いま、柔整業界を揺るがす架空リース取引とは?
4月9日、関西ナンバーワンのレセコン会社であるW社が、「柔整師を守る会」から大阪府警に詐欺罪で告発状(案)が提出された。ことの発端は、W社に勤務していた元社員からの告発であった。元社員であったM氏は、2月末、ポストに無記名で投函された資料を入手したことで、初めて告発に踏み切ったと話している。無記名であるが内部告発とみられる。
W社は、レセプトシステム開発・販売会社として、長年、大阪を中心に多くの顧客を抱える関西屈指の企業であり、ユーザーの評判も良かったとされている。
今回の架空リース取引について、既に産経新聞では4回にわたって取り上げ、またNHKや朝日新聞など大手マスコミが今なお取材中である。
告発状(案)の内容は、W社が医療機器の「架空リース」を行い、リース会社から機器販売代金約150万円をだましとったというものである。
問題とされている架空取引の手口の1つは、W社が接骨院に商品を搬入、リース会社が納品を確認した後に、W社がその商品を回収、リース会社から販売代金を受け取ったW社が、接骨院にキャッシュバックする仕組みである。結果として接骨院は、リース会社に高額なリース料を5年間支払い続けることになる。
具体的には、接骨院の先生が自分で所有しているパソコン機器類に、W社は機器を持ち帰ってソフトを入れてW社のシールを貼って持ってくる、リース会社が気付かなければならないはずではあるが、実際に行って見て、ソフトが入っているかの確認だけをしてリース契約を組むことになるため、これらパソコン等周辺機器類がいつどこで購入されたものなのか不明なまま、リース内容に組み込まれる。接骨院の先生方はリースに組み込まれたことに気づいてないケースが多い。ただし、5年が経った時に初めて問題が生じるとされている。
しかもこの販売代金というのは、オプションとして自由に価格を操作できる。関連するリース会社は複数あり、癒着も疑われているが、捜査の手が入らない限り、その実態は解明できないとされている。
一番大きく問題になっている手口の2つ目は、W社はレセプトシステムの開発販売会社であり、元々医療機器を販売している会社ではないが、血流測定装置「血管美人」という医療機器を販売しており、医療機器のリースを組むことで、例えばレセコンが120万、医療機器が300万、計420万円のリースを組む。納品されて、リース会社が確認、チェック終了後にW社がその医療機器を引き揚げて、持ち帰り、次の顧客に流用。リース会社は420万円をW社に支払う。その420万円の中から例えば300万円が接骨院にキャッシュバックされる。その300万円については、どういった名目でキャッシュバックされているかというのは、担当者が異なるため不明である。
従って接骨院は、最終的にはもらった金(借りた金)を高金利で返済しているかたちである。また、接骨院の先生は、リース契約の内容を分っていたとしても、商品(医療機器やパソコン)を引き上げられてしまえば、困ることになり再契約をすることになる。
果たして、そのようなことで接骨院の運営が安定していくのか、甚だ疑問ではあるが、このような不安定なやり方で事業展開している接骨院もあるという実態が浮き彫りになった。
5年後に商品を回収する件については、接骨院の先生は、5年間借り続けていると思っているところに、5年経ったからと、引き上げにくる、サプライヤーのW社は資産処理をすることが出来る。リース会社にとっては、次のリースを組んでくれるほうが良いし、儲かっているのが実態である。結局、パソコン等機器類は、数年経てば、なんの資産価値もなくなることから、処理してもらえるのは寧ろ有難いため、なんら問題は発生しない。元々リース会社は、資産処理は全部外注となっており、それをW社が引き受けているのである。
