第10回宮城県『柔道整復学』構築学会開催
社会の期待に応える柔道整復師
平成30年6月17日(日)、仙台市中小企業活性化センター5F「アエル」において、第4回はればれ健康フェスタと第10回宮城県『柔道整復学』構築学会が合同開催された。
(公社)宮城県柔道整復師会副会長・芦澤卓也氏が開会宣言を行った後、(公社)宮城県柔道整復師会会長・櫻田裕氏は、〝今大会から趣向を変え、午前中は「地域包括ケアシステム」で柔道整復師も介護予防の分野で多業種連携の重要な一業種であり、仙台市の行政も含めて、薬剤師会・栄養士会・看護協会等と「はればれ健康フェスタ」をやらせて頂きました。今日は学生さんが大勢参加されています。今年の柔道整復師のカリキュラム改定で介護の分野の教科書が新しく出来ました。柔道整復師は機能訓練指導員として介護と介護予防の分野に大変有用な職種であることを午前中のイベントで感じて頂けたと思います。今回は第10回目の構築学会ということで、特別講演に札幌医科大学医学部細胞生理学講座教授・當瀬規嗣先生をお招きして、大変興味深いお話を頂きます。一般会員の研究発表と構築研究委員会の報告もあります。今年から施術管理者の要件等の制度改革も行われて変っております。今まで「亜急性」という言葉がありましたが、これからは「外傷性」に換わってきます。やはり我々柔道整復学、論理的な根拠を基に施術の必要性、正当性、妥当性を患者さん、保険者、行政にしっかり示していかなければと考えています。これからもこういった研修会を時代を担ってくださる学生さん方も交えて現役の柔道整復師に対して発信して参りたい〟等、開会挨拶を述べた。
特別講演
『新しい運動生理学~スポーツケアを中心に~』
札幌医科大学医学部細胞生理学講座教授
當瀬規嗣氏
當瀬教授は講演で〝生理学的にはいろんな意味で考え方が変わってきたことに関し幾つか話します。特に柔道整復術で一番大切なのは、「痛み」ですので、その「痛み」の原因について正確にご理解を頂きたい〟と述べた後、体の中に乳酸が増える理由は、乳酸がエネルギー物質として非常に重要だからであり、筋肉を動かすためには、先にFG線維が動きだして乳酸が沢山出てくるとSO線維が活発に活動できるという段階を踏んでいることが理解出来る。
結論として乳酸はエネルギー物質である。筋線維が力を発揮する場所で、その細胞の中にはミトコンドリア、アクチン、ミオシンといったものがびっしり詰まっている。痛みを感じる部分は細胞全体を覆っている筋膜で、筋内膜、筋上膜等いろいろ膜があるが、神経と感覚神経の終末が分布している。感覚神経の終末のところに一定の刺戟があると痛みとして感じる。
腰痛というのは損傷があると考えるより疲れたという合図だと思ったほうが良いというのが最近の考え方で、疲労感に従って休息をとらなければ、絶対オーバートレーニングになる。「疲労因子」と呼んでいる物質が臓器等で発生して、それが脳に伝わって脳に疲労感を与えるという仕組みであり、この疲労物質は休息すると非常に速い時間で低下する。
つまり、休息が大事であることは間違いないとして〝今日の話を纏めると、スポーツをやった時に体をどうやってケアするのか、疲労を速やかにとる必要がある。特に筋肉痛はその後のパフォーマンスに影響するので、ストレッチや入浴で対処するのが一番良い。勿論、睡眠は、疲れをとるために重要で疲労したらとにかく休むというのが大前提だということで考えて頂く。今日は骨折とか捻挫の話をしていない。所謂筋肉痛の話であり、骨折や捻挫、大きな急性損傷が起こった場合に応急処置的に冷やすのは、しようがない。しかし、ずっと冷やし続けることや筋肉痛で予防のために冷やすことは全く意味がないということを覚えて頂ければ有難い〟等注意を促し終了した。
次に公認私的研究会発表「介護予防・日常生活支援総合事業の多様なサービスの在り方~平成30年仙台市総合事業支援協会 生活支援型通所介護の拡がり~」(保険・部分医療・福祉サービス研究会 中川裕章氏)、一般会員研究発表「習慣性顎関節脱臼(片側脱臼)の下顎頭を用いての整復法と対応についての一症例」大宮正照氏、「下腿疲労骨折疾走型Type A 2症例における超音波考察」櫻本和夫氏の計3題が行われた。
