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運動器超音波塾【第34回:股関節の観察法9】

特集 運動器超音波塾

株式会社エス・エス・ビー
超音波営業部マネージャー
柳澤 昭一

近年、デジタル技術により画像の分解能が飛躍的に向上した超音波は、表在用の高周波プローブの登場により、運動器領域で十分使える機器となりました。この超音波を使って、柔道整復師分野でどのように活用できるのかを、超音波の基礎からわかりやすくお話してまいります。

第三十四回 「いきなり最終回」の巻
―下肢編 股関節の観察法について 9 ―

突然ではありますが、諸事情によりこのコラムは、今回を持って最終回となりました。ながらくご愛読いただきました皆様方には、今日まで稚拙な文章にお付き合いいただきまして、誠にありがとうございます。下肢編の途中で筆を擱かざるを得ないのはたいへん遺憾で心苦しくありますが、少しだけなにかのお役に立てたことを信じて、またどこかでお会いできる日を願っております。

総務省によると、日本の総人口は2004年をピークに、今後100年間で100年前(明治時代後半)の水準に戻っていくとされています。つまり、人口増加を前提に組み立てられてきたこれまでのビジネスモデルは終わりを告げたと言えます。COVID-19を契機に、数の増加を追い求めてきた手法から、ミニマム化した社会では、より質が問われる持続可能(Sustainable)な経済の時代に移行していくと考えられているわけです。SNSをはじめとする仮想空間は、所詮、現実世界とは違います。人と人との繋がりや、そのぬくもり、信頼感や安心感といったものは、触れ合う距離感の中にしか生まれません。医療の現場も右から左へ外来をこなすのではなく、丁寧に一人一人の患者さんと向き合って不安な心に寄り添う、その原点に戻っていくと思います。

運動器の超音波では「何がわかるの」と言う時は既に過ぎ去り、動態観察や血流情報などにより、運動器疾患の「なぜ」を解き明かす時代に入っています。直接対面して、視診・問診・触診や徒手検査などを行った上で画像からも情報を共有していくという、この丁寧で質の高いあり方こそが重要であると、今回のCOVID-19の問題からも実感しています。

長い間、ご愛読いただきまして、ありがとうございました。
それでは、みなさん、ごきげんよう。

今回の「運動器の超音波観察法」の話は「股関節の観察法9」として、引き続き後方走査について考えてみたいと思います。股関節の観察法は下肢の重要な起点となりますので、今回も適当に道草を食いながら、丁寧に話を進めていこうと思います。

深臀部症候群(Deep gluteal syndrome)について

坐骨神経について梨状筋症候群の論文を漁っていると、深臀部症候群(Deep gluteal syndrome)と言う名称が目に付きます。
深臀部症候群(Deep gluteal syndrome)とは、「坐骨神経の非椎間板性及び骨盤外性絞扼を原因とする臀部から鼡径部への疼痛を呈する症候群」と定義されています。*1*2

つまり、梨状筋のみが病態に関与しているとは限らず、それ以外の様々な病態が存在することが解ってきたわけです。これについては、MRIや関節鏡等の技術的な進歩が背景にあり、股関節後方で坐骨神経が絞扼されるいくつかの場所や要因を特定することが可能となったことによります。もはや「梨状筋症候群」の代わりに「深臀部症候群」という新しい用語が現在、認知されるようになってきたわけです。*3それ以外には、「坐骨神経捕捉症候群」(Sciatic nerve entrapment syndrome)とする見解もありました。また、この事については、1998年に愛媛大の川谷らが「骨盤出口症候群」という呼称を提唱しており、多種多様な病態に即していると既に述べているのも興味深い所です。*4

深臀部症候群で指摘されている臀部スペース(subgluteal space)は、臀部中央の深部に位置する、細胞及び脂肪組織の空間で、大転子と坐骨結節の間の大殿筋前面と大腿方形筋後面に囲まれた部分としています。*2 超音波での観察の場合、大殿筋と大腿方形筋の高エコーな筋外膜の間の低エコー域として観察され、比較的解りやすい場所です。

図 臀部スペース(Subgluteal space)の解剖
図 臀部スペース(Subgluteal space)の解剖

この臀部スペース(subgluteal space)内での坐骨神経絞扼に関与する構造には、以下のものが挙げられています。

  1. 梨状筋*5*6
  2. 血管を包む線維性バンドと臀筋群*2*7
  3. ハムストリング(ハムストリング付着部炎で腱の瘢痕化による坐骨神経の牽引)*8*9
  4. 双子筋-内閉鎖筋複合体(転子滑液包との関連性含む)*10*11
  5. 血管の異常性(坐骨神経とその枝に沿った静脈瘤や下殿動脈の偽動脈瘤)*12*13
  6. スペース占拠性病変(梨状筋の骨化性筋炎)*14