元社員であり「柔整師を守る会」代表のM氏によれば〝こういった背景には、接骨院を開設するにあたって、どこの銀行も貸してくれないという現実があるからで、そういった現実に対し、業界団体やレセコン会社はサポートすることで顧客の拡大をはかるという意図がある。当然、接骨院を開設するためには、費用が必要だが、中々社会的に認められていない職種で銀行も何所も貸してくれないので、どうしよう、W社さん、そんな方法があるんですか。そうしたらお願いしますということになってしまう。柔整師さんたちはお金を借りているという感覚でいます。多分これで運転資金を補填している。通常、接骨院を開設する場合、一定の開業資金が必要で準備するが、その後の運転資金まで準備することが出来ていないので、開業したはいいが、直ぐに閉じざるを得ない接骨院も多い。そういった開業したての接骨院にW社のような誘い、バックアップをしてくれると言われれば、飛びつく人間が多いのではないだろうか。開業して保険診療を行っている柔整師さんにとって、保険者から支払われる保険料は3か月後であり、その間の維持費は非常に厳しいものがあると言われている。結果的には返すお金であっても、一時的に助かる仕組みは、やはり有難い。400万円のリースを組んでくれたら、200万円あげますと、それで、もらったと思っている。またW社は定価を自由に操作できる。本来レセコンの通常価格は60万円~80万円であり、それを120万円、150万円、200万円で売ることができる。もう一つは、融通を利かすことによって紹介を増やし顧客を拡大する。大阪には約6千軒の接骨院がある中で、いろんな柵とねたみが存在している。W社さえこれからちゃんとしてくれるなら、私も手を引こうと思っています。「もうこのようなことはやりません、認める」と一言いってくれたら、私もやりすぎました、スミマセンと言って終わりだと思う。いま蜂の巣をつついたようにワーッとなっている。ここまで影響が大きいとは思っていなかった〟と本音を述べている。
更にM氏は、〝「柔整師を守る会」(現在会員数約100名)というのは、大きい括りでいえば被害者団体といえなくもないが、実際はW社に、今は間違っていても正しいことをしてもらおうという会です。架空リースについて、知っていてやったとなれば接骨院の先生も罪に問われることになるので、正直に話すことによって情状酌量の余地もあり得ると聞いています。いろんなかたちの被害者もいるようで、今はまだ警察の人とやり取りをしている段階です。私の本意は、W社を潰すことが目的ではありません。そうではなくて、とにかく直して欲しい、今までやっていること、間違えていることを、正して欲しいというのが真意です。我々がやっていることは小さいことですけれども、もしこれが本当にW社だけの話でなくなったら大問題に発展する可能性はあります。親会社のMCJは、完全にシッポ切りをしました。大日本柔道整復師協会は、もともとワールドの関連会社でありますが、団体は今回のことに関しては直接何も関係ありません〟と話しているように、4月17日、親会社のIT関連企業MCJ(埼玉県春日部市、東証マザーズ上場)は、一部不適切な取引が行われたことを確認したとして、保有するW社の全株式を同社社長へ売却すると発表。また、W社は、親会社のMCJの調査に対し、不適切な取引があったことを認めているが、同社社長は、指摘を受けて初めて不適切な取引であることを認識したと釈明している。
つまり、この仕組みは、販売会社・リース会社・接骨院の3者がどこも損をしない仕組みのように一見みえるため、今まで明るみに出てこなかった。しかし、明るみに出てしまった以上、柔整業界はこれまで何度もグレーな業界と揶揄されてきたこともあり、今回を機に病んでいる病巣をしっかり除去することがのぞまれるのは、いうまでもない。
この問題の背景には
①接骨院の過当競争がある(国家試験に合格し、免許を取得した新人柔道整復師たちが一日も早く開業したいという思いを察知したレセコンソフト開発販売会社並びに業界団体が開業資金をサポートする仕組みをあみだした)
②医療財政悪化等による健康保険組合をはじめ保険者からの厳しい過剰な締め付けによる業界全体の収益の落ち込みの2つがある。
明白な問題ではあるが、病巣は根深く、複雑である。
今回の「架空リース」取引問題というのは、業界団体とタイアップしたレセコン販売会社のユーザー獲得のための手段になっていたといえるのではないだろうか。
(出所・からだサイエンス社)
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