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運動器超音波塾【第7回:肩関節の観察法 5】

2015/12/01
後方腱板と後方関節唇の解剖学的構造

肩関節の後方を支持する腱板は棘下筋と小円筋で構成する組織で、下記の事が言われています。

  • 棘下筋はおおきく棘下筋横走線維と棘下筋斜走線維とに大別され、それぞれ肩甲棘、棘下窩から付着している。
  • 肩関節後面上部を超音波で長軸走査すると、棘下筋横走線維と棘下筋斜走線維の2層構造が観察される。
  • 肩関節後面中部を超音波で長軸走査すると、棘下筋斜走線維のみの単層構造が観察される。
  • 肩関節後面下部を超音波で長軸走査すると、小円筋のみの単層構造が観察される。
図 棘下筋と小円筋、肩甲骨と上腕骨

図 棘下筋と小円筋、肩甲骨と上腕骨

肩関節後方の観察

では、肩関節後方の観察法です。肩関節外側で上腕骨を短軸に観察をして、上腕骨の位置を確実に同定します。外側では三角筋の下に半円形に上腕骨が描出され、解剖学的に理解しやすい画像が観察できます。上腕骨を同定できたら、内側にほぼ平行に辿っていくようにすると、肩甲骨の関節窩や関節唇が観えてきます。棘下筋はその内部に筋内腱を示す高エコー像が、fibrillar pattern(線状高エコー像の層状配列)に描出されます。この時に、手首を持って外旋運動を再現しながら観察すると、上腕骨頭が回旋する様子が見られ、棘下筋が内側方向に移動していく状態が見られます。正常であれば、ストレスなく動く状態が観察されます。筋内腱がきれいに描出されない場合は、筋内腱に対して垂直を意識しながらプローブの傾きを調整して、画面上平行になるようにすると、線維状の高エコーに描出することができます。

図 超音波で見る、関節窩と後方関節唇、上腕骨頭 図 超音波で見る、関節窩と後方関節唇、上腕骨頭

図 超音波で見る、関節窩と後方関節唇、上腕骨頭

三角筋の下に、上腕骨頭、関節窩と後方関節唇が観察されています。

 

この観察時に注意する点は、内外旋時に観察される骨頭の形状です。肩関節脱臼の陳旧例には、しばしば骨頭の軟骨に窪みを観察することができます。これはHill-Sachs Lesionと呼ばれ、脱臼した際に関節窩と上腕骨骨頭の後方が衝突して、軟骨損傷をおこした状態を表しており、肩関節前方脱臼(関節唇前下部分)した場合の、特徴的な所見となります。

また、この肢位で腕を下方に引っ張ると、動揺肩の状態も観察することができます。関節窩の位置を目印にして、どの程度骨頭が移動するのかを注意深く観察してください。関節唇の周囲に水分性の貯留(低エコー域)を認める場合には、併せて、静止状態でのドプラ機能による血流の観察を、行うようにします。

最初にも書きましたが、関節周囲には必ずと言って良いほど脂肪組織が存在しています。関節窩と肩甲骨、棘下筋と観てくると、棘下筋と肩甲骨の間に、脂肪組織を観察することができます。この脂肪組織は、肩甲頚から関節窩、関節唇から後方関節包へと広がりを見せています。更に、肩関節外旋運動に伴って棘下筋が内側へ移動するのと共に脂肪組織も内側へと移動し、肩甲頚のあたりでは脂肪の厚みが増していきます。逆に肩関節内旋運動では、棘下筋が肩甲骨へと押さえられることによってスペースがなくなり、外側へ移動しながら厚みも少なくなります。この点を調べてみると、肩甲頚周辺部には全く筋肉が付着しておらず、棘下筋腱と肩甲骨の間には、滑動機能が要求されるとありました。*5