このように多様な部位が含まれており、その他にも外傷や複数回の手術も原因となることがあると言われています。*15また、坐骨神経以外にも臀部スペースの、後大腿皮神経、陰部神経、上殿神経、下殿神経、なども絞扼されて症状となります。

瘢痕や癒着という中には、2.として挙げた線維性および血管を包む線維性バンドの問題があり、深臀部症候群の関節鏡手術での多くの場合に存在するとして、特に着目されています。*2*7

前回の超音波観察法にも書いたように、坐骨神経は股関節の動きによって旺盛に滑走、移動します。解剖実験によると、股関節屈曲(70–80°)に伴って近位に28㎜移動するとの報告があり、通常の関節の動きには十分耐えられる構造との事です。

*16股関節の深屈曲、外転、および外旋では、坐骨神経が大転子の後縁を横切って滑走すると報告しています。

また、神経の可動域は膝の屈曲にも依存しています。膝を曲げると神経が後外側に移動し、膝を伸ばすと神経がトンネルの奥深くに移動します。*17

先に書いた線維性のバンドはMRIと関節鏡による肉眼での識別に於いて、血管を含まない純粋に線維性のみのバンドと、血管を含む線維性のバンド、血管のみで形成された血管バンドがあるとのことです。更に要因となる形態的な特徴による分類として3種類があり、前方から後方、或いは後方から前方に圧迫して神経の移動を制限するブリッジタイプと、坐骨神経に結合して内側或いは外側の一方向に固定するホースストラップタイプがあり、それ以外に複数方向へ未定義に坐骨神経を固定するタイプがあるようです。紹介されている関節鏡による参考画像では、血管を含む線維性バンドの絞扼による虚血性の神経炎患者の、浮腫性で扁平な坐骨神経が、描出されていました。*18

図 坐骨神経を絞扼する血管を含む線維性バンドの形態的な特徴による分類 *18参考
図 坐骨神経を絞扼する血管を含む線維性バンドの形態的な特徴による分類 *18参考

臀部の関節鏡による所見にて、坐骨神経周囲の繊維性バンドが坐骨神経に癒着している病態が確認され、関節鏡視下に坐骨神経の周囲の繊維性組織や血管組織を切除することで症状改善が得られたという報告が複数あります。外傷や炎症後の組織修復過程において坐骨神経とその周辺組織、線維性バンドが癒着する問題と併せて、大転子滑液包の過度の肥厚も報告されており、これらの機能解剖を念頭において評価、治療を行うことが重要であるわけです。

4.の転子滑液包やその周囲の問題については、転子下疼痛症候群(retro-trochanteric pain syndrome)や、大転子疼痛症候群(greater trochanteric pain syndrome : GTPS)、転子滑液包炎(trochanteric bursitis)、股関節転子炎(trochanteritis)と書かれているものがあり、まだ整理がされていないようです。

大転子疼痛症候群(greater trochanteric pain syndrome : GTPS)は、股関節転子部の疼痛の総称で、産業社会での10~15%が羅漢していると推定されていますが、真の転子下疼痛症候群(retro-trochanteric pain syndromeこの訳で良いか不安あり)の発生率は、解っていません。女性およびITバンドの痛みや膝のOAを持つ成人のGTPSの有病率が高いとしています。*19さらに、腰部脊柱の初期変性変化に関連している可能性があることを示唆、との話もあり、何らかの過程であるのか、或いは同時進行的な症候群なのかについては、もう少し調べたいと思います。大転子疼痛症候群(greater trochanteric pain syndrome : GTPS)は、以前は転子滑液包炎が主な疼痛源と見られていましたが、最近は、中殿筋と小殿筋の腱障害が最も頻繁な原因であるとの報告もあります。それ以外にはスナップヒップやITバンドの異常が含まれており、位置的にはむしろ横(外側)の股関節痛の症候群ということになるようです。

本来、神経には身体の動きに見合う遊び(可動性と伸縮)があり、神経周囲のこれらの線維性バンドは普通に考えれば神経が不用意な位置に逸脱しないようにする安全装置のはずです。それが、繰り返しの運動や長時間の座位など何らかの理由で炎症を起こすと、癒着や瘢痕化などで神経を絞扼、制限するようになり症状を発生させてしまいます。そのため、関節鏡視下に切除するなど、減圧の処置を行うことで効果が得られると考えられているわけです。

