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地方初開催!「匠の技伝承プロジェクト」北海道講座が行われる

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2019年11月10日(日)、北海道柔道整復師会会館(札幌市)において、『匠の技伝承プロジェクト』北海道講座が開催され、研鑽に励む道内各地の柔道整復師が一堂に会した。これまで東京で4回開催されてきた同プロジェクトだが、「ぜひ地方でも開催してほしい」との強い要望に応え、今回、北海道にて初の地方開催が実現した。

「匠の技 伝承プロジェクト」
松岡保副会長

開会の辞として、(公社)日本柔道整復師会・松岡保副会長は〝本日は全道より多くの先生方にお集まりいただいたことに感謝を述べ、「近年、AIやロボットが急速に発達しており、現在ある職業の半数近くが無くなるのではないかと懸念されているが、我々の柔道整復術は絶対になくしてはならない。」この「匠の技伝承プロジェクト」は今回で通算5回目を数えるが、今日お集まりいただいた先生方には指導者として各地域で技術を伝承していってほしい。長時間になるがしっかり学んでいただきたい〟と挨拶。

工藤鉄男会長

続いて(公社)日本柔道整復師会・工藤鉄男会長は〝現在、無資格者による施術が横行するがために保険者等からは柔道整復師の施術を受けてはならないという患者に誤認されかねない文書が出されている。過去に柔道整復術は消滅の危機に瀕し、当時の先達が血の滲むような努力をして国に働きかけ見事に復活を遂げたという経緯があるが、まさに現在の柔道整復業界もそのような岐路に立っている。しかし誰かがやらなければならない。近年は、施術所あたりの収入が減少の一途を辿っており、廃業に追い込まれる柔道整復師も少なくない。このままでは日本で生まれた素晴らしいこの柔道整復術が途絶えてしまうのではないかと大変な危機感を持っています。しかし「整復、固定もしっかりできないような柔道整復師が蔓延る業界なら存続させるわけにはいかない」そこで今一度伝統技術である「匠の技」を復活させて、確実な技術を持つ職能団体として新しい社会保障制度の一翼を担ってもらいたい。それがこの荒れた業界をもう一度輝かせるための手段だと考えている。ぜひ皆さんにはこの「匠の技伝承プロジェクト」で学んだ技術を、指導者となり各地域に広めていくのだという強い姿勢で受講していただきたい〟と受講者を鼓舞した。

長尾淳彦学術教育部長

このプロジェクトの趣旨説明として、(公社)日本柔道整復師会・長尾淳彦学術教育部長は〝1920年に柔道整復術が公認されて100年となるが、改めて患者に我々の職業とはどういうものなのかを周知してほしい。「匠の技伝承プロジェクト」の目的として、後世に技術を伝承していくためにも、まず我々が骨折・脱臼の整復・固定の技術をしっかりと自分のものにしていくということが大きな趣旨になっている。毎年5000名近くの柔道整復師がただ増えていくだけで、何をしているのかわからないという業界ではいけない。応急手当てとはいえ、骨折・脱臼を即座に整復・固定できるのは我々柔道整復師しかいない。しかし現在、療養費に占める骨折・脱臼の割合は0.4〜0.5%しかなく、その強みを生かせていないのが現状。この強みを失わないためにも改めて技術を磨き続け、最終的には再び我々柔道整復師のもとに骨折・脱臼の患者を呼び戻したい。また、このプロジェクトでは現場でしか伝えられないことを確実に伝えていきたいと考えている。特に実技は納得がいくまでしっかりと繰り返し行なっていただきたい〟と語った。


鎖骨骨折の整復と固定法

講師:匠の技講師 萩原正和氏

座学編

萩原氏は〝鎖骨はS字状に湾曲した形状で、内径は内側部では三角形、中央部では楕円形、外側部では扁平三角形となっている。中央から外側までの間は薄く脆弱化しているため特に骨折しやすい。鎖骨は肩甲骨と共動をしていて、上方に40度、前方に30度、後方に25度と広範囲に動く〟と基本的説明から座学がスタート。〝鎖骨骨折は骨折の中でも非常に発生頻度が高い。発生機序としては、スポーツや高所転落、交通事故等で肩部を強打するなど外部からの強い衝撃(介達外力)を受け、長軸方向に屈曲力が働くことで起こる。小児はリモデリングが盛んなため、骨癒合が早くなり予後も良好であることが多い、一方で成人・高齢者の場合には受傷時における転移が大きく、完全骨折が多い。整復及び固定位の完全保持が非常に難しいため変形治癒となりやすく、より確実な整復や固定ができないと、偽関節や遷延治癒、肩関節の拘縮を起こしやすくなる。また、鎖骨下には鎖骨下動脈と腕神経叢という大きな血管・神経があり、脆弱化している部分の真下にあるということを常に念頭に置いて施術しなければならない。乱暴に整復をすると過剰仮骨により神経・血管障害も起こしかねない。鎖骨骨折の転位として、近位骨片は胸鎖乳突筋の作用により上方やや後方に転位、遠位骨片は上肢の重量により下垂し、大・小胸筋の緊張によって短縮転位するとされている。筋肉の作用により完全骨折になったり、大きく離開してしまったりすることが多い〟として多数の症例画像を用いて、鎖骨骨折の特徴や整復時に注意すべき点等を解説した。