*5 参考資料 林 典雄 運動器超音波機能解剖 文光堂

図 超音波で見る脂肪の広がりと、関節窩と後方関節唇、上腕骨頭

図 超音波で見る脂肪の広がりと、関節窩と後方関節唇、上腕骨頭

棘下筋深部の脂肪組織は、肩甲頚から関節窩、関節唇から後方関節包へと広がりを見せており、肩関節外旋に伴って、内側に移動しながら厚みも増していきます。

 

肩関節の外旋制限などの機能障害がある症例、特に、いわゆる拘縮肩の場合、多くはこの脂肪組織が委縮し、線維化して高エコーになっており、癒着して内外旋で滑動しない状態を観察することができます。林先生は、「棘下筋の深部で起きている脂肪組織の機能が、棘下筋とその深部との滑動機能であることを前提とした技術を展開することが大切である」と述べています。*5

*5 参考資料 林 典雄 運動器超音波機能解剖 文光堂

 

三角筋の下方には、棘下筋横走線維、棘下筋斜走線維が、内外旋動作と共に滑走する動きが観察されます。この時に、上腕骨頭の求心位の変化にも注意する事が重要です。また、後方脱臼は少なく、むしろ上腕骨頭表面の連続性に注目すると、Hill-Sachs Lesionを見つけることもあります。

肩関節後面の超音波画像 内外旋しての動態観察

図 上腕骨頭軟骨面の観察 Hill-Sachs Lesion

図 上腕骨頭軟骨面の観察 Hill-Sachs Lesion

脱臼に伴う、棘下筋の断裂部や前方の関節窩縁や関節唇にも着目する。 烏口突起のレベル以下では、通常、上腕骨頭が後外側に平らになる為、 pseudo-Hill-Sachs lesion(偽ヒル-サックス損傷)との鑑別に注意する。

 

次に、肩関節を伸転位に動かして、観察します。内転位と比較してみると、明らかに棘下筋が伸張されている状態を観察することができます。この状態から更に内外旋運動をしてみると骨頭が関節窩より後方へ突出してきます。これは、棘下筋と関節包が伸張されることで起こっています。では棘下筋に緊張がある場合はどうなるのか。林先生は、骨頭が前方へ押し出される、obligate translationを生じるとして、上肢を酷使するアスリートの場合、棘下筋の硬さの早期発見としても有効であると述べています。*5 *6

*5参考資料 林 典雄 運動器超音波機能解剖 文光堂

*6腱板の組織弾性および肩関節可動域からみた症候性腱板断裂の特徴
福吉正樹 (名古屋スポーツクリニック リハビリテーション科)
日本整形外科超音波学会学術集会プログラム・抄録集
巻:26th ページ:44 発行年:2014年

図 肩関節過伸展内旋動作に伴うobligate translation現象

図 肩関節過伸展内旋動作に伴うobligate translation現象

棘下筋に緊張がある場合、肩関節過伸展内旋動作で、上腕骨頭が前方へ押し出される様子が観察されます。

 

さて、まとめです。今回の観察法でポイントとなる事項をまとめると、下記のようになります。

肩関節後方アプローチの基本肢位は、座位で行う
自然下垂・脇を締めた状態で、手を大腿部に置いた位置から内外旋動作を観察する
外側にプローブを置いて上腕骨を同定してから、肩甲棘とほぼ平行にプローブを移動、この時、関節裂隙を画面の中心にくるように調整して観察する
肩関節前方脱臼、動揺肩、関節唇の周囲に水分性の貯留(低エコー域)、ガングリオン、関節内遊離体、棘下筋下脂肪体の萎縮、癒着などに注意する
さらに肩関節中間位から外転位に肢位を変えながら、内外旋動作を観察する
棘下筋の拘縮の場合、肩関節過伸展内旋時に緊張が高まった棘下筋により、骨頭が前方へ押し出される様子が観察され(obligate translation現象)、上肢を酷使するアスリートの場合、棘下筋の硬さの早期発見としても有効

 

次回は次の章として、「上肢編 肘関節の観察法」について、考えてみたいと思います。

 

情報提供:(株)エス・エス・ビー

 
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