中川氏は〝平成33年、介護保険改正が行われることで、今の団塊世代の65歳以上の方々、要支援の方々が総合事業の対象者になります。このサービスを利用することで要介護状態を脱却し、要支援にならない、ひいては保険を使わないで自立した生活を送ってもらう「卒業」のイメージを事業者は展開しなければなりません。何故良くなったかというアウトカム指標づくりも問題になってきます。今年度から鍼灸師が機能訓練指導配置の要件になりました。今まではOT・PT・SP・柔道整復師、あん摩マッサージ指圧師、看護師の方がこの指導員要件でした。この総合事業に関してヨガのインストラクター、ATIスポーツ検定資格者、鍼灸師の方々も該当するので我々の職種以外の方々もこの事業に参入するという認識をもつほうが良い。柔道整復師の専門性の拡充として、総合事業の参入において、柔整師が入る余地はまだまだあり、当会においては、一般社団法人宮城県柔道整復師会でこの受け皿を作っていますので、専門性の特化型として総合事業の窓口を作って頂ければと思います。今後多様なサービスとの棲み分けは必要になり、支援協会では多様なサービスの棲み分けがしっかり出来ると思います。これは市区町村のサービスであり社会保障費でまかなわれている訳ではないので自治体によってお金がなければ、継続出来ないこともあり、また年度毎に報酬が減額する可能性もあります。そういったことを検討しながら事業参入は推奨していかなければなりません。本業を主体とした介護予防の参入が肝です。この総合事業の受け皿を作るという流れが今介護予防に参入する上において一番課題になっています〟等、仙台市における総合事業の在り方とアウトカム指標等ついての研究報告を行った。
宮城県「柔道整復学」構築研究会報告
「『痛み』をどう捉えるかについて考える」
若井晃委員
若井氏は〝これまで構築研究委員会では、運動器の損傷はどのような時に痛みが起きるかに焦点を当て、急性損傷、急性損傷以外(蓄積性・反復性)の損傷というかたちで痛みの検証をして参りりました。蓄積性・反復性の損傷に関しては、結果的に共通理解があるとは言えないと結論づけ、我々柔道整復師の治療対象として損傷を発症機転から捉えるのではなく症状を考慮して検証しました。明らかな急性外力に起因する損傷以外の治療対象として所謂蓄積性・反復性損傷の割合が高くなっており、背景には労働やスポーツ環境の変化に加え、高齢社会といった社会的問題を基盤にした荷重不均衡状態、静力学的機能不全が大きく関与している。反復・継続されている直達あるいは介達外力が原因となることが多く、年齢以外の基礎的状態も大きく関与していると考える。接骨院に来院する蓄積性や反復性による損傷の症状の98%は、痛みを主訴とした来院で、最も訴えの多い痛みに対して深く掘り下げ、痛みの基礎知識を大きく捉えて、痛みの評価法、柔道整復学的に如何捉えるかを大きく考えてみたい。痛みの客観的評価法を作ることが柔道整復師としては急務である〟として発表を行った。
〝痛みの種類としては、持続時間により急性痛と慢性痛の2つに分類される。急性痛は、組織の損傷を知らせて組織を防御する危険信号であり短時間で消失する。慢性痛は、組織損傷あるいは末梢神経終末部の異常のみでなく、急性疾患や組織の損傷が修復された後でも、正常では痛みをおこさない程度の軽い刺激や交感神経の興奮、また心理的要因によって出現する非常に複雑なものである。最近では痛みが持続する病態時には痛覚系に過興奮状態が生じ、神経回路に混線現象が起こり、それが可塑的な歪みとして残存したものが慢性痛であると考えられている。慢性痛は、急性痛の段階で適切な除痛処置を施すとその発現を予防できるとされている。痛みは早期の対応により改善できる可能性が高く、適切な治療が必要である。原因による分類は、侵害受容性疼痛、神経因性疼痛、精神心因性疼痛、その他の痛みの4つがある。痛みの受容器は、侵害受容器と呼ばれており高閾値機械受容器とポリモーダル受容器の2種類がある。高閾値機械受容器は、組織を傷害する可能性のある侵害刺激に反応する。ポリモーダル受容器は、皮膚、筋膜、靭帯、関節包、内臓などに分布し、非侵害受容器から侵害刺激までに反応し機械的刺激、熱および発痛物質などの化学物質にも反応する。殆どの慢性痛患者は自分の痛みの部位および種類を明確に区別出来ない。痛みは主に侵害受容器が刺激されて生じる侵害受容線維のインパルスが、脳に到達した時点で初めて認識される。痛みに対する治療で、筋や関節などのアプローチでは限界があると言われている。柔道整復師が実施する疼痛緩和術には、痛みの悪循環の遮断、筋緊張・循環不全・筋収縮機能・疼痛閾値・反射性筋肉痛の改善、発痛物質の除去、組織の再生などが作用すると考えられる。慢性痛である中枢神経系の痛みに関して、末梢へのアプローチのみならず言語的・非言語的アプローチが有用であるとされている〟等を報告し〝これを柔道整復学的に介してもらい、柔道整復師の守備範囲として痛みを捉えるために岩佐委員長が発表します〟と話した。
