(公社)大阪府柔道整復師会、療養費適正化理念を発表
平成28年3月26日(土)、大阪柔整会館において「平成28年大阪保険講演会」が開催され、公益社団法人大阪府柔道整復師会の療養費適正化理念が発表された。
療養費適正化理念の発表
(公社)大阪府柔道整復師会・安田剛会長は〝柔道整復療養費の適正化において、大阪は全国でも最も問題とされている地域である。その中で我々大阪府柔道整復師会は平成23年に公益社団法人として認定され、接骨院に来院する患者、そして府民のために活動する組織へと生まれ変わった。業界最大級の団体として、大阪府柔道整復師会には取り組まなければならないことがある。以前より臨床整形外科の医師たちから「柔道整復師療養費問題」として、柔道整復師の周辺環境が問題視されていることは、会員の皆さんも感じていることと思う。しかし今日の大阪保険講演会は、一般社団法人大阪臨床整形外科医会が後援してくださっている。臨床整形外科の先生方も支払い側で苦労されている保険者の皆さんも、そして我々柔道整復師も患者さんの為を想っているということは共通している〟と前置きし、医師・保険者・柔道整復師が一丸となり、問題解決に向けて進んでいることを強調した。
〝最近テレビでも報道されているような、不正請求や反社会的勢力の出現には危機感を感じている。公益社団という体制は良くも悪くも可視化しなければならないと考えているが、今日その第一歩となる場を設けられたことに感謝している。今日発表する理念が10年、20年後に必ずこの国家資格というプライドを持った柔道整復師が生き残っていく方法だと思う。今日を境に皆さんには厳しい発信をしていくことになるが、府民のため、最終的には柔道整復師のためになると確信している。厳しい状況で会員が少なるかもしれないがそれでも構わない。生き残るのは選りすぐられた柔道整復師だということだ。柔道整復が日本の伝統医療だと言うのなら、みんなで柔道整復の魂を取り戻す努力をしていこう〟と熱く述べ、理念を発表した。
理念
一.大阪府柔道整復師会会員は、柔道整復業にあたって営利を目的としない
一.負傷の徴候の認められない患者への医科受診指導を促進する
一.療養費の不正請求排除に向け、療養費適正化特別対策班を設置する
一.違法広告に関する指導を強化し、監督官庁への通報制度を設ける
一.往療料の適正な算定基準について会員に指導する
その後、理念について(公社)大阪府柔道整復師会・布施正朝保険部長より詳細が説明された。
一.大阪府柔道整復師会会員は、柔道整復業にあたって営利を目的としない
大阪府柔道整復師会は公益社団法人であり、柔道整復師のための団体ではなく府民のため、国民のための団体であるということを再認識してもらいたい。営利を目的としないというのは、利益を上げてはいけないという意味ではなく、受領委任規定に定められた正当な範囲の中で施術するということ。誰のために柔道整復師業があるのか?柔道整復師の使命は患者を治すことだと認識していただきたい。大阪府柔道整復師会としては今後、会員が胸を張って柔道整復師と名乗れるように、柔道整復師業とはどういうものなのかをしっかり話し合っていきたい。請求額の高い会員に対しては請求内容を確認していく。
一.負傷の徴候の認められない患者への医科受診指導を促進する
負傷と認められる徴候の無い場合は初検料のみ算定することとなっているが、接骨院・整骨院の乱立や過当競争の結果、患者の抱え込みが起こってしまっている。柔道整復は万能ではない。患者が重大な疾病を抱えていて、健康被害が出てしまう可能性もあることをしっかり意識しなければならない。患者には丁寧に説明し、負傷原因の無いものは医科受診を勧めてほしい。負傷の徴候の認められない場合は正々堂々と無病として申請書を提出するようお願いする。大阪府柔道整復師会は医科への紹介状を整備しスムーズな医科受診を促進する。会員ごとの請求内容・件数を把握、指導していく。
一.療養費の不正請求排除に向け、療養費適正化特別対策班を設置する
水増し請求や架空請求は明らかな犯罪であり詐欺行為だ。施術が不要な部位に施術をして療養費を請求するのも不正請求だ。施術録の虚偽記載も許されない。不正請求は一円たりとも許さない。大阪府柔道整復師会は今後、本会役員および外部アドバイザーで構成された「療養費適正化特別対策班」を設置する。不正請求の疑義があれば独自に調査を行い、適切に対処する。また、今までも府民から医療通知や施術方法についての問い合わせや苦情、通報などが寄せられていたが、そのための相談窓口を設置し、対処状況をホームページ上に公開していく。
一.違法広告に関する指導を強化し、監督官庁への通報制度を設ける
厚労省医政局医事課より通知として「交通事故専門」「むちうち専門」などと謳った看板は違法であるとはっきり通達されている。チラシも同様だ。間違った広告は患者の誤解を招く。健康保険の使えるマッサージと思われていないか?そう思われていたら我々の責任だ。千代田区や奈良県橿原市など、看板指導に乗り出した自治体もある。今後は看板については、会員には徹底指導し、府民に対しては違法看板を掲げた接骨院へは行かないようにと広報活動を行っていく。監督官庁への情報提供も実施していく。
一.往療料の適正な算定基準について会員に指導する
