(公社)千葉県柔道整復師会『第1回柔整災害研修』開催
2024年12月8日(日)、千葉県柔道整復師会館大会議室において『第1回柔整災害研修』が開催された。本研修は、地震や台風、洪水など様々な災害が発生している状況を鑑み、(公社)千葉県柔道整復師会が全11支部と有志を招集して開催する初の本格的な災害合同研修であった。
本研修会は、公益社団法人千葉県柔道整復師会・山岡昭副会長の開会の辞により開始された。
木村光雄会長は〝本日は第1回柔整災害研修ということで、公益社団法人日本柔道整復師会災害対策室より塩見猛先生をお迎えし、「これからの災害対応と柔道整復師の役割」と題しご講演いただく〟と挨拶。
池畑啓作副会長は〝千葉県柔道整復師会は、県および県内20市と災害時における柔道整復師による医療救護活動協定を結んでいる。その中で、市川市では先日、行政主導のもと医師会・歯科医師会・薬剤師会の「三師会」に柔道整復師会を加えた「四師会」が初会合を開いた。その際、災害時における医療救護訓練について講習会が行われ、我々柔道整復師の持てる技術についてご説明させていただいた。今後、そういった試みが全県に広がれば、我々の活動や技術がより認知されるのではないか。公の場で披露できるくらいに自分の技術に自信を持てるようになるためにも、これからも皆様には「もっともっと勉強を重ねていかなければならない」という意識を持って取り組んでいただきたい〟と述べた。
大規模災害時に千葉県が置かれる状況
千葉県柔道整復師会事業学術部員 伊藤康裕氏
<概要>
千葉県地域防災計画によると、東京湾岸を震源とする首都直下地震では、千葉県土の約40%で震度6弱以上を記録し、死者は約1,400人、負傷者は約42,000人と推定されている。多くの家屋の消失や東海が予測され、更に道路閉塞や液状化が発生すると地域の基幹病院へのアクセスが制限され、人的・物的な医療リソースの供給が制限されることが予想される。
千葉県東方沖地震が発生すれば、太平洋に面する外房地域を中心に震度6弱以上の地域が広がり、これに津波の被害が重なることを想定しなければならない。千葉県は上は利根川、江戸川によって区画され、下は東京湾と太平洋に囲まれていることから、大規模災害で川の橋が落ちれば川を越えて救援は来られず、津波や地殻変動で港や海岸線が破壊されれば海側からの救援も期待できない。加えて、東京と同時に被災した場合は首都が優先されるため、多くの外部支援が東京に吸い上げられ、千葉県の支援は限りなく少ないか、すぐに支援は来ないかもしれない。また房総半島はその地形からトンネル崩壊、土砂崩れ、津波などで道路閉塞されると房総半島南部への救援は難しく、孤立する町が発生してもおかしくない。
以上から、千葉県では「千葉県は自分たちで自らを守る」とし、発災から概ね3日間は県内の医療リソースで対応することが基本原則となる。
では、私たち柔道整復師には何ができるか。
例えば、県と各自治体との間では災害協定を結んでの活動がある。例えば松戸市では、「松戸市災害時応急救護活動についての協定」が震度6弱で発動され、松戸市内に設置された学校救護所での任意による救護活動を行う。これは、本来重症者が治療すべき病院に軽症者が殺到することを防止し、効果的に医療活動を実施することが目的であり、災害時の混乱を避けるためにも協定は重要だ。
近隣に医療施設がない状況で、自分が避難した避難所が孤立してしまったり、被害が甚大で医療崩壊が起きてしまったりという環境で自分しか医療従事者がいなかったらどうするか。
東日本大震災では、石巻赤十字看護学校の教師と生徒たちが津波で孤立した避難先の小学校で、ドクターがいない中、学校の救急箱1つとカーテンや模造紙、教材などを使い、骨折や低体温症などの応急処置、病気や高齢で歩行困難な人たちへの対応を、医師や薬剤師の巡回が始まるまでの4日間行っていた。石巻市立病院も津波で水没し、寝たきりの患者さんたちを上の階に移動させたり、電源が消失して呼吸器が止まった入院患者さんに一晩中アンビューバッグで空気を送り続けたりと、危機的な状況の中、大勢の患者さんのために奮闘した。また、石巻と女川の間にある小学校の避難所は津波や情報の混乱で孤立し、医師と薬剤師の巡回が来るまでの1週間、看護師4名と保健教諭という少数で孤軍奮闘した。医療チームが到着した時には、看護師たちは疲弊しきっていたという。
