公益社団法人日本柔道整復師会「第16回大阪学術大会」が開催
2024年9月29日(日)、大阪柔整会館にて「公益社団法人日本柔道整復師会 第16回大阪学術大会」が開催された。
本学術大会は、公益社団法人大阪府柔道整復師会・今村智彦副会長による開会の辞で幕を開けた。
主催である(公社)日本柔道整復師会・長尾淳彦会長は〝大阪は日本柔道整復師会の中でも一番会員数が多い。また柔道整復師養成施設を運営しており、本日も学生が多数参加されている。柔道整復師を目指したい、柔道整復師の資格を持って活躍したいという夢を持った学生を育てるということも我々の役目だと考えている。誇りある職業として柔道整復師の地位を向上させるためにも我々は全国11ブロックで学術大会を行っている。ここ大阪は柔道整復師が多い地域だが、数だけではなく、やはりその中身も一番だという気概と誇りを持って患者さんに向き合っていただきたい。接骨院のみならず、機能訓練指導員やケアマネジャーの資格を取って介護保険で地域に貢献したり、またはスポーツトレーナーとしてアスリートの怪我の予防やパフォーマンスを上げるために自分の持っている能力を発揮したり、柔道整復師としてできることはたくさんある。そういったことも学術大会で発表していただき、学ぶ機会としていただきたい〟等、挨拶。
(公社)大阪府柔道整復師会・玉山晋治会長は〝公益社団法人日本柔道整復師会主催第16回大阪学術大会開催にあたり、かくも多くのご参加をいただき誠にありがとうございます。本学術大会は【世の中日々更新、行かなきゃ後進】をテーマに掲げている。その意味は多岐にわたり、常に学び続ける重要性、学び続ける姿勢が求められている。柔道整復師としての資質向上、人格陶治には必然的に学術の研鑽が必要だ。業界の積極的な社会貢献、医療業界での確固たる地位、地域に根ざし社会から信頼される業界を確立するため、学び続けましょう〟とし、当日のプログラムを紹介した。
特別講演
『労作性熱中症予防と初期対応に必要な環境作り―トライアスロン救護のノウハウから』
奈良教育大学教育学部保健体育講座教授・
笠次良爾氏
笠次氏は冒頭に〝スマートフォンやタブレットを出していただいて構いません。まずはこのQRコードを読み込んでいただけますでしょうか〟と聴講者に促し、〝双方向で皆さんと熱中症対策をどうしていけばいいか考える時間を過ごせたら嬉しい〟と、WEB上でリアルタイムに聴講者からの意見や質問を受け付けるという画期的なスタイルを取り入れた講演を行った。
〝日本の平均気温は年々右肩上がりとなっている。私の大学がある奈良市では、猛暑日・真夏日を合わせた日数が過去10年間で今年が最も多く、特に8月は最高気温が35℃を下回っているのは数日しかなかった。そのような中で皆さん、どうやって大会のサポートをされていただろうか。今日は、スポーツ大会あるいはチームサポートで現場の第一線で活動する皆さんにぜひ知っていただきたいことをお伝えしたい。
熱中症予防の基本戦略として、大きく2つの軸がある。
1つ目は「管理」と「教育」。熱中症を防ぐために我々サポートスタッフは、目の前の選手あるいは子どもたちのために様々な熱中症対策を行い「管理」する。加えて、選手や子どもたち自身がどういう時に熱中症になるのかということを自分で考え、判断し、行動できるように育てる「教育」が非常に大切。そうしないと、いくら頑張って管理しても選手や子どもたちはギリギリまで無理して倒れる。その時に適切な対応ができなければ重症化して死に至る。そのため、管理と教育はセットで行うことが肝要。また、組織活動として我々サポートスタッフや先生方も選手や子どもたちと一緒に熱中症対策に取り組むことが大切だ。
2つ目はリスク管理。熱中症が起きるまでには様々なリスクがあり、また発生した後はそのまま放っておくと死に至る、あるいは後遺症が起きる可能性が高まる。熱中症対策においては、熱中症が発生するまでに取り組む「事前対応」、起きた時に行う「発生時対応」、起きた際に再発や後遺症を防ぐための「事後対応」が重要となる。
事前対応では、気象条件をぜひ予測してほしい。熱中症アラートでは当日~2日後までの気象条件を予測している。暑さを予測し、環境として管理者がどんな準備ができるかということ、そしてそれを参加者に知らせることが大事になる。実際の競技現場では、30分ごとに計った値をヒートストレスインデックスと呼ばれる指標に当てはめ、選手たちが見えるところに掲示する。選手に体感だけではなく、今がどういう状況かということを視覚的にわかるようにしておくというのも我々の役目の一つと考えている。