果たしてこのバンドは退化する運命の組織なのか、二足方向になって膝関節が伸展されるようになったから影響されやすくなったのか、他の動物はどのようになっているのか、疑問は尽きません。脱線ついでに関連する項目を少し調べてみると、24匹のウサギによる動物実験では、神経の長さの12%を1時間伸張させると、活動電位の振幅が完全にブロックされ、6%だと70%減少したとの報告がありました。*20また、手術用顕微鏡視下にウサギの神経線維を観察すると、波状構造による縞模様があり、この構造が神経の収縮を可能としているとして、神経束間の疎な結合組織、束間神経上膜(interfascicular epineurium)や脂肪組織(fat tissue)で滑走しているとの話もあります。*21

仙腸関節由来の梨状筋症候群も着目されており、前回も書きましたが、仙腸関節における圧痛を梨状筋症候群の約8割に認めたとの報告があります。*22仙腸関節の前方はL4・L5・S1神経前枝が支配し、後方はL5・S1・S2神経後枝外側枝が支配するとの別の報告により*23、仙腸関節に生じた何らかの侵害刺激は、L5・S1・S2に支配される梨状筋、双子筋、大腿方形筋に反射性攣縮を生じさせたと推察していると書いています。また、同時に仙腸関節を支持する多裂筋の反射性攣縮の増強は、仙腸関節自体の感受性を高め、一層梨状筋の反射サイクルを助長していると考察しています。仙腸関節も十分に注意すべき部位ということで、もう少し触れようと思います。

*1
McCrory P, Bell S. Nerve entrapment syndromes as a cause of pain in the hip, groin and buttock. Sports Med 1999; 27: 261–74.
*2
Martin HD, Reddy M, Gomez-Hoyos J. Deep gluteal syndrome. J Hip Preserv Surg. 2015;2:99-107.
*3
Hernando MF, Cerezal L, Perez-Carro L, Abascal F, Canga A. Deep gluteal syndrome: anatomy, imaging, and management of sciatic nerve entrapments in the subgluteal space. Skeletal Radiol. 2015;44:919-934.
*4
川谷 義行ら:梨状筋症候群の診断と病因-骨盤出口症候群の呼称の提唱-,西日本脊椎研究会誌Vol.24,No.2,255-261,1998.
*5
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*6
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*7
Martin HD, Shears SA, Johnson JC, et al. The endoscopic treatment of sciatic nerve entrapment/deep gluteal syndrome. Arthroscopy 2011; 27: 172–81.
*8
Puranen J, Orava S. The hamstring syndrome: a new diagnosis of gluteal sciatic pain. Am J Sports Med 1988; 16: 517–21.
*9
Young IJ, van Riet RP, Bell SN. Surgical release for proximal hamstring syndrome. Am J Sports Med 2008; 36: 2372–8.
*10
Cox JM, Bakkum BW. Possible generators of retrotrochanteric gluteal and thigh pain: the gemelli-obturator internus complex. J Manipulative Physiol Ther 2005; 28: 534–8.
*11
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*12
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*14
Beauchesne RP, Schutzer SF. Myositis ossificans of the piriformis muscle: an unusual cause of piriformis syndrome. J Bone Joint Surg Am 1997; 79: 906–10.
*15
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*16
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*17
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*18
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*20
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*21
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*22
中宿伸哉ほか.梨状筋症候群における発症機転についての考察: ―初診時理学所見よりみる発症タイプの分類―. 理学療法学 32(supplement 2), 491, 2005
*23
仲川富雄.日本人仙腸関節および近接域神経細末の分布に関する研究.日整会誌. 1966; 40:419‒430.

