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シンポジウム『反社会的勢力から柔道整復師業界を守るための提言』開催

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平成27年12月22日(火)、中野サンプラザ(東京都中野区)において『反社会的勢力から柔道整復師業界を守るための提言』と題したシンポジウムが開催され、柔道整復師のみならず患者、柔道整復師団体、専門学校や公的機関、政治関係者やマスコミなど多方面から参加者が集まった。

シンポジウム『反社会的勢力から柔道整復師業界を守るための提言』開催
佐野裕司氏

今回のシンポジウムの呼びかけ人であり司会進行役を務めた東京海洋大学博士研究員・佐野裕司氏は〝柔道整復師が行う徒手医療は国民にとって大切なものであると考えている。しかし今回、反社会勢力が柔道整復師業界に入り込んだことで問題が起こってしまった。今回、何故問題が起こったのかという検証を行い、反社会的勢力の侵入を防止する策を検討する。壇上のパネリストだけではなく会場にいる参加者全員で話し合い、最終的に各方面に対する提言を纏めたいと考えている。何とか柔道整復師業界のためにも進めていきたい〟と開催の趣旨を説明した。

尚、パネリストは日本大学准教授・菊地俊紀氏、帝京科学大学准教授・行田直人氏、柔道整復師・栗山健司氏、柔道整復師・嶋木敏輝氏、帝京大学准教授・白石聖氏、柔道整復師・中谷裕之氏、柔道整復師・諸星眞一氏の7名が務めた。

1. 反社会的勢力が柔道整復業界に入り込んだ、今回の事件の検証

諸星氏

まず諸星氏より〝柔道整復師は本来、患者が全額負担しその後保険者から支払いを受ける「償還払い」が基本だが、施術後に支給申請書に患者の自署をもらい支払いを委任されれば、施術者が保険者に申請し支払いを受けることができる「受領委任払い」を利用できる〟と制度の仕組みが説明され、そのうえで〝指定暴力団住吉会系組長らが7か所の医院や歯科医院、接骨院で組員、知人らが施術を受けたと偽り、医師や柔道整復師に架空請求をさせる手口で、健康保険組合などから総額数億円をだまし取った疑いがある〟と事件の概要を解説した。

今回報道された接骨院については、当該接骨院の近くで開業しているという参加者から〝予診票も取らない、患者は何処を治療されているかわからないまま施術を受けているという状況だったようだ〟との発言があった。

中谷氏

佐野氏が〝マスコミの報道内容からもわかる通り、反社会的勢力がかかわっているのは柔道整復師業界だけではない〟と述べると、中谷氏は〝昔から同様の事件は大なり小なりあったと認識している。従来は交通事故治療を利用した生命保険会社に対する詐欺が問題になることが多く、詐欺の疑いのある人はブラックリストに載せるなどの対策がなされてきた。しかし今回は大々的に、しかも国が保証している健康保険の中で詐欺が行われた。医師・歯科医師ともに問題が挙がっており、柔道整復師業界だけではなく医療業界全体の問題として捉えている〟と医療業界全体で問題意識を持つ重要性を指摘した。

2. 反社会的勢力が入り込んだ背景

佐野氏は〝どのように反社会的勢力が業界内に入り込んだのか。金融機関の場合は、警察あるいは関係団体と連携し、契約時に反社会的勢力かどうかの確認をするなどしてトラブルを未然に防いでいるという。その他の業種についても、反社会的勢力との関わりを排除するために行なっている対策事例などの情報があれば教えていただきたい〟と問いかけた。

嶋木氏

教育に携わるパネリストからは、学生に対して警察OBを招いての指導や資料・VTRによる指導を行ったり、トラブル対応を請け負う業者に依頼したりと、リスクを極力減らすよう努めているとの意見が上がった。介護業界に携わる嶋木氏は〝国が反社会的勢力に対する指針を作成している。介護業界では法令順守の管理者を指定して届け出なければならないことになっている〟と説明した。

行田氏

佐野氏は〝倫理観の欠如や療養費規制による収入減が、反社会的勢力の入り込む隙になったように思うがどうか〟と意見すると、諸星氏は〝施術者と経営者が違うケースもある。開設者には何の規制もなく免許も必要ない。柔道整復師をたくさん雇いチェーン展開している施術所は、簡単なマッサージを行って保険請求することで利益を得ていると思われる〟とし、行田氏は〝チェーン展開している施術所はともかく、個人経営の施術所は軒並み収入が減少している。しかしそれぞれが倫理観を持ち「断固として反社会的勢力に入り込ませない」という意識を持つことで、歯止めをかけられるようにすることが重要〟と柔道整復師の収入の厳しい実情を語り、しかしながらそこに付け入らせない倫理観を持つことが大切であるとした。

