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運動器超音波塾【第25回:指関節の観察法3】

2018/12/01

それでは側方からの観察です。上段が橈側で下段が尺側です。

図 側方からのPIP関節の超音波観察法(橈側・尺側)

図 側方からのPIP関節の超音波観察法(橈側・尺側)

 

これらは私自身の指ですが、橈側は骨棘があり関節が腫れているようです。そこは差し引いて観て下さい。中節骨から側副靭帯を介して伸びる結合組織が爪甲までつながり、外側でもしっかり爪を固定している様子が観察されます。爪にストレスをかけると連動しているのが解り、側副靭帯や関節包のストレッチ効果があるかもしれません。この点については、もう少し研究が必要です。

 

続いて、マレットフィンガー(mallet finger)陳旧例とヘバーデン結節の観察です。悲しいかなこれも私自身の指です。第4指が骨性マレットで、高校時代に野球で受傷し整形外科にて保存的治療で固定しました。第5指が数年前から疼く、へバーデン結節です。

図 骨性マレットとへバーデン結節の超音波による比較観察(背側)

図 骨性マレットとへバーデン結節の超音波による比較観察(背側)

 

骨性マレットもヘバーデン結節もDIP関節で屈曲し骨が突出していますが、へバーデン結節の方は関節裂隙の狭小化が観察されています。これは、骨棘が成長して可動域を制限している様子と推察されます。掌側から末節骨を押し上げてみると、骨性マレットは完全伸展の位置まで簡単に動きますが、へバーデン結節の場合には動かない事でもそれが解ります。

へバーデン結節は、全身性変形性関節症(Generalized Osteoarthritis : GOA)が無い場合には利き手に多く、GOAがある場合は発生頻度に差がないという疫学調査の報告があります。このことから、発症要因を整理すると、環境による力学的な要因と遺伝的な要素を含む全身的要因との、大きくこの2つの因子が関与すると考えられています。

へバーデン結節は50歳以降の女性に多く見られ、無症状も含め50%の有病率という話があり、手関節の変形性関節症(HOA)として捉えた場合、DIP関節、CM関節等が多いとして、55歳以上の女性の67%、男性の54.8%の有病率との話(ロッテルダム研究)があります。*16
これに対して日本国内での大規模住民コホート研究(ROAD Study)では、手の変形性関節症:HOA(KLグレード≥2 明確な骨棘、関節列隙の狭小化(25%以下)の可能性)の有病率は、男性で89.9%、女性で92.3%であり、年齢に有意に関連していたとし、DIP関節におけるOAが最も多いとの報告があります。*17
つまり、高齢になれば手部のOAが発症することは、およそ避けて通れないというわけです。

最近の変形性関節症(OA)の知見としては、病的な軟骨内骨化現象の主な原因が、HIF2A蛋白質の発現亢進によって引き起こされているとする発表*18や、リコンビナントhuman BMP7蛋白(rhBM7)が、関節軟骨基質の発現促進作用、軟骨基質分解酵素の発現抑制作用、関節軟骨細胞の生存の促進作用、関節内炎症性サイトカインの発現抑制作用を有している可能性などが示唆されており、関節機能維持に重要な役割を果たしているとの論文があります。*19
OAは従来、関節軟骨の疾患と捉えられてきました。しかし最近は関節を構成する軟骨以外の組織、滑膜や軟骨下骨に生じる変化も着目されるようになっており、痛みや腫れといったOAの主な症状の発現には軟骨以外の組織の変化がむしろ重要であるという話もあります。非可逆性と考えられていたOAが、近い将来には関節機能改善薬や予防薬と言ったもので改善する可能性の糸口が見えてきました。これらの研究により、OAや骨折、骨の大きな部分的欠損の再構築といった事への、画期的な治療方法が開発されることを期待しています。

 

参考
Kellgren-Laurence(KL)分類は、主に関節軟骨の減少程度と骨棘の形成程度による重症度分類です。変形性膝関節症のX線重症度分類として使われています。

  • Grade  0 :正常
  • Grade Ⅰ:関節裂隙狭小のないわずかの骨棘形成, または軟骨下骨硬化
  • Grade Ⅱ:関節裂隙狭小(25% 以下)あるも骨変化なし
  • Grade Ⅲ:関節狭小(50%~75%)と骨棘形成, 骨硬化像
  • Grade Ⅳ:骨変化が著しく,関節裂隙狭小(75% 以上)を伴う

*16 S. Dahaghin, S.M. Bierma-Zeinstra, A.Z. Ginai, H.A. Pols, J.M. Hazes, B.W. Koes : Prevalence and pattern of radiographic hand osteoarthritis and association with pain and disability (the Rotterdam study).Ann Rheum Dis, 64 (2005), pp. 682-687

*17 Kodama R, Muraki S, Oka H, Iidaka T, Teraguchi M, Kagotani R, Asai Y, Hashizume H, Yoshida M, Morizaki Y, Tanaka S, Kawaguchi H, Nakamura K, Akune T, Yoshimura N: Prevalence of hand osteoarthritis and its relationship to hand pain and grip strength: The third survey of the ROAD Study. Mod Rheumatol 26: 767-773, 2016

*18 Saito T, et al. Transcriptional regulation of endochondral ossification by HIF-2alpha during skeletal growth and osteoarthritis development. Nat Med. 2010;16:678–686.

