運動器超音波塾【第28回:股関節の観察法3】
株式会社エス・エス・ビー
超音波営業部マネージャー
柳澤 昭一
近年、デジタル技術により画像の分解能が飛躍的に向上した超音波は、表在用の高周波プローブの登場により、運動器領域で十分使える機器となりました。この超音波を使って、柔道整復師分野でどのように活用できるのかを、超音波の基礎からわかりやすくお話してまいります。
第二十八回 「やっぱり、整理は苦手」の巻
―下肢編 股関節の観察法について 3 ―
久しぶりの長い休みで、実家の掃除と書棚の整理をしています。本棚から捨てる書籍を縁側で選んでいると、幼稚園の頃によく読んでいた(観ていた、ですね)百科事典に目が留まりました。当時はもちろんパソコンも無く、なにかを知りたければ百科事典という時代で、ずいぶんとこの百科事典にはおせわになったのを想い出しました。その頃は、人体の構造のページは怖くてその辺りのページは目をつむってめくっていたのですが、グレイやプロメテウスを座右にする日々がやがてくるとは想像もしていませんでした。
ウルトラQやウルトラマン、ウルトラセブンといったテレビ番組やジュール・ガブリエル・ヴェルヌやH・G・ウェルズをはじめとしたSF小説で育ったこともあって、その頃の百科事典の愛読のページは何と言っても恐竜のページでした。太古の昔、それらの恐竜が地球上を支配して闊歩していたなんて、想像するだけでわくわくして、スケッチブックにそれらの絵を描いていました。そんな頃に上野にある国立科学博物館に連れて行ってもらって、恐竜関係の化石などの展示物に触れた時は、もうおおはしゃぎの有頂天で天国でした。なんで人間の骨標本などは怖くて、恐竜の化石はOKだったのかはいまだに不思議ですが、父親の蔵書の中の茨城出身の画家、河鍋 暁斎の得体のしれない妖怪図やメメントモリ(memento mori)満載の画集の影響かもしれません。
そんな天国のような国立科学博物館の展示物の中に見つけたのが、大型の甲冑魚ダンクルオステウス(Dunkleosteusダンクルの骨 の意)の頭骨でした。 ダンクルオステウスは古生代デボン紀(約4億1600万年前から約3億5920万年前)の後期に生息した板皮類(ばんぴるい)の魚で、最初はディニクチス(Dinichthys)として覚えていたのですが、途中で学説が変わったようです。この魚こそが古生代のまだ恐竜が闊歩するずっと前の、両生類がやっと地上に現れ、アンモナイトがオウムガイから進化した頃、海洋生物最大、最強の生き物として君臨していたわけです。体長は6-10mで体重はおよそ1t。奥歯で5300Nの噛む力を持ち*0、その他の魚類が1メートルに満たないなかで最大級の大きさを誇り、魚類や三葉虫、ウミサソリなどをばりばりと捕食していたとなると、もう想像力は妄想の世界に突入です。それまでのジュラ紀一辺倒から、デボン紀も大好きになりました。
地上では原始的なシダ植物から種子植物が出現し、木が生まれ森林となり、やがて緑の大地が生まれたころ、海洋ではこの3階建ての建物ぐらいの大きさの無敵の生物が悠々と泳いでいた。タイムマシンやジュラシックパークならぬデボニアンパークがあったら、真っ先に観たい生物がこのダンクルオステウスです。
同時期のオウムガイやシーラカンスが現在でも生きているのだから、ダンクルオステウスも世界の海のどこかでひっそりと生きていたら面白いなあなんて思いながら、はたと気がついたのは、私はやっぱり整理が苦手という事です。
- *0
- Feeding mechanics and bite force modelling of the skull of Dunkleosteus terrelli, an ancient apex predator – Royal Society 3 (1): 77–80 – Philip Anderson & Mark Westneat – 2007.
