「匠の技 伝承」プロジェクト第2回指導者養成講習会開催
2021年11月7日(日)、日本柔整会館(東京都台東区)において、『公益社団法人日本柔道整復師会「匠の技 伝承」プロジェクト第2回指導者養成講習会』が開催された。今回は肩甲上腕関節脱臼をテーマに、整復・固定及び超音波観察の講習が行われた。
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(公社)日本柔道整復師会・工藤鉄男会長は〝「匠の技 伝承」プロジェクトの指導者となるべく、休日にも関わらず参加いただき感謝申し上げる。柔道整復術は一度消滅したが、柔道整復の技術と技能を国民のために役立てたいという想いで先達が議論を重ね、大正9年に復活した。その後、柔道整復業界は100年続いているが、現在も様々な問題を抱えている。そのひとつが技術の衰退であります。養成校の乱立により柔道整復師が多く誕生した一方で、しっかりした技術を学ばず安易にあん摩マッサージのみを行う柔道整復師も増えた。これでは業界の存続が危ういと考え、すべての柔道整復師に骨折・脱臼の施術が学べる環境を作るために「匠の技 伝承」プロジェクトを立ち上げ、その指導者を育成することから開始した。地域住民から信頼される職業として、技術と技能を高め、さらにそれを裏付けるための科学的検査機器としての超音波観察装置取り扱いの技術を身に付けてもらうため、10年計画でプロジェクトを進めています。腰痛や肩こり等の症状に対するセミナーを行っているところは多くあるが、一つの損傷に対する施術だけを突き詰めていても、他の損傷に対しては治療できない、それでは困ります。我々はそういった一つの損傷に対する施術ではなく、すべての骨折・脱臼・軟部組織損傷に対する手当は学術的根拠を理解した上で、地域の柔道整復師に技術と知識を伝え、皆が同じ水準で施術を行えるようになることをこのプロジェクトの目的としている。柔道整復師は骨と軟部組織損傷の専門家であると社会に認められるためにも、技術の向上が重要で必要不可欠であると理解していただきたい。皆さんには指導者として、地域住民に「柔道整復師は身体を傷つけることなく、骨折や脱臼、筋腱軟部組織の損傷を治療できる職業だ」「国家資格者であり無資格者とは全く違う」ということを認識してもらえるよう、このプログラムを実行し、そして習得した技術を提供していっていただきたい〟と力強く語った。
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(公社)日本柔道整復師会・長尾淳彦学術教育部長は、当日の講習内容について〝今回は肩甲上腕関節の脱臼がテーマとなり、前回のレポートもすべて読み、ご意見ご要望も参考にさせていただきますので、ぜひ今回も要望を出していただき、皆さんの声をどう反映させるかを検討していきたい。この講習は、「全国いつでもどこでも誰もが」日本柔道整復師会会員の施術所であれば、均一の水準で施術が受けられることを目的としている。骨折・脱臼の整復・固定だけではなく超音波画像の解析も勉強しているが、我々が日頃から行っている骨折や脱臼、捻挫、打撲の鑑別や検査方法はもちろんのこと、治癒までの過程を理解していないと医療の一端を担っているとは言えない。疼痛や腫脹の有無、可動域など外から見えることだけではなく、なぜ治癒するのか、組織はどうなっているのか等、理論的に理解し、またそれを説明できなければ、柔道整復師の質の向上は有り得ない。そういった基礎を今一度学習して柔道整復師の施術力として還元してほしい〟と説明を行った。
整復・固定実技実習
講師:田邊美彦 氏
田邊氏は肩甲上腕関節前方脱臼の整復・固定法として、ヒポクラテス踵骨法による整復と麦穂帯固定の手順を解説。〝患者が痛がると力が入って整復ができないため、できるだけ痛みがないように配慮する。そのために、まず患側腋窩にタオルを当てる。背臥位の患者横に接して座り踵および足の外側縁を患側腋窩に柔らかく当てて肩甲骨を調整する。両手で前腕部を握り、膝は軽く曲げ、強く握らず、平たく優しく握ること。そして身体の全体を使うようにしてゆっくりと外転・外旋位に末梢牽引する。同時に足底部を入れて牽引し、足底部を支点として内転・内旋して徐々に膝を伸展しながら押し込むようにして整復する。固定時は腋窩に枕子を入れ、湿布と厚紙副子を当て、麦穂帯を用いて上腕を体幹に固定するように巻き、前腕を三角巾で吊る。前方脱臼では肩関節軽度の屈曲内旋位を保つように固定を行う〟と解説した。
続いて各都道府県参加者による整復・固定実技に移った。田邊氏は〝最後まで痛みを感じさせずに整復することが理想〟として、整復時の腋窩にあてる足の位置や整復スピード、固定の際の包帯を回す角度や副子の位置等までじっくり指導。〝脱臼時の状態や患者の性別・状態などに合わせて一番負担のない整復法を選択できるよう、整復法の引き出しは数種類持っておくとよい〟とアドバイスした。
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超音波観察装置・操作技術編
講師:佐藤和伸 氏
超音波観察講習開始に先立ち、長尾学術教育部長は〝我々柔道整復師は医療面接から徒手検査、鑑別を行うが、その後超音波観察装置を用いて状態または進捗状況の確認をしていただきたい。まずは治癒過程をしっかり理論的に学んでいただき、超音波観察装置を施術所に常備していただくようご協力をお願いしたい〟と呼びかけた。
佐藤氏は〝まず基本として、向かって左が中枢、右が末梢となるよう観察する。肩峰が白く出たら固定し、扇状にピボット走査を行う。スーペリアファセット(大結節上面)は棘上筋腱の付着部で一番高い部分となる。そこから長軸走査で末梢に向かってスライドする。その際、線状高エコーとして描出されるように注意すること。次に、向かって左が小結節、右が大結節、その間に結節間溝と上腕二頭筋長頭腱がある。ここで注意するのが入射角。上腕二頭筋腱が白く写るよう、入射角を調整しながら下からあおるようにプローブを当てる。さらに末梢に移動すると、向かって左に上腕二頭筋腱、右に上腕骨の短軸像が描出される〟とポイントとなる部分を押さえながら観察の流れを解説した。
続く各都道府県参加者による実技では、各参加者の動きと超音波画像をじっくりと確認しながら、〝輪切りにするイメージで、押すような感じで上腕骨を出す。線状高エコーとなるよう気を付けること。スムーズに短時間で白く描出できるようになるには、とにかく慣れが必要〟等、丁寧に指導した。
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総括として、田邊氏は〝皆さんよくできているが、肩関節の脱臼がどのように起こっているのかを考えて、仮説に基づいた治療法が考えられるとより良くなります。願わくは、小児の肘内障、肩関節や顎関節の脱臼は「接骨院に行けば痛みなく簡単に治してもらえる」と思ってもらえる社会を作りたい。頑張って一緒にやっていきましょう〟、佐藤氏は〝超音波観察装置による肩関節の描出は非常に難しいが、スムーズにできていたと思う。大切なのは技術よりも、プローブに触って積極的に使って慣れていただきたい〟と述べた。
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最後に、長尾学術教育部長は〝次世代に骨接ぎの技を継承していくために行っているこのプロジェクトだが、いつでも・どこでも・誰もが骨折・脱臼を施術できる、また受けられることを目指しているということをご理解のうえご参加いただきたい。レポートにはすべて目を通すので、ご自身の思いや要望等、何なりと記載いただきたい〟と閉会の辞を述べ、終了となった。
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