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日本転倒予防学会第2回学術集会 開催

2015/10/16
シンポジウム

草原に架かる虹を追って

特発性正常圧水頭症の症状と治療:わが国の多施設共同ランダム化比較試験

洛和会音羽病院正常圧水頭症センター所長
石川正恒氏

高齢者の水頭症として知られる正常圧水頭症は、小刻み歩行・物忘れ・尿失禁の3症状であるが、これに加えてバランス障害としてのふらつき易転倒性が見られる。しかしこれらは高齢者にはいずれも非特異的であり、原因不明の特発性は長い間無視されてきた。そこで多施設ランダム化試験をもとに、特発性正常圧水頭症の診断と治療について述べる。

 

前立腺疾患と転倒

JCHO東京新宿メディカルセンター副院長・泌尿器科部長
赤倉功一郎氏

前立腺疾患患者における転倒や骨折のリスクには今まであまり注意が払われてこなかったが、夜間頻尿は転倒のリスクを増大すること、前立腺がん患者の治療経過において骨折は有意な予後因子であることが判明した。全離船疾患を有する患者の転倒予防のためには、原疾患への治療と共に総合的な対策が必要となる。

 

■神経難病と転倒
―特に進行核上性麻痺(progressive supranuclear palsy:PSP)を中心に―

国立病院機構東名古屋病院神経内科リハビリテーション部長
饗場郁子氏

神経疾患患者は症候として、転倒に関し、姿勢保持障害、麻痺、認知機能低下など様々な要因を持っている。神経疾患の中で最も転倒が多いのがPSPである。PSPの他に神経難病にはパーキンソン病、脊髄小脳変性症、多系統萎縮症、筋委縮性側索硬化症など様々な疾患があり、疾患ごとに予防対策も異なるため、神経難病における転倒の特徴と予防対策を紹介する。

 

転倒に注意すべき薬剤―睡眠薬を中心として―

東京逓信病院薬剤部副薬剤部長
大谷道輝氏

医療医薬品添付文書の副作用に「転倒」と記載されている医薬品は数品目しかない。一方で副作用に「ふらつき」と記載されている医薬品は1000以上に及ぶ。高齢者では筋力の低下に加え、医薬品による副作用が転倒の原因となっている。今回は睡眠薬を中心として当院における転倒に対する睡眠薬の取り組みについて紹介する。

 

糖尿病と転倒

東京都健康長寿医療センター糖尿病・代謝・内分泌内科 内科総括部長
荒木厚氏

高齢糖尿病患者は年間に18~78%転倒し、糖尿病がない人と比較して約1.5~4倍転倒しやすい。糖尿病患者はサルコペニアやフレイルになりやすい。糖尿病における転倒を予防するためには、適切な血糖コントロール、下肢のレジスタンストレーニング、バランストレーニング、環境要因の調整、薬剤数を減らす事などが必要である。

 

栄養と転倒

筑波大学大学院人間総合科学研究科生涯発達専攻准教授
山田実氏

転倒に直接的に関係する栄養素はおそらく存在しない。最も関係が深いのは、サルコペニアへの栄養介入を介した2次的な転倒予防効果であろう。栄養介入は単独でもある程度の効果は認められているものの運動との組み合わせでその効果が高まることがわかっている。サルコペニアに対し栄養介入を行なう場合には運動と組み合わせ、タンパク質、BCAA、ビタミンDなどを毎日摂取させるのが良い。

 

イブニングセミナー
認知症高齢者の転倒予防

浜松医科大学医学部看護学科教授・日本転倒予防学会副理事長
鈴木みずえ氏

鈴木氏人口の高齢化に伴い認知症患者も増大しており、厚生労働省の推計では平成25年には認知症の有病率は65歳以上人口の5人に1人、700万人を超えると予測されている。介護施設や病院での転倒も増加しており、立位からやベッド、車椅子からの転倒が多く、時間帯としては早朝5~10時や夕方16~20時など職員が少ない時間帯に起きやすい。日常のちょっとした動作で転倒することも多くなる。アルツハイマー型認知症の高齢者はそうでない同年齢・同性の高齢者と比較して3倍、徘徊する人はしない人の5倍のリスクがある。レビー小体型認知症の場合は、パーキンソン症状などで10倍にも膨れ上がる。認知症は記憶障害が主な症状で、それが生活や仕事などの社会生活に支障をきたす。さらに失行、失認などの中核症状も現れ、対人関係に大きく影響する。

