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元厚労副大臣・武見敬三氏にこれからの社会保障を聞く!

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日本が皆保険制度を導入して半世紀が過ぎ、2011年9月1日には『ランセット』日本特集号「日本:国民皆保険達成から50年」が刊行された。その特集号発刊にあたり研究チームを組織、武見氏はそのリーダーとして重責を果たされた。

これまでも日本の皆保険制度は世界から高い評価を受けてきたが、このランセット特集号の影響も大きく、ますます注目を集めているところである。いっぽう国内では日本の社会保障制度そのものが危うくなっているようである。日本の皆保険制度の尊い理念を守り、盤石とした制度に再構築するには、どのような道筋、方策がとられていくべきなのか?

武見敬三氏に今後のことを話していただいた。

UHCの定義に合致し世界の模範となる日本の皆保険制度を持続可能な制度としていくための努力を続けます!

  武見  敬三  氏

元厚生労働副大臣・東海大学教授
自民党参議院議員  武見  敬三  氏

―世界的に有名な『ランセット』に日本の皆保険制度について掲載された評価や影響はどのようであったのか教えてください。

やはり相当の効果・影響があったと実感しております。もともと日本の皆保険制度に対する関心というものが背景にあって、ランセット日本特集号が組まれた訳です。私は、たまたまその責任者として研究チームを組織し、6つの論文と8つのコメンタリーからなる特集号を編纂しました。これには国際的な研究者がみんな1つの研究チームに入ってデータを解析し論文を作成する等、特集を組んだ訳ですが、おおよそ其処でみんなが得た共通の認識というのは、日本の医療制度というのは、貧富の格差無く効率的に健康社会を作ったという大変有難い評価が既にあった訳です。それで2011年9月にランセット日本特集号が発表されると同時にまず世界銀行がユニバーサル・ヘルス・カバレージ(universal health cov-erage)に関する共同研究をやりたいと申し入れをしてきました。ユニバーサル・ヘルス・カバレージ(universal health coverage)はUHCと呼んでいますけれども、これは言うなれば、「誰もが負担可能なコストで予防を含む適切な医療サービスにアクセス出来る」というのがWHOの2005年総会の時に採択されたUHCの定義です。これが今日、保険システムを強化するという考え方を象徴する重要な考え方に今なってきています。日本の皆保険制度は正にこのUHCを制度の中で実現しております。保険証1枚あれば何所でも医療機関で自分で患者負担分だけ支払えば適切な医療が受けられる訳ですから日本は正にこれを50年も前に実現していたということになります。

このランセット特集号を編纂する時の主体となった組織が日本国際交流センターで、私はそこのシニアフェローをしております。ここが日本の財務省の国際局と連携をしている世界銀行側の人材開発局と共同研究を開始しました。これは日本を一つの主要なケーススタデイとした上で、その他約8カ国のケーススタデイを行って国際的な比較分析をしながらUHCを実現するための政策論を組み立てていくという目的で既に共同研究が始まりました。この共同研究は今年の12月に完了することになっており、その成果を踏まえて大規模な国際セミナーを東京で開催する予定です。こうした皆保険制度をこれから創設したいという途上国・中進国が沢山ある中で、それらの国々が先ず必要とするのは、政策人材です。UHCというのは、夫々の国の実情に応じてどういう風に制度を作っていけば実現するかを考えて実行していく重要な役割をもち、それについては政策人材が担うことになります。しかも、そういう方達は政府で仕事をしていたり、或いは研究所の研究者であったりする訳ですが、そういった政策人材がやはり途上国・中進国では不十分です。そこで世界銀行がこうした政策人材を養成するためのフラッグシップ・セミナー(flag  ship  seminar)というのを行っています。従って、我々の共同研究の成果を踏まえて是非日本とタイアップでこのフラッグシップ・セミナーを東京で開催したいと今提案してきております。ということで共同研究のための国際セミナーの直後に東京で第一回開催に向けて準備が進められています。私は合同で設置した準備委員会の共同議長を務めています。

