公益社団法人日本柔道整復師会「第42回東京学術大会」開催
2024年9月8日(日)、帝京平成大学池袋キャンパスにおいて公益社団法人日本柔道整復師会「第42回東京学術大会」(同時開催:柔整・鍼灸メディカルショーin東京)が開催された。
本学術大会を主催する公益社団法人日本柔道整復師会・長尾淳彦会長は〝本日は本会会員の先生のみならず養成校の学生の方々も多く参加されている。目標を達成するためには準備が必要。学生にとっては大学でいかに準備し自分の夢に向かっていくか、柔道整復師の先生方にとっては患者や社会にどのように貢献していくかということを考えることが学術大会の大きな意義であると考えている。これまで柔道整復師が何をしているのか、何ができるのかを国民や行政に対して十分に示してこなかった。学生の皆さんは柔道整復師という国家資格を取るために周到に勉強する必要があるが、さらに資格を取得したらどのように社会に還元していくかということまで考える機会としていただきたい〟と挨拶。
主管する公益社団法人東京都柔道整復師会・瀧澤一裕会長は〝現在、柔道整復師会は会員のために懸命に改革を行っている。本日は学生の方を含め若い世代の先生も多く参加されているが、そういった方々にかっこいい、夢のある柔道整復師の姿を見せたい。本日は柔整・鍼灸メディカルショーも同時開催している。様々な方と交流を図っていただきたい。明るい柔道整復師の未来が見えるような大会にしたい〟と述べた。
特別講演Ⅰ
『柔道整復師と医師との関わり』
公益社団法人日本医師会副会長
釜萢敏氏
【概要】
私は群馬県高崎市に生まれ、父の後を継ぎ小児科の開業医を続けてきた。高崎市医師会で役員を務めていたころの大先輩は柔道家で、当時から地元の柔道整復師会と医師会は極めて良好な関係を築いていた。整形外科は柔道整復師に対し医学的な側面から助言をし、柔道整復師は長年培ってきたその技術をより活かすという役割ができていたように思う。個人的には幼い頃に大腿骨を骨折し、治療のために接骨院に通って後遺症なく治していただいた経験もある。平成26年からは、日本医師会で常任理事として医療関係職種との連携を担当していた。柔道整復師養成カリキュラムの改定や柔道整復研修試験財団にも関わった経験があり、今日このようにお話する機会をいただけて嬉しく思う。
医師と柔道整復師はこれまでの歴史において共通する部分も多い。古くは西暦894年に朝廷に献上された「医心方」という骨折・脱臼・捻挫等の治癒について書かれた非常に優れた書物が残っている。様々な歴史を経て、外傷による身体へのダメージをいかに早く治すかということが重要になってきた。その中で柔道整復の歴史が積み重ねられてきたが、江戸時代後期に西洋医学(蘭学)が日本に伝えられ、東洋医学(漢方)との違いが明らかになったことが大きな変革をもたらした。明治になって医療の考え方が変化し、西洋医学に合わせた基準でやっていこうという流れになったが、多くの方の努力によって大正9年に柔道整復術が認められて今日まで続いている。医学にも大きな混乱があったことと思われるが、これまでの漢方医学から西洋医学に急速にシフトしていった。しかし漢方医学にも役立つものがたくさんある。それを否定して西洋医学一辺倒になるのではなく、上手く調和してこそ国民の役に立てる。先輩方がそのような時代においても、財産として今日まで伝承してくれた柔道整復を今後も生かしてもらいたい。
直近の就業柔道整復師数・施術所数の推移として、1998年(平成10年)には大きな出来事があった。それまで柔道整復師養成校数と柔道整復師数が国によってコントロールされていたが、この年の裁判によって国がコントロールするのではなく自律的なものに任せるという判決が出た。これ以降、養成校数も柔道整復師数も急激に増えた。柔道整復と関わりの深い整形外科については、整形外科のみを診療する医師の数としては1955年には1027名のみであったが、1990~1994年にかけて6000名程増え、そこからは減らずに徐々に増えるという状況が続いている。医師あるいは柔道整復師のような医療従事者ばかり増やしても、我が国の活力は決して維持できない。今後は医療従事者の数はそれほど増やせないという状況になると思われる。しかし一度増やしてしまったものを減らすのは容易ではない。この移行はバランスよく進めていかなければ大きな混乱を生じる。
このような状況を踏まえたうえで、今後どうすれば国民が求める適正な運用・対応ができるのか。やはりそれぞれの専門とする領域について関係職種が理解し合い、その業種が担うべき役割をしっかり果たせるよう互いに補完していかなければ、人口が減少していく中で国民に適切な医療を提供することは不可能だと強く感じている。日頃から人間関係を構築し、関係を醸成しなければならない。
