(公社)日本柔道整復師会 第36回関東学術大会山梨大会 開催
2014年3月9日(日)、桃源文化会館(山梨県南アルプス市)に於いて『公益社団法人日本柔道整復師会第36回関東学術大会山梨大会』が開催された。
『真の医・接・介護の連携』をテーマに掲げた本大会は物故会員に対し黙祷が捧げられた後、日本柔道整復師会関東ブロック会・大藤忠昭副会長の開会の辞により開会。大会会長挨拶にて登壇した(公社)日本柔道整復師会・工藤鉄男会長は〝昨年6月23日に新執行部を発足したが、執行部の代表としてまず行なうべきなのは信頼を取り戻すことだと考えている。保険者に対する信頼、行政・国に対する信頼、そして何よりも治療を通して得られるはずの国民からの信頼が失われてかけている。将来、日本は人口減少と同時に経済も縮小されていくと予測されているが、そこで我々は何をすべきか。学術・技術研鑚により知識と技能を高め、人から信頼される職業にしていかなければならない。また尊敬される人間、職業人にならなければならない。少子高齢化社会に向けて柔道整復師が活躍する場所も広げていかなければならない。これらを達成するために皆で努力し、国民の健康と安全と幸せを与えられる職業にしていきたいと考えている〟と信頼回復の重要性と共に業界の未来に対するビジョンを熱く語った。
次に来賓として祝辞を述べた山梨県知事・横内正明氏からは、まず今年2月の記録的な大雪の話題に触れ〝山梨県は観測史上最大の雪の被害に見舞われた。同様に栃木や群馬、埼玉なども被害があり、皆さんも大変だったことと思う。本県でも今、復旧に全力をあげて取り組んでいる〟と状況を報告した後、〝柔道整復師の皆さんには日頃からそれぞれの地域住民の保険医療の充実に多大な尽力を賜っていることに厚く御礼申し上げる。本県でも整骨師会の先生方には青少年の健全育成のための少年柔道大会開催や各種スポーツ大会でのボランティア活動、さらには県の災害発生時における応急救護支援協定締結など、様々な事を通じて地域社会に多大なご貢献をいただいている。医療を取り巻く環境が変化していく中で、柔道整復師の皆さんは介護・福祉なども含めた幅広い分野で活動の場を広げてきている。これからの地域の保健医療の充実を図っていく上で、皆さんの協力は欠かせないと我々行政は考えている。皆さんの専門的な知識・技術にさらにより一層の磨きをかけていただき、住民の健康増進にお力添えをお願いしたい〟と柔道整復師への期待を挨拶に込めた。
その他にも衆議院議員・宮川典子氏、南アルプス市長・中込博文氏、山梨県議会議長・棚本邦由氏から温かいお祝いの言葉が送られた。
歓迎の辞では、体調不良のため同大会を欠席した(公社)山梨県整骨師会・清水隆会長の言葉を井出正治副会長が代読。〝本学会は柔道整復師が日頃の業務を通じて得た研究成果を発表し研鑚する事により、地域医療・地域社会に貢献する事を目的に昭和49年に群馬県にて第1回が開催され、回を重ね本日山梨大会を迎えられた。柔道整復師の業界を取り巻く環境も様々な問題が提議され厳しい状況となっているが、これらの問題に立ち向かうには柔道整復師一人ひとりが襟を正し学識・見識を高め、切磋琢磨し人格を高め、より向上した技術を提供する事が必要である。本日は先生方の特別講演ならび研究発表を熱心に聴き、明日からの施術に役立つ実りの多い学会になる事を願っている〟と会場に詰めかけた柔道整復師たちを鼓舞した。
続いて来賓紹介および祝電披露が行なわれ開会式は終了し、特別講演へと移った。
特別講演1:スポーツによる下肢傷害の病態と治療
国立病院機構甲府病院外科系診療部長 山梨大学医学部臨床教授 萩野哲男氏
萩野氏は〝スポーツ傷害はスポーツ活動中に身体に大きな力が加わることにより起こる「スポーツ外傷」と繰り返すスポーツ動作により身体が酷使されて起こる「スポーツ障害」に分類される。スポーツ外傷は治療までの間に応急処置として、RICE(安静・冷却・圧迫・挙上)処置を行ない急性炎症を抑えることが重要〟とした上で、半月板損傷と前十字靭帯損傷をはじめとする膝関節・下腿部に多いスポーツ傷害について、主な受傷原因やその後の症状、検査法を多くの症例と共に解説した。
特別講演2:高齢社会の現状と今後
~社会保障制度改革と医療・介護連携~
独立行政法人福祉医療機構 福祉貸付部長 千田透氏
