(公社)日本柔道整復師会主催、第2回柔道整復師意見交換会が開催
2021年4月24日(土)、公益社団法人日本柔道整復師会会館において、第2回柔道整復師意見交換会が開催された。(公社)日本柔道整復師会からは総務部長・三橋裕之氏、学術教育部長・長尾淳彦氏が参加。司会はTherapist Campの久保聖史氏、個人契約柔道整復師支援プロジェクトチームの藤井剛寛氏が務めた。
質疑応答
今回の意見交換会は、FacebookやTwitter、YouTubeをはじめとする様々な媒体を介して収集された全国の柔道整復師からの質問や意見に対し、三橋氏・長尾氏が回答・解説する形で進められた。所属団体等に係わらず広く意見を交換できる、非常に画期的かつ貴重な機会となった。
急性・亜急性が撤廃されたが、どの程度前までの受傷まで適用されるのか?
検討専門委員会でもこれまで幾度も議論が重ねられてきた。我々は急性・亜急性というのは外力であると主張していたが、医師からは「急性期・亜急性期しかない」という意見があり対立していた。今回、急性・亜急性の文言は撤廃され、「外傷性であることが明らかな」という定義になったが、従来の取り扱いとの違いはなく、負傷原因が明らかであれば保険請求の対象となる。
「単なる肩こり」というのは?
単なる肩こり・いわゆる腰痛というのは、各保険者が発行する患者啓発文書によく使用されている表現だが、実際にそれがどういうものなのかは定義されていない。
急性・亜急性というのは柔道整復師養成校で習う柔整理論にも載っているが、急性はポンッと当たって怪我したようなもの、亜急性は小さなダメージが繰り返し加わって起こったものを指す。我々柔道整復師は患者から症状や痛みの発生機転を聞き出して施術録にも記載するが、患者が原因を認識しておらず「肩こり」と思い込んでいるケースもある。原因がはっきりしている場合は保険請求の対象となるが、そうではない場合は柔道整復師の施術範囲外としてしっかり判断する必要がある。
業界の質の担保のため、定期的に勉強会を開催してはどうか。すでに行われている場合は周知を徹底する必要があるのではないか。
現在は新型コロナウイルス感染防止の観点から開催を控えているが、日本柔道整復師会では、全国11ブロックごとに毎年学術大会を開催し、会員発表や基調講演を行ってきた。これは日本柔道整復師会の会員外であっても、柔道整復師であれば参加できる。各都道府県柔道整復師会でも、公益事業として学術大会や保険講習会なども行っている。地域住民のために行っている事業ではあるが、柔道整復師の質の向上のためにも必要と考えており、各都道府県柔道整復師会のホームページなどから参加の意思をお伝えいただければ参加できるようになっている。
また、現在、日本柔道整復師会では「匠の技 伝承」プロジェクトと題し、骨折・脱臼の臨床経験が豊富な柔道整復師が、若い世代に知識や技術を伝承していくためのプロジェクトに取り組んでいる。応急手当といえども、骨折・脱臼を即座に施術できる職業は医師以外、柔道整復師しかない。それにもかかわらず骨折・脱臼の柔整療養費は全体の1%にも満たない。我々柔道整復師が保険を取り扱えるのは、骨折・脱臼に対する施術ができるという担保があるからであり、その担保を後世にしっかり受け継いでいくために取り組んでいる。ぜひ日本柔道整復師会員外の先生方も「我こそは!」という方がいれば、日本柔道整復師会のホームページからご連絡いただきたい。
各都道府県柔道整復師会によっては、超音波観察装置の使用を推奨しないとされている場合もある。日本柔道整復師会と各都道府県柔道整復師会の間に認識のギャップがあるように思うがどう考えるか?
