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「匠の技 伝承プロジェクト」第4回講座開催

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令和1年9月29日(日)10~17時まで、東京都柔道整復師会会館(千代田区)において、公益社団法人日本柔道整復師会主催「匠の技伝承プロジェクト」第4回講座が開催された。好評を博している本講座は今回も参加希望者が殺到し、満席での開催となった。

「匠の技 伝承プロジェクト」第4回講座
松岡保副会長

(公社)日本柔道整復師会・松岡保副会長は〝第4回目となる今回は52名が出席、うち9割がリピーター、5名が初参加となる。皆さんにはぜひこの場で学んだことを地元に持ち帰って、どんな形でも良いのでその技術を伝えていってほしい〟と開会の辞を述べた。

工藤鉄男会長

続いて、(公社)日本柔道整復師会・工藤鉄男会長は〝9月20日からラグビーワールドカップ2019日本大会が行われており、昨日は日本代表が世界ランキング2位のアイルランドから大勝利を収めた。並々ならぬ努力をしてきたからこそ得られた勝利であり、努力に勝るものはない。来年には東京オリンピック・パラリンピックが行われるが、日本柔道整復師会も選手のケア等で協力することになっている。その際には、ぜひ匠の技で技術を磨いてきた人たちに先頭に立ってもらいたいと考えている。本講座では「どうしたら分かりやすいか?」ということを毎回担当者が議論し合いながら開催している。しっかりと講師から技術を盗み取り、身につけた技術を自分の地域で存分に発揮してもらいたい〟と力強く述べた。

長尾淳彦学術教育部長

講義に先立ち、(公社)日本柔道整復師会・長尾淳彦学術教育部長は〝このプロジェクトは単に柔道整復術復活100周年を記念した事業ではなく、今一度接骨院に骨折・脱臼の患者を呼び戻すことを目的としている。このままでは技術が伝承できなくなるだけではなく、業界を支える制度そのものが消滅することに直結する。柔道整復師は応急処置であれば医師の同意なく骨折・脱臼を施術することができるという強みがあるにもかかわらず、保険請求のうち骨折・脱臼の割合は0.4%程度にとどまっている。こうした現状を変えていきたいと考えている。これまでも講座内容は毎回変えているが、いかに柔道整復師が骨折・脱臼を扱えるようになるかということをテーマに、来年度以降もプログラムを改良していく予定だ〟とプロジェクトの趣旨を説明。また、当日の流れについては〝午前中は座学、午後は1組10名程度となって実技を行う。座学は実技をスムーズに行うための内容となっているので、実技は納得いくまで何度も繰り返し行って身につけてもらいたい〟と話した。

肩関節脱臼の整復・固定

講師:匠の技講師 田邊美彦氏

座学編

田邊氏は〝これまで私は失敗を積み重ねてきた。しかし過去を振り返り「こうではないか?」と実践を繰り返すことで新しい技術が生まれるものだと考えている。私がやってきたことが否定されることもあるかもしれないが、匠を目指して、いま考えられることをとことんやっていきたい〟として講義をスタート。まず柔道整復師の鑑別に関して〝柔道整復師は医師とは異なり、X-P、MRI、CTなしで施術を始めなければならないが、問診・視診・触診で80%くらいまでは鑑別できる。問診時は「患者は何を伝えるべきかがわかっていない」ということを念頭に置き、怪我をした時の状況や痛みの出方などの情報を、患者からいかに引き出すかを考えながら質問をする。視診では歩容動作や表情など全身を診たうえで、局所の形状や腫脹の状態を本人の健側と比較をする。触診では体の内部構造を思い浮かべながら損傷に対するテストを行う。そして問診・視診・触診から得た情報から仮説を立て、患者の負担が少ない最適な方法を探す〟と、患者が前向きに努力を続けられるように考えることが大切だとした。

整復法については〝骨がどう動くのか?をイメージすることが大切。肩関節脱臼ではkocher法が一般的な整復法であるが、再脱臼を起こすことが多いと言われている。しかしこの整復法が悪いことではなく、やり方に問題があるのではないかと考えている〟として、肩関節脱臼の発生機序と再脱臼させないための整復のポイントなどを動画で解説。〝脱臼の病態には、若年者に多い関節包断裂型、老年者に多い関節唇離断型がある。特に関節唇離断型の場合、腕を上げただけで再脱臼してしまうこともあるので注意が必要となる。尚、kocher法は骨折を併発していると整復できないため、その場合はstimson法で整復をする。患者に一旦「痛い!」と思われると緊張が抜けず整復が困難となるため、愛護的に行う〟と説明した。

