公益社団法人日本柔道整復師会「匠の技 伝承」プロジェクト第3回指導者養成講習会開催
2024年11月10日(日)、日本柔整会館において『公益社団法人日本柔道整復師会「匠の技 伝承」プロジェクト第3回指導者養成講習会』が開催された。今回はフォローアップ講習として、「橈骨遠位端骨折」をテーマにオンライン形式にて座学・実技講習を行った。
(公社)日本柔道整復師会・竹藤敏夫副会長は〝休日にもかかわらずご参加いただきありがとうございます。日本柔道整復師会が全国11地区で行う学術大会も、今月末に東海学会静岡大会、また来年3月に関東学会栃木大会を残すのみとなった。これまでの学術大会ではワークショップとして皆様が整復・固定、エコー操作講習を行う姿を見てきたが、整復・固定もエコー操作も、またその説明も回を重ねるごとにスムーズになっていて素晴らしいといつも感心している。皆様には今後も自県の先生方に技術を広めていただき、本会が目指す「柔道整復技術の平準化」を実現できるよう、引き続きご協力をお願いしたい〟と挨拶。
森川伸治副会長は〝ご承知の通り、この「匠の技伝承プロジェクト」は柔道整復術公認100周年の記念事業の一環として、柔道整復の優れた技術を次の時代に継承するために10年計画で講習を行っている。先生方にもしっかりとその目的をご理解いただき、全国の若い先生方に技術を伝えていただきたい。また、エコーに関しては、柔道整復師として問診・視診・触診の三診できちんと評価したものが間違っていないかを確認するために使用するというルールを守って観察していただきたい。本日は新たにキャスト材を使った固定法の講習も行う。様々なものを取り入れながら次の世代に技術を繫げていただけるように講習会を進めていきたい〟と述べた。
徳山健司学術教育部長は〝中央社会保険医療協議会において「ガイドラインのない学会はガイドラインを作成すること」、また「費用対効果のないものは療養費の対象にならない」と示された。我々柔道整復師にもこれと同様の現象が起こり得ると考えている。若い先生もベテランの先生も同じような平準化された技術・知識を持ち、施術の根拠を示さなければ柔道整復療養費が伸びていくことはあり得ない。そのためにも先生方により一層のご尽力をいただきながら、最終的には標準治療ガイドラインが作成できることを最大の目的として、今後とも先生方のご理解、ご協力をお願いしたい〟と改めて本プロジェクトの趣旨を説明した。
整復・固定施術技術実習
山口登一郎講師
山口氏ははじめに〝今年度から、日本柔道整復師会の学術大会のワークショップにおいて、先生方が指導者となり会員の先生方に指導していただいている。できるだけ多くの方にワークショップに参加してもらえるよう、引き続きご尽力いただきたい。指導方法としては、患肢の把持の仕方や包帯の巻き方など普段会員の先生方が疑問に感じていることを細かく指導していただきたい。スポーツと同様で、毎日鍛錬することで上達していくものだと考えている〟とした。
整復法
患者は背臥位とする。牽引時に腹圧が高くなることがあるので、膝は屈曲位とする。患肢の上腕を約60度外転し、バスタオルで上腕を覆い、そのタオルの両端を踏むように術者が立つ。両母指でリスター結節を挟むようにし、両示指を遠位骨片遠位端に置いて末梢牽引を10分程度行う。このまま牽引すると橈側転位の末梢片が自然と整復される。両示指で近位骨片遠位端を掌側から背側に向かって圧迫し、同時に母指で背側から掌側に向けて遠位骨片を直圧、手関節を掌屈・尺屈し、整復を完了する。
「なぜ屈曲整復をやらないのか」と質問をいただくこともあるが、特に高齢者の場合は粉砕状になっていて屈曲整復法を行うとさらに転位を助長することになる場合がある。従って、牽引して直圧を加える整復法が橈骨遠位端骨折には最も適していると考える。牽引を十分に加えられないと成果を求めることはできないが、グッと握っても牽引が強くなるわけではない。うまく手掌を患肢に密着させること。これが最大の武器になる。両母指、両示指を適正な場所に当て、牽引しつつ指で整復確認する。整復されたと感じたらエコーでも確認すると尚良い。
キャストライトを用いた固定法
まずはストッキネットを巻く。MP関節から前腕近位端部まで巻くように、ストッキネットはその固定するエリアよりも少し長めにする。親指が入るように小さめに穴を開け、ストッキングを履かせるように巻き、その上からキャストライト専用の下巻きを巻く。綿花と違い撥水性があるのが特徴。シャーレする際に下巻きがキャストライトにくっついてこないようにアンダーラップを巻いておくと取り外すのが容易になる。キャストライトを巻く際にはゴム手袋を使用すること。肘関節は屈曲位とする。端が上手く付かない場合は、すぐに貼り付けようとせず空気にさらして白っぽくなってから付けると良い。キャストライトはガラス繊維でできているため、直接皮膚につくと皮膚損傷を起こすことがあるため気を付ける。熱を持ってきたら硬化してきたサイン。ただ巻くわけではなく、ポイントとなる部分をモールディングするようにする。特に橈骨遠位端骨折の場合は下巻きとキャストライトの間に隙間ができ短縮転位を起こす可能性があるため、手首の部分を絞るようにすると短縮を起こしにくく予後もいい。また、手掌部は両母指で中央を押してアーチをつける。キャスト材を切るときには玉付きはさみだと安全。切ったらエコーで観察し、観察後にまたキャストを被せて固定することも可能。
