menu

運動器超音波塾【第17回:前腕と手関節の観察法3】

2017/08/01
手関節の靭帯について

遠位橈尺靭帯は尺骨茎状突起からなり、橈骨月状関節面の尺側縁に付着しています。掌側と背側に分かれて関節円板を支持している構造です。これらの靭帯によって関節円板は橈骨月状関節面と一体となっており、前腕の回内・回外時に動く事はありません。*7

*7 超音波でわかる運陶器疾患 皆川洋至 メジカルビュー社

 

あらためて手関節の橈屈、尺屈を考えると、橈屈は15°、尺屈は40~45°で、尺屈の可動域は橈屈の可動域の2~3 倍ということになります。手関節動作の回転中心軸は、掌屈・背屈および橈屈・尺屈も共に有頭骨近位であることが知られており*8、橈骨に対して近位列の手根骨は尺側に滑り運動が起こり、尺屈時においては三角骨の尺側移動を三角線維軟骨複合体(TFCC)が防いでいるとしています。

*8Youm Y, McMurthy RY, Flatt AE, et al. Kinematics of the wrist. 1. An experimental study of radial-ulnar deviation and flexion-extension. J Bone Joint Surg Am. 1978 Jun;60(4):423-31.

図 手関節の解剖 掌側の骨と靭帯

図 手関節の解剖 掌側の骨と靭帯

 

掌側橈尺靭帯の観察法

では、三角線維軟骨複合体(TFCC)を構成する掌側橈尺靭帯を観察してみたいと思います。プローブを短軸に尺骨茎状突起を描出して支点にしてから、橈骨月状関節面の尺側縁を目指して微調整をしていきます。中間位から回外位へ動態観察してみると、掌側橈尺靭帯が伸張されていく様子を観察することができます。靭帯の肥厚や瘢痕化に注意をしながら、制限されずに円滑に動作するかを観察します。遠位橈尺関節不安定性がある場合、動作時に轢音がすることもあり、回外時に尺骨頭が掌側へ移動できなくなる尺骨突き上げ症候群(尺骨の橈骨に対する相対長が長い)と併せて、注意をして観察します。

図 掌側橈尺靭帯の観察法

図 掌側橈尺靭帯の観察法

 

掌側尺骨手根靭帯の観察法

続いて、掌側尺骨手根靭帯を考えてみます。前述したとおり橈骨手根関節は、橈骨関節面が尺骨方向に25°傾斜しており、橈屈より尺屈の自由度が高くなっています。それを掌側手根間靭帯と掌側尺骨手根靭帯・掌側橈骨手根靭帯とで緊張関係をつくり、手根骨の運動方向を制御しているわけです。尺屈時は、掌側手根間靭帯の外側脚および掌側尺骨手根靭帯の伸張が起こり、橈屈時は、対角にある掌側手根靭帯の内側脚および掌側橈骨手根靭帯が伸張されバランスを取っているという、実に良くできたシステムです。

図 掌側尺骨手根靭帯の観察法

図 掌側尺骨手根靭帯の観察法

 

月状骨には近位端に特徴的な少し隆起した形状があり(骨標本があれば遠位から近位に触知してみて下さい)、掌側尺骨手根靭帯の付着部として目印になります。三角骨側は豆状骨に潜りこむように線維の模様が観察されます。いずれも、浅層と深層に連結を強めた構造の組織に観えます。この点については、解剖学的に更に研究が必要です。

中間位から回外位に動作させると、掌側尺骨手根靭帯は緊張していきます。前々回の橈骨遠位端骨折と回外制限の話の時にも触れましたが、林先生らの研究*9によると、前腕回外運動に伴い尺骨は橈骨に対して回内しながら掌側へ移動し、橈骨よりも掌側へ突出するとして方形回内筋の柔軟性の必要性を指摘していましたが、さらに三角骨に対しても掌側移動しているとの指摘もあり*2、掌側尺骨手根靭帯の柔軟性も回外動作には大事という事が解りました。

*9笠野 由布子,林 典雄. 前腕回外運動に伴う尺骨遠位部の動態分析 超音波を用いた観察 第25回東海北陸理学療法学術大会O-18

 