千田氏は〝75歳以上の高齢者は急速に増加している。富裕層と貧困層の格差は広がり、低所得労働者が増加。ワーキングプア、ネットカフェ難民など新しい貧困層が生まれている。孤立死、徘徊死・行方不明、高齢者・児童虐待等、孤立と経済的要因が重なると生活が破綻し、社会病理現象として顕在化する〟と問題を提起。社会経済の変化に対応した社会保障の機能強化が求められることを強調した。〝人々のつながりができ、地域のまとまりが高まると自殺や犯罪などの社会的逸脱行為、社会病理現象は減少する〟として、具体的事例も交えながらコミュニティの活性化や専門家と連携した地域社会システムの構築などの必要性を訴えた。
特別講演終了後、メインホールでは(公社)日本柔道整復師会保険部介護対策課の田代富夫氏と三谷誉氏により「柔道整復師と介護保険」と題した講習が行なわれ、機能訓練指導員として現場ですぐに実践できる運動実技を含めた必要なスキルが紹介された。
研究発表では関東各県の会員から日頃の成果が報告され、閉会式にて日本柔道整復師会関東ブロック会・岡本和久会長より発表者に対し表彰状が授与された。その後、来年度の関東学術大会を主管する(公社)神奈川県柔道整復師会・吉田充孝会長による閉会の辞により、同大会は盛会のうちに幕を閉じた。
特別講演や研究発表が参加者にとって有意義なものであったことは言うまでもないが、その他にもオルガニストの新津直子氏によるパイプオルガン演奏や地域の特産品即売コーナーが設けられるなど、参加者にとっては非常に満足度の高い大会になった。
尚、研究発表では7題が報告された。
研究発表
1.指ころがしによる指の治療術(神奈川県 松爲信夫)
バネ指の発症原因は手指の使いすぎといわれていて、年齢的には男女とも45歳以降が多いと思われる。自宅において自分で治療でき、痛みをそれほど感じることなく進行を抑え、軽度のバネ指であれば短期間にバネ状態から解放されるという治療法を考案したので報告する。
2.就寝時の背臥位の姿勢が足関節前方引き出し力に及ぼす影響
(茨城県 根本隆司)
足関節外側靭帯損傷の後遺症の中で最も多いのは靭帯の不全治癒による足関節機械的不安定性である。慢性的に足関節機械的不安定性を有する足を足関節捻挫と仮定し、背臥位での足関節単純X線側面像を撮影し、安静時(側臥位)より距骨の前方引き出し力の増加がみられるかを検討した。
3.骨折患者に合わせた同意・処置の対応(栃木県 小森照久)
近年、柔道整復師の施術所に来院する骨折患者数は減少の一途を辿っている。研修中に骨折・脱臼の治療を経験する機会が激減していることも、骨折患者数の減少に拍車をかけていると思われる。そこで骨折の治療に関連した「医師の同意」と「処置」について4パターンの症例を参考に、医師と連携する上での問題点を検証した。
4.TFCC損傷における固定の一考察(群馬県 佐俣栄)
TFCCは手関節尺骨の橈骨・尺骨・尺側手根骨に囲まれる領域に存在する。頻度の高い外傷である手関節捻挫において、TFCC損傷は比較的難治性になりやすい。TFCC損傷は、転倒により手を突くか手関節が過度に回内され発症することが多い。固定具と伸縮テープを使用し、良好な結果が得られた症例を報告する。
5.前腕骨遠位端部伸展骨折(関節内粉砕型)の一症例
(埼玉県 酒井俊一)
前腕骨下端部骨折は発生頻度が高く、コーレス骨折は整復・固定の基礎とされている。近年、専門整形外科では保存療法か手術療法かを判別し、治療に携わっている。今回は、患者の意向は保存療法であるが手術適応症例であったケースの経過報告と整復・固定の問題点を考察した。
6.嚥下による咽頭筋群の下垂を利用した顎関節前方脱臼の整復法
(千葉県 吉岡悟)
顎関節脱臼は、柔道整復師がかかわる疾患の中でも様々な整復手技が考えられている。今回、嚥下による咽頭筋群の下垂を利用した顎関節前方脱臼の整復法を考案したので報告する。
7.介護予防に於ける機能回復訓練について(山梨県 小山真史)
機能訓練重視型デイサービスにおいて、筋力・関節機能の維持・向上・回復を主に行ない将来予想される廃用性疾患やそこからくる転倒・怪我の防止を最大の目標としてサービスを提供してきた。最終的には自己管理での歩行や自宅での運動療法に取り組める状態を目指した。
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