スポーツ大会の支援において、医師よりも柔道整復師のサポートが求められることもある。これまで先輩方が積み重ねてこられた大きな歴史を、新たに柔道整復師になる方にしっかりと引き継いでいただきたい。また、介護や在宅医療の分野においても、より多くの職種の方々が連携・参画していくことが重要となる。最も適切なケアが提供できるよう、医師と柔道整復師のより緊密な連携が求められている。
特別講演Ⅱ
『アプリを用いた健康増進に関する取り組み~エクササイズアプリ・ロングライフサポート~』
帝京大学ちば総合医療センター整形外科
山本陽平氏
【概要】
運動不足・筋力低下は健康寿命に関連する。筋肉量の低下により骨折が増え、平均寿命と健康寿命の差となる。大腿骨近位部骨折術後5年後の死亡率は、膵臓ガン切除後5年後の死亡率と同等とされている。骨折の原因としては骨粗鬆症や転倒、運動不足などが挙げられるが、正しい服薬と正しい筋トレで早期の骨密度改善が期待できる。しかし運動というと散歩だけをしていればいいと考える患者も多いが、散歩だけでは筋トレとしては不十分である。筋トレ・持久力トレーニングは疼痛と機能障害を改善させ長期効果を有すると明らかになっており、筋トレをするよう指導しても外来腰痛患者のホームエクササイズ実施率は26%にとどまっている。どうすれば継続できるのか。この問題解決のため、エクササイズアプリ『ロングライフサポート』を開発した。
このアプリは大学病院整形外科が発案したもので効果も検証されており、平均75歳の100人中95人から好評価を得ている。安全性も確認済で、疼痛があっても運動可能となっている。週1時間の運動は早期死亡を17%減少すると報告されているが、このアプリの10分の動画を見ながら毎日運動を行うことで目標を達成できる。運動した日は自動的にカレンダーに記録でき、定期的な運動を習慣づけられる。慢性腰痛患者・変形性膝関節症の患者に対し『ロングライフサポート』を用いた研究では、両疾患患者ともに約80%の実施率となり、疼痛、筋力、QOLアンケートにおいても有意な改善を認めた。
そこで現在、同疾患における疼痛スコア及びVAS変化を主目的として、アプリを用いたホームエクササイズvs外来リハビリテーション研究を行っている。腰痛の3か月後の疼痛改善度はアプリの方が若干高いという結果となったが、対象人数が少ないため追加報告を予定している。さらに、骨粗鬆症薬を使用しながらのアプリのみvsロコモパンフレット研究も行っている。初回骨折後、1年以内の2次骨折相対リスクは5.3となるため、早期に骨密度増加を実現し、骨折の負の連鎖を断ち切る必要がある。半年の研究の結果、アプリ併用の各薬剤の効果は、薬剤単独と比べ数倍のスピードで上昇する可能性がある。パンフレット併用時と比較しても上昇率はより良い傾向にあり、今後1年間の結果を報告する予定である。
アプリは医療機器ではないため誰がサポートしてもよい。市原市では、高齢者対象の運動団体である通いの場200か所にアプリを告知、実際の開催場所にてアプリの説明・無料トライアルを実施している。柔道整復施術所は約5万か所あるが、来院するのは70歳代が最も多く80歳以上は激減する。施術だけではなく地域の運動コミュニケーションの場とすることでメディカルフィットネスが構築でき、施術所へ来院する機会も創出できるのではないか。
学術教育部講演
柔道整復師の今と匠の技伝承プロジェクトの意義
公益社団法人日本柔道整復師会学術教育部長
徳山健司氏
【概要】
「 匠の技 伝承」プロジェクトは単なる技術の伝承ではない。しっかりとしたエビデンスを示すためにも技術の平準化が肝要。再現性のある施術を行うことでデータを蓄積し、柔道整復療養費へと繫げていく。経験や勘に基づく施術がこれまでの柔道整復であったが、これからは根拠のある施術、論理的な分析が必要となる。
国民皆保険制度の目的である「いつでも・どこでも・誰でも」治療を受けられる公平性を担保するためには、医科ではガイドラインによってどのような治療が最適であるかが示されている。中央社会保険医療協議会において『ガイドラインのない学会に対しては強くガイドライン作成を要請する、「ガイドラインのない治療法は報酬の対象にはなりえない」との発言が厚生労働省からあり、2022年診療報酬改定に費用対効果判定を導入することが決まった。当面の間は単価の高い治療等について検討することになった』とされた。柔道整復術も治療行為であるとすれば費用対効果判定基準となるガイドラインが不可欠であり、療養費施術を守るためにも「効果検証」が重要となる。