仙腸関節(sacroiliac joint)の問題について

下肢はどこからかと考えると、股関節からと言ってしまいがちですが、本来は腸骨からで仙腸関節が体幹とのつなぎ目という事が正解でしょうか。仙腸関節については体幹で取り上げるべきかとも思いましたが、坐骨神経痛との関係性も言われておりますので、ここで、少しだけ触れたいと思います。

2足歩行となった人類にとって仙腸関節は恥骨結合とともに、歩行中の片脚立脚時に上半身からの負荷と地面からの床反力の衝撃吸収材として機能し、体幹と下肢の間の協調運動と制御のための固有感覚フィードバック機構としての機能を担っています。そこに、不意や過度の負荷が加わると、関節に微小な不適合、つまり、仙腸関節障害を生じるとされています。

劇的に進化した画像診断装置は、それまでのX線画像中心の骨性変化に病態を捉える方法論から、靭帯や腱、筋肉や関節包、神経や関節周囲の脂肪組織と言った軟部組織の変化にもしっかりと目を向けていく方法論へと変化を促してきました。腰痛もしかりで、それまでの腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症等の因果律が明らかなものから、より複雑な原因の究明に向かう、新たな視点を生み出しています。

図 仙腸関節と恥骨結合への力の加わり
図 仙腸関節と恥骨結合への力の加わり

坐骨神経痛(sciatica)で椎間板ヘルニアを原因として疑われた症例に於いて、仙腸関節へのブロック注射により成果を得たとの報告や*24、梨状筋症候群(piriformis syndrome)に於いて約8割に仙腸関節に圧痛を認めた*22*25との報告もあり、先にも触れたとおりこの関節周囲は着目すべき部位として注目を集めています。仙腸関節は後仙腸靭帯、骨間仙腸靭帯、前仙腸靭帯、仙結節靭帯などの靭帯性結合により補強されており、筋肉による動作はなく、自発的な筋肉制御を備えていない人体で唯一の関節です。可動域も日本仙腸関節研究会によると3~5㎜程度とされています。大きく分けると関節内と関節外の靭帯の問題があり、関節内の場合は荷重時の強い疼痛、靭帯の場合は動作に伴う疼痛が多いとされています。*26

関節面の解剖はどのようになっているかと言うと、腸骨耳状面と仙骨耳状面との結合が滑膜性関節であり、仙骨粗面と腸骨粗面は緻密性結合組織を形成しています。この関節は一般的に平面関節に分類されていますが、実際は複雑な構造をしていて、緩やかに腸骨側が凸で仙骨側が凹になっています。副関節が関節面のどこに形成されるかについては性差(男性の方がより大きく、後方に位置することが多く、可動性が女性に比べて約40%低くなっています)や個人差が大きいようです。*27

仙腸関節を発達過程で観ると、融合体としての仙骨は子宮内期間では別々で、5つの別個の仙椎骨は出生後、青年期までは軟骨結合で16歳から18歳の間に癒合し始め、通常26~30歳頃までに1つの骨になっていきます。

また、仙骨関節表面が硝子軟骨であるのに対して、腸骨関節表面は幼児期にのみ線維軟骨で、成熟に伴って硝子軟骨になるとされています。*28こうして仙腸関節の形状は、乳児期から成人期にかけて著しく変化していきます。*29

図 仙腸関節の関節面と体軸断面の解剖
図 仙腸関節の関節面と体軸断面の解剖

関節の周囲の靭帯についてもう少し詳しく見ると、主な靭帯は前仙腸靭帯と後仙腸靭帯ですが、付属靭帯として仙結節靭帯と仙棘靭帯がさらに仙腸関節の安定に貢献しています。骨間仙腸靭帯は脂肪組織を豊富に含み、衝撃吸収を助けるのと、症状がある場合には肥厚し、周囲軟部組織と変性する可能性などが指摘されています。

(1)
前仙腸靱帯:関節包の前面にあって仙骨外側部の前面と腸骨の耳状面の辺縁につきます。腸骨翼から耳状面のすぐ前方、仙骨の骨盤表面まで伸びています。関節包の肥厚が主で、靭帯は非常に薄く弱いとされています。
(2)
骨間仙腸靱帯:関節包の後方で、腸骨の腸骨粗面と仙骨の仙骨粗面とを結ぶ強い短い靱帯で、仙骨と腸骨の間隙を埋めています。
(3)
後仙腸靱帯:骨間仙腸靭帯の表層にあって腸骨と仙骨の後面を結んでいます。上部の線維束は、ほぼ水平に横走して仙骨粗面と外側仙骨稜から腸骨粗面へ走り、下部の線維は斜め上外方へ走って、外側仙骨稜と上後腸骨棘(PSIS)へ達します。
図 仙腸関節と靭帯の解剖
図 仙腸関節と靭帯の解剖

