「匠の技伝承プロジェクト」第5回講座開催される
2020年1月12日(日)、東京都柔道整復師会館(千代田区)において、公益社団法人日本柔道整復師会主催「匠の技伝承プロジェクト」第5回講座が開催された。「下腿骨外果骨折」をテーマとした今回も、定員50名の枠は全国各地から参集した受講者で満席となった。
開会挨拶として、(公社)日本柔道整復師会・松岡保副会長は〝柔道整復術公認100周年記念事業としてスタートしたこの「匠の技伝承プロジェクト」は、東京での開催は今回で5回目を数え、地方では昨年11月に北海道で、また今年3月には福岡でも開催される。毎回、学術教育部を中心に、どうしたら受講者の皆さんにわかりやすいかを思考錯誤しながら準備を行っているが、匠の技の受講者から「講座で学んだ技術を活かして、上手く脱臼を整復することができた」等のお便りをいただくこともあり、改めてこのプロジェクトの重要性を感じている。次の段階として、全国満遍なく「匠の技」の技術を広めるために、2020年度は各県で代表となる施術者を選出して指導者として受講していただきたいと考えている。また、養成校のカリキュラムも改訂され、プロフェッショナルとしてより高度な技術を求められるようになってきた。なかでも超音波観察は柔道整復師にとって必ず武器になるだろう。ぜひ力を入れて勉強し、各地域で技術を伝えていっていただきたい〟と力を込めて今後の展望を語った。
続いて(公社)日本柔道整復師会・長尾淳彦学術教育部長より〝我々柔道整復師の強みは、骨折・脱臼の整復・固定が認められているというところにある。しかしながら現在、柔道整復療養費の統計を見ると、骨折・脱臼の割合は請求全体の0.4~0.5%しかない。そこで本プロジェクトで「骨が接げる柔道整復師の復活と育成」を行うことで、10年後には骨折・脱臼の割合を全体の20%程度まで増やしたいと考えている。そのためにもまず、匠の技講師の整復・固定技術をしっかりと学んで後世に伝えていくこと、そして学んだ技術を施術として患者に還元することが重要となる。また、医師が「安心して後療を任せられる」と思える技術を身に付けることにより、医接連携もスムーズになる。基礎は教科書や動画でも学べるが、このプロジェクトでは「この場でしか体得できない技術」を学んでいただく。特に触診ができるということが治せるということにつながる。「匠」の触れるポイントを確実に確認し、納得いくまで実技を行って習得していただきたい。いま一度、骨折・脱臼の患者の多くを柔道整復師のもとに呼び戻すため、ご理解とご協力をお願いしたい〟とプロジェクトの趣旨が説明され、講義が開始された。
下腿骨外果骨折の整復・固定
匠の技講師 山口登一郎氏
(材料協賛:ダイヤ工業株式会社)
座学編
山口氏は〝柔道整復師にとって最も重要なのは、怪我を診て触れて、どういったものなのかを判断することだ!とし、外果骨折の鑑別方法から解説を開始。〝外果骨折の場合、外果の周囲に腫れが出現する。足関節捻挫の場合も腫れるが、その場合は前距腓靭帯、踵腓靭帯、後距腓靭帯に圧痛がある。骨の後ろの部分に圧痛がある場合には外果骨折を疑う。患者を座らせた状態で下腿部を把持・固定し、足部を外旋させた場合に痛みが生じれば陽性である(Kleiger test)〟と説明し、外果骨折のひとり整復法やキャストライトを用いた固定法について動画を用いて詳細に解説した。
さらに〝患者の不利益とならないためにも、超音波画像観察装置による観察も同時に行うことで治癒経過が明確に説明できるので活用をお勧めします〟と説明した。外果骨折の有無は勿論、それに伴う内側支持機構の確認も肝要だと力説した。内側機構に異常がある場合には脱臼等の可能性があるので注意する。また、超音波はレントゲン以上に仮骨の出現の状態もよく観察できる〟として、超音波観察装置での観察法を自ら実演しながら丁寧に解説した。
その他にも、山口氏は〝整復時に患者が低血糖になり貧血を起こした場合に備えて、飴などを常備しておくと良い。受診時に服用している薬の影響で通常よりも腫れが大きく出ることもあるため、服薬の状況も把握し施術録に記載しておくこと〟等を述べており、整復・固定の技術だけではなく患者に対しての細やかな配慮も柔道整復師にとって非常に大切であることを再認識させられる講義であった。
実技編
実技では1グループ10名程度に分かれ、クラーメル副子を使った固定具の作成から外果骨折の整復・固定まで行われた。
