり、〝地域の役に立っているんだよ〟と、自分の娘、息子、孫に見せられるというのは〝生き甲斐です〟という声も頂いています。登録者数が今6万人弱位います。このシステムは、近所に住んでいる人が一人もいないという地域でない限りは、どの地域でも使えます。3人~5人に繋がっていれば、85%以上問題なく解決します。まさに多世代が共助することによって産んで、育てられる、自分が将来地域に何かしら市民協働で参画し続けられる、そういった理想的な地域が出来ることになっています。

活動を簡単に紹介すると、スマートホンや携帯で、子供の情報とか、かかりつけ医等を予め登録してあるので、助けてほしい日時、場所、其処から半径2キロ、5キロ、10キロ、20キロの中にいるママサポか、同じ学校の人たちか、同じマンションの人たちかをグループで選べるようになっています。ラインのグループや既存のSNSと何が違うのかというと、この仕組みの面白いところは〝貴方の都合を教えてください〟とシステムから支援依頼がいくようになっているので、その日は都合がつくかつかないかをシステムに返せばよいことになっています。〝この問題は解決しています。ありがとうございました〟と、システムから届くようになっています。

このサービスで一番気に入っているのは、安いということ以上になんといっても子供が近所のお爺ちゃんお婆ちゃん、おじさんおばさんにみてもらえることです。うちの子は一人っ子でお爺ちゃんお婆ちゃんは遠く離れた所に住んでいますが、義理のお爺ちゃんお婆ちゃん、義理のお父さんお母さんがいるような気持ちで育てることが出来ます。預けているというよりは娘も楽しんでいるので、頑張って働こうという気持になる。こういう感情がないともう一人子供を産もうかな、働き続けられるという環境にならない、これが広がっていけば良いとして事業を展開しています。

多世代の人が子育ても一緒にシェアしましょうというようなワークシェア、子育てシェアを企業の就業支援としてやって頂いたり、株式会社としてソーシャルビジネスを行っていて自治体との連携が進んできて、去年1年間で、奈良県・秋田県・富山県・滋賀県と、来年度は5件位の話を頂いており益々拡がるのではないかと思っています。身近に子育てを頼れる人が居れば、子育てはもっと楽しくなるという人が80%居て、理想的な出生率が2.4といわれている中で実際に産む数が1.3という、この1%を埋めるには近くに誰か頼れる人がいるという状況が必要になってくる。

誰かのために役に立ちたいという人が国民生活白書で80%もいるんです。こういった高齢者の方々が市民協働出来るような、また主婦の方々が自分の家事、育児力を活かして市民協働出来るような取り組みをしていきたいと考えています。2・3年前から東京都健康長寿医療センターと組んで終末エイジの方の介護の一個手前の生活支援、日常生活共助が出来ないかというモデルづくりに取り組んでいます。モノの譲渡、生活支援に関し、お下がりとかおすそわけという昔あった互助の世界を子育て支援に足していくことによって、より多世代の共助が促進するのではないかという取り組みも行っています〟等、話した。

セッション2の座長は、現代建築研究所所長・未来兼好共生社会研究会住環境部会幹事・飯田修一氏が務めた。

セッション3「未来健康共生社会創生の技術とファイナンス」

講演:ヘルスケア関連新技術支援のグローバルな枠組み

埼玉学園大学大学院客員教授、KEIRETSU JAPAN株式会社最高顧問・本澤実氏

本澤氏

本澤氏は、〝今起きている第4次産業革命によって我々の生活がどのように変わっていくのだろうか。
ピータードラッカーが言ったイノベーションを可能にする7つの機会というのは、1番は、「予期せぬこと」で、予期せぬ成功と失敗を利用することがイノベーションを可能にする最も確実な機会であるということです。2番は「ギャップを探すこと」、3番は「ニーズを見つけること」、4番は「産業構造の変化を知ること」、5番は「人口構造の変化を考えること」、6番は「認識の変化を捉える」、7番は「新しい知識を活用する」です。
要はイノベーションを起こすというのは、変化を探すことというのが基本的な考え方です。
重要なことは、いま人口構造の変化も大きく起こっており、世の中の変化が最近激しくなっています。まさに21世紀というのは、恒常的にイノベーションを必要とする時代だと定義されます。

第4次産業革命というのは、具体的に今どういうことが主要なテーマか?キーワードの一番最初にある「デストラフティック」は、必ずグローバルで出てきます。これは既存の価値感を壊すようなテクノロジーということですが、もう1つのキーワードは「ソーシャルインパクト」で、つまりこの技術が社会的にどういう変化やインパクトを与えるのか。

その結果として、3番目のキーワードは「スケール」です。つまりその技術はどれだけ大きな市場があって、どれだけモノを変えられるかということです。私は、金融界にも長くいましたし、外資系のファンドでも働いたこともありますので、いま金融界で起こっている変化を皆さんの参考のためにお話します。何故この話をするかというと今日議論をしているような例えば医療とか介護とか建築とかは比較的制度がドメスティックでクローズされている。

