第9回関東地区保険者会議 開催
平成25年2月7日(木)、柔道整復師センター(東京都中野区)にて第9回関東地区保険者会議が開催され、かねてより「患者と柔整師の会」が提案している『柔道整復師施術料療養費請求・受領委任払制度の改善実現の為の方策案』(第三次案)について議論が交わされた。
当日飛び入り参加の大島九州男参議院議員から最初に挨拶があり、昨年から協議されている柔道整復療養費の算定基準の見直しについて〝皆さんもご存じの通り、会計検査院から指摘を受け、厚生労働省は長期・頻回・多部位に逓減をかける方向で動いていたようです。しかし長期・頻回・多部位の定義も曖昧だったために柔道整復師の方々から指摘を受け、昨年6月には改定が行なわれませんでした。今年2月に改定するという話もありましたが、年末に政権が変わり、厚生労働省担当者が政務三役と話す機会を持てないため、改定を諦める可能性もあるという噂も耳にしております。今後また皆さんのご意見を聞かせていただきながら、しっかりとした制度構築に向けて、微力ではありますが努力をさせていただきたいと思います〟と改定が滞っている現状について説明した。
続いて本会議の主催団体である「患者と柔整師の会」の今城康夫代表より〝私達患者と柔整師の会は、柔道整復診療制度の改革の第一歩として、全国の保険者、柔道整復師、患者等の意見を聞き、療養費受領委任払制度改革第二次試案を作成し、多くの方々に賛同をいただいてきましたが、昨年8月より実現可能な第三次案を作成致しました。本日は第三次案実施推進に当たり、皆さんのご意見、ご提案をいただき、6月開催の協議会で発表したいと考えています。現在の制度には多くの問題があり、改善の必要があると認識しております。是非、柔道整復診療制度の改革に行動を起こし、患者を痛みや機能障害から救ってください〟と強い想いを述べた。
本論では、以下の4点について保険者から意見を聴取する形で進められた。
- 登録システムについて
- 支払審査システムについて
- 患者照会
- 審査基準
登録システムについて
まず司会進行役の本多清二氏から登録システムについて、△登録された柔道整復師に対し団体的な規律を加えて厳格なレセプトの提出ができるようにする、△登録は更新制で、有効期間内に問題が起こっていない柔道整復師は更新できるが、問題を起こしてしまった柔道整復師は再教育あるいは条件を付けて再登録させる、△柔道整復師の資格取得時期や開業年数等の一般的情報を登録させることによって審査の情報量を増やすという狙いもある ― など、登録システムの概要と目的について説明されたのち、保険者からの意見を募った。
保険者からは、
不正請求をして登録を取り消された場合、その情報は保険者には伝わってくるのか。その番号を使ってまた請求をされると登録されているものと誤認してしまう。
個人請求者も多いが、最近新しい団体組織もかなり増えてきている。そのホームページを見ても団体自体の業務が見えにくいところが多く、登録したところで保険者はどこまで信用して良いのか。
審査がきちんとされていれば登録が取り消されていようとなかろうと問題はない。きちんと審査して頂ければ我々保険者も安心して参加できる。
本多氏は〝柔道整復師業界の中には大小問わず団体がどんどん増えている。私共の考えている審査支払機構は団体と契約を結び、その会員は審査支払機構に登録されることになる。もちろんその組織がどういうものなのかきちんと審査し、そしてそれを全部インターネット上で公開して、登録が取り消されていればインターネット上で確認できるという透明度の高い登録制度を作っていきたい。また、登録情報から柔道整復師の他にどんな資格を持っているのか、どういう患者を多く扱っているのかを見れば、治療の内容・方法も大体わかる。そのように保険者にもう少し客観的な資料を提供できれば厳格な審査が可能になるのではないか〟と、登録システム設置の意義を語った。
支払審査システムについて
支払審査システムについて、本多氏は〝事務的負担の軽減と二重払いの危険回避の為、支払業務を一本化して簡素化したい〟とし、具体的には △請求する保険者の審査の厳しさに応じて請求方法に差がある柔道整復師が見受けられるが、審査を統一化することでその傾向を掴むことができる、△あくまで保険者が審査をする前に行なう「事前審査」という位置づけであり、保険者の審査に代わるものではない、△支払いについては柔道整復師一人につき口座は一つのみとする、△柔道整復師からのクレームは審査機構が受け、保険者には柔道整復師から直接問合せがないようにする ― と仕組みを説明。登録システムと併用することで保険者の手を煩わせている問題を大幅に解消できることを示した。
これを受けて保険者は、
現状の柔道整復師団体の審査では、審査済みとされていても単月でしか審査していない為、実際に長期でかかっている患者に照会してみたらヘルニアだったということもある。どういった審査をしているのかと疑いの目を向けてしまう。その辺を含めた審査をしていただけるのであればとても助かる。
レセプトの記載内容を充実させて審査ができるようになれば有益だが、様式がマチマチなままでは難しいだろう。審査機構だけでなく全体の請求様式に係る問題になってくるが、実現されれば我々保険者としては非常にメリットは大きい。
療養費請求が再委任されるケースも増え、どういう人にお金を振り込んでいるのかわからないことも多い。確かめるにはいちいち振込先を訪問するしかないが、一健保としてはできない。何とかしなければいけないと感じている。
と審査の悩みを明かし、申請書様式統一などの課題がありながらも、支払審査システム実現への期待を滲ませた。
患者照会
3つ目のテーマである患者照会について、本多氏は保険者と柔道整復師の認識に差があることを指摘した上で〝保険者は一体どういう目的で患者照会を行なっているのか聞かせていただきたい〟と意見を求めた。
