(公社)千葉県柔道整復師会主催「県民公開講演会」が開催
2024年11月8日(日)、千葉市生涯学習センターにおいて、公益社団法人千葉県柔道整復師会主催「県民公開講演会」が開催された。
主催者挨拶として登壇した(公社)千葉県柔道整復師会・木村光雄会長は〝高齢化社会を迎え高齢人口が増えてくる中、それに比例して柔道整復師へのニードも増加している。当会には400名を超える柔道整復師が所属しており、適切な指導のもと、的確に真面目に治療にあたっている。この地域のためにこのような公開講演会や少年柔道大会を開催し、住民の皆様に少しでも還元できればと考えながら活動している。このような想いをご理解いただき、怪我をして医療機関にかかる際にはぜひ当会所属の接骨院・整骨院にかかっていただきたい〟と語った。
認知症の各段階ごとの治療と対応
かない内科 金井哲也氏
金井氏は〝このような講演の機会をいただけて本当に嬉しい。会場には当院の患者さんもたくさん来ていただいており、授業参観のような気持ちで今日は発表したい〟と和やかに講演がスタート。
〝当院は【誰もが輝く社会を作る】をテーマとして、様々な取り組みを行っている。現在、2カ月に1度、外来のブースを利用して髪を切ったりコーヒーを提供したりしている。認知症や神経内科の疾患は外来に掛かるのも大変で、そのケアをしている家族の方はなかなか時間が取れないことが多い。外来受診の際に髪を切ったりコーヒーを飲んだり、少し息抜きをしてもらえたらという思いでスタートした。このような取り組みをしているうちにだんだんメンバーも増えてきており、小さいながらも少しずつ輪が広がっている。
そもそも認知症とは何か。認知症の診断基準としてメジャーな【DSM-5】では、1つ以上の認知領域の機能低下が日常生活に支障を与えていて、せん妄のときに現れる一時的な意識障害ではないもの、また他の精神疾患が否定的であるものを認知症と診断している。認知症の認知機能障害は、①注意障害、②実行機能障害、③学習・記憶障害、④言語障害、⑤知覚・運動障害、⑥社会的認知と、大きく6つに分かれている。認知障害を呈する主な疾患としては、アルツハイマー型認知症、脳梗塞や脳出血に伴って起きる血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症等がある。慢性硬膜下血腫や正常圧水頭症などの可逆性の疾患による認知障害は早期に治療すれば治るため、早期診断が重要になる。CTやMRI、採血などの検査を行い、そういった治せる病気がないかを確認することが肝要。早期発見・早期対応の意義として、アルツハイマー型認知症であれば、より早期から薬物療法による進行抑制が可能と言われている。本人が変化に戸惑う期間を短くでき、その後の暮らしに備えるため自分で判断したり家族と相談したりできる点も非常に重要。家族などが適切な介護方法や支援サービスに関する情報を早期から入手できるようになり、病気の進行に合わせたケアやサービスの利用により、認知症の進行抑制や介護負担の軽減もできるようになる。
認知症は約30%が予防できると言われている。運動と身体活動の増強は有効で、1日5000歩程度歩くと良い。運動することで脳の血流が増え、ホルモンが増えシナプス機能が増えて、脳容量が増えて認知機能が向上してくる。社会心理学的にも1日1000歩以上歩くとうつ症状が改善すると言われている。中年期の難聴、高血圧、肥満は認知症発症のリスク因子となるため、治療しておくことで認知症予防にもつながる。高年期には禁煙、うつの予防、運動不足や社会的孤立の解消が重要となる。肥満に関しては高年期になってから治療しても認知症予防にはならず、むしろ発症リスクが上がると言われており、65歳以上になってからは体重の維持を意識してもらう必要がある。食生活でも認知症発症リスクの低下と認知機能の低下抑制を促すことができる。フルーツ、野菜、魚の消費量が多ければ多いほど低下が抑制されているというデータが出ている。アルコールについてはワインが有効で、中等量で飲みすぎない量の摂取が推奨されている。
様々な人と会話したり、いろんなコミュニティに参加したりして社会的交流を持つことも非常に重要である。特に年齢を重ねてからは活動的なライフスタイルが重要とされている。社会的つながりが乏しい人は、十分な人に比べて8倍も認知症の発症リスクが高いというデータもある。認知症だけではなく、同居以外の他者との交流が毎日頻繁な人と比べて、月1回未満の人は1.3倍も早期死亡リスクがあると言われている。認知症の予防においては少なからず1日1回は外出することが非常に重要になる。