熱中症時に起こる身体の変化として、体温が上昇すると血管が拡張して血流を増加させて熱を放散しようとする。血流が一気に増えることで手足にはしびれが生じる。また、頭の血管が拡張すると頭痛になり、嘔吐中枢が刺激されると吐き気や嘔吐といった症状が出てくる。脱水が進むと筋けいれん、さらに進むと熱疲労で全身の倦怠感が出て、その後体温の調節ができなくなり、過度の体温上昇により脳機能不全となり意識障害を引き起こす。このような変化を理解しておくことが重要となる。
脱水の指標としては、運動前後の体重変化、尿の色、押した爪を離した時の色の戻り方などを観察すると良い。脱水を補正するために、水分・塩分・食事という3つの観点で補給を行う。水分の過剰摂取は低ナトリウム血症に陥りやすく危険。運動中の水分摂取は、喉の渇きを感じない限り必要以上の水分は摂らなくてよい。塩分については短時間(2時間以内)の運動であれば食事で十分に摂れるため補給する必要はないが、長時間の運動時や多量発汗時は失った分(1Lあたり1.7~4.3g)だけ塩分補給を行う。人間の皮膚はラジエーターだ。冷たい水に浸かったり、汗が蒸発し気化熱が奪われたりすることで皮膚表面の血管から血液が冷やされて、それが心臓に戻って体温を下げる。この仕組みが機能するためには血液量を確保しておく必要があるため、熱中症予防として脱水にならないようにしておくことが重要となる。
熱中症の初期対応のポイントとして、生理的指標の変化から早期発見することが大切だ。特に体温には気を付ける。腋窩で39℃以上、39℃以下でもクーリングに反応しなければ注意が必要。ただし重症で脱水が進んでいるときは、腋窩では正確な体温が測れないことは知ってほしい。血圧が90以下の場合や、運動後に一定時間が経過しても心拍数が下がらない場合も脱水が進んでいる。初期対応で冷やす際にはとにかく全身の冷却が大切。また、熱中症発生時を想定して役割や準備物、対応の流れ等について考え、EAP(エマージェンシーアクションプラン・危機対応計画)を作成、シミュレーションをしておくと良い。東京2020オリンピック・パラリンピック後、準備としてシミュレーションしておくことがいかに大事かを実感した。ぜひ皆さんには支える側のプロフェッショナルとして一緒に現場で活動していただきたい〟と締めくくった。
学術教育部からのお願い
匠の技伝承プロジェクトの意義等について
公益社団法人日本柔道整復師会学術教育部長・
徳山健司氏
< 概要>
これまで我々柔道整復師は、ある意味経験や勘などにより施術を行ってきたが、次世代の柔道整復業界のためにもしっかりとした科学的根拠に基づいて施術を行っていかなければならない。
国民皆保険制度の目的は「いつでも・どこでも・誰でも」治療を受けられる公平性にあり、医療ではEBM(Evidence- Based Medicine:根拠に基づく医療)が当たり前になっている。2021年に発刊された『理学療法ガイドライン第2版』では、「ガイドラインのない学会に対しては強くガイドライン作成を要請する」「ガイドラインのない治療法は報酬の対象になりえないとの発言が厚生労働省からあった」「2022年診療報酬改定に費用対応可判定を導入することが決まり、当面の間は単価の高い治療等について検討することになった」といった旨の記載がされている。これらが柔道整復に当てはまる可能性も十分にある。エビデンスレベルを意識した研究論文や症例集積、症例対照研究に取り組まなければ業界の発展はない。日本は少子化もあり大きく経済力を落としていくことも今後考えられ、療養費抑制を強く求められる時期が来る可能性もあるのではないか。
本日は学生の方も多く参加されているが、これからの学校教育は単に有資格者を輩出するということではなく、研究分野もしっかりと担っていく役割があると考えている。そもそも先行研究、記載のないものは論文とは言わない、レポートでもない、再現性もなく偶然であることやたまたまであることを統計解析で否定できないものは研究ではない。学術大会では症例報告が非常に多いが、その症例報告が正しいのか、偶然なのか、誰にでもその施術が合うのかといった効果検証についてはあまり聞かない。学会発表はあくまでも論文の投稿のための事前準備であり、しっかりとした査読審査を受けてジャーナルに出すことによって初めて論文と位置付けされる。
柔道整復分野では研究データの蓄積が乏しい。施術の再現性を確保するためには、最低でも施術前後(介入前後)の比較としての有意差のある統計データが必要だ。柔道整復分野の様々な論文が積み上がれば、診断の精度向上、不正施術の防止、施術効率化、患者管理の向上、教育支援・研究支援に繋がる。柔道整復術の科学性が外部へ認知されるような活動をしていただきたい。