クラーメル金属副子を用いた固定法
クラーメル金属副子はコーティングしてありサビにも強く、非常に長い期間何度も繰り返し使うことができるため、SDGsの観点からもクラーメル金属副子の利用を推奨したい。
クラーメル金属副子は幅に注意する。幅が広すぎると動揺してしまうため前腕遠位端部の横幅と同じか、あるいは若干細いくらいが適正。骨折部を空けて末梢と中枢を包帯で固定していく。これによって包帯交換の時に再転位するのを防ぐことができる。掌側のクラーメル金属副子がきちんと患肢に適合することによって固定力が上がるため、クラーメルを綺麗に巻くこと、そして患肢に適合させることが第一目標になる。プロとして見栄え良く巻くことも必要。提肘した後は必ず爪を確認して血行をチェックする。
総括として、山口氏は〝整復はどのように把持しどの方向に牽引するかが重要。固定については患肢に適合した副子を作成して採型して患部に当てるというのが基本となる。その点を忘れずに行ってほしい〟と述べた。
超音波観察装置取扱技術実習
小野博道講師
小野氏は〝日本柔道整復師会の会員でもエコーの普及率はまだまだ低い。まずは普及率20~30%を目指して、「我々柔道整復師にエコーあり」というレベルにまで持っていくためご協力をお願いしたい。今日は橈骨遠位端骨折の合併症の話も含めてお話させていただく。エコー観察の鉄則として、問診・視診・触診を行った上でその評価が間違っていないかどうかを客観的・視覚的に確認するために使用する。さらにその材料(エコー画像)を基にインフォームドコンセントを行う。このようにエコーは、我々が持っている問診・視診・触診そして徒手検査という技術をさらに明確化するためにも必要な材料となる〟と、エコーの有用性を説明した。
橈骨遠位端骨折の合併症
橈骨遠位端骨折の代表的な合併症としては、尺骨茎状突起骨折、TFCC損傷、舟状骨骨折、月状骨脱臼とその周囲の脱臼、長母指伸筋腱断裂、そして手根不安定症(背側手根不安定症、掌側手根不安定症)などがある。
尺骨茎状突起を支柱として橈尺靭帯という靭帯が掌側・背側2股に分かれて張り、橈骨・尺骨の間の安定性を図っているが、尺骨茎状突起を骨折するとこの靭帯をピンと張ることができず、三角線維軟骨複合体(TFCC)が機能を保てなくなり難治性の疼痛が生じるおそれがあるため注意して観察すること。また、橈骨骨折とともに舟状骨骨折も併発している場合もある。
最も発生頻度が高い合併症としては手根不安定症の背側手根不安定症(DISI(dorsal intercalated segment instability))である。その原因となるのは舟状月状骨間靭帯損傷(S-L損傷)に伴う舟状月状骨離開が多い。この部分を損傷すると変形性関節炎(SLAC wrist)を起こしてしまう恐れがあり、握力も圧倒的に下がる。S-L間の隙間が3ミリ以上になると靭帯損傷が疑われ、5ミリ以上になってしまうと完全断裂が疑われる。S-L間靭帯は、舟状骨から月状骨方向にプローブをずらしていくとその間を橋渡しするようにまっすぐで輝度の高い靭帯構造として見えてくる。この部分に損傷が加わると、これがはっきりと描出されなくなる。
超音波観察
まず尺骨茎状突起から観察する。尺骨の線状高エコーをしっかり出してから若干遠位方向に持っていき、尺骨がお辞儀するように深層にぐっと下がる線状高エコーが尺骨茎状突起だ。しっかりとサイドから当てて、先端部を捉えるのがポイント。
次に舟状骨を観察する。まずは手関節を見る上で非常に大事なランドマークとなるリスター結節をしっかりと捉える。そこからプローブを遠位に(手関節側)移動させ若干下がったところにある山が舟状骨の短軸像である。橈骨関節面の先端部と見誤らないように気をつける。舟状骨を画面中央に映して、ここから橈骨遠位端尺側傾斜角に沿うような形でプローブを回し、少しだけプローブを橈側寄りに持ってくると綺麗にラウンドする舟状骨の長軸像が描出される。こうすると小さな不全骨折のような骨折も見逃さない。プローブ操作では添えている手の親指を支点にするとブレにくい。
ここから尺骨の方にプローブをずらしていくと月状骨が出現し舟状骨月状骨間が描出される。月状骨の目安としては遠位橈尺関節(DRUJ)の遠位に月状骨が触診できる。S-L間を描出する際少しだけ掌屈を加えるとさらに見やすくなる。この間に見える輝度の高い靭帯構造がS-L間靭帯だが、健側対比をしてS-L間が明らかに開いている場合にはS-L間損傷が疑われる。
総括として、小野氏は〝徒手で評価して、「これはS-L間損傷ではないか」「舟状骨骨折ではないか」等とある程度見立ててからエコーで観察するという鉄則を忘れないこと。難しいと思った方もいるかと思うが、その難しさがわかるようになると楽しいと感じられるようになる。指導者の方々にはその「楽しさ」の部分も含めて伝えていただき、エコーの重要性を分かっていただけるよう指導していただきたい〟と期待を込めた。
最後に、金子益美理事から〝お疲れ様でした。2月にもフォローアップ講習を行う予定となっている。また、各県での匠の技講習会も今年度は残り11会場で開催を予定している。今後も皆さんしっかり練習していただきたい〟と閉会の辞が述べられ、終了となった。
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