ゴリラやチンパンジー、オランウータンなど大型類人猿に共有される形質、特にヒトで著しい現象として、妊娠出産に伴う仙腸関節における妊娠出産痕の形成があります。*30これは、妊娠出産経験がある場合、妊娠時に仙腸関節をつなぐ靭帯がゆるみ、可動性が増大することで関節を構成する軟骨が破壊され、仙腸関節耳状面前下部に深く不規則な圧痕が不可逆的に形成される現象です。*31*32因みに妊娠出産痕は、法医学や考古学における女性遺骨の妊娠出産経験の判別にも活用されています。更に注意しておきたいのは、この、妊娠時の仙腸関節の可動域増加が左右で非対称弛緩となると、対称弛緩の女性と比較して中程度から重度の骨盤周囲痛(PGP)を発症するリスクが3倍高いとして、産後期間まで継続するとの報告があるということです。*33妊婦の方の約20%は骨盤周囲痛(PGP)に苦しんでいるとの事で、非常に大きな問題であると思います。

仙腸関節障害の診断については、日本仙腸関節研究会によると、患者さん自身に人差し指で痛みの部位を示してもらうワンフィンガーテストが有用として、併せて仙腸関節部や鼡径部から圧迫して痛みが誘発されるかを触診しています。この研究会でも超音波画像診断装置を活用しており、レントゲンでは捉えられない靭帯や筋膜に由来する難治性の腰痛が多く、後仙腸靭帯付近に発痛源を持つ仙腸関節の痛みが少なくないことも判ってきたと報告しています。*34

「手足は、脊椎と体幹の筋肉に由来する動きを増幅するだけ」、という考え方があります。*35つまり、脊椎の回転と腰骨盤領域の周りの筋肉システムが人間の動きのベースにあるかもしれないと推論しているわけです。確かにベリーダンスや様々な舞踏の骨盤の動き始めや、サリドマイドによる手足の奇形や発育不全の症例、パラリンピックのアスリートの動作等を観ていると、うなずける気がします。

Myofascial Slingという捉え方では、筋膜のスリング(sling : 「帯」の訳でよいかわからないのでそのままにします)が仙腸関節の安定に寄与しており、例えば後斜走スリング(POS :Posterior Oblique Sling)は、左大臀筋の表在線維が仙骨を跨いで広背筋の表在線維と混合し、更に大臀筋は大腿筋膜張筋と腸脛靭帯と混合して、仙腸関節に直角に動作するとして閉鎖に働くとしています。さらに、大殿筋および胸腰筋膜(thoracolumbar fascia)は、仙結節靭帯へ結びついています。この靭帯の緊張は、仙腸関節の閉鎖も引き起こすとされています。スリングは筋肉、筋膜、靭帯の相互接続のシステムというわけです。

この筋膜スリングは4つのシステムが定義されており(深部縦スリング、外側スリング、前斜走スリング、後斜走スリング)、力のベクトルのバランスが取れていると、動的な動き全体で骨と関節の最適な位置関係が提供されます。対照的に、筋膜スリングの張力の変化から生じる不均衡な力のベクトルは、不整合を生じさせ、静的または動的タスク中の安定性を損なう可能性があります。*36

図 筋膜スリング(後斜走スリング)
図 筋膜スリング(後斜走スリング)

しばらく超音波研修で通わせて頂いた吉田眞一先生のクリニックでは、仙腸関節内へのブロック注射や靭帯へのハイドロリリース(薬液の圧力による癒着の剥離)で、劇的な成果を上げられていました。また、同クリニックでは林典雄先生が関節外の靭帯性疼痛などの運動療法を併せてされていました。超音波の画像ではやや高エコーに肥厚した後仙腸靭帯(仙骨と上後腸骨棘との間を繋ぐ靭帯)の、瘢痕化して癒着した様子が観察されています。ただし、これらの画像所見が全てではなく、変性があるのに疼痛が無い場合や、逆にさしたる変性を認めなくても疼痛がある場合があるなど、どうやら、まだまだ研究の余地があります。これについては、多裂筋の持続的な痙縮なども椎間関節や仙腸関節の感受性を高めるとして、股関節筋群の拘縮以外にも着目すべき部位とする報告*37や、梨状筋上方の筋線維は、仙腸関節耳状面の前面下方に重なり横断するように走行することにより、仙腸関節の安定性低下が疑われる場合は、梨状筋の機能評価が必要との報告*38などがあります。

股関節後方の諸問題を捉える場合には、この仙腸関節周囲にも注意を払う必要があるわけです。

まだまだ分からないとされる腰部の障害ですが、それでも少しずつ「腰痛」と言う症状から「症候群」となり、更にはその中でも様々な分類がされるようになって、やがて正式な「病名」がついていきそうな、そのような兆しが見られて、おおいに期待しているところです。腰痛の85%が厳密に原因を特定できないということが、解消される日を願っています。