しかも国際機関から出てきた様々な反応に合わせて、今度は単独で国家レベルで日本の皆保険制度について関心を持っている国が現われてきまして、例えばタイは今年の1月に日本の医療保険制度を調査するための代表団をわざわざ派遣され、タイの保健省を中心として構成された調査団の団長は、インラック首相の首席補佐官でした。この調査団の方たちは国立病院の改革等が目的で、厚労省の保険局を実際に見学していかれました。彼らの関心は、日本の皆保険制度は2年に1度診療報酬制度を改定することで「医療の質とコスト管理」を同時に行っている、世界中でこんなに上手く「医療の質とコスト管理」を同時に行う仕組みを持った国は日本以外に無いと。従って是非タイも今後UHCを実現していく過程でこの日本の制度を参考にしたいということを言ってきまして、この5月にはそれをテーマにしたセミナーをバンコクで開いて日本からも保険局の担当者が参加することになっています。また3月下旬にはベトナムの保健大臣が来日されて、やはりこの日本の皆保険制度について、非常に関心を持たれ、これからいろんな形で日本の制度についての研究調査を進めたいということを話されました。他にも厚労省のほうに数カ国から日本の皆保険制度について研究調査をしたいといった申し出が来ているという話を聞いていますから、このベトナムとタイだけではないんですね。従って、どこまでランセットが発火点になったのか分りませんが、日本の皆保険制度というものが今途上国・中進国の間で参考になる一つの制度として大変見直されております。

―安部政権になりTPP参加を表明され、今後しっかり交渉されていくことになると思いますが、日本医師会ではTPP参加について日本の皆保険制度が維持できなくなる危険性があるとして強く反対されております。武見先生のお考えをお聞かせください。

TPPの問題については、基本的には、我が国のTPP参加は当然のことであると思います。我が国のように資源が乏しい国は、「ヒト」・「モノ」・「金」・「情報」が活発に行き交うことを通じて経済活動が活性化されてくる訳です。しかし、今後の協議、交渉の過程において、例えば保険診療外の診療を自己負担で認めろとか、或いは株式会社の医療機関経営を認めろ等、いろいろな意見が米国を含め諸外国から出てくる可能性は少なからずあるでしょう。もし、それらがわが国の公的な医療保険制度を根底から覆すような内容のものであったならば、真正面からその非を指摘し、拒絶をするということを行うべきであると考えます。TPPに参加することによって得られるメリットを最大化し、デメリットを最小化するという考え方でこのTPPの交渉に臨む、そのことによって我が国の医療保険制度をしっかりと守り続ける。他方、日本は自由貿易立国として世界の孤児とならず、引き続き国内でも製造業が活発に活動を続け、経済的にも安定した経済成長が享受できるようにしていくことは、必須のことだと考えます。

―日本では超高齢化社会が急速に進行し、逼迫する医療保険財政を考えた時、日本の医療制度はどうなっていくのでしょうか、というより、どうあるべきでしょうか。そのためには現在の問題点はどこにあるのでしょうか。どう改革していくことが良いのでしょうか。

いま日本には、3500もの保険者があって、しかも保険者によって同じ家族構成や同じ所得であったとしても支払う保険料の額が違っています。これは、例えば国民健康保険の中でさえ3倍位の格差がある訳です。我が国の国民医療費の70数%は、保険料を財源として賄う形になっておりますが、引き続き安定した財源を保険料を通じて徴収しようということを考えるとすれば、やはりこの保険料格差というものはキチンと是正していくことが求められます。その為にはちゃんと公平性を保たなければ、これから負担が増えれば増えるほど、不満が拡がることになります。結局、この格差を是正するにはどうしたら良いかということを考えるとやはり保険者を整理・統合していくことが求められる訳です。今、既に議論になっていることは、先ずは国民健康保険から都道府県別に保険者を整理・統合していったらどうかとした意見が出ています。ただ都道府県毎に国民健康保険だけを統合しても実はそれほどの持続・可能性、或いはリスクプールを十分に確保できるようにはなりません。どうしても、きょうかい健保・組合健保・共済組合といった雇用者保険も将来的には整理・統合していくことが求められると思います。ただこれは、公的資金を必要とせずに自立運営出来ている保険者の場合には、明らかに合体すれば条件は悪くなりますから、合体したくない。従って雇用者保険でも組合健康保険でも共済組合健康保険でも大反対です。しかもその背景には経団連とか連合という組織がありますし、そういった大きな政治的な抵抗をキチンと抑えて国民にちゃんと納得して頂くことが重要です。そのためには強い政治的リーダーシップと政策構想能力、中長期的な視点を加えて保険者を整理・統合し、持続可能性を強化しつつ、なおかつ保険料の公平性を確保する。こういったことをやらなければいけないだろうと思っています。

