東日本大震災を決して忘れない 、忘れてはならない!
世界中の人々の価値観を変えたあの東日本大震災から3年の時が流れてしまった。しかし、復興にはまだまだ時間がかかりそうな中で、被災された方々は疲弊している。自分たちの手で復興するしかないのか。しかし、当事者の方々にはまだパワーが残されている人も勿論いるが、力尽きてしまっている人々はどうすればいいのか。せめて被災しなかった人たちが何らかの支援をするべきではないのか?今後、日本国民は支援策をもっともっと真摯に模索していくべきではないだろうか。
公益社団法人宮城県柔道整復師会・櫻田会長に3年経った思いなどをご執筆いただいた。
東日本大震災から3年、被災県から思うこと
公益社団法人
宮城県柔道整復師会
会長 櫻田 裕 氏
-大災禍の発生・忘れられない記憶-
3月11日は県内内陸の自院内で施療中でした。たびたび地震が続いていたこともあり、大きな揺れもすぐにおさまるだろうと患者さんと話しているうちに、一気に立っていられないほどの激しい揺れとなりました。そして突然の停電。さらに激しい2波目の揺れが襲い、私は、とっさに高齢の患者さんを抱きかかえて治療ベッドの下にもぐり込ませました。院内は恐怖で叫び声が飛びかい、他の患者さん達にも、すぐにベッドの下に避難するようにと叫びました。激しい揺れは次々と薬品棚や材料庫を倒し、収納していた物をまき散らして壊し、書棚の本や書類は、まるで恐怖から逃れようとする生き物のように全てが飛び出してしまいました。長かった揺れが収まると、辺りは倒れた家具や飛散した物で足の踏み場がない状況でした。すぐに院内にいた患者さんやスタッフの無事を確認し、患者さんがたは家族の安否や自宅の状況を気遣い、急いで帰宅の途につきました。スタッフ達にも自宅の状況を確認するように帰宅させました。私も自宅に戻ってみると、台所や食堂の戸棚からすべての食器が振るい出され、床一面にガラスと陶器の破片が飛び散っていました。居間のテレビは倒れ、テーブルや机は1メートルほど移動、やはり本棚からはすべての本が飛び出していました。寝室では背の高いタンス類の引出しや扉が開き、収納物が吐き出された状態ですべて倒れて重なり合い、足の踏み場もなく部屋の中に入れない状況でした。
外に出てみると、市内は無音の静寂の中で車だけが慌しく走り回り、停電で信号が点灯しない交差点では早くも渋滞が発生していました。電柱は大きく傾いて電線が垂れ下がり、道路はいたるところで陥没や亀裂が走り、30~50センチも陥没した道路は通行不能となり、雪が降り始めた夕刻になると帰宅困難のために幹線道路は大渋滞するという惨状でした。
震災当日はライフラインと通信が完全に停止した中で、辛うじて携帯電話のテレビで大津波による沿岸部の信じ難い惨状を知ることとなり唯々驚愕し、自然の猛威の前では人智の及ばぬことを痛感させられて底知れぬ無力感に襲われ、そして恐れおののくばかりでした。
事態の深刻さは日を追うごとに目を覆うばかりでしたが、避難所に全国各地から続々と水や食糧などの支援物資が届けられるありがたさと、救援活動に急行する自衛隊員の勇姿、そして、ライフラインの復旧支援のために全国から派遣された電気、ガス、水道関係の支援車両が続々と連なる様を目の当たりにして、ありがたさと心強さで身体がふるえ涙が流れて止まらなく、今でも当時の情景を思い出すと目頭が熱くなります。
-復旧から再生・そして課題-
震災の発生から3年が過ぎました。宮城県の10年にわたる震災復興計画では当初の3年間を「復旧期」、続く4年間を「再生期」、最後の3年間を「発展期」としています。