日本柔道整復師会から直接ニュースレターを配信して、できる限りタイムラグや情報に差異が出ないように尽力している。超音波観察装置に関しては、昨年は新型コロナウイルスの影響から行えない事業が多かったため、余剰予算を利用して各都道府県柔道整復師会に超音波観察装置を貸与設置した。これは「超音波観察装置を導入したいが使い勝手がわからないため導入に至っていない」という声が多かったため、都道府県柔道整復師会で実際に見て使ってもらいたいとの思いから計画した。初心者講習会の開催費用も日本柔道整復師会が負担している。
個人の柔道整復師の方々も、患者安全のために超音波観察装置を利用されていると思う。ただし、超音波観察装置の使用に関するガイドラインはまだ作られていない。しっかりしたコンプライアンスのもとで、患者安全のために使用するということを一から認識していっていただきたいと考えている。今年5月からはオンラインでの初心者セミナーの開催も行う。要望があれば、日本柔道整復師会会員外の先生にも参加していただけるようにしていきたい。
「日整水準」とは?
日本柔道整復師会会員に限らず、「全国どこへ行っても、このレベルまでは接骨院できちんと治せる」という水準を作りたいと考えている。日本柔道整復師会は全柔道整復師のための組織なので、決して日本柔道整復師会だけを良くするのではなく、業界全体を良くするために取り組んでいる。
接骨院・整骨院と同施設内で自費施術を行うことについてどう考えているか?
負傷原因が明らかでないものなど、保険で請求できないものについて自費で請求するというのは当然のことと考えている。そのことを患者さんに説明は必ず行ってください。
最近では接骨院という看板を掲げながらも、保険を使わない完全自費施術を行っている院も出てきている。なかには患者が保険証を持参しても保険施術を断るケースもあると聞くがどう考えるか?
本来保険を使える部分であっても自費で施術を行うというのは患者さんが納得すれば問題ない。しかし全て自由料金で、例えばすべて整体やカイロプラクティックのみを接骨院・整骨院という看板を掲げて行っているというのは問題があるように思う。
受領委任は柔道整復師のためのものだけではなく、患者さんが保険の自己負担で柔道整復師の施術を受けられるという患者さんのための制度であるということを忘れてはならない。自費で施術を行うのであれば、患者さんにしっかりと説明を行い、合意を得てから施術するということが重要となる。整体・カイロプラクティックを究めて業とするのであれば、接骨院の看板は下ろすべきではないか。
保険施術は適切に扱いつつ、自費施術で職域の拡大はしていくべきか?
職域の拡大という部分では、柔道整復師は機能訓練指導員として活動することができる。柔道整復師が介護分野に参入するならば、機能訓練指導員として参入するしかない。そこで日本柔道整復師会は一昨年、日本鍼灸師会とともに「日本機能訓練指導員協会」を立ち上げた。実務者講習、上級者講習を行い、現場で通用する機能訓練指導員を育成している。将来的には接骨院に来院された患者さんの機能訓練も行い、療養費ではなく介護保険で請求できるようになればと考えている。
同月に同部位を再負傷した場合、新規の負傷として扱うことができるが、それを知らずに引っ張ってしまって長期施術になってしまうケースもあるように思うがどうか?
長期でもしっかり長期施術となる理由を相手(保険者など)にわかるように書けば問題ないと考える。ただし、それがあまりにも月に枚数が多いのはおかしい。正しく保険者に理由を伝え、施術録に経過を記録しておくということが大切。
検討専門委員会では1部位目から負傷理由を書くことを保険者は言うがそれについてはどうか?
負傷原因については規定通り第三者行為によるものなのか、あるいは労災なのかということが焦点になっていたが、あまりに長期・多部位施術が多くなってきたために保険者から1部位目から負傷原因を書いてくれとの要望が出てきたという背景がある。しかし1部位目から書いたとしても全く不正対策にはならないため反対している。
他の請求する団体に所属しながら日本柔道整復師会には入会できるか?