まずクラーメル副子の作成について、山口氏は注意点として健側の脚で〝クラーメルを患部の長さに合わせて切断する。その際の長さは絶対に膝窩にかからないように気を付ける。切断したクラーメルにただ新聞紙を無造作に巻くのではなく、新聞紙2枚を斜めにずらして巻く。その上からクラーメルの両端を覆うように縦方向に包帯を巻いた後、横方向に折り返して少しテンションをかけながら螺旋状に全体を均等のテンションを保ちながら巻いていく。上下の角になる部分は二重に巻くこと。作成したクラーメルを患者に合わせて採型し、鋭角な部分があれば皮膚に当たった際に痛みが生じてしまうので、出来るだけ脚の型に合わせるように滑らかにする。足底アーチの部分は曲げても良いが、綿花を足底に合わせて当てた方がより機能的であり予後も良い。足関節は自然角程度で固定する。最近はキャストライトを直接巻いてしまう先生もいると思うが、腫脹が消退した際にキャストライトと患肢の間に隙間ができてしまい、再転位を招く一つの要因となってしまうのでクラーメル副子を利用したほうが良い〟と、患者の目線に立った助言を随所に盛り込んで解説。受講者は協力し合って手際よく副子の作成を行った。
その後山口氏は、外果骨折の整復・固定法として〝腹臥位にした患者の膝関節を90度屈曲させ、大腿部下端にタオルを乗せる。タオル両端を術者が足で患肢が動揺しないように固定をし、手掌部を患部に当て、ゆっくりと末梢方向に牽引する。持続牽引しながら少し内反させ、手掌で直圧を加える。このように整復すると、母指で圧迫する方法よりも患者の痛みに対する負担が少なくて済む。固定時は、患部の状態把握のために包帯が外果にかからないように気をつけながら、患部にクラーメル副子を当て、下腿の上端部と下端部を固定する。ここでカナルシートの凹凸面が患部に当たるように外果に装着する。カナルシートには凹凸があるため、血流の循環が確保でき、腫脹の消退効果を促進できる。その後、三裂包帯で適度に圧迫しながら固定する。固定後は循環確保の確認を必ず行うこと〟等、一つひとつの動作に対し丁寧に補足説明を加えながら解説した。
超音波でみる足部周囲の損傷
講師:学術教育部 佐藤和伸氏
(協力:株式会社エス・エス・ビー)
座学編
佐藤氏はまず〝超音波ではアキレス腱断裂、下端部骨折、足底筋膜炎、第5中足骨骨折、内果骨折、骨軟骨障害、足関節捻挫など幅広く観察することができ、初検時の患部の状態把握とその後の経過観察に有用である。超音波画像は左が中枢、右が末梢となるように撮影する。超音波は硬ければ硬いほど白く描出され、反対に柔らかいものは黒く描出される〟と超音波の仕組みや超音波観察を行う際のルールについて解説。
さらに〝超音波観察装置は軟部組織の観察を得意とする。そのため、不全骨折のように転位の小さい骨折も、軟部組織の状態を含めて総合的に観察することで骨折の有無を判断することができる。骨折部の周りに音響陰影があれば仮骨が形成されていることもわかるため、経過観察にも大いに役立つ。また、患部を動かしながら観察できるのも超音波の強みである。例えば裂離骨折などで転位が大きい場合、超音波で観察しながら整復することで転位も小さくすることができる。アキレス腱断裂の場合も、超音波で断端部を確認したうえで足関節の固定角度を決定でき、歩かせながら観察することで歩行時の状態変化も把握できる〟等説明し、症例を多数紹介。画像や動画を交えて、観察のコツや注意すべきポイントなどを解説した。
実技編
実技では参加者が5グループに分かれ、互いを患者役・施術者役として足関節の観察を行った。前距腓部の観察では、佐藤氏は各グループを回って〝前距腓部にプローブを当てると、前距腓靭帯とその左側には腓骨、右側には距骨が出てくる。踵を第2~5指で把握し、第1指でストレスを加えて動的観察を行う〟。巡回説明の中で佐藤氏は〝患者が痩せ型の場合はプローブとの距離が近く見づらいため、エコーゼリーを厚めに塗ると皮膚から骨までの距離が稼げて観察しやすくなる。また、運動器観察の場合、ゼリーはハードタイプを使うと良い〟等、取扱い不慣れな参加者にも理解が出来るわかりやすい的確なアドバイスを行った。
受講者は皆、他の受講者が観察を行っている間もその様子を真剣な眼差しで見つめ、各グループに配置された指導者には積極的に質問するなど、限られた時間の中で「匠の技」を習得せんと励む姿が印象的であった。
次回「匠の技 伝承プロジェクト」は3月1日(日)に福岡にて、また翌週8日(日)には東京にて開催が予定されている。
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