認知症高齢者も、認知症ではない人と同様に自分の意思や経験を持っており、尊厳が脅かされた時に苦痛を感じる心がある。人生で培われた独自の価値観や生活習慣などがあるのに、コミュニケーション障害でニーズや苦痛を訴えることができずに、焦燥・徘徊などのBPSDや転倒につながる危険な行動を起こしやすい。高齢者がする行動には何かしらの理由があるのだと考え、その意図を明らかにすることが大切。原因を明らかにすることで突発的な行動や興奮して歩き回るなど転倒の大きな要因となる行動を緩和することができる。症状や原因は人それぞれであるため、いろいろな角度から介入する多因子介入が効果的であるとされているものの、まだ効果的なケアプログラムは考案されていないのが現状である。

苦痛を訴えている気持ちを汲んで患者のニーズを考え、心を穏やかにすることで転倒を引き起こす危険な行動を緩和させ転倒リスクを減らす。コミュニケーションを重視し、患者本人の視点を大切に「自分だったらどうか」と考えて、中核症状などのリスクを踏まえて危険行動の原因や真のニーズを理解してできるだけ早く対応すること、BPSDや感情の変化をアセスメントし個人の独自性に合わせて精神的な混乱を緩和して生活を整えることが必要とされる。

 

大腿骨近位部骨折に対する多職種連携アプローチ

富山市民病院副院長 整形外科部長・金沢大学医学部整形外科臨床教授
澤口毅氏

澤口氏日本は世界で最も高齢化率が高く、すでに人口の4分の1が65歳以上となっている。増加の一途を辿っている大腿骨近位部骨折は年々患者層の高齢化が進み、85歳から89歳の女性に多く死亡率は10~30%といわれている。一方で早期手術のメリットが大きいといわれており、安全・円滑な早期手術を行う必要がある。手術はできるだけ少なくし、受傷から手術で固定されるまでの期間を短くすると身体への負担も少ない。また服薬によって転倒しやすくなる場合もあるため、入院時に整理し必要な薬だけに絞ったほうが良い。そのためにも多職種の連携が不可欠である。

このような脆弱性骨折が起こる基盤には骨粗鬆症がある。大腿骨近位部骨折を起こしただけで骨粗鬆症と診断して良い。大腿骨近位部骨折は室内のちょっとした転倒で起こることが多く、大腿骨近位部骨折を起こす高齢者は様々な既存疾患を伴い中枢神経の障害や心肺機能などの身体機能の低下もみられる。欧米では多職種連携アプローチとして、様々な疾患を持った高齢者の骨折に対し、関連した各分野の専門家が連携して治療が行われている。このシステムを取り入れ効率的に治療するため、富山市民病院では「様々な疾患を持つ高齢者がたまたま骨折し来院したので病院全体で治療する」ということを基本方針として、医師・看護師・理学療法士・放射線技師等をメンバーとしてチームを構成した。チーム医療を進めるうえで、自施設の現状を把握し、他の職種に連携の必要性を理解してもらうことが重要となる。連携を円滑にするために、各部門内あるいは部門間の問題点を検討しあってメンバー同士の良好な関係を築く必要もある。そして成果をまとめチームに示し、統一電子カルテを作成し情報を共有した。

連携開始後、救急室平均滞在時間は43分短縮し、平均手術待期期間は1.3日(全国平均4.6日)となった。また、退院時ADLが改善し、回復期病院退院時に受傷前の機能を半数以上が維持できるようになった。職種間の連携上の問題点を取り除くことにより、診療をスムースにして早期に安全な治療を行えるため、患者へのメリットは大きい。職種間の相互理解も深まり、医療者側にとってもメリットが大きい。

 

この他、パネルディスカッション2題、ワークショップ1題、ランチョンセミナー2題、スポンサードセミナー1題、一般口演6題、ポスター発表7題が行われた。総勢670名が参加し、どの発表においても質問や意見交換が盛んに行われ、非常に活気あふれる学会となった。

 

 
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