―さて、柔道整復の問題に移りますが、現状、柔道整復業界は大きな岐路に立っています。しかし治療内容が患者さんからの信頼や信用を失ったのではなく、問題は保険者に十分な理解が受けられていないことにあるように思われます。社会全体としては、高齢化により医療費がますます増える中で、病気になった人を治すだけではなく病気になることを予防する、あるいは慢性の病気を上手く管理してそれを悪化させない医療が重要になってきている、とする状況の中で、業界では、柔道整復の能力を十分発揮し高齢化に関連した疾患をシッカリと診て行きたいとしています。一方、昨年初めて、社会保障審議会医療保険部会に柔整療養費専門委員会が設けられ、委員会での議論の内容を見ますと、保険者側からの「施術期間に上限を設けるべき」とする意見があり、それに対し業界では「6ヶ月以上の長期施術の割合はどの県でも10%以下」として、所謂高齢化が絡む慢性的な疾患については、寧ろ両者に否定的とも取れる意見があり、大局的な議論がされていないように感じます。第2回の委員会が3月に開かれ漸く料金改定が行われることになり、今後まだ明確ではありませんが、柔整の在り方について議論・検討されていく予定です。今までの内容から在り方というより料金や制限にばかり話が集中しているように感じます。療養費検討専門委員会において、大きな視点での柔道整復の将来展望の中で、議論すべきで、そうした展望が無く、双方共に目先のことに捉われ過ぎていると感じます。武見先生が厚生労働副大臣であられた頃も柔整養成校問題に取り組んでいかれようとされておりましたが、そのことを含めて今後の専門委員会では何が議論され、改革されるべきかご意見をお聞かせください。

専門委員会における議論の詳細を私はよく知っている訳ではありません。他方で、長年私がずっと言い続けてきたことは、やはり国民の生活に最も密着したところで行われている我が国の伝統的な手技治療の一つとしてこの柔道整復というものが大きな役割を担ってきたことは事実です。それは医療費とは別に施術費としてその枠が決められていて、そして受託療養委任払いという形で実際に保険手続きも行われてきました。これは、柔道整復だけではなく鍼灸も同様で、寧ろ柔道整復よりも鍼灸のほうが近年急速に支出が増えてきています。そういう中で規模的に施術料金の中では大きな部分を占めるということで、柔道整復に対する施術料に関心がもたれるようになって、それでこうした専門委員会が発足するという経緯になっていったんだろうと思います。その中でコスト管理という観点が前面に出てきて、これまで柔道整復が果たしてきた地域医療の中での役割等、また将来に向けて特にこれから健康寿命というものを如何に増進させるかということが大きな課題になってくる中での柔道整復の果たす役割等、こういった視点から十分に議論が行き届いてきていないということなんだろうと思います。従って、過去と現在と未来というものをキチンと結びつけて我が国の国民の健康を増進し、健康回復を加速化させて、結果的に我が国の健康寿命を延ばすというところに私は柔道整復の新たな役割を確立していく必要性があると思っています。過去10年を振り返ってみますと、平均寿命が1.5歳伸びてはおりますが、自立した日常生活をおくれる期間としての健康寿命は1歳弱しか伸びておりません。という様に健康寿命と平均寿命のギャップが今拡がろうとしていて、男女共にそのギャップが10年位ある訳です。このことは、介護を必要とする高齢者が増えることを意味していますし、また医療費を余計に必要とする寝たきりの高齢者も増えていくことを意味しています。これはご本人にとっても決して幸せではない。また同時に社会的にもこうした介護や医療に関わる支出が増え、強いては若い世代に負担を増やすということになりますから、これも好ましいことではない。従って今後の大きな課題は、平均寿命と健康寿命のギャップを出来る限り埋めて、そのために健康寿命を増進させる手立てをしっかり政策的にパッケージで組み立てていくという考え方が求められるようになります。私はそういう考え方の中で、柔道整復の新しい役割を考えていったらどうかという考えを持っております。本来ならば、真正面から国民の健康と柔道整復の役割という観点でまず王道となる政策論をキチンと組み立てて、その中で具体的な政策としての施術料の在り方に対するキチンとした理解を深めてもらうような努力が必要になるのではないでしょうか。

