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インタビュー:帝京平成大学ヒューマンケア学部柔道整復学科・樽本修和 氏

2015/06/16

昨年の第23回日本柔道整復接骨医学会で大会長を務められた冲永寛子氏は、帝京平成大学の学長である。いま、柔整大学が14大学ある中で、帝京大学グループの存在は大きいものがあり、当然優秀な指導者をそろえている。

中でも、帝京平成大学ヒューマンケア学部柔道整復学科の学科長を務める樽本教授は、30年もの長きにわたり柔道整復教育現場で指導にあたられ、研究者としても活躍され、その上、臨床経験も豊富である秀逸な人物といえよう。近年、柔整界は混沌としており、一筋の光明をみつけてくれる方である。研究論文や著書も数多く出されている樽本教授に、いま臨床の場で問題とされていることに対し、学問的に説明していただいた。

 

柔道整復物理療法のエビデンスを追及し、 臨床研修センターの創設を願っています!
樽本修和氏

帝京平成大学
ヒューマンケア学部
柔道整復学科学科長・教授
樽本  修和  氏

 

 

―第23回、今年の国家試験の合格率が素晴らしいですが、成功の秘訣は気合にあるのでしょうか?どういった教育指導をされていらっしゃいますか?

気合だけではうまくいきませんね(笑)。本学としては、学士を修得しかつ臨床に役立つ柔道整復師を目指しています。やはり国家試験に通るだけではなく、本学の建学の精神でも、「実学の精神」が掲げられておりますので、直ぐには出来ないかもしれませんが少しでも実務のことができるよう、実際に行われる実技実習や臨床実習に力を入れています。他の大学と比較してもそれ以上に行っているものと自負しております。

また私どもは最低でも90%以上が合格しなければと考えております。そのために我々は寺子屋方式と称して、学生が主体でお互いに教え合う方法です。教員は、その道しるべを示すだけです。勿論、勉強に取り組むためには気合いも必要ですが、大事なことは、プライドをくすぐることが重要です。例えば、専門学校では3年間の勉強で国家試験を合格することができるのに、「君達は4年間も通って国家試験に合格できなければ恥ずかしいじゃないか」というように彼らのプライドやモチベーションを上げることが重要です。

国家試験対策の方法にはいろいろあると思いますが、もう一つ重要なのは、4年時のカリキュラムが国家試験にうまく適合するように組まれている点です。つまり、総合演習を分けまして、解剖・生理・病理といった基礎専門科目の先生にも一緒に入って補習を行うやり方が功を奏しているのではないかと思っています。

また、過去問を沢山やれば良いというものではなく、この問題は何を意味しているのかをしっかり考えて行うこと。そしてその問題に関連する語句を必ず理解する。問題を一つひとつ意味深く把握しているところが、国家試験の合格率に繋がっていると思います。

また、国家試験対策というのは、やはり先生方のチームワークが良いか悪いかで決まります。本学国家試験対策の良いところは、先生方のチームワークが良いことです。ここが重要になってくると思います。多くの先生は国家試験対策をあまりやりたがらないので若い先生に任せることがみられます。勿論若い先生方に動いてもらわないといけない訳ですが、経験豊かな先生のやり方プラス若い人のバリバリやるやり方とをマッチングさせること、本学ではそれが上手くいったのではないかと思っております。果たして来年はどうなるか(笑)、ただ毎年90%以上を超えています。

 

―ある方が某大学で理学療法、看護、鍼灸、柔整などの学部がある中で、学力は別として、マナーの良さを含めて人間力みたいなものが優れて凄いものがあり社会からその辺をもっと評価されてもよいのではないだろうか、とおっしゃられていました。その辺について樽本教授が抱かれている感想や教育についてお聞かせください。

柔道整復師の置かれている立場は、いつも崖っぷちです。医療の社会では失敗できないのが宿命であります。特に外傷を機転として損傷する部位には、評価・治療法が的確に行われないと結果はすぐ患者さんに分かってしまいます。例えば、肩の脱臼を整復できなかったら患者さんは苦痛とセラピストに疑問を持ちます。ですからその技術の鍛錬が不可欠になります。麻酔や投薬・検査機器などは使用できないので、知識と経験と技術が頼りになるわけです。常に患者さんの気持ちを考え、少しでも苦痛のない肢位でより早くかつ安全な方法が要求される為、患者の精神状態を把握し、身体の機能をよく理解することが最も重要です。教育の現場では精神的な部分と身体機能の部分との両方を理解させることを教育しています。

柔道整復師の人間力といったものを考えた時に、柔道や野球等、スポーツをしていた時に培われてきているのではないかと思われます。ある意味で、器用貧乏だから柔道整復師の学校にくるので、器用で頭が良かったら医者になっています(笑)。簡単に言っているようですが、一番重要なことだと思います。「学生時代にスポーツで怪我をして接骨院の先生が優しくしてくれたから私もそういう仕事をしたい」という学生が殆どです。医者の世界も何処も一緒だと思いますが、医は仁術なりと言われていますけど、仁術が算術になっている人もいます。柔道整復師は弱い立場ですし、常に崖っぷちで、社会的又は法的な基盤は脆弱です。その中で雑草の如く生き残っていくというのは、地域の患者さん、大きくいえば国民の信頼を得るものを従事してきたからで、それでなければ今頃は消滅してしまっていると思います。

 