災害が起きれば、専門外のことや荷物運びや掃除など医療以外のことをやることになるかもしれないが、それも私たちの仕事だ。普段訓練していないものが本番で上手くいくことはない。定期的に災害時訓練をしてほしい。
災害医療とは、高度先端医療でも特別な医療でもなく、日頃の医療の延長にある。日々の医療をきちんとやることが大切で、想定外への備えもその延長線上にしかない。事前の備えとして必要なのは、リアルなマニュアルと訓練だ。しかし、実際の場ではマニュアルに捉われすぎないこと。日頃の計画と訓練と、それを前提とした応用力が重要になる。
災害は総力戦だ。柔道整復師が活動することで、重傷者が治療を受けるべき病院に軽症者が殺到することを防止し、重症者を救うことができるかもしれないし、医師がいない状況でも誰かを救うことができるかもしれない。災害時の混乱を避け正しくスピーディーに動くためにも、できるだけ自治体との協定を結んでいただきたい。
これからの災害対応と柔道整復師の役割
公益社団法人日本柔道整復師会災害対策室副室長/北海道柔道整復師会会員 塩見猛氏
講義
<概要>
2024年1月に発生した能登半島地震での救護活動にも参加したが、本部に入れる人数に制限があり当初は柔道整復師は1人だったが、1人では到底対応しきれないため増員してもらい2人で対応した。千葉県は地理的な条件が石川県と似ているが、房総半島の人口は能登半島に住む人の数倍であり、被災したらさらに大変な状況になりかねない。
今後30~50年以内に、マグニチュード7~8クラスの地震が発生する確率は年々上がっている。ここで問題となるのが、警察・消防・自衛隊・医療関係者など支援チームの圧倒的な少なさ。首都直下型あるいは南海トラフ地震では千葉県にはほとんど支援が来ない可能性がある。医師・看護師・柔道整復師など職業に関係なく、全員で対応する必要がある。また、建物の耐震化や避難訓練、災害対応マニュアルは年々強化されつつあるが、それでも足りないとされている。
千葉県の津波浸水想定では、最大クラスの津波が千葉県沿岸に到達した場合、南房総市で25.2メートル、銚子市で18.7メートル、御宿町で18.1メートルの津波が来ると試算されている。大津波警報で10メートルの津波が来た場合、沿岸から2キロ以上の内陸まで浸水するおそれがある。さらに津波は必ずしも海から来るわけではなく、川など上流から来る可能性もあるため、低い土地に住んでいる人は注意が必要だ。津波の避難の基本として、直ちに海岸や河川から離れ、安全な場所に避難すれば命が助かるということを患者さんにも伝えていただきたい。若い人は「逃げて」と言えばすぐに逃げるが、高齢者の中には「足が痛いから逃げられない。死んでもいい」という人もいるかもしれない。そんな時は「自分1人の問題ではないですよ」「家族や友人が悲しみます」「みんなの笑顔のために生きてください」と説得していただきたい。
千葉県が被災県となったとき、医療人として何から行うか?最初にやっていただきたいのが災害医療の基本となるCSCATTTだ。
- Command & control(指揮)
発災直後はトップダウンの一方向の情報伝達だが、活動中は双方向の情報共有が必要となる。 - Safety(安全)
まずは自分の身を守ること。単に熱意があるというだけで現場に入って活動しないこと。きちんとした知識と装備がなければミイラ取りがミイラになる。 - Communication(情報)
災害対応に失敗する最大の原因は情報伝達の不備である。被災地は情報発信が困難であり、発災直後ほど情報は少ない。その中で活動しなければならないことを念頭に置く。 - Assessment(評価)
様々な情報をもとに現在の状況を把握し、需要と供給の抽出、対応策・計画の立案などを行う。 - Triage(トリアージ)
避難所で行う治療トリアージ。要配慮者(高齢者、障碍者、こども、妊婦、外国人等)や、骨折・脱臼・複数外傷など緊急性のある者は優先する。柔道整復師の場合、3人1チームとなって、1人が受付やカルテ記入、もう2人が治療にあたるとスムーズに動ける。 - Treatment(治療)
自分の接骨院ではないため一般的な施術の実施が原則。医学的根拠のない内容や不安要素をあおるような内容は一切禁止。 - Transport(搬送)