海外の論文を探してみると、「手関節の靭帯及び三角線維軟骨複合体(TFCC)の大部分は、超音波で評価することができる」という論文が出てきています。やはりその中で、ゲルを多量に使用すること、検査する構造物にプローブを垂直にしなければならないこと、そして動態観察の必要性を強調しています。*10
また、Taljanovicらによると、関節円板は中央より末梢が厚く、中央穿孔を有していても良いとしており、三角線維軟骨複合体(TFCC)の障害は、臨床診療において頻繁に見られるとしています。但し、中村らのハンモック構造が正しいのであれば、この論文中でのTFCの解説位置は少し違うように感じており、検討の余地があります。*11

三角線維軟骨複合体(TFCC)に限らず、加齢性変化や異常な変性の境界を見極めるには、ドプラ機能による血流情報も積極的に活用し、そして何より、静止画ではなく動態を解剖学的な視点で観察する姿勢が大切で、それらの固定観念にとらわれない自由な発想が新しい評価方法を生み出すと考えているところです。

*10Renoux J, Zeitoun-Eiss D, Brasseur JL. Ultrasonographic study of wrist ligaments: review and new perspectives. Semin Musculoskelet Radiol 2009;13(1):55–65.

*11Taljanovic MS, Goldberg MR, Sheppard JE, Rogers LF. US of the intrinsic and extrinsic wrist ligaments and triangular fibrocartilage complex—normal anatomy and imaging technique. Radiogr Rev Publ Radiol Soc N Am Inc. 2011, 31: e44.

 

 

静止画と動画 三角線維軟骨複合体の観察法 橈屈と尺屈の動き

尺側手根伸筋が三角線維軟骨複合体を支えており、それに沿って三角骨の関節面を抑えているのが観察されます。メニスカス類似体とその深部の三角靭帯と関節円板では、硬さの違いからか、動き方が違うのが解ります。この仕組みについては、さらに解剖学的な研究が必要です。
この観察も、超音波による動態解剖学の視点での考察をしていけば、治療に対する情報や、今後の注意点も検討することができる良い例です。やはり運動器の超音波観察では、動態観察が大切であるということです。

 

さて、まとめです。
今回の観察法でポイントとなる事項をまとめると、下記のようになります。

三角線維軟骨複合体(triangular fibrocartilage complex: TFCC)の高齢者での変性断裂は、関節円板の穿孔タイプが多いとされ、外傷性の断裂では橈骨付着部に、変性は中心部に多いと言われている
慢性TFCC損傷患者のMRI 所見から、尺側手根伸筋腱(ECU)あるいは遠位橈尺関節(DRUJ)障害がTFCC断裂に高頻度(26-52%)に合併するという説もある
中村によるとTFCCは、立体的にはハンモック状の遠位component、橈尺間を直接支持する三角靭帯(橈尺靭帯)、機能的尺側側副靭帯である尺側手根伸筋腱の腱鞘床と尺側関節包で構成されるとしている
TFCCの長軸での観察法は、尺側手根伸筋腱(ECU)を目印に行う
尺側手根伸筋腱(ECU)は、テニス選手の73%で不安定性があるとの発表がある
尺屈の動態観察で観ると、三角線維軟骨複合体(TFCC)は三角骨を回り込むように移動して、尺側に凸になる様子が観察される
三角線維軟骨複合体(TFCC)の観察は、表在から近い位置にある事や、手関節の運動を併用しながらの観察を許容するために、ゲルを多めに塗布するか、音響カプラ(ゲルパッド)を利用して観察する
掌側橈尺靭帯の観察は、プローブを短軸に尺骨茎状突起を描出して支点にしてから、橈骨月状関節面の尺側縁を目指して微調整する
掌側尺骨手根靭帯の観察は、付着部として目印になる月状骨近位端の特徴的な少し隆起した形状を、三角骨側は豆状骨に潜りこむように観える線維の模様が描出されるように注意してプローブを調整する

 

次回も「上肢編 前腕・手関節の観察法」の続きとして、少し戻って伸筋支帯の区画に基づいて、考えてみたいと思います。

 

情報提供:(株)エス・エス・ビー

 
前のページ 次のページ
大会勉強会情報

施術の腕を磨こう!
大会・勉強会情報

※大会・勉強会情報を掲載したい方はこちら

編集部からのお知らせ

メニュー