業界をあげてエビデンスを高めるために、エビデンスレベルを意識した研究論文や症例集積、症例対象研究に取り組まなければ業界の発展はない。再現性もなく偶然であることやたまたまであることを統計解析で否定できないものは研究ではない。また、学術大会で発表することはあくまでも論文投稿のための事前準備であり、雑誌に論文を投稿し、厳しい査読審査を経て掲載されて初めて「論文を発表した」と言える。柔道整復分野では研究データの蓄積がない。論文が積みあがれば診断の精度向上、施術の効率化などにもつながる。論文知識を正しく持つ柔道整復師が増えればガイドラインに近づく。柔道整復師が保険による施術を継続していくためにも、柔道整復術の科学性が外部へ認知されるような活動をしていただきたい。
エコーを柔道整復師の手に
公益社団法人日本柔道整復師会学術教育部
小野博道氏
【概要】
柔道整復師がエコーを使用するのは医師法違反ではないかとの意見を持つ人もいるが、平成15年に厚生労働省医政局医事課長通知により「柔道整復師が施術に関わる判断の参考とする超音波検査については柔道整復の業務の中で行われることもある」、平成22年には厚生労働省医政局医事課事務連絡として「柔道整復師が施術に関わる判断の参考とする超音波検査は施術所で実施しても関係法令に反するものではない」と示されている。しかし、まだエコーに触れたことがないという人も多いかと思われる。実際にエコーを導入している施術所は10%にも満たない。
エコーは、施術に関わる判断の参考とするためのものであり、診断をするためのものではない。柔道整復師は患者の症状を見て、問診・視診・触診、そして徒手検査を行って評価をする。しかしこれには経験が必要で、臨床実習をしている学生が患者の評価をしようとしてもできるものではない。そこで徒手検査を行ったら評価をする前にエコーで観察を行うことで、確実な評価を出せるようになる。また、自分の評価が正しかったかどうかを確認したり、治癒過程を観察したりする手段にもなる。患者に対しても画像として視覚的に説明することができ、患者安全・安心のためにもエコーは非常に有効である。 柔道整復の適用範囲内なのかどうかも判断することもでき、整形外科に紹介する際にも評価の材料を示すことで信頼関係も構築できる。実際に触診とエコー観察を行って骨折が疑われた患者を整形外科に紹介し、レントゲンでは骨折を認めないもののエコー検査で骨質の不連続性を認め、骨折と診断されたという症例もあった。
我々柔道整復師は外傷のスペシャリストと言われているが、エコーが必須アイテムとなる時代が必ず来る。患者のためにもエコーを普及させ、「柔道整復にエコーがあって良かった」と言えるように後世に伝えていかなければならない。
この他、ワークショップ2題、神奈川学術交流研究発表1題、一般口頭発表9題が行われた。
全発表終了後、発表者表彰が行われ本学会は幕を閉じた。
また、同時開催された「柔整・鍼灸メディカルショーin東京」では、柔整・鍼灸合わせて約40もの企業が出展し、最新医療機器などの展示を行った。公益社団法人日本柔道整復師会・山﨑邦生保険部長による「柔道整復療養費セミナー」をはじめとする特別セミナーも多数実施され、盛況であった。
神奈川学術交流研究発表
- 手根管症候群の対応について公益社団法人神奈川県柔道整復師会
鈴木崇之
(敬称略)
一般発表
- 足関節捻挫に伴う皮下組織損傷の処置と有効性について北多摩支部
ふかさわ接骨院 東京医療専門学校 深澤晃盛 - 足関節両側同時捻挫における施術および再発予防港支部 豪栄整復院・西麻布 赤羽一輝
- シニアサッカー選手に対するテーピング施行部位帝京短期大学 田辺健一郎
- 右尺骨鈎状突起骨折に対しシリンダーキャストを用いた一症例SBC東京医療大学・
健康科学部整復医療・トレーナー学科
桐林俊彰 - 2型固定にて遅延仮骨形成に陥った3型マレットフィンガーを癒合に導いた1症例新宿支部 かねがえ接骨院 鐘ヶ江亮
- 外側上顆炎を疑う非外傷性の後骨間神経麻痺の一例について野島整形外科内科 東京呉竹医療専門学校
立木北斗 - メディカルサポートに関する活動報告:ミュージカル・舞台の事例江戸川橋はりきゅう整骨院 西沢正樹
- 柔道整復師・鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師 国家試験過去問題の比較 -解剖学・生理学に着目して-アルファ医療福祉専門学校 塩﨑由規
- 振動刺激が筋に与える影響に関しての文献調査帝京平成大学院
健康科学研究科柔道整復学専攻
日比宏紀
(敬称略)
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