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スペシャルインタビュー:学校法人日本体育大学 保健医療学部 整復医療学科 准教授 松田康宏 氏

インタビュー 特集

日本体育大学准教授の松田康宏氏は、明治大学大学院理工学部電気電子生命学科・小野弓絵教授らと手技療法により僧帽筋の血流が促進されることを科学的に解明した。このことにより柔道整復師をはじめ手技療法を行うコメディカルの人達が科学的根拠に基づく治療を行っていたことが証明され、今後の業界に光明をもたらした。

手技療法によって血流が促進されることを日本体育大学の松田准教授が科学的に解明

学校法人日本体育大学 保健医療学部 整復医療学科 准教授 松田康宏 氏

学校法人 日本体育大学
保健医療学部
整復医療学科
准教授 松田 康宏 氏

―手技療法により血流が促進されることを科学的に解明するまでの経緯について教えてください。

柔道整復師の治療法の中に「後療法」があります。後療法のうち手技療法はどの分野においても歴史がある療法です。柔整師の分野に限らず、マッサージを扱う分野もそうですし、手術という言葉すらない時代に、徒手で治療をする「手当て」は古代から行われてきました。医師や柔整師という職業、名称すらない大昔からです。例えば、〝触ったり、さすったり、揉んだりという刺激が体にどんな変化をもたらすのか?〟というのが実は凄く興味のあるところでした。「手技療法」の効果について教科書にも書いてあることから「手技療法」を学ぶということは、柔道整復術の根幹をなすものであると私自身は考えております。例えば「軽擦法」は、治療開始と終了の際に用いられる手法でリンパ系に作用し、「揉捏法」はリンパ液や血流の循環を促進すると書いてあります。また、手技療法を扱う業種は多く、他の医療系の教科書にも手技療法の効果の1つとして、血流を促進させると書いてあります。そして、社会では、一般的に手技療法は血流を促進する効果があるとも言われています。しかし、海外で行われた研究では、手技療法は血流を変化させないのではないという報告があり、血流の変化について一貫した見解が得られていませんでした。それは何故かというと筋の血流を測れる技術が無かったからです。

血流の相対的な速さを無害な光である近赤外光を使って計測する技術というのは、実は近年海外で研究が進んでいました。それを日本に導入して、様々な研究に取り組んでいるのが、明治大学理工学部の健康医工学研究室です。この技術は日本ではここしかありませんから、同じ研究を別の機関ですることが出来ません。今回の研究は筋肉の中の本当に細かい血管、末梢血流の循環を測ることが出来たため、手技療法の効果として教科書に書かれている〝手当によって血流が促進される〟ということを証明することが出来ました。

―誰もされなかったことを証明された訳ですね!

これまでは、筋肉の中の末梢血流を計測する機械もありませんし、計測する技術がなかったので解明することが出来ませんでした。しかし近年から実際に、筋肉の中の血流の変化を見るという計測法は別の研究で、例えば糖尿病の研究であったり、脳血管の研究であったり、自転車漕ぎ等をした運動時の血流の変化に対する研究がはじまり、それを柔道整復師の手技療法の効果の検証に応用できるのではと思い研究を始めました。患者さんに〝はい、血流が良くなりましたよ。お大事に〟と、伝えていた訳ですが、血流の変化を可視化し、科学的な根拠から得た結果を示すことで柔道整復師だけでなく手技療法を行うセラピストの人たちにとってもより説明しやすくなると思います。更には、患者さんにも〝こういう論文発表があって手技療法によって血流が促進されたということ〟を伝えることで術者が行った施術効果に納得して頂き、信頼してくれると思います。

―今後どのような研究をしようと思われているのでしょうか?

先ずは、手技療法で血流が改善するんだということを社会に発信しました。今回の論文は、肩を揉むなどの手技療法を行いながら心拍数や血圧も同時に測定しました。その結果では、全身的な循環への大きな変化はみられませんでした。不思議だと思いませんか。全身的な循環は変わらず施術した筋だけが血流が促進していることでしたので。そこで、手技療法を行っていない別の筋の血流はどうなっているのかということに興味が出てきました。そして、今までは、1か所しか計測出来ませんでしたが、やっと測定機器を改良して身体の2か所の部位を同時に計測出来るように機器をバージョンアップしました。例えば〝右腕に施術をした時に、左腕の血流は変化するのか?〟或いは〝前腕に施術をした時に同側の上腕の血流は変化するのか?〟等、このことは柔整の教科書にも書いてあり、「遠隔部への適用の効果」とされております。これは古来から柔道整復術で行われてきた方法です。どういうことかというと、例えば下肢を怪我したとします。下肢を固定していると、固定した箇所の直接的な治療が困難です。そこで、固定をしていない部分の手技療法により、固定した箇所の循環を促進させることを誘導マッサージと言っています。教科書には古来から行っていると書いてあり、もしそうであれば本当に凄いことですが科学的な根拠がありません。