固定については〝90%以上に見られるバンカート損傷は反復性脱臼の原因となるが、若年者であれば6~8週、老年者であれば3~4週間程度、下垂外旋位(できれば外転・外旋位)で固定しておくと、92%は整復される。また、我々が学生の頃は内転・内旋位で固定するようにと教わったが、内旋位固定では肩甲下筋の弛緩により血腫がバンカート損傷を押し開く可能性があるため、近年では外旋位固定が推奨されてきている〟等わかりやすく解説したうえで、晒を使った6頭帯とたすき掛け型という2種類の提肘方法について動画を用いて紹介した。

実技編

実技では参加者が5グループに分かれ、それぞれ施術者役・患者役になり、kocher法とstimson法での整復と晒による固定を行った。田邉氏は各グループを回り、〝kocherでの整復時は座位よりも寝かせた方が良い。その際に患部以上に患者の顔を見る。痛ければ顔をしかめるはずで、痛いということはどこかに無理がかかっているということ。患者に話かけながら、骨頭の動きを意識して痛みを与えず整復することが大切〟等、整復のポイントを細かく説明。固定法については、日本古来より用いられてきた固定法を応用した首に負担のかからない提肘法、巻く方向によって楽な肢位が変わる固定法など、匠ならではの工夫を凝らした様々な固定法を紹介。〝晒は一旦洗ったものを使用する。洗うと布の目が立ち、重なった部分をなでつけると目が噛み合って崩れにくくなる。同じ晒でも使い方を少し変えるだけで患者の負担は劇的に軽くなる〟と説明した。患者のことを第一に考える田邉氏ならではのきめ細やかな指導に、体験した参加者も驚きと納得の表情を見せていた。


超音波で観察する肩関節の解剖と肩関節脱臼

講師:学術教育部 佐藤和伸氏
(協力:株式会社エス・エス・ビー)

座学編

佐藤氏は〝超音波観察の特徴として骨、軟骨、筋、腱、靭帯、末梢神経を直接評価できる。さらにリアルタイム(動的観察)での観察を得意とし、関節を動かしながら観察することで組織の損傷状態を的確に把握することができる。分解能(一つ一つを区別する能力)は最新のMRI(5テスラ)にも匹敵すると言われている〟と超音波観察の特徴を説明したうえで、基本的な走査方法として〝長軸像は被験者の頭側(近位側)が面に向かって左側となり、短軸像は末梢から見た像を言う。入射角についてはプローブは超音波を出すとともに受信機でもあるので、斜めに当ててしまうと超音波を受け取ることができないため真っ直ぐに当てる。黒っぽく写ってしまったらプローブの位置を少し変えてみて、きちんと層になって写ればそれが正しい入射角ということ。静止画を見せても患者は理解しにくいと思うが、関節を動かしながら超音波画像を見せてあげると分かりやすい〟と解説した。肩関節の描出については〝病態を観察する際には、問診・触診・触診でどのような状態なのかを把握した上で、確認のために超音波観察装置を用いるということが重要だと考える。超音波には奥に進むにつれて減衰するという性質があるため、肩甲骨の前方に骨頭が出てしまう肩関節脱臼は、超音波観察で観察しにくい部分もある〟としながらも、それぞれの組織に適した観察方法やプローブの種類などを具体的な症例を交えながら丁寧に説明した。

実技編

実技では参加者が5グループに分かれ、肩峰からの短軸走査や肩峰から棘上筋腱、superiorfacet、大結節への長軸走査、小結節から二頭筋腱、大結節への長軸走査などを行った。超音波観察に長けた指導員のもと、参加者はプローブを当てる角度などを確かめつつ、描出時の感覚を身体に染み込ませるようにじっくりと観察を行った。

次回「匠の技 伝承プロジェクト」は11月10日(日)、北海道での開催が予定されている。
東京での次の開催は2020年1月12日(日)の予定だ。

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