往療料は、歩行困難等真に安静を要するやむを得ない場合にのみ認められるものだ。医科の往診と同様、患者の求めがあったからと言って算定できるものではない。定期的に患者宅を訪問するのは訪問診療であり往診とは別物だ。大阪府柔道整復師会としては往療料の不正請求が蔓延しないよう、正しい算定方法の指導を継続していく。
布施氏は、〝これらは決して大阪で開業している柔道整復師にだけ発しているものではない。ただ、大阪府の被保険者一人当たりの柔道整復療養費月額が全国平均を大幅に上回っていることを意識して、大阪府柔道整復師会が自ら襟を正し、本腰を上げて適正化に取り組むことが大切。それが公益社団法人としての役目ではないか〟と、改革への強い決意を滲ませた。
公開討論「10年後の柔整療養費はどうあるべきか?」
理念発表後、大阪府柔道整復師会・安田剛会長の他、一般社団法人大阪臨床整形外科医会・宮田重樹理事、太陽生命健康保険組合・長嶺秀一常務理事、大阪府岸和田市国民健康保険課・北川直正氏、奈良県橿原市保険医療課・今井大介氏の4名をコメンテーターとして迎え、「10年後の柔整療養費はどうあるべきか?」をテーマに公開討論が行われた。尚、コーディネーターは日経ビジネス・庄子育子編集委員が務めた。
〝先ほど大阪府柔道整復師会の並々ならぬ強い意欲を語っていただいたが、理念を聞いてどう感じたか?〟と庄司氏が尋ねると、コメンテーターからは〝本当に素晴らしいことだと思う。実行していただければ大阪の療養費は必ず適正化が推進される〟や〝守られれば保険者も点検に手間がかからなくなる〟〝公益社団法人として、患者のためということが前面に出ており、公益としての役割をしっかり認識されている〟等、好意的な意見が多く上がったが、〝賛成だが当たり前のことが書かれているというのが本音〟や〝このような理念を作られることは初めてだと思う。しかし、本来であれば10年前に出来ているべきだったようにも思う〟との辛辣な意見も上がった。
理念実行に際する課題として、宮田氏は〝療養費適正化特別対策班を設置しても、会員以外への指導は難しいだろう。しっかりルールを決めて、不正のラインをはっきりさせてほしい〟と鋭く指摘した。今井氏は保険者と行政という2つの立場から〝保険者・患者・柔道整復師に加えて行政も一緒になって4者で適正化していく必要がある。理念に盛り込まれている通報についてだが、通報先が動かなければ仕方がないので行政も協力していく必要がある。「どこもやっているから」と競争せざるを得ないからルール違反をしてしまうのだと思う。一斉にきれいにすればみんな改善されるだろう〟と述べた。安田氏は〝一番の問題点は支給基準に合致しないものを保険で請求すること。生計を立てるために支給基準を拡大解釈している柔道整復師もいるがそれでいいのか?ルールはしっかり守らなければならない。時代の医療ニーズに合わせ、柔道整復師が活躍できるよう支給基準を見直していく時期が来ている。しっかり審査会で線を引いていくことが大切。根本的な制度改革が必要になっているとも思っている〟と、ルールを整備するうえで大規模な改革が必要になる可能性も示した。
〝最近問題となっている反社会的勢力との関わりについては、国保加入者が狙われている事例が多かったが国保の審査の甘さもあるのでは?〟との庄司氏の問いに対しては、今井氏は〝連合会ごとに考え方が違うと思う。今まで奈良県では一次点検で問題があると思われても、その情報が保険者に流れてこなかった。そのため結果的に一から審査をやり直しているような状態だったが、現在は二次点検で調査が必要なものについては印をつけてもらえるように動き出している〟と述べ、点検の精度を上げるための取り組みを進めていることを明かした。
また、庄司氏は〝理念が実行されれば業務範囲の縮小にもつながってしまう恐れもある〟と指摘。これについて北川氏は〝療養費だけに限定せず、行政とタイアップするような事例やスポーツの場など、活動の場は広げられると思う。そうすると療養費は今ほど重要ではなくなる〟と述べ、続いて長嶺氏は〝腕のいい柔道整復師であれば口コミで自然に患者が集まるだろう。そうならば保険に頼らず自由診療でやっていけるのではないか〟、宮田氏は〝ジムなどでトレーナーとして働いている人もいる。地域包括ケアの中でも研修を受けて機能訓練士として活躍する道はあると思う。高齢化が進む中で、運動指導などをきちんと行い高齢者が元気に過ごせる国造りの一翼を担っていただきたい〟とし、療養費を扱わないという選択肢もあると示唆した。
これらの意見を受け、最後に安田氏は〝この理念を決意するには非常に勇気が要った。本音を言うと、これ以上辛い思いをさせるのかという先生も多いと思う。保険者には自費でやったらいいと言われるが、私は療養費を死守したい。柔道整復師として公的な医療保険を府民のために使っているという自覚さえしっかり持てるならば、療養費を使ってもらいたいと考えている。そのためにもう一度柔道整復についてみんなで考えよう。看板でしか集客できないのなら辞めればいい。国家資格という資格を与えたのであれば、生計が立てられるようにしてほしいが、そのためにまず自分たちが襟を正そう。伝統医療として日本人の気持ちのいいところを大阪から示していきたい。まだ第一歩であるので、これからに注目し、できれば後ろから背中を押していただきたい〟と力強く語り、改めて協力と団結を呼びかけた。
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