各都道府県柔道整復師会は保険請求の関係で入会できないが、日本柔道整復師会は保険請求には関与していないので何らかの形で会員になっていただけるよう、会員枠を拡げることを現在検討している。日本柔道整復師会としても、自分たちが行っていることを外に広めていきたいと考えている。
健康保険組合が償還払いに戻すと主張しているが実現するのか?するのであればいつ頃になるのか知りたい。
償還払いにするというのは、昨年2月の検討専門委員会で健保連の代表委員から出た意見。その発言意図としては、請求団体に所属している個人の柔道整復師に対し、健保組合が返戻で指導しても全く改善が見られない場合があるため、一部の組合から償還払いにしたいとの申し出が健保連にあり、健保連もそれを止めることはできないとのことだった。その後、厚生労働省を交えて、日本柔道整復師会と健保連で話し合いを行い、受領委任払いは患者のための制度でありそれを一部の健保組合の意見で変えることはできないと強く伝えた。健保連は来年6月頃としているが、時期やどの組合が抜けるのかなども全く決定してはいない。
「あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師及び柔道整復師等の広告に関する検討会」(以下、広告検討会)はどうなっているのか?
我々としては、無資格者が野放しで有資格者だけ規制をかけられるのはいかがなものかということで、まずは無資格者を規制するよう主張している。保険者や医師会からは、「診」や「整」の字を使ってほしくないとの意見が出ている。しかし北海道や九州は約8割が「○○整骨院」の名称を使用している。遡ってすべてを接骨院に変えるのは無理があるため、折衷案として今後新規開業する場合は「○○接骨院」してはどうかという意見も出している。
また、柔整が広告できる内容として、検討会では、出張・往療可能、駐車場の有無、国家資格保有の旨を記載するのはいいのではないかとの意見が出ている。我々はWEBサイトも広告として扱って規制ができるような制度を見直す提案をしている。
厚生労働省は、今年度中に一度開催して意見をまとめたい意向を示している。
マイナンバーカードと保険証について教えてほしい。
なかなか進んでいない状況ではあるが、医療機関等は令和5年までに完全実施とされている。柔道整復師については電子請求も始まっていない中、まだデータをやり取りするラインがない。しかし医科と違って接骨院では保険証番号だけ分かればいいので、例えば患者に暗証番号を入力してもらうことで保険証番号が読み取れるようなカードリーダーがあれば十分に実現可能だと考えている。令和5年以降を目途に実現したい。
電子請求についてはどうなっているのか?
まずはモデル事業を実施させてほしいと提案し、平成29年度中に実施を予定していたが、保険者の反対や費用の問題があり遅れているのが事実。菅政権に代わったことでデジタル化が推進され、昨年からまた意見交換などを始めている。数年後には全国展開できるようにしたい。
行き過ぎた患者照会についてはどう考えているか?
調査を外部の委託業者に委託するケースが増えた。何でもかんでも調査されてしまい、患者からは「接骨院に行くと調査書が来る」「行きたくない」という話が出てきていた。これを解消するために厚生労働省と交渉し、受診の抑制をするような調査はダメだという通知を出していただいた。また、委託業者については請求代行を行っているところの子会社は適当ではないと明言された。厚生労働省保険局医療課には苦情窓口が設置されており、問題のある患者調査を報告できる仕組みもある。
今後もこのような啓発活動は続けていくのか?
