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「匠の技 伝承プロジェクト」第3回講座開催

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令和1年8月4日(日)10~17時まで、東京都柔道整復師会会館(千代田区)において、公益社団法人日本柔道整復師会主催「匠の技伝承プロジェクト」第3回講座が開催された。今回は定員50名の参加者のうち、6名が初めての参加であった。

「匠の技 伝承プロジェクト」第3回講座
松岡保副会長

開会の辞として、(公社)日本柔道整復師会・松岡保副会長は〝この「匠の技伝承プロジェクト」は全国津々浦々まで柔道整復の技術を伝承し、業界に対する信頼を揺るぎないものにするという目的がある。今回、整復・固定については、臨床経験豊富な(公社)埼玉県柔道整復師会の渡辺一民先生にご講演いただく。また、超音波画像観察については、カリキュラム改正によって柔道整復師国家試験にも加えられることとなった非常に重要な部分だ。今日一日ここで得た知識を持ち帰り、伝承していってもらいたい〟と述べた。

工藤鉄男会長

(公社)日本柔道整復師会・工藤鉄男会長は〝皆さんも未来の柔道整復師に技術を継承するという心構えを持って受講していただきたい。柔道整復は過去に消滅の危機を迎えたが、『骨折・脱臼に対する施術ができる職業』として大正9年に公認を得た。この骨折・脱臼に対する技術こそが柔道整復が存続する大義だと考えている。しっかりと整復・固定ができる柔道整復師が近くにいれば、遠い大学病院に足を運んで検査や手術をすることも減り、地域住民のためにも役立つだろう。このプロジェクトでしっかり学んで、ぜひ仲間の柔道整復師にも伝えてもらいたい。この業界を守るために、日本柔道整復師会としても頑張ってまいりたい〟と熱く語った。

長尾淳彦学術教育部長

このプロジェクトの趣旨について、(公社)日本柔道整復師会・長尾淳彦学術教育部長は〝柔道整復術を次の世代に伝えていきたいというのが最大のテーマとなっている。柔道整復師の強みである「骨折・脱臼の整復・固定」ができないということは、制度自体の消滅に直結してしまう。また、超音波画像観察も、判断に迷うような症状の時に患部の状態を確認できる重要な手段であり、しっかり体得して正しい判断ができるようになれば国民の利益にもつながる。1回や2回の講習では技術を伝承することはできないが、10年がかりで進めていきたいと考えている〟と説明した。


手根骨・中手骨・指骨の骨折

講師:(公社)埼玉県柔道整復師会 渡辺一民氏

座学編

渡辺氏ははじめに〝整復の要諦として、微妙な力の配分と狭小な範囲でもからだ全体を使って行うということを忘れてはならない。そう考えると最終整復動作を上から下に行なう方が自然であり行いやすい。固定の要諦としては、「いかに拘縮を発生させないか」がポイントとなる。速やかに骨折部を安定させ、確実なセイフティポジションを獲得することが大切である。機能的治癒という結果を出すことが求められるなか、局所解剖を熟知することで適切な処置を行うことが可能となる〟と述べた上で、ボクサー骨折、基節骨骨折、内転骨折、マレットフィンガー等に対する整復・固定について講義を開始。〝ボクサー骨折の整復では、術者はすべり止め(ゴムバンド)を患指に巻き付けた後、掌を返す。中枢片を下から押さえ、末梢骨片を上から押さえる整復動作を行うとコントロールしやすい。手の力ではなく体重移動で整復することと、斜上方に牽引することがポイントとなる。固定時には前腕下端部からMPJまで金属シーネ等をあてがってから手背部を上方に向ける。掌側骨頭部にはクッションとしてフェルト等をあてがう。

基節骨基底部骨折は骨端線離開に多く見られるため、骨端線を摩耗させないよう意識する。転位方向に牽引しながら外転転位であれば内転方向に、内転転位であれば外転方向に矯正し、前後面を整復することが重要となる。側面は術者が手を持ち替え、牽引を緩めず中枢を他四指により固定し、拇指にて末梢を背側から圧迫しながら掌屈させて整復する。なお、基節骨骨折では内転骨折の場合に限り、固定時に綿花枕子を指間に挿入する。マレットフィンガーについては、腱断裂ではDIP過伸展により整復され固定されるが、剥離骨折や脱臼を伴う場合は、手掌を上方に向けて末梢骨片を把持し牽引する。その後、第2指で中枢の背側骨片を直圧するのと同時に末梢骨片を上方より下方、指背側に向けて背伸させるように牽引して整復を完了する。固定についてはその肢位の維持が重要であり、再固定時は過伸展位を保持できるかがカギとなる。マレットフィンガーは受傷後2か月経過後に整復固定して回復した例もあり、陳旧性であってもある程度までは回復する可能性があると言える〟等解説した後、各骨折の整復・固定を実演した。

実技編

実技では参加者が4グループに分かれ、それぞれ施術者役・患者役になり、中手骨・基節骨基底部・ボクサー骨折・マレットフィンガー等に対する整復・固定の実際を交代しながら行なった。渡辺氏は〝血流の状態を確認するために、爪は見えるようにしておく。包帯は芯を持って患部から離さず、転がすように巻くことが重要。そのためにも芯のある固い包帯を巻いておくことが大切。固い包帯でなければ圧迫固定はできない。包帯を引っ張って巻く癖が治らない人も多いが、引っ張っていいことはない。基本を丁寧に行うことが大切だ〟等々、経験豊富な渡辺氏ならではの施術における大切さを説きながら時に厳しく、時に優しく和ませながら各グループを回り熱心に指導を行った。


中手骨、指骨の骨折の超音波観察装置による観察

講師:学術教育部 佐藤和伸氏
(協力:株式会社エス・エス・ビー)

座学編

佐藤氏は初めに基本的な走査方法と画像の描出のされ方について〝横に切った画像を短軸画像、縦に切った画像を長軸画像という。プローブは送信機であり受信機でもあるため、プローブを当てる際には、被検体に対して必ず垂直になるように配慮する。超音波は骨に反射するので、骨に対して表在的な情報と言える。MP関節掌側から長軸走査で観察すると、掌側板、掌側板膜様部、浅指屈筋、深指屈筋などが見えてくる。掌側板は骨折においても捻挫においても重要な部分であり、超音波ではどの程度掌側板が損傷しているか、膜様部がどれだけ切れているかなども確認することができる。リアルタイムで動かして観察できるのも超音波観察の強み。手指等は特に骨までの距離が短いが、ゲルを厚めに塗っておくと動かしながら観察しやすい。骨折部に超音波を当てると深部に超音波が入り込み、彗星のように描出される(コメットサイン)。コメットサインは骨折部の確認だけでなく、整復や固定がしっかりできているかどうかの確認や骨癒合の経過観察にも役立つ〟と解説した。その後〝マレットフィンガーでは骨片が上がって見えるが、この骨片が大きければ大きいほど亜脱臼する可能性が高いので注意が必要となる〟等、超音波画像でわかる事項を施術に活かすための読影のポイントを指導した。

実技編

参加者は4グループに分かれ、実際に超音波画像観察装置を用いて中手骨・基節骨などの描出を体験。さらに患部を動かしながら、超音波ではどのように写るのかをじっくりと観察した。各グループには超音波観察を熟知した指導員がつき、プローブの当て方のコツなどについて一人ひとりに対し丁寧に指導を行った。

次回は9月29日(日)、東京都柔道整復師会会館にて開催される予定となっている。

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