エコーを柔整師の手に
公益社団法人日本柔道整復師会学術教育部・
篠弘樹氏
< 概要>
これまで柔道整復師が築き上げてきた技術を後世に継承するために、また外傷に対する処置の平準化を図るために、日本柔道整復師会では「匠の技伝承プロジェクト」を10年計画で行っている。今年で5年目に入り、今年から技術講習会として各都道府県で講師の先生たちが各地域の先生方に指導しているが、それとともにエコーを普及させ、どの接骨院でもエコー観察を行えるようにするため活動している。
柔道整復師が使用するエコーの見解については、平成15年に厚生労働省医政局医事課長通知にて「柔道整復師が施術に関わる判断の参考とする超音波検査については柔道整復業務の中で行われることもある」と通知されている。さらに平成22年には「柔道整復師が施術に関わる判断の参考とする超音波検査は施術所で実施しても関係法令に反するものではない」とされており何の問題もない。皆さんにもどんどん使っていただきたい。
我々柔道整復師は、患者さんが施術所に来たら症状を見るためにまず問診・視診・触診を行う。加えて徒手検査を行い、評価をして、患者さんにそれを説明し同意を得たうえで治療計画を立てて施術を行っている。これらの方法は今まで我々が築き上げてきた方法だが、プラスアルファとして「エコー診」を入れていただけると、ご自身で評価したものをもう一度確認できるため、より明確な判断ができるのではないか。患者さんに説明する際にも画像を見せながら説明することによって、患者さんにも納得していただけてより質の高いインフォームドコンセントになり、患者さんの信頼を得ることができる。徒手での評価に自信のない若手柔道整復師の先生にとっても絶対に必要なアイテムだと考える。熟達の先生は見ればどのように折れているかなんとなく想像できるだろうが、実際にエコーで可視化することでちゃんと内部の状態がわかり、それで患者さんに説明して納得していただけるということが重要だ。
症例として、骨折が疑われる所見があったためエコーで確認したところ、線状高エコーの不連続性が確認できたため整形外科に紹介を行った際には、「レントゲンでは骨折は認められないが、エコーで観察したところ骨皮質の不連続性を認め骨折と診断した」というケースもあり、この意味するところは整形外科ではエコーが診断基準になるアイテムになっているということだ。
我々がエコー観察を正しく扱うことにより、エコーが医療従事者の共通言語となると考えている。エコーは評価をするためのツールとしてだけではなく、修復過程の経過観察に使うことも十分可能だ。患者さんのためにより分かりやすい、安心、安全な柔道整復術を提供できるように、エコーを柔道整復師に普及させていきたい。
この他、ワークショップ2題、一般発表9題、学生発表3題が行われ、全発表終了後には発表者表彰が行われた。
一般発表
- 高齢者の方向転換に影響を及ぼす因子~変形性膝関節症形性に着目して~豊能支部/松原整形外科医院
田中愛奈、竹縄宗茂、松原康秀 - 包帯が要らない固定 足関節捻挫・腓骨遠位端骨折東大阪支部/松永栄整骨院
松永泰栄 - 2発刺激を用いた確率共鳴の神経機構へのアプローチ大阪府柔道整復師会医療スポーツ専門学校
杉本恵理 - 後脛骨筋腱縦断裂を伴う扁平足障害の1例住江支部/平沢整骨院
佐野順哉、檀上貴契、井本清大、松村秀哉、
岩崎洸樹、横山昇汰、平沢伸彦 - 明らかな誘因なく発症した急性腰痛症の発生要因についての一考察天満・城東支部/かわむらクリニック
長谷川俊太 - 高齢者に生じた脛骨脆弱性骨折の1症例住江支部/平沢整骨院
檀上貴契、佐野順哉、井本清大、松村秀哉、
岩崎洸樹、横山昇汰、平沢伸彦 - 機能訓練指導員が高齢者の運動機能に及ぼす影響
大阪府柔道整復師会医療スポーツ専門学校附属オージェイ接骨院
松原大貴 - 発症原因から考察したシンスプリントに対する運動療法住江支部/平沢整骨院
松村秀哉、佐野順哉、檀上貴契、井本清大、
岩崎洸樹、横山昇汰、平沢伸彦 - 腰椎分離症と体幹・股関節機能の関連性泉支部/かわむらクリニック
藤原和輝
学生発表
- 肩関節サポーターの開発大阪ハイテクノロジー専門学校
河越貫汰、菅原楓菜、杉本歩果、古澤和也、牧野明香 - 腰部のトリガーポイントと姿勢の関係性明治国際医療大学保健医療学部柔道整復学科
藤原沙妃、赤塚真帆、松原光汰、児玉香菜絵 - 眼球運動トレーニングがバランス能力に与える影響大阪府柔道整復師会医療スポーツ専門学校
長田樺恋
(敬称略)
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