「痛みの評価について」
早坂健委員
早坂氏は〝痛みの評価に必要な条件を踏まえた上で、痛みの評価の目的、痛みの評価方法の特徴や利点、欠点などをいろいろな文献から述べ、我々柔道整復師にとっては何が必要なのかを考えていきたい〟として、〝IASPが提案しているいわゆる「慢性痛」という定義は言葉で明確に示されているものではなく、急性痛と対比した場合の目安であり、その慢性痛の含まれる範囲は非常に広く、解釈も様々である。また、痛みを考える上で、近年は身体の器質的変化だけではなく精神心理的要因や環境要因等も考慮されるようになった。柔道整復師は病態を特定するような検査機器を扱うことが出来ない。それゆえ、根拠をもって推察につなげることこそが、柔道整復師の臨床現場において求められている。痛みの評価は、診断と治療効果の判定に不可欠であり、科学的信頼性と妥当性を有する方法が理想的である。患者の痛みを複数の医療従事者に同様に伝えられ、医療従事者も主観によれずに患者の状態を把握できる方法でなくてはならない。痛みは患者の持つ内的経験であるため主観的評価となりやすく、外部からの客観的評価は非常に困難である。従って、主観的評価法と客観的評価法を正しく理解して施行し、機器による評価では機器の特性を十分に理解して施行する必要があると考えられている。痛みが健康関連QOLの低下やADL、LADLの低下と関連していることが報告されている。さらに、運動機能との関連についても、痛みがバランス機能や筋力の低下に影響を与えていることが主観的にも運動機能に制限を感じる要因となっていることが報告されている。痛みそのものを評価することも重要だが、痛みの与える影響を評価し、その対策を検討することも求められている。当会の事業において被災地における訪問機能訓練事業を行った際、訪問という形態ではあるが柔道整復師が介入する機能訓練は身体機能、健康に関する体力要素、日常生活や外出・参加に対する自信などを向上させることが示唆されている。つまり、「集学的アプローチ」と言って、施術の対象を「痛み」から「痛み行動」に転換し、痛み行動を減少・消去させ、健康行動・適応行動を強化することに焦点が当てられている。このような考え方で、評価は信頼性(普遍性・再現性)、妥当性、確実性を必要とする。もちろん、我々の臨床現場において経験的に行われていることは言うまでもないが、その成果を正しく記録することによりデータ化され、解析されて社会的に、正当性、必要性、妥当性および信頼性がさらに増していくことになると当委員会は考えている。我々柔道整復師もそれらを経験的に行っていることは言うまでもないがそれらを記憶にとどめておくのではなく、その成果物を正しく記録することにより、より社会的に信頼が増すのではないかと当委員会では考えています〟等、報告。
「柔道整復師の取扱う損傷と痛み」
岩佐和之委員長
岩佐氏は〝私たちは損傷を取り扱う仕事をしています。損傷と痛みの関係を科学的に証明して患者、保険者、柔道整復師、社会の中で共有していかなければならない時代に来ています。1960年代、骨折・脱臼が多かった時代には問題ありませんでしたが、整形外科の開業ラッシュと同時に医師のほうも骨折・脱臼が激減しています。整形外科が少ない時代に国民医療に貢献してきた柔道整復師の不遇の時代でもあります。生活様式の変化、コンピュータ、携帯電話、スマートフォンの普及、それらによる不良姿勢、使いすぎによる運動器の機能不全、健康志向による子供のスポーツクラブなどの普及など、使い過ぎや繰り返す運動のために軟部組織損傷の激増が起きています。それに加え、養成施設の激増、柔道整復師の激増、国民医療費の激増、健保組合の赤字、国民皆保険の崩壊に直面し、国では緊縮財政が行われています。そのような社会情勢下で柔道整復師の増加による療養費の倍増が始まりました。また柔道整復師の不正請求が発生しマスコミにとりあげられ、国会で審議され、社会問題となりました。2014年12月30日、日本臨床整形外科学会シンポジウムで、柔道整復師は原因不明の痛みなどの施術で療養費を請求していると問題になり、福岡県国保連柔道整復療養費審査委員・松本医師から“根拠のない施術に対して療養費を使うべきではない”と発表されました。実は私たちは養成施設で痛みの勉強をしてこなかった。そういう状況下で痛みの治療を私たちは行っており、それが一番問題だと考えています。末梢神経から中枢神経に痛みが伝達される仕組みで痛みの刺激の場所や強さを認識するのは脳です。細胞の域値の問題やホルモンの分泌の問題等が関わってきます。