*24
Buijs E, Visser L, Groen G. Sciatica and the sacroiliac joint: a forgotten concept Brit J Anaesthesia 2007; 99(5):713-716.
*25
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*26
林典雄.エコーでわかる腰痛の意外な原因.スポーツメディスン,NO196:2-8,2017.
*27
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*28
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*29
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*38
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後方からの仙腸関節の超音波観察法 仙腸関節と後仙腸靭帯

今回は、仙腸関節(Sacroiliac joint)を観察していきます。この観察の場合にも、視診・問診・触診をしっかり行った上でアプローチすることが重要となります。この観察で目印とする部位として上後腸骨棘(PSIS)がありますが、ここにある後仙腸靭帯には一部、仙骨部多裂筋も付着しているため、併せて多裂筋や大臀筋にも注意をしながら観察を進めていきます。もちろん、疼痛誘発テスト(Newton テスト、Gaenslenゲンスレン テスト、Patrickテスト)などで圧痛所見を十分に取って、観察を始めていきます。日本仙腸関節研究会の村上先生はNewtonテスト原法の仙骨中央でなく、患側の仙腸関節部に圧迫を加えると疼痛が誘発されやすいとして、Newton テスト変法としています。*39

観察肢位は状況に併せての選択となりますが、基本は腹臥位として、上後腸骨棘(PSIS)を触診して同定し目印として観察していきます。座位、側臥位、仰臥位(背臥位)は疼痛が発生しやすく、仰臥位ではもちろんプローブを当てることができません。また、立位でも問題がなければ、観察肢位とすることができます。

骨性の目印として外側に上後腸骨棘(PSIS)と内側に仙骨の仙骨孔の1番目(仙骨の高エコーラインが途切れたように描出されます)を観察します。そのまま、やや下方に移動していくと、仙骨孔の2番目の位置が観察されます。仙腸関節位置では、仙骨と腸骨の間をつないでいる後仙腸靭帯の線維性パターンとその深部に骨間仙腸靭帯を観察することができます。痛みの多くは仙腸関節後方の靭帯に由来するとの話もあり、特に靭帯の変性には注意が必要です。ただし、前述したとおり、これらの画像所見が全てではなく、変性があるのに疼痛が無い場合や、逆にさしたる変性を認めなくても疼痛がある場合があります。ドプラよる血流の画像を併用する事や、多裂筋や大臀筋も含めて観察すること等も大切となります。いずれにしても、触診や徒手検査により圧痛点を把握し、解剖学的に一つ一つの可能性を消去していく丁寧さが必要です。

図 仙腸関節の徒手検査法(Gaenslen testゲンスレン テスト、Patric testパトリック テスト)
図 仙腸関節の徒手検査法(Gaenslen testゲンスレン テスト、Patric testパトリック テスト)
*39
村上栄一:仙腸関節由来の腰痛.日本腰痛会誌.2007; 13: 40-47.
図 後方からの仙腸関節の超音波観察法 仙腸観察と後仙腸靭帯
図 後方からの仙腸関節の超音波観察法 仙腸観察と後仙腸靭帯

これは、自分の画像ですが、過去にぎっくり腰を経験している為か、加齢に因る為か、あまりきれいな組織状態ではありません。

先に書いたように、痛みの多くは仙腸関節後方の靭帯に由来するとの話もあり、特に靭帯の変性には注意が必要ですが、この観察法の場合、スポーツ選手などアスリートで、筋肉の一部が付着部から剥がれている、いわゆる肉離れを観ることも多々あります。多裂筋や大臀筋など、実際に該当する筋肉を動かして、伸張時や収縮時に痛みが出現し、弛緩時はそれ程でもないという場合には、これらの筋肉の観察も併せて行う事が重要となります。

それでは、動画です。座位にて多裂節と仙骨を長軸に描出し、骨盤の前傾と後傾の様子を動作させて観察をします。

多裂筋の長軸画像で骨盤の前傾と後傾を動作させながら観察すると、ほんの少しの動きにも関わらず、仙骨の動きに伴って、表在にある脂肪組織も引っ張られて動いているのが解ります。表在より深層の方が大きく動いており、最後に皮膚が滑走するようです。また、やや不安定に柔らかく動作しているのも観察され、前傾と後傾の動作一つ観ても繊細な動きであるように感じます。この時に最初に緊張してくるのは画面には無い大腰筋ですが、動作をしていると、腸骨に伝わる緊張を感じることができます。