多職種との連携・搬送先の確保を行う。派遣先等で柔道整復以外のニーズがあった場合は、対応できる医療職種へ代理相談、もしくは治療エリアに案内する。
災害対応する際は、これらを基本とし、被災者のために適切な対応、安全な活動を心がけていただきたい。
発災直後、被災した都道府県県庁には【医療福祉調整本部】が立ち上げられる。本部の活動内容は、二次被害防止対策や被災者の救命救助、原子力発電所や上下水道の確認、高速道路・一般道の確認、避難所の設置・情報更新・支援、被災病院の支援、患者の広域搬送、自治体・警察・消防・自衛隊・海上保安庁の調整、支援チームの準備・確保、一元化されたデータベースの作成など多岐にわたる。発災直後は特に忙しい。この時に、連絡せずに送られてくる支援物資や勝手に来る個人ボランティアが多いと、本部の仕事が進まなくなる。物事には優先順位がある。支援のルールは被災地要請型で、被災地に負担をかけないのがマナー。また、支援には短期計画と長期計画がある。はじめのうちは支援物資を持ってきたり炊き出しを行ったりしてくれる人がたくさんいたが、3ヶ月を超えると急激に支援が少なくなる。長期計画で支援してくれたほうが被災者は助かったのではないかという考え方もある。いつ・どこで・何が必要かといった調査なしでは良い支援にならないかもしれない上に、災害復旧作業の妨げにすらなってしまう。「何かしてあげたい」という熱意は有り難いが、だからこそ冷静に状況を広い目で見渡して、適切な時に活動していただきたい。
実技
塩見氏は災害に関する講義の後、災害時有効となる施術録記載シミュレーションと簡易固定方法に関して実技の講義を行った。
施術録の記載に関しては、塩見氏は〝患者が拒否した項目を除いてできるだけ記入すること。負傷名は推定病名でも良い。負傷原因は第三者が見たときに受傷状態が想像できる文章で記載する。また、文字は他人が見て読めるようにする。患者氏名の漢字表記が不明な場合は平仮名やカタカナでも良い。また災害時のカルテ記載に特徴的な点として、症状等の記載欄には記入日と記入者の氏名を記載する。追記の可能性も考慮し、できるだけ詰めて書く。特に記入者の氏名は、訓練では書けても現場に行くと知らない環境に緊張して書き忘れることもあると思うが、ここは絶対に書いてほしい〟とポイントを解説。参加者全員で患者役・施術者役に分かれて記載のシミュレーションを行った。
その後、塩見氏は〝被災から最初の3週間程度は医療支援が不足する可能性がある。皆さん接骨院にある包帯やテーピング等での処置はできるだろうが、物資がなくなることも予想される。そんな時に身の回りにあるもので固定を行っていきたい〟として、手首と膝の固定を想定して簡易固定の方法を指導した。
手首の固定
朝刊1日分を折り、ガムテープで巻き固める。縦横両方から巻くと良い。固めたら患肢の背側に沿うようにカーブを付ける。次に掌側の固定具を作成する。新聞紙を先ほどと同じ大きさに折った後、さらに短い1辺を数cm程度2回ほど折って手掌部に当たる握りの部分を作る。全体をガムテープで縦横に巻き固める。患肢の掌側・背側から作成した固定具を当て、ラップを包帯代わりとして巻く。3列包帯の幅くらいになるように、ラップを絞るようにして幅を調整すると良い。ラップを巻き終えたら三角巾を作成する。ラップで包帯のように巻くか、ビニール袋の両側面を割き、割いた部分に固定した腕を通し、持ち手を首の後ろに回して縛って固定する方法もある。
膝関節の固定
A4サイズの段ボール中央に穴をあけ、四隅の角が丸くなるようにカットする。段ボールをガムテープで縦横に巻く。この縦横方向への巻きを1セットとし、これを3セット巻くのか5セット巻くのかで固定力が変わる。患者の体型や体力によって調整する。段ボール中央部が膝関節にあたるようにし、ラップで固定する。はじめは面で巻き、その上から細く幅を絞ったラップを巻いていくとより固定が強固になる。
塩見氏は〝今回紹介するのはあくまで一例で、それぞれ工夫して固定を行っていただきたい〟とした。
最後に、山岡昭副会長は〝ラップが包帯以上に役立つとは思わなかった。大変勉強になった〟と閉会の辞を述べ終了となった。
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