今回の「運動器の超音波観察法」の話は「股関節の観察法3」として、ひきつづき前方走査について考えてみたいと思います。股関節の観察法は下肢の重要な起点となりますので、今回も適当に道草を食いながら、丁寧に話を進めていこうと思います。
姿勢を正す
骨盤の傾斜と腰椎の湾曲とが一体化していることは良く知られています。骨盤前傾で骨頭被覆が増大して力学的に安定するという話がありますが、連動する腰椎も前弯が過度となって、椎間関節症や仙腸関節症などの腰痛の要因となるとされています。
女性ランナーに恥骨の疲労骨折が多いとされるのは、このお尻を突き出した骨盤前傾が影響しているという話があります。また、サッカー選手の姿勢と傷病に関する2年間の調査では、腰椎前弯やスウェイバック姿勢の場合、肉離れ、膝関節の疾病が有意に高い発生率を示し、筋肉の緊張に苦しんでいた被験者の場合は、腰椎前弯、振れおよび異常な膝間隔の発生率が高かったとの論文があります。それによると、51.9%のサッカー選手が腰椎前弯であり、その内67%が筋損傷を受傷しているとし、それに対して腰椎前弯ではないグループでは36%の受傷にとどまるとの数字を出しています。その中では背中の怪我についても書かれており、肩の対称性の悪さ、肩甲骨の外転、背の非対称性、後弯、脊柱前弯および脊柱側弯症が関連していたとも書いています。*1
アイルランドの話ではありますがサッカー選手の半分が姿勢不良という事に、まず驚いてしまいました。そう言えば日本での学童期運動器検診の先行研究によると、約10%の子どもに運動器疾患が疑われ、更に、バランス能力、柔軟性をチェックする4つの基本動作のうち1つ以上できない子どもの比率は約40%に達したという報告を想い出しました。つまり、大人以前の、成長期の子どもの運動器機能不全、ロコモが進行中という結果が出てしまったわけです。どうやら姿勢の問題も含め、現代社会に生きる我々の運動器の問題は、スポーツ選手に限らず子供から高齢者まで、幅広く根が深いようです。その中でも姿勢と傷病の関連性については、予防の観点からも十分に検討されるべき問題であることは間違いありません。
股関節や鼡径部前方の痛みを考える場合、やはり「姿勢の問題」は避けて通れない話です。たとえば腰部脊柱起立筋には、腰椎の伸展の作用があります。運動学的に骨盤の前傾には腰椎の伸展が伴うとされており、腰部脊柱起立筋の活動が骨盤の前傾位で後傾位より高くなったと考えられるとされています。つまり、身体を構成する様々な器官は、絶妙なバランスで成り立っているという事です。
「良い姿勢」を矢状面で観察すると、立位姿勢の重心線は、耳垂、肩峰、仙骨岬角、股関節中心のやや後方、膝蓋骨後面、踵立方関節を通るとされています。骨盤を観ると、上前腸骨棘(ASIS : anterior superior iliac spine)と恥骨結合が同一垂直面上にあります。
股関節前方部痛を訴える患者さんは、しばしば異常姿勢で歩くことが知られています。そして、姿勢が矯正されることでその痛みが軽減できることも、日常的に感じられていると思います。
姿勢の問題をチェックする場合には、矢状面での重心線の通る位置以外にも、前額面でのバランスや、特に筋節の長さの違いは十分に着目すべき点となります。
スウェイバック姿勢の場合、骨盤直立姿勢と比べ、歩行の立脚期に股関節と膝関節の屈曲の増大が認められ、静的姿勢保持時には腰背筋群の低下が生じる反面、歩行時では認められないとの話があります。また、体幹腹側では腹直筋の増加と内腹斜筋の減弱が認められ、スウェイバック姿勢の場合、立脚期の骨盤にかかわる剪断力が減少するため内腹斜筋は働かないとしています。つまり内腹斜筋は他の腹筋群とは異なり、荷重応答期に活動しているようです。股関節屈筋群は腸腰筋の減弱と立脚初期の大腿直筋、縫工筋の増加を認め、体幹後傾歩行では股関節屈曲トルクが増加するとされています。*2 スウェイバック姿勢は、腰部と骨盤に加わるストレスが増加する姿勢ということです。