柔整師は計測するものが何もなくても昔から感覚的・経験的に施術を行ってきました。その治療法は科学的な根拠が証明されていませんので検証したいと思っています。また、手技療法だけではなく低周波治療等の電気療法についても身体にどのような変化が起こるのか研究していきたいと考えています。患者さんは、電気が苦手な人もいると思いますが、効果があると信じているから皆さんが治療を受けるのだと思います。柔整師の施術には科学的な根拠が証明されていないものが多いと思いますので一つずつ検証していきたいです。

柔道整復師の業界では、大学などのいわゆる研究機関が出来たのがここ10年程度でしょうか。ちなみに日体大は9年目です。専門学校は研究する所ではなく資格を取るための専門的な所ですが、大学には研究をする役割も求められています。〝柔整の治療って凄いんだよ、効果があるんだよ〟ということをやはり科学的にしっかり示すことで、社会的にも柔整への信頼性や地位が向上していけば良いと考えています。

今回の論文に関しては、手技療法を扱う業種の方々に、かなりインパクトがあったようです。多くの先生方からご質問を頂戴したり、その論文を待合室に飾って、当院がやっている治療に効果があるということを示したいと言ってくださった先生もいらっしゃいました。

以下、論文リンク先
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fbioe.2021.800051/full

―手技療法の効果を科学的に解明されたことで、世界的にも喜ばしいことですね!

セラピストの人達がこれまでやられてきたことを、証明できているのではないかと思います。実は、今までの論文の中に超音波ドップラー計測法といって、比較的太い血管で計測した研究があります。海外では、マッサージは血流が変化しないので、効果の無い治療法であると結論づけている論文もありました。それは何故かというと、やはり測る機械が無かったからで、筋肉の血流を測っていなかったから、マッサージは効果が無いと結論付けていた可能性があります。そういう論文を全部調べて、これはマイナスなことを言っている、これはプラスなことを言っている、或いは筋肉までは分からないけれども、皮膚の血流が促進したから筋肉の循環は良くなっているだろうと推測している論文もありました。今回の研究成果が、世界のセラピストにとって有益な情報になってくれることを心から願っています。

私は元々臨床現場人間で臨床が大好きです。臨床現場を何年も経験していて、患者さんと触れ合う中で、現場の柔道整復師として、何が知りたいのかを考えると、自分が治療したときにどれくらいの治療効果が出ているのか?効果が無かったのか?効果がある前提で信じるのか?などを考えることがあると思います。それらを科学的に検証したいと思うようになりました。臨床現場人間であったからこそ、こういう研究をすることになったと思います。

―学生さん達にどんなことを教えていらっしゃるんですか?

日体大には卒業研究の授業であるゼミ活動があります。毎年10人程度の学生さんに対して、例えば運動時やストレッチをした時に血流はどのように変化するのか、という私が行っている研究分野の一部について学生が研究を行っています。学生のみなさんは、そういうことに興味を持ちゼミを選んでくれているので、凄く一生懸命やっています。また,学生生活の中でパソコンをあまり使っていないようなのでパソコン教室的なこともやっています。ゼミ活動では、実験の計画を立て、実験を行い、データを集計し、実験結果を出し、それについて検討するなど毎週集まって研究のミーティングを行っています。もちろん国家試験に向けた勉強も同時進行で頑張っています。その中で物事の計画やチームワークの重要性について学んでもらっています。とにかく、学生の皆さんが日体大を卒業してから、社会で役立つための技術や経験をして欲しいという思いで指導にあたっています。コロナ禍になった時は、オンラインゼミ活動になり残念でしたが、今年3月の卒業生はグループで研究を行い、仲間と楽しみながら充実したゼミ活動を送ることが出来たと言っていました。

―今回の論文が認められたことで思われていることがあれば?

強く感じたことは、今回の研究は、私一人では絶対に実現できませんでした。本当にたくさんの人のご指導とご協力があったからこそ、今回の検証ができたと思っています。研究のご指導してくださっている明治大学の小野先生や一之瀬先生、中年のおじさん柔整師といつも仲良くしてくれている健康医工学研究室の博士、修士、学部生の全てのみなさまに大変感謝しています。また、研究にはお金がかかります。今回の研究で公益財団法人立石科学技術振興財団や日本学術振興会の科研費から研究費の助成をして頂き研究を実施することが出来ましたので大変有難く思っています。

これからも皆さんからご指導をいただきながら、柔整師の素晴らしい治療効果について追求していきたいと思っています。ありがとうございました。

松田 康宏(まつだ やすひろ)氏プロフィール

1971年東京都生まれ、日本体育大学体育学部武道学科を卒業、日体柔整専門学校学生時代から東京都練馬区市毛接骨院にて研修、研修終了後に日体柔整専門学校附属日体接骨院院長兼日体柔整専門学校専任教員となり2014年から日体柔整専門学校教頭を勤める。2018年から現在まで日本体育大学保健医療学部整復医療学科の専任教員として柔道整復師の育成に従事する。一方,明治大学大学院理工学研究科博士後期課程に在籍し、柔道整復師の施術効果を中心にエビデンスに基づいた医工学の研究に従事している。

資格

柔道整復師免許、柔道整復師専科教員、柔道整復師認定実技審査員、講道館柔道六段など

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