柔道整復師の根幹となる骨折・脱臼は、全柔道整復師が施術をできるよう技術の向上を目指したい。超音波観察装置については、将来的には認定制度化したい。これは日本柔道整復師会ではなく、学術会議に登録された学術団体である日本柔道整復接骨医学会で行い、業界が学術団体と一つになるのが良いと考えている。その足掛かりとして匠の技伝承プロジェクトと超音波観察の勉強会を行っており、そこには柔道整復師なら誰でも参加できるようにしていきたい。将来的には保険点数のアップや柔道整復師の収入に繋げていきたいと考えている。
三橋氏による解説
続いて、三橋氏から意見交換会の内容をまとめた解説がなされた。
柔道整復師の保険制度
我々柔道整復師が扱う療養費は現物給付である療養の給付(保険医療機関における受診)をあくまでも補完する位置づけにある保険給付であり、その支払いの可否は保険者がやむを得ないと認めた場合に支給される現金給付である。柔道整復師が扱う受領委任払い方式も療養費であり、協定または契約により患者保護の観点から認められた特例方式であるということを理解しておかなくてはならない。
一連の医療行為の中で保険診療と自由診療が混在することを混合診療と呼ぶが、これは歯科と一部の例外を除いて認められていない。例えば腰部捻挫の治療をしていて、保険の治療はここまでで特別治療をするなら追加費用が掛かる、というのは混合診療にあたる。柔整療養費協定契約の中にも「請求に当たって他の療法に係わる費用を請求しないこと」と記載されている。
柔整業界の問題点
平成24年に、国から必ず患者調査をしてから支払うよう保険者・審査会に通知が出され、過剰な調査が受診抑制につながっていることが問題となっていた。しかし交渉の結果、平成29年に上記通知を覆す文書通知を国が発出された。これにより、受診抑制となるような照会は慎むこととされ、厚生労働省には不適切な照会に関する苦情相談窓口が設置された。苦情から問題があると判断された調査会社は呼び出され、健保連立会いの下指導される。
柔整業界の改革
平成27年に反社会的勢力による整骨院不正受給事件が起こり、対策として様々な改革を行った。
教育改革としては、柔道整復師養成施設カリキュラム等改善検討会にて国家試験の問題数や出題範囲、養成校におけるカリキュラムを大幅に見直した。養成施設での最低履修時間は約300時間増やし、総単位数も引き上げた。新カリキュラムとして超音波観察の授業や高齢者の外傷予防、競技者の外傷予防に関する授業も追加された。 制度改革としては、新規開業には実務経験3年と16時間の講習受講を課し、柔整審査会の権限を強化、広告の規制にも取り組んでいる。柔整審査会の権限強化により、請求状況から不正が疑われるものや通知等で注意をしても改善が見られなかったもの等について、面接確認委員会で呼び出しを行えるようになった。その後の経過を観察し、改善されなければ審査結果を厚生局・都道府県福祉保健局に直接報告する。
最後に
教育改革・制度改革は歴史的偉業といわれている。柔道整復術を将来に残すために、柔整業界自ら改革を提案し実現してきたが、業界の問題点はまだまだ解決していない。より力を入れて進めていきたいと考えている。また、骨折・脱臼・打撲・捻挫・挫傷が柔道整復師の本来の業務であり、整体やリラクゼーションは業務ではないということをしっかり区別していただきたい。「これからの柔整は保険外だ」という声もあるが、受領委任の取り扱いがあっての保険外、自由料金であり、自ら業務を放棄すれば柔道整復術が消滅するおそれもある。
総括
総括として、三橋氏は〝今日は、会員外からもご意見をたくさんいただける非常に良い機会だった。日本柔道整復師会は全柔道整復師をサポートし守る組織として、今後もご意見を参考にしながら活動していきたい。また今後もこのような機会を継続的に設けていきたい〟、長尾氏は〝我々柔道整復師が自分の子どもや家族に私の職業は堂々と「柔道整復師だ」、そして、子どもや家族が父親・母親の職業を問われたら堂々と「柔道整復師」と言える業界にしていきたい。どんな質問・ご意見でも結構なので寄せていただき、一緒に考えていきたい〟と語った。
藤井氏は〝柔道整復の制度はみんなで作り上げていく過程にあると思う。今あるものがすべてではなく変化していく。ぜひ「柔整One Team」でやっていきたい〟、久保氏は〝ずっと持っていた疑問を先生方に答えていただけて、本当に有意義な機会になった。自分のやってきたことに自信を持てた先生もいると思う。日本柔道整復師会が中心となって、全柔道整復師が豊かになるような環境ができればと考えている〟と締めくくった。
(公社)日本柔道整復師会は、今回のような形で今後も会員内外に広く情報を発信していくだろう。全国の柔道整復師が一丸となって活動していくためにも、このような意見交換の機会が増えていくことを期待する。
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