これに対して、腰椎過前弯姿勢(Lordosis posture )の場合、骨盤前傾に伴って腰椎前弯の増強と体幹が前方傾斜することにより、立脚初期の体幹・股関節トルクの増加がみられるとしています。また、腰部の脊柱起立筋群や股関節屈筋群が短縮し、逆に前腹部筋群やハムストリングが延長あるいは弱化筋となるわけです。*3 これらのことにより、腰椎過前弯姿勢は股関節と股関節伸筋群に多大なストレスがかかる姿勢と言えます。
座位の場合についても、骨盤直立の姿勢は、頸部の筋群のストレスを最小にするとの論文があり*4、更には呼吸器の働きをも決定してしまう*5というわけで、運動器に限らず、その他の器官にも影響を与えているのがこの「姿勢」というわけです。「姿勢を正す」という言葉の、潜在的な重要性を想わずにはいられません。
また、そうやって考えてみると、あらためて全体像の俯瞰による観察が大切である事を感じます。超音波の観察法は、どうしても近視眼的なテーマになりがちですが、この落とし穴(pitfall)には落ちないようにしたいものです。
- *1
- Watson AWS. Sports injury in footballers related to defects of posture and body mechanics. J Sports Med Phys Fitness 1995;35:289-94.
- *2
- 藤谷 亮 : 姿勢の違いが歩行と筋活動に与える影響脊柱-骨盤の筋活動比較から. 理学療法学Supplement 2014(0), 0986, 2015
- *3
- 竹井 仁:姿勢の評価と治療アプローチ.脊髄外科,2013, 27: 119-124.
- *4
- Caneiro JP, O’Sullivan P, Burnett A, Barach A, O’Neil D, Tveit O, Olafsdottir K. The influence of different sitting postures on head/neck posture and muscle activity. Man Ther. 2010; 15: 54–60.
- *5
- Szczygieł E, Zielonka K, Mętel S, Golec J. Musculo-skeletal and pulmonary effects of sitting position—a systematic review. Ann Agric Environ Med 2017;24:8–12.
脊髄反射の反回抑制について
前回も少し触れましたが、緊張緩和を考える時に「反回抑制」を働かせるということは、重要なポイントとされています。ここでは、「脊髄反射」について触れておこうと思います。
「脊髄反射」の代表的な機能に、「伸張反射」があります。引き伸ばされた筋肉が素早く収縮して伸張に抵抗するという働きで、伸張された筋肉の筋紡錘の活動が脊髄に運ばれて、その筋肉と共同筋(synergist muscle)を支配するα運動ニューロンを興奮させてそれらの筋肉を収縮させるという仕組みです。「伸張反射」は、重力に対抗して身体を支える筋(抗重力筋)に著明であることから、姿勢調節のために筋の長さを一定に保つ負帰還回路(negative feedback loop)の作用としての機能を持っています。また、過剰に伸ばされた筋肉が損傷を回避するために収縮するという、一種の防御機能としての側面を持つと考えられています。*6
外力(太矢印)が加わり屈筋1が引き伸ばされると屈筋1の筋紡錘が活動し求心性神経(赤線)を通って脊髄に達します。脊髄では屈筋1のα運動ニューロンが興奮し屈筋1を収縮させるとともに、屈筋2のα運動ニューロンも興奮させて収縮させます。更に抑制性介在神経(緑線)を介して伸筋のα運動ニューロンを抑制し、これを相反神経支配(reciprocal innervation)と言います。これらの作用で関節は屈曲します。
この時に注意すべき点は、感覚入力から身体反応までの神経経路である反射弓(reflex arc)は複数の髄節にまたがるものも多くあるということです。幾つかの脊髄分節間を上行あるいは下行して、介在ニューロンや運動ニューロンにシナプス結合しています。これらの仕組みによって、四肢間の協調を行い、随意運動での姿勢制御を行えるわけです。