実技編

実技では鎖骨骨折の整復・固定だけでなく、その前段階として、固定材料作成の実技も行われた。

萩原氏は〝固定には綿棒、厚紙副子(小型・大型)、腋窩枕子、4裂晒包帯などを用いる。綿棒は綿花を手で裂き回りの耳も千切るように裂き柔らかく作り患部に合わせた太さになるように丸め、手でこすりあわせるようにして固める。この時、綿棒の端はボサボサとした状態となるが、ハサミなどで処理をせずそのままにする。小型副子は強度を増すために両側を弓状に切って、折り目が入らないように注意しながら、患部に合わせて滑らかに丸める。大型副子は首と脇に当たる部分を患者に合わせて丸く切り取っておく。腋窩枕子は綿花とガーゼを三角形に纏めたものを用いる。4裂包帯は耳を取った晒を縦に4つに裂いて作成する〟等、固定材料の作成方法を実演しながら解説。受講者全員がしっかり講義に付いていけるよう、参加者のもとには熟練した指導者が付き、それぞれ固定材料の作成に取り組んだ。

その後、参加者は1グループ約10名ずつに分かれ、互いが施術者役・助手役・患者役・となり鎖骨骨折の整復・固定の実技を行なった。萩原氏は〝整復は助手2名とともに坐位にて行う。まず患者は座った状態で肘関節屈曲位とし、上肢台に腕を置く。助手1名は背部より脊柱部にタオルを置き膝頭を当て、両肩部を外より把握し、外後方へゆっくり引き、胸郭を大きく広げ、鎖骨の短縮転位を取り除く。他1名は患肢の上腕下端肘部を片手で、他手で前腕部を把握して上腕骨軸を上方へ持ち上げ、遠位骨片を近位に近づける。術者は両手を用いて遠位・近位骨折端をつかみ、遠位骨片をやや上方に押し上げるように圧迫、近位骨片はやや固定しながら下方へ圧迫して整復する。整復は腕を動かしたときの鎖骨の動き方を意識しながら行うことが重要となる。固定時は再転位防止のため、綿棒と副子で圧迫し、巻軸晒包帯にて副子ごと均等の圧力で圧迫し固定することが重要。副子で肌を傷めてしまうおそれがあるので、必ず下巻きをしてから行う。大副子は肩のあたりまで覆わなければ固定力が弱くなってしまうので注意すること。上肢の動揺防止のためには患側上肢を側胸壁にしっかり固定するために晒包帯で固定から堤肘までを一連の晒包帯で行う。巻き終わった後は上からホワイトテープで固定し、包帯同士のズレを防ぐ〟等、動画も交え整復・固定の手順を説明したうえで、豊富な経験に基づき、細部にわたりポイントとなる部分についてさらに詳しく解説した。


肩関節周囲の解剖と鎖骨、肋骨骨折の超音波観察装置による観察

講師:学術教育部 佐藤和伸氏
(協力:株式会社エス・エス・ビー)

座学編

佐藤氏は〝超音波観察では、我々が普段から行っている問診・視診・触診が最も重要となる。身体の中の構造がわかっていないと、どこに超音波を当てるべきか判断できない。問診・視診・触診で情報を得たうえで正しい箇所に超音波を当てて初めて観察ができる〟と前置きしたうえで〝超音波は組織の中の状態を直接評価できるため、より詳細な病態を把握することができる。ルールとして、長軸像は向かって左側が中枢、右側が末梢となる。短軸像では左側が外側、右側が内側となる。描出する際には入射角が重要で、プローブは送信機でもあり受信機でもあるので、見たい場所に対し垂直にあたるよう走査する。超音波はグレースケールなので、白ければ白いほど硬いもの、黒ければ黒いほど柔らかいものと考えて良い。内出血や仮骨も観察することができる〟と超音波観察の特性などを解説。

さらに〝肩関節に超音波を当てると上腕骨頭、肩峰、棘上筋腱が見えてくる。肩峰下滑液包は滑液が溜まっているとよく見える。インピンジメント障害が起きているとPeribursalfatが肥厚していることがよくある。肩鎖関節の脱臼なのか鎖骨の外端部骨折なのかという鑑別がしにくい場合には、棘上筋から肩峰、鎖骨というように腱板のほうから追っていくと分かりやすい。靭帯は層状に描出される。肋骨の観察は超音波の得意とするところだが、肋骨骨折の場合は、まず短軸で中枢から末梢に向かって観察し、骨折部と思われる箇所があったらそこで長軸に切り替える〟等、多数の超音波画像を用いて具体的に解説した。

実技編

実技では1グループ約10名となり、肩関節から棘上筋腱、肩峰、鎖骨の順に描出を行った。佐藤氏は各グループを回りながら、〝痩せている人の場合は、プローブが密着しないことがあるのでゼリーを多めに使用する。またプローブを持つときには数本の指で皮膚に固定するようにし、不安定にならないようにすると良い〟等、的確なアドバイスを行った。

次回「匠の技 伝承プロジェクト」は来年1月12日(日)に開催が予定されている。

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