つまりグローバルでも同一のプラットフォームではない業界で、規制も違いますからアメリカの企業が自由に日本に入ってきて、同じプラットフォームでやるということは出来ない。しかし金融、お金を商売にしている仕事は、基本的にはプラットフォームが一緒なので1つの革新が起こると他のところに直ぐ入っていきます。

イノベーションというのは具体的なビジネスと結びついた技術革新ですが、その前段階の科学技術所謂基礎科学の話に戻ると、ノーベル賞学者の方々は日本の基礎科学は危機的状況であると言っています。科学技術の予算の伸びは非常に日本は低い。とりわけ深刻だといわれているのは日本の国際共著論文が非常に伸びが低いと言われています。

要するに予算がつかないので科学技術の研究分野が狭くなることは直観的に分かります。実はノーベル賞をとった方々が若かった20代から30代の頃の日本の科学技術予算の伸びは、世界で最も高かった時期です。2013年のサイエンスマップで日本は、既存の延長線の技術開発が多く、新しい研究というのは、極めて少ないと言われています。技術で飯を食っている日本が本当にこれでやっていけるんですかという問題意識があります。

一方、イノベーションは如何なんだろうという時に、新規で仕事を始める人たちの動きというのは、イノベーションの一つの指標になっています。スタートアップというのはいろいろ新しい経済や雇用を作るということです。このイノベーションの創出というところで、クリステンセンという学者が「イノベーションのジレンマ」と言っているのを聞いた方があると思いますが、破壊的イノベーションはイノベーションによって失うものが大きい大企業からは生まれにくく、失うものが殆どない新規開業企業や新興企業から多く生まれている。

実はクリステンセンがもう1つ「イノベーションのDNA」という本を書いています。いずれにしても今の日本は戦後、所謂ソニーとかホンダとかそういう新興企業がイノベーションに成功して大企業に育ちました。そこで今の日本は、大企業中心型の社会になっています。逆にいうとイノベーションを起こしにくくしているということが言えます。

新規創業を阻んでいる様々な要因はありますが、大きな要因は資金調達環境の悪さと言われています。もう1つは、先ほどの「イノベーションのDNA」でも、起業家が生まれるためにはイノベーションに取り組む勇気が必要で、現状を変えたいという意志に燃えて、スマートリスク、要するにどのようなリスクをどこまでとれるかというものの考え方です。こういうことが今の日本の社会では国際比較をすると欠けています。

いま唯一グローバルで上場しているのはメルカリくらいだと思います。実は所謂スタートアップのライフサイクルモデルがガラッと変わっているんです。結局世界が産業革命のように技術革新が同時に起こっているので、今や各国だけでやろうという風には世界が動いていないのです。

「KEIRETSU」というのは一言でいうと世界最大のエンジェル投資家のコミュニティです。2000年に導入され、現在世界23ケ国、世界50チャプター(拠点)、50番目に私が日本で立ち上げました。KEIRETSUの最大のポイントはフランチャイズだということです。投資家コミュニティには夫々の在り方がありますし、世界の文化があり、その企業の在り方がある訳ですから、その国にあった在り方を一定の共通のプラットフォームと共通の方角化の中でやっていこうという考え方です。いま世界の投資家3000人以上のエージェントがおり、多くが事業で成功した人たちです。

国際的に共同して投資家たちが集まるというあたりが重要な分野でしょうか。
実は「KEIRETSU」ではグローバルな人材育成もやっています。出来れば、東京の子供たちだけではなく、世界の子供たちとの交流をやっていかないと、おそらく子供たちも圧倒的な大差がつくのではないかと危惧しています。

結局「イノベーションDNA」という話の中で最も大切なことは何かというと、実は「結びつける力」なんだとクリステンセンは言っています。そのクリステンセンの「結びつける力」は、スティーブ・ジョブズが、「創造とは関連づけること」なんだと。もっと前にアインシュタインも同じようなことを言っていて、「組み合わせ遊び」なんていう言葉で表現しています。結局イノベーションというのはそれを「考え続けること」なんだということです。今まで資金調達というのは、金を集めることだと皆さん考えていたと思いますが、金集めと同時にマーケティングになっているということです。

スタートアップが、アクティビテーションからグローバルにいくという発想転換は、このように資金調達とマーケティングの裏表でグローバルな世界で一体化しているということです。ここが未だ日本の社会で実現できていないところだろうと私は思っていたのでこの仕組みを日本で活用させてもらおうと考えたのが私がこの「KEIRETSU」を始めた大きな理由です。ダボス会議で最も重要なことは、実はカナダのトルドー首相が言った言葉で〝今ほど変化のペースが速い時代は過去に無かった。しかし今後今ほど変化が遅い時代も二度と来ないだろう〟と言っています。

非常に示唆に富んでいる言葉で、我々は目の前の変化が速い速いと言っていますが、実は10年先に行ったら、とてもこんなもんじゃない時代がやってくるとつくづくそう思う、そんな日々を過ごしております〟等述べ、シンポジウムが終了した。

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