「伸張反射」以外の機能としては、「屈曲反射」があります。これは痛み刺激から手や足を引っ込める逃避反射で、刺激を受けた手足の反対の手足にも反応が現れ、痛み刺激が強くなるのに従って、その反応の範囲も拡大していきます。痛み刺激を受けた手足の屈筋が興奮して収縮、伸筋が抑制されて痛みから逃げると、反対の手足の伸筋を興奮させ収縮、屈筋を抑制することで踏ん張って姿勢を維持するという、「交叉性伸展反射」を起こします。
反回抑制(recurrent inhibition)は、これらの反射強度を調整する回路として着目されており、主動筋が作用する際には、主動筋および同じ神経で支配される筋には抑制として働き、拮抗筋へは促通(Facilitation)に働く神経機構です。レンショウ細胞(Renshaw cell)はα運動ニューロンの軸索側枝から興奮性シナプスを受け、そのα運動ニューロンに対して抑制性シナプスを形成することで反回抑制を構成するとされています。*7
これらの神経回路は、あたかもクルマの運転時の速度規制とアクセルワーク、ブレーキとの関係のようであって、微妙にその機能をオン・オフして調整し、更にはその反射強度を変化させるという事をしているようです。この分野も魅了される深みを持っており、おもわずはまりそうになります。いずれにしても、緊張と弛緩を伴う円滑な運動を可能とする重要な機構と言える訳です。
下行路からは興奮・抑制の、どちらの入力も予想されることになります。レンショウ細胞は、入力を受けるα運動ニューロンを抑制するとともに、拮抗筋のα運動ニューロンを脱抑制する回路を形成しています。*7
「痙縮(spasticity) けいしゅく」は、意志に関係なく筋肉の緊張が高まり、手足が勝手につっぱったり曲がったりしてしまう状態を指します。1980年にLanceにより定義され、「上位運動ニューロン症候群による症候の1つで、伸張反射亢進の結果として生じる、腱反射亢進および緊張性伸張反射の速度依存性増加を特徴とする運動障害である」とされています。*8
これに加え、痙縮は速度のみならず長さにも依存すること、単に運動障害だけでなく感覚障害の要素も含まれているとして、「痙縮とは、上位運動ニューロン症候群の一要素で、伸張反射増強の結果として腱反射亢進を伴って生じる、他動伸張時の速度依存性筋緊張亢進である」と定義している論文もあります。*9
つまり、痙縮には速度依存性があるということです。関節を他動的に早く動かした時には抵抗が強く、ゆっくり動かせば抵抗は弱くなるということです。スタティックストレッチングで「反動をつけずにゆっくり伸ばす」ことを強調されるのは、これらの理由によるわけです。また、腸腰筋などに限らず、緊張緩和のための手技は、最終域までしっかりとした自動介助運動により反回抑制を十分に働かせるということが重要となります。*10
痙縮は筋緊張の亢進により関節変形や疼痛の原因となることもあり、活動能力の機能低下につながり、やがて日常生活を行う上で障害となることも多いわけです。つまり痙縮の症状を長い間放っておくと、筋肉等が固まってさらに関節の運動が制限される拘縮へと移行してしまうということになります。
痙縮(けいしゅく)の段階を甘く見ないで、身体のメンテナンスを行うということが、大切なわけです。
- *6
- Charles T.Leonard 松村 道一他(監訳) ヒトの動きの神経科学.市村出版
- *7
- 戸松 彩花 関 和彦 脊髄反射 脳科学辞典 https://doi.org/10.14931/bsd.3928
- *8
- Lance JW : Symposium synopsis. in Spasticity : disordered motor control (ed by Feldman RG, Young RR,Koella WP). Year Book Medical Chicago 1980 ; pp485.494
- *9