動画 多裂筋と仙骨の長軸画像
骨盤の前傾と後傾動作での観察

このような日常的な動作も超音波で観察してみると、運動器の動態解剖学的な意味が理解できます。患部を近視眼的に観察するだけでなく、「動き」を大きく捉えて観察していくことが、運動器超音波観察法に必要なスタート位置だと考えています。

それでは、まとめです。
今回の観察法でポイントとなる事項をまとめると、下記のようになります。

  • 深臀部症候群(Deep gluteal syndrome)とは、「坐骨神経の非椎間板性及び骨盤外性絞扼を原因とする臀部から鼡径部への疼痛を呈する症候群」と定義されている
  • 臀部スペース(subgluteal space)は、臀部中央の深部に位置する、細胞及び脂肪組織の空間で、大転子と坐骨結節の間の大殿筋前面と大腿方形筋後面に囲まれた部分とされる
  • 臀部スペース(subgluteal space)内での坐骨神経絞扼に関与する構造には、1.梨状筋、2.血管を包む線維性バンドと臀筋群、3.ハム ストリング(ハムストリング付着部炎で腱の瘢痕化による坐骨神経の牽引)、4.双子筋-内閉鎖筋複合体(転子滑液包との関連性含む)、5.血管の異常性(坐骨神経とその枝に沿った静脈瘤や下殿動脈の偽動脈瘤)、6.スペース占拠性病変(梨状筋の骨化性筋炎)などが挙げられている
  • 坐骨神経は、股関節屈曲(70–80°)に伴って近位に28㎜移動するとの報告があり、通常の関節の動きには十分耐えられる構造とされている
  • 坐骨神経絞扼に関与する線維性のバンドは、血管を含まない純粋に線維性のみのバンドと、血管を含む線維性のバンド、血管のみで形成された血管バンドがある
  • 線維性のバンドの形態的な特徴は3種類あり、前方から後方、或いは後方から前方に圧迫して神経の移動を制限するブリッジタイプと、坐骨神経に結合して内側或いは外側の一方向に固定するホースストラップタイプがある
  • 大転子疼痛症候群(greater trochanteric pain syndrome : GTPS)は、以前は転子滑液包炎が主な疼痛源とされていたが、最近は、中殿筋と小殿筋の腱障害が最も頻繁な原因であるとの報告もある
  • 仙腸関節に生じた侵害刺激は、L5・S1・S2に支配される梨状筋、双子筋、大腿方形筋に反射性攣縮を生じさせ、同時に仙腸関節を支持する多裂筋の反射性攣縮の増強は、仙腸関節自体の感受性を高め、一層梨状筋の反射サイクルを助長しているとする考察がある
  • 仙腸関節は恥骨結合とともに、歩行中の片脚立脚時に上半身からの負荷と地面からの床反力の衝撃吸収材として機能し、体幹と下肢の間の協調運動と制御のための固有感覚フィードバック機構としての機能を担っており、そこに、不意や過度の負荷が加わると、関節に微小な不適合、つまり、仙腸関節障害を生じるとされている
  • 劇的に進化した画像診断装置は、それまでのX線画像中心の骨性変化に病態を捉える方法論から、靭帯や腱、筋肉や関節包、神経や関節周囲の脂肪組織と言った軟部組織の変化にもしっかりと目を向けていく方法論へと変化を促してきている
  • 仙腸関節は後仙腸靭帯、骨間仙腸靭帯、前仙腸靭帯、仙結節靭帯などの靭帯性結合により補強されており、筋肉による動作はなく、自発的な筋肉制御を備えていない人体で唯一の関節である
  • 仙腸関節の可動域は3~5㎜程度とされており、大きく分けると関節内と関節外の靭帯の問題があり、関節内の場合は荷重時の強い疼痛、靭帯の場合は動作に伴う疼痛が多いとされている
  • 仙腸関節の腸骨耳状面と仙骨耳状面との結合は滑膜性関節であり、仙骨粗面と腸骨粗面は緻密性結合組織で形成される
  • 仙骨関節表面は硝子軟骨であるのに対して、腸骨関節表面は幼児期にのみ線維軟骨で、成熟に伴って硝子軟骨になる
  • 骨間仙腸靭帯は脂肪組織を豊富に含み、衝撃吸収を助けるのと、症状がある場合には肥厚し、周囲軟部組織と変性する可能性などが指摘されている
  • 妊娠出産痕の形成は、妊娠時に仙腸関節をつなぐ靭帯がゆるみ、可動性が増大することで関節を構成する軟骨が破壊され、仙腸関節耳状面前下部に深く不規則な圧痕が不可逆的に形成される現象