復興については物質的な側面と心理的な部分の観点から考えなければならないと思います。復興庁の災害に対する復旧事業は社会基盤関連の土木建設工事ラッシュを呈しており、崩壊した地域経済や仕事を失った被災者の生活再建を牽引する役割を担っています。しかしながら、被災3県では未だに約26万7千人が避難生活を強いられ、宮城県では、約9万人の方々が仮設住宅などの劣悪で不便な生活環境下にあります。3年経過時点のプレハブ仮設住宅の入居率は84%と、阪神淡路大震災の50%に比べると住宅を基本とする暮らしの再建の遅れが目立っています。これは津波の被害に地盤の沈下も加わったため、沿岸地域の地盤のかさ上げや高台への移転計画が遅々として進まないことが原因と考えられます。工事や用地の取得の遅れだけではなく、住民の合意形成が思うように得られず計画が進まないことが問題になっています。
被災地の再生計画がなかなか進展しないこともあり、経済的な復興を早く遂げつつある方や、労働環境に恵まれて適応力のある若い世代は、被災地を離れて新しい環境を確立して生活し始めています。その反面、労働環境に恵まれず経済的になかなか再建できない方や、年齢や体力的に制約をもつ方。また、震災で地域のコミュニティーが崩壊し長期間の孤立した避難生活により社会的な不安感や意欲の低下などが影響して生活が不活発状態となり運動機能の低下を招く方。家族を亡くすなどの非常に大きな心理的傷害を受けた方においては、社会とのコミュニケーションが減少し引きこもり傾向から抑うつ状態となり精神機能の障害をかかえ、多重の困難に喘いでいる方々が数多くいらっしゃいます。
また、最近の調査では、津波による被害を受けた地域の再開発整備が進まないことや災害公営住宅の完成が進まないために生活の再建が遅れ、仮設住宅での生活から抜け出せずに時間が経過してしまい意欲が低下の一途をたどり目標を見失って、仮設住宅を出ることができずに将来設計が立たない方々が顕在化してきています。特にこの傾向は高齢になるほど高くなっています。
-大規模災害時の柔道整復師としての取組-
宮城県柔道整復師会は震災当初、それぞれの会員が甚大な被害を受けながらも震災直後から自発的に、柔道整復師の本業を生かして救護や救援ボランティアを行いました。そして当会SVM(接骨院ボランティア宮城)災害対策本部が立ち上げられてからは、県や市区町村、日赤と連携し組織的に活動を行い、一次医療救護からはじまり、避難生活の長期化により発生するエコノミー症候群や廃用症候群の予防、健康相談支援など、幅広い支援活動を展開しました。また、日本柔道整復師会本部や全国の社団柔道整復師会からは心強いご支援をいただき、全国から駆けつけてくれた同志が被災地の避難所で力強い支援を行ってくださいました。
このような柔道整復師の活動が認められた結果、宮城県との間で大規模災害時の医療救護活動に関する協力協定を締結することとなりました。これは、柔道整復師が行う医療救護が災害医療行政に組み込まれ、県民の生命の安全と健康の一翼を担う重大な役割を負うことでもあり、高い評価と期待を受けたことの重責をひしひしと感じている次第です。
そして現在、公益社団法人日本柔道整復師会では「災害派遣柔道整復チーム」DJAT:Disaster Judotherapist Assistance Teamを設置して日本赤十字社と協定を結び全国47都道府県に災害対策委員を置き、柔道整復師が災害活動に積極的に参加できる環境を整備しました。柔道整復師が地域や県境を越えて災害救護を行う時代がいよいよ到来しました。
-これからの時代・そして社会への対応-
日本は諸外国に例をみないスピードで高齢化が進行しています。65才以上の人口は、現在3,000万人を超えて国民の約4人に1人の割合となり、2042年には約3,900万人となりピークを迎え、その後も75才以上の人口割合は増加し続けることが予想されています。このような状況の中で約800万人を数える団塊の世代が75才以上となる2025年(平成37年)以降は国民の医療や介護の需要がさらに増加することが見込まれています。