―今大学が多く出来ましたが、帝京平成大学では、どういったことに力を入れていらっしゃるかについてもお願いします。

帝京平成大学は建学の精神である実学をモットーにして教育しています。特に基礎医学的知識と先進的な実技実習や臨床実習の充実を図る様なカリキュラムを組んでいます。勿論評価も行っており、ゆくゆくは帝京グループのオスキー(OSCE)をつくろうということで取り組んでいます。また,医療の現場を考えますと、他の医療業種との交流も考えていますので、理学療法の教員や心理学・栄養学・作業療法士等の教員との特別講義や学生同士の討論会などを考えています。交流することで、理学療法士は、柔道整復師は、医師は、鍼灸師はどうやるだろうかということを考えて、やはり大学という大きなキャパを考えた時に、他業種の人たちとの交流によって情報交換、もしくは情報の共有をしていくことが重要です。

現在、柔道整復師のためのコンサルタント外来を開設する構想を考えています。コンセプトは本学の理念である「実学の精神」に則り、卒後も柔道整復師として社会に貢献できる人材を教育するために行う。卒業生の中には就職した先での臨床教育が不十分であったり、困った症例の相談の場がない、レントゲン撮影を依頼できる病院とうまく提携できていない、など多くの問題点を耳にします。各地域の柔道接骨師会で担当・日時を決めて整形外科医が相談を受ける形を取っていますが、実際十分機能していないのが実情です。そこで柔道整復学科として、卒後教育の一環として他大学には例をみない柔道整復師を対象とした(接骨院の患者)コンサルタント外来を開設し整形外科医と専任教員1名、臨床実習施設接骨院の柔道整復師1名で診療にあたり、評価・治療のアドバイスを行います。手術が必要な患者であれば、帝京大学病院に紹介します。卒後教育の意味合いが大きいので、紹介元の卒業生には事細かに評価・治療についてアドバイスをする返信を作成し郵送します。文献なども付け、卒後もしっかり勉強ができるようにサポートします。対象は帝京平成大学柔道整復学科を卒業した者や近隣地域の接骨師会の会員を対象にします。つまり医接連携の確立を目指します。

 

―今回は、学術的な視点でお話をお聞きしたいと思います。ある意味では初歩的といいますか、臨床上のお話をお聞かせください。樽本教授は、学術的な視点でみて、柔整業界でどのような問題が在るのかお聞かせください。

一つは、臨床に出て研修する場所、環境にも問題がありますし、国家試験に合格して柔道整復師の資格は取りますが、柔道整復術を知らないというのが一番問題であると思っています。これは教育者にも問題があると思いますし、受け入れる業界にも問題がある訳です。〝そこをどう解決していくか〟です。

では、どういったことが問題なのか、一つは、学校を出たばかりの人達は当然でしょうけれども、評価をする能力が著しく乏しい。また、適切な評価能力が備わっていないのに開業を早くしてしまう。しかも患者を抱え込んでしまう柔道整復師が多く、そういう人たちが沢山輩出されている現状がある訳です。免許を取ってしまえば、柔道整復師はいつ開業しても良い。もっと言えば医師との連携がとれない。その原因は、決められた期間の臨床研修を受けない柔道整復師や臨床の研究機関が整備されていない状況があります。これは非常に重大な事で、受け入れ側の整備、例えば接骨院の施設の整備・設置の問題もありますが、先生方の能力の問題もあります。

よく卒後教育といわれますが、形式的な話で、殆ど個人接骨院に任せることになります。個人接骨院のレベルはどうであるとか、基準や評価が無いわけです。それが大きな問題で、業界全体で臨床研修できるような場所を開設することが必要です。これは私の考えですが、接骨院を開業している先生方に年間1万円でも良いから寄付をしてもらって基金を作ることです。柔道整復師としてプライドを持って国民のため、地域医療の一端を担っているという証明をするような取り組みが必要であると考えます。簡単にいえば、誰でも臨床研修ができるような場所を業界が作るべきじゃないかと、政治力も必要でしょうけれども、今もっと大事なのはやはり適切な評価をする能力が乏しくて患者を抱え込んでしまって他の業種の人と上手くやれない柔道整復師が弊害になっている訳です。それは何故かというと柔道整復師が開業権を持っているからで、開業権を持つということは勝手なことをやる訳です。勝手にやることを臨床整形外科医会の先生は問題視しています。それが問題視されているのであれば、研修できる場所をつくって、例えば卒後教育を2年行うというのであれば、その整備をしなければなりません。

臨床は重要ですので、臨床ができるシステムを如何につくるか、教育者も勿論ですが、これについては業界の仕事であるように思います。このように社会に役に立つようにしないと結局は新しく出た柔道整復師が研修する場所がない。外傷は答えが出ますから、上手い、下手、名医であるか、名医でないか、分り易いんです。其処は我々の特権ですので、痛みや慢性疾患的なものも重要ですが、それ以上に外傷に対する治療法を確立しておくことが重要です。私が一番大事にしているのは、それを証明することです。業界団体がある訳ですから、業界全体で、症例データの共有化をはかる、例えば足首の捻挫100症例より1000症例のほうが良い訳で、1000症例より10000症例がもっと良い訳です。そういうデータベースを作って、データの共有化をはかることです。

そして、もう一つ大事なのは、療養費の費用対効果であり、そのデータベースが作られていないのです。柔道整復師の治療が良いのか悪いのか、医療経済的な考えの中でみれば簡単に分かるデータが必要で、いま私がそのモデルを作って、論文を書いている最中です。適切な柔道整復師の原価を出せば、厚労省との交渉のベースにもなり得ます。根拠のある療養費費用対効果のデータベースを作って、それを活用することで、国民に柔道整復師は本当に役に立っているということを周知徹底することが重要だと思います。実際柔道整復師は一生懸命仕事をしているんです。処方箋を書いてお金をもらうわけではありませんから、汗かいて手足を動かして、手技療法・物理療法を施すなどその汗は尊いものです。柔道整復師を上手く活用することで、医療経済的にも国はうまくやれることになると思われます。

 

 

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