会場からは、交通事故患者を紹介するという業者や貸金業者等からの営業が毎日のようにあるという声も上がり、反社会的勢力の介入には様々な方法が考えられることがうかがえた。

また、柔道整復師小委員会事務局長を務める参議院議員・大島九州男氏も参加しており〝来年に療養費改定を控える中で、マイナス改定をしやすくするために柔道整復師に悪いイメージがつくように報道されているという一面もあるということを、国民の皆様にも知っていただきたい〟と、今回の事件報道で柔道整復師の関与が特に強調されているのには、療養費改定という政治的な要因があると主張した。

白石氏

柔道整復師の倫理観については、白石氏は〝昔は臨床研修の中で、学校では教わらないような倫理観や社会的常識を学んできた。今では裁判により学校設立の規制も緩くなり、資格を取ることが中心の教育になってしまっているのではないか〟、中谷氏は〝大学・専門学校ともに職業倫理、社会的倫理、日本特有の習わしも含めて教育する必要がある。その反面、限られた時間の中で道徳的教育に割く時間が少ないと感じている〟と述べ、時代の遷移とともに倫理的教育を受ける機会が減っていることを懸念する声が多く上がった。

3. 今後の対策について

菊地氏

佐野氏は〝柔道整復師の倫理教育に関する指摘があったが、今後どうしていけばいいと考えるか〟と問うと、大学職員である白石氏は〝公的資金を療養費という形で使用しているわけで、大変高い倫理観が求められる。教育を受け、モラルを守って施術ができると認定されて初めて請求を行なえるようにするなど、何らかの条件をもって保険請求をできるようにすべきではないか〟と述べ、菊地氏は〝学生に対しては学科の内容に応じて、技術者倫理という必修科目があり専門家や法律家が講義にあたっている。職員はコンプライアンスの研修会を年に4回~5回受けている。繰り返し啓蒙活動をしていくことが大切だ〟と、常に倫理観を持って業務にあたることの重要性を意識づける必要があるとした。

また個人的に行っている教育として、研修生を受け入れた経験のある嶋木氏は〝倫理教育以前に、報告・連絡・相談のような基本的な規範ができていない学生が多い。専門教育を受ける前の基本的な教育が疎かになっているように感じる。繰り返し伝えるしかないと思う〟と厳しく指摘した。

栗山氏

栗山氏は〝免許を取ってすぐに開業する柔道整復師が開業資金を工面するために甘い誘惑に乗ってしまうことで、業界全体が不正を行っているという目で見られることが非常に残念。若い柔道整復師に対して教育していくことが必要であり、もし関わってしまった場合には所属団体等に相談できるようなシステムを整備しておく必要がある〟とし、反社会的勢力とのかかわりを未然に防ぐことは勿論、万が一関わりを持ってしまった際の対応についても検討する必要があることを示唆した。

厚生労働省に勤めた経験を持つ参加者は〝三師会(日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会)では新規会員に対し、保険を扱う上での倫理や医療費使用に際する規則等を厚生労働省が指導する。柔道整復師についても指導を受けることになっているが、厚生労働省も点数の高い医師等に対する指導に力を入れているという実情がある〟とし、厚生労働省をはじめとする行政の指導体制にも問題があると指摘した。また〝柔道整復師になるには、昔は研修を行ってどこかの団体に入らなければならなかった。しかし現在は団体に所属する必要もない。免許の更新制度や講習を必須とすべきではないか。どんどん開業する人が増えているなかで、問題が起こらないような制度に国をあげて改正してもらいたい。そうすれば柔道整復師の地位も上がると思う〟と不正を働くことができないような厳しい制度への改正を望む参加者もいた。

最後に佐野氏は〝柔道整復を業として行っている人、あるいはこれからこの道に進もうとしている人のために、業界が汚染されないようにすることが大切。そのための取り組みを各団体でも行なってもらいたい。相談業務をどうしていくかも重要であり、学術団体などとも連携を取りながら提言を行いたい。養成学校等に関しても倫理教育の重要性が出てきており、カリキュラムをどうしていくかなど細かい点を組み入れながら提言を纏めたい〟としてシンポジウムを締めくくった。

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