- 高橋 宣成. 痙縮の定義をめぐる混乱.The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine 2016;53(8) 642-649
恥骨筋について
股関節の前方の不安定性に起因する痛みの場合、前回の腸腰筋と恥骨筋が原因となっている場合がほとんどで、鼡径部痛を訴える症例では必ずこれらの圧痛を確認する必要があるとされています。*10
恥骨筋は股関節内転筋群(恥骨筋、薄筋、短内転筋、長内転筋、外閉鎖筋、大内転筋)の中で唯一、閉鎖神経以外の大腿神経にも支配される、二重神経支配の筋肉です。内転筋群の中では最も上部に位置しており、扁平な形で大腿骨の後方にある恥骨筋線に停止しています。恥骨筋の柔軟性が低下すると骨盤が前傾し、股関節の伸筋群や腹直筋はそれを抑制しています。また、股関節の内転筋群は外転筋群とともに骨盤の横方向の安定性を保持しており、階段が昇りづらくなった等の症状や、段差がない平らな所でもつまずいてしまう等の場合には、内転筋の筋力の低下によってそれらが不均衡になった可能性があります。
恥骨筋は、恥骨結合炎や腱(靱帯)付着部症(enthesopathy エンテソパチー)、或いはstiffness(スティッフネス : 生理学的な可動域は保たれているが、筋の緊張により最終域までに達さない状態)が存在する場合、そこへ伸張負荷が加わることによって徐々に自覚痛を感じ始めることがあるとされています。stiffnessは筋の緊張により最終域までに達せない状態というわけですから、先にも触れたように、最終域まで自動介助運動を誘導して反回抑制による筋弛緩を得られた後にストレッチ、という手順になるわけです。*11
- *10
- 林 典雄 運動療法のための機能解剖学的触診技術 下肢・体幹 メジカルビュー社
- *11
- 林 典雄 運動療法のための運動器超音波機能解剖 文光堂
股関節前方の超音波観察法
それでは、股関節前方の超音波観察法として、恥骨筋の観察をします。
前回同様、この観察の肢位は仰臥位(背臥位)です。今回も、スカルパ三角の大腿動静脈を短軸走査で目印にして内側に観察していくと、大腿静脈の深部から内側にかけて広がる恥骨筋の筋腹の様子を観察(短軸画像)することができます。筋腹の位置が同定できたら、プローブを90°回転させて、長軸画像の観察をします。この場合、恥骨櫛(ちこつしつ)を意識しながら恥骨筋のfibrillar pattern(線状高エコー像の層状配列)を描出するように微調整します。比較的直線的なfibrillar patternの様子が描出されたら、プローブの角度を調整して、線維の模様が画面上で平行になるようにします。必要に応じてゲルを多めに塗布するか、音響カプラーを利用して下さい。この位置で股関節軽度屈曲から過伸展での動きをさせながら、恥骨筋の長軸画像の観察を行います。また、観察していない反対側の股関節と膝関節は屈曲位にしておくと、骨盤が固定されることで良好な画像が観察されます。*11 超音波による観察の場合、観察肢位やこのような下準備をすることがとても大切で、安定した再現性のある画像にするためにも心掛けておきたいところです。
次に、股関節屈曲外旋位で恥骨筋を緩めておき、恥骨筋長軸の深部にある外閉鎖筋の短軸画像の観察を行います。
外閉鎖筋の筋断裂などの損傷はサッカー選手に割と多く、内閉鎖筋と共に注意を要する部位です。ある発表では、閉鎖筋損傷の全例で他動的に股関節を外転内旋位で疼痛が誘発された*12、との話があります。また、恥骨筋長軸で外閉鎖筋短軸での画像を観ると、恥骨筋と外閉鎖筋の間には、閉鎖神経前肢を観察することができます。
- *12
- 窪田大輔.サッカー選手にみられた閉鎖筋損傷第42回日本整形外科 スポーツ医学会学術集会
- *13
- 皆川洋至 超音波でわかる運動器疾患 メジカルビュー社
では、動画です。
股関節屈曲位にて内旋方向への伸張負荷での閉鎖神経の動態を観察してみます。
内旋方向へ動かすと、閉鎖神経が伸ばされる様子が観察されます。