もう1つ重要なのは、関連痛の考え方です。関連痛とはトリガーポイントといわれる痛みの原因部位に痛みが発生すると、例えば憎帽筋に発生した場合、それが痛みを伝える部位として顎関節や側頭骨の痛みに繋がる場合があります。小殿筋に損傷が発生すると痛みが大腿や下肢に坐骨神経痛の痛みが発生する場合があります。こういう場合、例えば臀部と下肢の痛みを保険請求で2部位で請求してしまっている場合が見受けられ、整形外科の先生から“ここに病的な損傷があるのか?”と言われてしまう場合があるということです。もう1つ問題なのは慢性痛で、神経線維の度をこして感じることを実は「慢性痛」と表現しています。つまり期間ではなく、痛みを感じている部位に病的所見があるかが重要な答えです。分子生物学的に考えてみると、炎症期に起きる痛みは急性痛です。通常は1日~1週間続きます。その後に起きるのは全て慢性痛と考えても良いと思います。増殖期・組織再編期・成熟期となりますが、この増殖期から組織再編期までの痛みはサイトカイン等、化学物質の痛みが起きる場合が殆どです。成熟期に注目すると施術に2週間から2年かかります。長期理由で問題になるのが“何故そんなに治療が必要なんですか?3か月すぎて何で必要なんですか?”と言われますが、組織によっては2年位かかる場合もあり、生物学的に証明されています。この辺の機能的な強化を如何するか。若井委員の非常に難解な発表を理解してもらうのが一番だと思います。病的所見があるかどうかを徒手検査、または視診・触診から判断する。その痛みを評価してそれを治療法に活かす。または患者の指導に活かすことが非常に重要になります。つまり私たちは、「侵害受容性疼痛」に対して、しかも外傷性の疼痛に対して非観血的に行う施術を行っているということを肝に銘じて施術と先進医療に関わっていきたいと考えています〟等、報告した。
講評で、構築学会名誉会長・委員会特別顧問・医学博士・佐藤揵氏は〝実は今回痛みの問題を取り上げたらどうだろうと私が提案しました。委員会の先生方はやってみようとなり、先ほどの発表になりました。今頃整形外科の商業誌で「運動器の疼痛は今どうなっているか」という特集を組んでいる状態で、つまりタイミングが合致しているが、一回や二回で済む話でありません。その分野、その業界で痛みの問題に如何アプローチしていくのか?そういう意味で今回の取組みは起爆剤になるという気がしていたので、委員の先生方に努力して頂き感心しました。今インターネットを行っている先生方で去年5千人位を対象に、慢性痛について実態調査を行ったところ、慢性痛を持っている患者さんの63%が整形外科、15%の人が整体・整骨・カイロ系に行っているという結果でした。しかし、痛みの特集を組んでいる雑誌の責任編集者のデータでは、慢性痛の98%は整形外科を受診しているとしており、こうなると実態はどうかということが怪しくなってきます。実態調査や意見を聞くというのは、調査に協力的な人が答える訳で、答えたくない人は答えないため測定誤差やバイアスがかかります。科学のようで科学でない疑似科学というが、アンケート調査はいろいろあり、訪れた方を対象にして“何かやりました”“結果が出ました”“こうなりました”は危ない。来なかった人を相手にしないと駄目で、意外に実態は分らない。特に痛みに関しても厄介な問題であることは間違いありません。最後にこの委員会は2007年、平成19年に成立され11年目ですが、どれだけ成果を上げたか或いはどれだけ業界、会員さんに還元されたかは皆さんに評価して頂くしかないだろうと思います。しかし、インターネットや雑誌その他の動きを見ると何らかの影響を少しでも与えたのではないかという風に感じているところです。私は、宇都宮に帝京大学医療技術学部柔道整復学科が出来てから5年お手伝いをして、いろいろ困ったことが沢山ありましたが一番大きな問題は同じ言葉を使っても意味が違うという問題がいまだに尾をひいている部分があると言わざるをえない。共通用語とか共通概念というのは簡単にはいかないが、外部に分かってもらうためには大きな努力を要する仕事の一つだと思います。11年間全部お世話した訳ではありませんが、皆さんでこれからのことを検討して頂ければよいと思っています〟と締め括った。
続いて、盛岡医療福祉専門学校と仙台医健・スポーツ&こども専門学校の皆さんによる「柔道整復認定実技審査」模擬実演発表があり、閉会式と表彰式が行われて無事終了した。
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