*19 Abula Kahaer, MunetaTakeshi, Miyatake Kazumasa, Yamada Jun, Matsukra Yu, InInoue Makiko, Sekiya Ichiro, Graf Daniel, Economides Aris N, Rosen Vicki, Tsuji Kunikazu: Elimination of BMP7 from the developing limb mesenchyme leads to articular cartilage degeneration and synovial inflammation with increased age FEBS Lett. 2015.05; 589 (11): 1240-1248.

全身性変形性関節症(Generalized Osteoarthritis : GOA)については、改めて別の回で、詳細に考察してみたいと思います。

 

では、動画です。DIP関節位置で爪先を押した様子を長軸走査で観察してみます。

動画 DIP関節長軸で爪先を押した動態観察

爪先を押しながら超音波で観察してみると、伸筋腱の停止部から伸びた表面の薄層は爪根を包んでいる構造で、一体になって動いているのが観察されます。この画像からは、爪が筋骨格系と機能的に統合されているという事が良く解ります。

少子高齢化社会に突入した日本において、変形性関節症(OA)の問題はこれから益々注目されていく事と考えています。その中でも生活の質(quality of life: QOL)に直結するDIP関節の問題は、これからも重要な運動器超音波観察法の課題です。なぜなら変形性関節症(OA)は、すでに痛みや機能的損失が起こってしまった状態(後期)であり、大切なことは初期段階での観察の指標と進行の構造的変化の把握で、それらに基づいた予防であり早期治療だからです。毛細血管の拡張や血管新生の関与とその部位の解析など、まだまだ運動器超音波の仕事は山積みであると思っています。

 

それでは、まとめです。
今回の観察法でポイントとなる事項をまとめると、下記のようになります。

指の微妙で滑らかな動きを実現するために、屈曲時にも伸筋、手内在筋が同時に作用している
橈骨神経麻痺で屈曲力に問題がないのに握力が落ちるのは、手関節が背屈できないことも関与する
指の知覚機能として表面感覚の触覚、圧覚、温覚、冷覚、痛覚があり、深部感覚の立体覚、位置覚等がある
超音波観察は近視眼的に事象をとらえがちで、時々俯瞰で考えることが大切
DIP関節は、手綱靭帯(checkrein ligament)は存在しないため、過伸展が可能である
DIP関節に作用する主要筋は、屈曲が深指屈筋、伸展が骨間筋と虫様筋である
DIP関節は、手綱靭帯がないことにより掌側板の動きや関節の潤滑に作用がない点と、単位面積あたりにかかる圧が最も大きい事で、PIP関節より変形性関節症(OA)が生じやすいと推測されている
斜支靭帯は、DIP-PIP関節の協調運動を保ち、PIP関節の過伸展を制御する靭帯である
爪は、筋骨格系と機能的に統合されている
指伸筋腱は末節骨の基部に付着するだけではなく、爪床を囲んでつながり、周囲の結合組織と連携して末節骨と爪甲を強固に固定する構造になっている
DIP関節の観察では、屈曲位で完全伸展が不能となった槌指(つちゆび : mallet fingerマレットフィンガー)に注意する
損傷位置が判り辛い時には、少しだけDIP関節の屈伸をさせると、伸筋腱の動きから損傷部位を判断することができる
変形性関節症のへバーデン結節は、関節裂隙の狭小化に注意する
深指屈筋固有の筋力を評価する場合は、PIP関節を固定してDIP関節の動きを観察する
手の変形性関節症:HOA(KLグレード≥2 明確な骨棘、関節列隙の狭小化(25%以下)の可能性)の有病率は、男性で89.9%、女性で92.3%であり、年齢に有意に関連していたとし、DIP関節におけるOAが最も多いとの報告がある
変形性関節症OAは従来関節軟骨の疾患と捉えられてきたが、最近は軟骨以外の組織、滑膜や軟骨下骨に生じる変化も着目されるようになっており、痛みや腫れといったOAの主な症状の発現には軟骨以外の組織の変化がむしろ重要との話がある

 

次回からは、いよいよ下肢編に移りたいと思います。「下肢編 股関節の観察法」として、前方走査について考えてみたいと思います。

 

情報提供:(株)エス・エス・ビー

 
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