日常生活に支障がない物忘れに関してはMCI(軽度認知障害)と言われている。診断基準として、記憶障害の訴えが本人あるいは家族からあるものの日常生活動作や全般的認知機能は正常で、年齢や教育レベルの影響のみでは説明できない認知障害が存在しているが認知症ではないものを軽度認知障害と診断する。軽度認知障害は今までほとんど治療という治療がなかったが、特に最近アルツハイマー型認知症などの場合においては治療ができるようになってきている。アルツハイマー型認知症の場合、発症前からアミロイドの蓄積が確認されるが、その確認に有用なアミロイドPETという検査は行える施設が限られており費用も高額となる。アミロイドPETを受けられない場合は脳脊髄液検査を補助的診断とすることによって、レカネマブという点滴治療につなげることができる。レカネマブはアミロイドを除去する治療薬で、認知症発症前や軽度認知障害と言われる状況において適用になるが、あまり遅い段階で治療しても効果がないため発症してしまうと投薬できない。発症早期から軽度の段階で治療することで症状の進行を遅らせることができる可能性があるため、アミロイドPETや脳脊髄液検査が必要となる。レカネマブを用いた治療では、投与開始後3カ月以内にアミロイド関連画像異常(ARIA)と言われる合併症の発現リスクが高いため、この期間は特に注意深く患者の状態を観察する必要がある。レカネマブによる進行予防効果としてはおおよそ6~8カ月程度と言われており、よくご家族と相談したうえで治療につなげていく。「最近、私は物忘れがある」といった主観的認知障害が非常に重要である。認知機能は正常だが主観的に物忘れがあるといった人は、大体年間6.7パーセントが軽度認知症であると言われているため、そのような場合は髄液検査をするのか、PET検査をしてMCIとして治療するのかをぜひ主治医と相談していただきたい。
ある程度年齢を重ねると認知症の有病率は非常に高くなる。軽症から中等症においては、治療薬として現在ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン、メマンチンの4種類があり、症状や状況によって細かく使い分ける。
投薬することでイライラしてしまったり、活動性が増えることによってそわそわしてしまったりする場合も多いため、落ち着きがなくなった場合には薬剤が原因であるケースもあると覚えておいてほしい。治療アルゴリズムとしては非薬物的介入を最優先とする。出現時間や誘因、環境要因などの特徴を探り、家族や介護スタッフとともにその改善を図ることが非常に重要である。身体的な原因がないか、服用中の薬物と関係がないか、ケアの問題点がないかを確認していく。
認知症の周辺症状は行動障害や心理症状と言われ、様々な身体症状、孤立・不安、不適切なケアによって出る。周辺症状には必ず何かしらの意味があり、その人からのメッセージとして聞くことが重要とされている。具体的な症状としては、ものとられ妄想や嫉妬妄想、徘徊や攻撃的言動などがある。周辺症状のケアのポイントとしては、なるべく簡素で肯定的な表現を用いること、共感して話を聞いてあげること、目を見て言葉を遮らないこと。非言語性コミュニケーションも大切だと言われており、「ありがとう」という言葉一つとっても様々な言い方がある。抑揚のある言い方で、本当に心から感謝を表現することが重要。できないこと、できることを把握することによって、その人の立場に立った行動をするのも大切なポイントとなる。
環境も調節してケアも変えてみても落ち着かない場合や暴力など他者に危害を加える可能性が高い場合、家族が疲弊している場合には抗精神病薬を開始することがある。治療目標として、家族関係のバランスが取れた状態でなければならない。本人としては薬は使いたくないが、介護者やご家族は使用を希望している時に、なるべく本人らしく生活できるレベルで、かつケアする方がこれぐらいだったら我慢できるという状態を目標とすることが重要である。ただし抗精神病薬の使用によって副作用が出やすいため、できる限り使用せずに対応していく。非薬物療法として有効なのが運動療法で、週に2回、1時間程度歩くことによって認知症の進行予防効果がある。足が鍛えられるため、ADLや日常生活動作の改善が期待できる。