このため、厚生労働省では2025年(平成37年)を目途に、高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、「地域包括システム」という地域での包括的な支援・サービス提供体制の構築を推進しています。(※厚生労働省HPより)
現在、公益社団法人日本柔道整復師会では、さし迫る人口の高齢化と不足する介護支援サービスの問題に取り組むために、次のような提案をしています。
【地域包括ケアシステムにおける柔道整復師の活用の提案】
①医療(療養費)として
柔道整復師の業務である骨折、脱臼、打撲、捻挫、挫傷(肉ばなれ等)、またそれらに伴う関節拘縮等を取り扱う職種として、地域包括ケアシステムの中で社会的・人的資源として貢献させていただきたい。(骨折・脱臼に関しては応急の場合を除き、医師の同意を得る)
②介護予防(機能訓練指導員)として
地域支援事業等における運動器の機能向上を必要とされた方に対して、地域包括支援センターを通して、接骨院・整骨院を地域の運動機能向上拠点として活用していただきたい。
【現在の社会保障制度に対するメリット】
既存の柔道整復師(接骨院・整骨院)を部分医療や介護予防提供施設として活用できるため、新たな資本投資をする必要がない。また、費用面で既存の医療・介護提供先より、安価で提供できる。
公益社団法人日本柔道整復師会では、「介護予防・機能訓練指導員認定柔道整復師講習会」(注1)を、平成17年度から開催して、会員の資質向上に努めてきた。もともと、柔道整復師(接骨院・整骨院)は骨折、脱臼等の施術経験から、加齢による筋力低下やバランス能力向上の機能訓練を行ってきた経緯がある。地域包括ケアシステムなどへの参加については、公益社団法人の会員として講習会を受けた柔道整復師を是非とも活用していただきたい。
注1機能訓練とは、日常生活を営むために必要な機能の減退を防止するため、機能訓練指導員(医師・歯科医師・看護師・柔道整復師・PT・OT・あん摩マッサージ指圧師等)が行う訓練である。
-社会に求められる柔道整復師・柔整師としての矜持-
現在の日本は世界に例をみない高齢化率の急激な上昇と、同時に出生率の低下を合わせて進む人口減少社会を突き進んでいます。その中で柔道整復師は、本来の負傷に対する治療行為の部分医療分野だけではなく、機能訓練指導員という立場から、介護・福祉の分野でも、求められ活躍できる職種者であらなければならないと考えます。
これまでの歴史の中で柔道整復師は時代とともに変遷を重ねてきました。今の時代を見てみると、柔道整復師が増加の一途をたどり柔道整復療養費の伸び率を上回る勢いで免許者数が増加して、柔道整復師の飽和状態が叫ばれています。また、それに付随してか、いろいろな問題が発生し社会からとかくの風評を受けています。
日本伝統の民族医療をルーツにもつ職種を生業に選んだ者としては、先達の歴史に思いをいたし、新たな発展をもたらして後進に引き継ぐ責務を常に意識することが絶対であると考えます。
最後に、東日本大震災から3年が経過し、今後予測される首都直下、東海、東南海、南海地震などの大規模災害においては、東日本大震災と同様の規模を想定して、二度と「想定外」という最悪の結果とならないように備えなければなりません。政府からは、そのような大規模災害を想定した防災や減災の対策大綱が打ち出され、行政はそれぞれに対応を急いでいるところです。しかしながら、いつの時代においても、大自然は人間の想像と対応を超えた、言葉では到底表わせない災禍を容赦なくあびせてきます。大規模災害時のライフライン機能が不能となった状況下では、私たち柔道整復師の技術や能力が非常に有用となります。国民に必要とされ、そして負託に応えるべく、一人ひとりの柔道整復師が覚醒し意識を高くしてゆかなければなりません。
PR
PR