  • 妊娠時の仙腸関節の可動域増加が左右で非対称弛緩となると、対称弛緩の女性と比較して中程度から重度の骨盤周囲痛(PGP)を発症するリスクが3倍高いとして、産後期間まで継続するとの報告があり、妊婦の方の約20%は骨盤周囲痛(PGP)に苦しんでいるとされている
  • 仙腸関節障害は、レントゲンでは捉えられない靭帯や筋膜に由来する難治性の腰痛が多く、後仙腸靭帯付近に発痛源を持つ仙腸関節の痛みが多いとの報告がある
  • Myofascial Slingという捉え方では、筋膜のスリングが仙腸関節の安定に寄与しており、例えば後斜走スリング(POS :Posterior Oblique Sling)は、左大臀筋の表在線維が仙骨を跨いで広背筋の表在線維と混合し、更に大臀筋は大腿筋膜張筋と腸脛靭帯と混合して、仙腸関節に直角に動作するとして閉鎖に働くとしており、さらに、大殿筋および胸腰筋膜(thoracolumbar fascia)は仙結節靭帯へ結びついており、この靭帯の緊張は、仙腸関節の閉鎖も引き起こすとされている
  • 筋膜スリングは筋肉、筋膜、靭帯の相互接続のシステムと考えられている
  • 筋膜スリングは4つのシステムが定義されており(深部縦スリング、外側スリング、前斜走スリング、後斜走スリング)、力のベクトルのバランスが取れていると、動的な動き全体で骨と関節の最適な位置関係が提供され、対照的に、筋膜スリングの張力の変化から生じる不均衡な力のベクトルは、不整合を作成し、静的または動的タスク中の安定性を損なうとしている
  • 肥厚した後仙腸靭帯(仙骨と上後腸骨棘との間を繋ぐ靭帯)が瘢痕化して癒着している場合や、多裂筋の持続的な痙縮なども椎間関節や仙腸関節の感受性を高めるとする報告、梨状筋上方の筋線維は仙腸関節耳状面の前面下方に重なり横断するように走行することにより、仙腸関節の安定性低下が疑われる場合は梨状筋の機能評価が必要との報告などがあり、股関節後方の諸問題を捉える場合には、この仙腸関節周囲にも注意を払う必要がある
  • 仙腸関節(Sacroiliac joint)の観察で目印とする部位として上後腸骨棘(PSIS)があり、ここにある後仙腸靭帯には一部、仙骨部多裂筋も付着しているため、併せて多裂筋や大臀筋にも注意をしながら観察を進める
  • 仙腸関節(Sacroiliac joint)の観察は、疼痛誘発テスト(Newton テスト、Gaenslenゲンスレン テスト、Patrickテスト)などで圧痛所見を十分に取ってから観察を始める
  • 仙腸関節の観察肢位の基本は腹臥位として、上後腸骨棘(PSIS)を触診して同定し目印とし、内側に仙骨の仙骨孔(仙骨の高エコーラインが途切れたように描出される)を確認した上で、仙骨と腸骨の間をつなぐ後仙腸靭帯の線維性パターンとその深部に骨間仙腸靭帯を観察する
  • 痛みの多くは仙腸関節後方の靭帯に由来するとの話もあり、特に靭帯の変性には注意が必要であるが、これらの画像所見が全てではなく、変性があるのに疼痛が無い場合や、逆にさしたる変性を認めなくても疼痛がある場合もあり、ドプラよる血流の画像を併用する事や、多裂筋や大臀筋も含めて観察することが大切で、触診や徒手検査により圧痛点を把握し、解剖学的に一つ一つの可能性を消去していく丁寧さが必要となる
  • スポーツ選手などアスリートで、筋肉の一部が付着部から剥がれている、いわゆる肉離れを観ることも多々あり、多裂筋や大臀筋など、実際に該当する筋肉を動かして、伸張時や収縮時に痛みが出現し、弛緩時はそれ程でもないという場合には、これらの筋肉の観察も併せて行う事が重要となる
  • 日常的な動作を超音波で観察してみると、運動器の動態解剖学的な意味が理解でき、患部を近視眼的に観察するだけでなく、「動き」を大きく捉えて観察していくことが運動器超音波観察法のスタート位置となる

情報提供:(株)エス・エス・ビー

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