それでも混乱・精神症状がある場合もある。認知症の一時期に実現することがあるが、ある程度時間が経つと落ち着いてくることも多い。本人や家族の疲労が大きい場合には入院や施設入所も検討する。ただし入院治療は、激しい興奮や徘徊による体力消耗があり、攻撃性、拒絶、夜間せん妄がひどく幻覚・性的異常行動がある場合に行うものであり、介護が大変だからという理由では入院適用にはならない。入院治療の問題として、多剤併用で複合的な医原性の障害が高率に生じたり、日常生活動作もある程度低下してしまうことで入院後に機能維持・改善ができないと言われている。そのため入院治療はある程度の覚悟をして対応していくことが必要。入院と認知症の重症度はあまり関係がなく、ある程度サポートがあれば在宅療養も可能で、周辺症状をどのようにコントロールできるのかが重要となる。
在宅療養するためには【認知症患者のみのケア】ではなく、介護者である【認知症家族へのケア】も必要となる。24時間の介護で息をつく暇もない、妄想などの対象になってしまう、今後この症状がどれぐらい続くのかという不安など、家族との関係性が壊れてしまうと在宅療養はできない。虐待などの危険性や介護者のうつ発症などの可能性もあるため、早めに対応していくことが非常に重要である。認知症家族に対しては予後を知らせ、利用できるサービスなどの情報を提供し、具体的な症状への対応方法を示すことが求められる。家族会への参加も非常に重要で「自分1人だけではない」と思えることが大切である。「全くうまくいっていない」と思える時でも、大変な状態なのに24時間一緒にいてあげている自分を褒めて、少しでも自信を持って対応していただきたい。
介護の基本原則として、すべてが一様にできなくなっているわけではないということは覚えておいてほしい。できるところはやってもらう。例えば、洗濯がまだできる状況であれば、洗濯して畳んでもらうだけでも認知症の維持にもなり、その人の尊厳という側面からも「ありがとう」と言われる支援ではなく、「ありがとう」と言える支援をすることが非常に重要。また、【認知症の人の行動は援助者の鏡】と言われ、援助者がイライラしていると認知症の人にもそれが伝わりイライラしてしまう。イライラした時こそ笑うと意外にうまくいくケースが多い。表情や声の抑揚、行動、歩き方、身体反応などに現れる意思を把握し、環境すべてがコミュニケーションであると考えるとより良い。本人は強い不安の中にいることを理解し、より身近な者に対して認知症の症状が強く出ることが多いという認識で接してほしい。なるべく傾聴して本人の世界を理解する、相手の気持ちを否定せず共感してあげる、認知症のあるがままを認める、うそをついたりごまかしたりせず信頼関係を築くことが非常に重要である。
高度アルツハイマー型認知症になると言葉を話すことが難しくなったり、食事を摂れない状況が増える。食事が摂れない原因は身体症状や認知機能の障害に関連していることも多いため、摂食不良をそのまま食欲不振と捉えない。注意障害により周囲の騒音や会話に気を取られているだけで、静かな環境では少しずつ食べられることもある。また、箸の使い方が難しい、入れ歯が合わないなどの理由で食事ができないことがよくある。
食事の問題とともに排泄や移動の問題が増える。特に排泄に関しては、最も大変なのはトイレでできるかできないかの中間段階だ。この時期にリハビリパンツを嫌がったり失禁による後処理の手間が発生したりすることが多いが、時間を決めてトイレに誘導することである程度解決できるケースもある。
認知症との共生は、認知症当事者と医療者だけではできない。個人の問題ではなく社会の問題として捉え、様々な職種や地域の住民の人を交えて何ができるのかを考えていく必要がある。認知症があっても希望を持てる環境は、すべての年代にとって重要だ。私自身は、複合施設として保育園や診療所、認知症デイケア、居住スペース、お酒を楽しめる場所、温泉施設などを備えた、世代を超えた交流ができる場所を作りたい。このような利用者が楽しみや幸せを感じられる環境は、生きていく上で大切な要素だと考えている。私一人では実現が難しいが、認知症になっても安心な社会を作るためみんなと協力していきたい。
最後に、(公社)千葉県柔道整復師会・細谷吉隆副会長は〝本当に素晴らしい講演だった。本日お越しの皆様には、金井先生の講演内容を活かして会話が弾んでくれれば嬉しい。また来年度にも当会主催の県民公開講座を開催する予定となっている。ぜひ来年も皆様とお会いしたい〟と締めくくった。
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