つい最近、2か月連続で同じ人が同じ柔道整復師に、1か月に27日以上にかかったという事例があった。患者照会を出したが、会社を休んで療養したのでもう行きませんという返答だった。
患者照会はその請求が保険適用になるかどうかを見るための一環として行なっている。通院回数は関係なく、自分たちで作っている基準に引っ掛かる場合は通院回数が1回でも照会する。基準に引っ掛かるから行なうのであって、1回だから照会しなくて良いというのは間違っている。
初回の方には照会を出すようにしている。どういったものが保険適用になるかという事を知らずに掛かって、リピート化してしまう前に理解して頂きたいという趣旨で行なっている。
これに対し本多氏は〝照会を行なっている保険者は各々の基準によって照会を行なっていくのだろうと思うが、あたかも犯罪捜査のような文言を並べられると照会を受けた側もショックを受けてしまう。照会してはいけないのではなく、照会される側の心の痛みあるいは負担についても斟酌しながら、誰が見てもなるほどと思われるような照会をしていかなければいけない〟と照会の方法について言及した。
保険者は
最初にパンフレットを送って、日数が多い方、定期的に数ヶ月通っているという方に関しては照会する。しかし長くかかっている人は接骨院の先生と仲が良く、立派な回答が返ってくるので手の出しようがない。
最初は、内容ではなくてどういう理由で柔道整復にかかったか、今はどうなっているのかを聞く。そこに正しいかかり方のパンフレットを送って、それで3か月も4か月も10回位行くような人に対しては詳しい照会を行なう。
と、それぞれ行なっている照会方法について述べ、保険適用対象を啓蒙する意味もあることを主張した。
なかには〝一番大きな問題は、保険者・施術者側の信頼関係だ。被保険者から保険料をもらうということを考えた場合、給付する事が前提となる。給付をするために照会をかけるというスタンスから始めるべきではないか〟とする保険者もあったが、本多氏は〝しかしそういった環境を柔道整復師は一方的に壊してしまった。柔道整復師の中には芳しくない方もいるが、芳しい人も勿論数多くいるということを示し、療養費は本来払ってもらうべきものという起点に戻ってこの制度を再構築したい〟とした。
審査基準
本多氏は第三次案を作った背景を説明した後、審査基準について、現実に合っていて十分に機能が発揮できるものを作り上げていくべきだとした上で〝柔道整復師の施術対象は骨折、脱臼、捻挫、打撲、挫傷の5傷病とされているが、これに加え、それに類似する症状を呈している患者が現にいる。その類似する症状について柔道整復師が施術を行なうという場合に、部位別で請求するから問題がある。部位別請求ではなく包括請求に変えるべきだと私は考えている。その中で、まず類似する症状に対して傷病名をどうするかという問題があるが、傷病名が付けられないのに無理に書く必要はないのではないか。現に症状があるのだから、その症状をしっかりと把握して療養費に当たるかどうかを的確に示す方が、遥かに生産的だと思われる〟と述べ、保険者の意見を求めた。
この提案に対しては、
確かに意味のない傷病名を付けて請求するのはおかしい。それならばもう少し具体的な施術内容を記入して請求してもらった方がいい。
枠を広げてあげないと、やはり傷病名を付けるには限界はあると思う。痛いものに対しては療養費を支給すべきで、制度がおかしいのかなと感じる。
と一定の理解を示す保険者もみられたが、一方で
我々保険者は柔道整復療養費という制度で決められた枠の中で物事を進めているだけであって、「制度が悪い」「自分達は施術しているのだから請求ができる」という言い分は話にならない。
確かにどこか痛みがあるから通院しているのだとは思うが、枠を広げてしまうともっと不正な請求が増えてしまうのではないかという不安もあり、非常に難しい問題。
法的に整備されていなければ保険者としてはどうしようもない。業界全体の方向性が纏まらなければ、いくら議論しても実現には何年もかかってしまうのではないか。
と厳しい見方をする保険者もあった。
そこで本多氏は〝傷病名に関連して、治療効果が出ているのか出ていないのか、いつ頃までに治るのかを保険者や患者に対して示す「計画治療」というものを提案している。計画はあくまで予定であり変更の可能性もあるが、変更する場合にはその理由を書いてもらう。それを患者に示しておけば照会をかけても患者は答えやすくなるだろう〟と、「計画治療」の計画書に治療効果の有無や治癒時期の目安などを明示することで、療養費支給対象の枠の拡張で懸念される漫然とした治療の増加を、ある程度食い止めることができるのではないかと述べた。
これについては、
今その人の治療がどの段階にあるのか、それともまた新たに関連する場所に負傷が出てきたのかという流れは現在のレセプトからは読み取れない。治療が計画的に行なわれるようになれば助かるし、できるのであればとても良い制度だと思う。
計画治療になれば、確かに保険者としては安心して支払えるという面はある。実態を把握するにも役に立つだろう。
と多くの保険者が賛同していた。
最後に本多氏は、〝制度は変えることは難しいが、最後はやはり保険者と施術者側の合意だと思っている。ある程度の合意に達していれば上手く運用していけると考えておりますので、これから色々な議論を参考にして保険者側の皆さんの想いも吸収しながら、施術者側と保険者側の間で合理的な枠組みづくりを進めていきたい〟と今後につなげた。
地道な会議を重ね、改革案は現実味を増してきている。多くの保険者の賛同が得られるようになった今、柔道整復業界全体が同じ方向を向き、動き出す必要があるように感じられる。柔道整復師の方々には、是非先を見据えて行動を起こしていただきたいと思う。
なお改革案は、さらに柔道整復師・保険者双方からの意見を取り入れ、本年6月6日(木)に開催される『登録柔道整復師制度実現の為の協議会(総括会議)』にて発表される予定となっている。
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