―ズバリ武見先生から見て、柔整の問題点は、どこだと思われますか。お考えをお聞かせください。

柔整は社団の他にも幾つも個人契約の組織があり、それによって業界団体として全体を把握するのが難しい状況が現実にあります。やはり、こうした団体をしっかりと束ねて、柔道整復の業界全体を公正に掌握して、発展させていくための、そういった原動力となるような仕組みをやはり作るべきだと思います。日本柔道整復師会が柔道整復師の公の組織として、公的な社会活動をしっかり担われていますが、片やその他の個人契約の分野のシェアはかなりを占めていますので、従って一環した政策を実施したりすることが中々出来ずに極めて短期的な視野から自分たちだけが良ければいいという考え方で動くような人たちまでがいて、結果として全体の足を引っ張っているという現実があると思います。やはりそういうことが無いようにするにはどうしたら良いかということを考えていかなければいけないでしょうね。

―武見先生のお力添えで日本の柔道整復は世界の民族医療に〝柔道セラピー〟として仲間入りしましたが、医療先進国、日本において、なお存続している柔道整復は医療先進国ばかりでなく発展途上国においても有用性が高いとしてモンゴル国等で柔整師がJICAの草の根活動で国際交流を通して医療支援と医療指導を8年間くらい行っております。このことも武見先生のお力添えがあったからこそだと思います。こういった活動を今後も展開されていくと思いますが、何かご助言等がございましたら?

既にWHOでオルタナティブ・メディスンという、そうした伝統医療にかかわる報告書では、日本の伝統医療の1つとして柔道セラピーがキチンと認知されるようになり、これは一つの大きな進歩であったと思います。これに加えて今度はモンゴル国であるとか、或いは南太平洋の島国であるとか、そういったところとの交流が現実に行われ、しかもモンゴルのケースはJICAもこれを支援して、かなり具体的なプログラムとして発展してきております。私もJICAの支援を取り付ける時にご協力するなどしましたが、やはり医療資源が無い途上国や医療過疎地において柔道整復という技術が一定の効果をもたらしていることは大いに想像できるところであります。そういった観点から柔道整復の国際的な活動というものを展開していかれることを大いに期待しています。又、そういった対外的な活動を展開することで、国内的にも柔道整復という伝統医療に対する幅広い理解を得るという努力につながってくると思います。

武見敬三氏プロフィール

参議院議院議員(3期・自由民主党)
【経歴】
1951年11月5日 元世界医師会会長・日本医師会会長 武見太郎の三男として生まれる。1957年 慶応義塾幼稚舎入学。1974年 慶應義塾大学法学部政治学科卒業。1976年 海外留学を含め、学問の世界へとのめり込む。1984年 夜のテレビ番組「CNNデイ・ウォッチ」で約三年間アンカーマンを勤める。1987年 テレビ朝日の「モーニングショー」のメインキャスターとして、総合司会を勤める。 1995年 東海大学教授となり、日本医師連盟の推薦のもと参議院議員初当選。2001年 参議院二期目再選。議員期間中は外務政務次官を初めに厚生労働副大臣まで数多くの役職を担う。2006年 国連事務総長下のハイレベル委員会委員に就任。2007年 日本医師会総合政策研究機構(日医総研)特別研究員に就任、及び、ハーバード大学公衆衛生大学院及び日米関係プログラム客員研究員に就任。渡米。2008年 日本国際交流センターシニアフェロー就任(Senior Fellow, Japan Center for Int’l Exchange)長崎大学医学部客員教授就任。2009年 7月帰国。2012年、現職。

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