股関節を外旋内旋に動かして、恥骨筋と外閉鎖筋の筋膜での癒着や絞扼に注意して観察をします。この位置で癒着がみられる場合、股関節屈曲位にて内旋方向への伸張負荷で閉鎖神経症状は増悪し、画像上では滑走されないで引っ張られるような状態を確認することができます。また、外閉鎖筋には関節包の下を通過して坐骨大腿靱帯との間に外閉鎖筋下滑液包があり、後面を上双子筋・下双子筋・内閉鎖筋で抑え込まれています。また、関節包を介さないため外閉鎖筋下滑液包が炎症となり、そのような場合、外閉鎖筋自体も炎症している例を観ることがあるそうで、併せて注意を要します。
超音波による動態観察をしていると、このような神経の遊びや伸張されたり絞扼されたりの様子を観察することができます。これらの観察は、実際に今行っている運動の解剖学的な意味を知る上でとても大切な事で、超音波による運動器観察法の重要な長所であると信じています。
それでは、まとめです。
今回の観察法でポイントとなる事項をまとめると、下記のようになります。
- 骨盤前傾で骨頭被覆が増大して力学的に安定するという話の一方、連動する腰椎も前弯が過度となって、椎間関節症や仙腸関節症などの腰痛の要因となるとされている
- サッカー選手の姿勢と傷病に関する2年間の調査では、腰椎前弯やスウェイバック姿勢の場合、肉離れ、膝関節の疾病が有意に高い発生率を示し、筋肉の緊張に苦しんでいた被験者の場合は、腰椎前弯、振れおよび異常な膝間隔の発生率が高かったとの論文がある
- 姿勢と傷病の関連性については、予防の観点からも十分に検討されるべき問題である
- 歩行時の内腹斜筋は他の腹筋群とは異なり、荷重応答期に活動している
- スウェイバック姿勢は、腰部と骨盤に加わるストレスが増加する姿勢である
- 腰椎過前弯姿勢は、股関節と股関節伸筋群に多大なストレスがかかる姿勢である
- 超音波の観察法は、近視眼的なテーマになりがちで、この落とし穴(pitfall)に落ちないように注意を要する
- 「伸張反射」は、姿勢調節のために筋の長さを一定に保つ負帰還回路(negative feedback loop)の作用としての機能を持ち、過剰に伸ばされた筋肉が損傷を回避するために収縮するという、一種の防御機能としての側面を持つと考えられている
- 「屈曲反射」は、痛み刺激から手や足を引っ込める逃避反射で、更に反対の手足の伸筋を興奮させ収縮、屈筋を抑制することで踏ん張って姿勢を維持するという、「交叉性伸展反射」を起こす
- 反回抑制(recurrent inhibition)は、これらの反射強度を調整する回路である
- 「痙縮(spasticity) けいしゅく」は、意志に関係なく筋肉の緊張が高まり、手足が勝手につっぱったり曲がったりしてしまう状態を指し、速度依存性がある
- 痙縮は筋緊張の亢進により関節変形や疼痛の原因となることもあり、活動能力の機能低下につながり、症状を長い間放っておくと、筋肉等が固まってさらに関節の運動が制限される拘縮へと移行する
- 股関節の前方の不安定性に起因する痛みの場合、腸腰筋と恥骨筋が原因となっている場合がほとんどである
- 恥骨筋は、恥骨結合炎や腱(靱帯)付着部症(enthesopathyエンテソパチー)、或いはstiffnessが存在する場合、そこへ伸張負荷が加わることによって徐々に自覚痛を感じ始めることがある
- スカルパ三角の大腿動静脈を目印にして内側に観察していくと、大腿静脈の深部から内側にかけて広がる恥骨筋の筋腹の様子を観察(短軸画像)することができる
- 恥骨櫛(ちこつしつ)を意識しながら、恥骨筋のfibrillar pattern(線状高エコー像の層状配列)を描出するように微調整する
- 恥骨筋の下には外閉鎖筋、恥骨筋と外閉鎖筋の間には、閉鎖神経前肢を観察することができる
- 股関節屈曲位にて内旋方向への伸張負荷で閉鎖神経症状がある場合は増悪し、画像上では癒着、絞扼の状態が観察される
- 外閉鎖筋下滑液包の炎症の場合、外閉鎖筋自体も炎症している例を観ることがあり、併せて注意を要する
次回は、「下肢編 股関節の観察法について4」として、引き続き前方走査について考えてみたいと思います。
情報提供:(株)エス・エス・ビー
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