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運動器超音波塾【第30回:股関節の観察法5】

特集 運動器超音波塾

株式会社エス・エス・ビー
超音波営業部マネージャー
柳澤 昭一

近年、デジタル技術により画像の分解能が飛躍的に向上した超音波は、表在用の高周波プローブの登場により、運動器領域で十分使える機器となりました。この超音波を使って、柔道整復師分野でどのように活用できるのかを、超音波の基礎からわかりやすくお話してまいります。

第三十回 「チングルマの紅葉が観たいけどヒグマはちょっとこわい」の巻
―下肢編 股関節の観察法について 5 ―

雷乃収声(かみなりすなわちこえをおさむ)の時期となりましたが、雷様を伴いながら、台風が日本列島を駆け抜けています。今回のような猛烈な風と雨で夜中に何度も目が覚めるということは、久しくなかったように想います。実家の様子を見に行くと、物置の瓦棒葺きの屋根の一部が剥がれ落ちていたり、3m程の金木犀が根っこから倒れていたりと、自然の猛威に力尽きてしまって、まるで放心状態のように疲れ果てた体を見せていました。通り抜けた風の強さは想像以上でした。今も一部で停電が続くなど、日本各地に大きな爪痕を残しています。報道されるそれらのニュースを見るにつけ、自然の抗えない強さに、そこに生きるものとしての畏怖や心づもりを、改めて想い返しています。

その反面、考えがまとまらず塞ぎ込んでいる時などは、自然の中に身を置くことで、その懐の大きさに頼ってもいます。段取りを踏んでの山歩きもそうですが、幸い、つくば市の周辺は自然がいっぱいで、森の中を歩いて鳥の声や虫の音色を聴きながら、季節ごとに咲き乱れる草花にも簡単に触れる事ができます。そんな時は、思い切って裸足になります。野草のちくちくとする感触や少し痛痒い小石の感触を確かめたり、鴨の後ろを追って池のほとりの少し湿った土の、ひんやりとした辺りをぺたぺたと歩いてみたり、足の裏で様々な感触を感じてみます。そうやって、普段、靴や靴下で覆い隠している足を解放してやると、少しだけ野生を取り戻せたような気がして、元気になります。そこまでしなくても縁側で裸足に陽を浴びているだけでも、少し肩周りから力を抜くことができるから不思議です。気持ちの中に入り込んだ風邪の初期症状に効く、万能特効薬と言ったところです。

また、そんな夜には、お風呂に入った時に念入りに足を洗うようにしています。一日中身体を支えてくれた足の裏の労をねぎらい、丁寧に洗います。少し前までは足を洗いながら、そんなことは考えもしなかったのですが、頭のてっぺんから爪先まで自分たちが自然の中の一つの生き物にすぎないことや、失敗だらけの自分がそれでも倒れずに今日一日立ち続けた事を、少しだけ褒めてあげられるように、足の裏と向き合います。そうすると、少し気が晴れるのと同時に、血流が改善されるのも手伝ってか、眠りに就くのも早くなるというおまけもついてきます。

時には、その圧倒的な強さや厳しさを見せつける大自然ですが、そのたくさんの恩恵に与りながら我々も生活していること、なにより我々もその一部として生きる、少し知恵のついた猿の遠縁にすぎないことを忘れないようにしたいと思います。

そう言えばピッケルの出物をネットに見つけたので、久しぶりに旭岳に行って北海道の雪の感触や、チングルマの草紅葉を楽しみたいなと、でもヒグマはちょっと怖いなと夢想していると、小さな声で私の足の裏が、「その前にあと5㎏の減量をお願いします」と申しておりました。

図 チングルマの花と紅葉 旭岳ビジターセンターHPより
図 チングルマの花と紅葉 旭岳ビジターセンターHPより

バラ目バラ科チングルマ属で花径約2.5cm。高さ10cm程度。
高山の雪渓周辺の草地や砂礫地の地面を這う高山性・落葉小低木で、姿見の池周辺や裾合平で大きな群生地を見ることができます。花の群落としては最も目立つ存在で、雪解けから2週間前後で花を咲かせます。夏の終わりには、長い羽状の毛をもった種をつけた特徴的な姿に変わり、葉は紅葉し鮮やかな赤色となります。
https://www.asahidake-vc-2291.jp/

今回の「運動器の超音波観察法」の話は「股関節の観察法5」として、ひきつづき前方走査について考えてみたいと思います。股関節の観察法は下肢の重要な起点となりますので、今回も適当に道草を食いながら、丁寧に話を進めていこうと思います。

上前腸骨棘(ASIS)の裂離骨折

上前腸骨棘(ASIS)は、外側下方より大腿筋膜張筋と内側下方より縫工筋、恥骨結合から鼡径靭帯が付着しています。骨盤部の二次骨化核に関しては、概ね12~15歳で出現し、下前腸骨棘は16~18歳で閉鎖、上前腸骨棘と坐骨結節は少し遅く20~25歳で閉鎖するとされています。*1

前回も触れたように、プロスポーツ選手に限らず、外傷性やoveruseによる股関節損傷は思った以上に頻繁に発生しています。特に青年期の運動選手で成長期の軟骨がまだ閉鎖していない場合、骨盤周囲の裂離骨折に注意を要します。日本整形外科スポーツ医学会の資料によると、上前腸骨棘(ASIS)はスタートダッシュなどによる縫工筋の急激な収縮によると解説しています。*2

また、併せて大腿筋膜張筋による捻転力も指摘されており、大腿筋膜張筋の筋力は下前腸骨棘に付着する大腿直筋に比べて小さく骨端症などが前駆症状として存在する例もあるとの報告があります。*3

図 成長期の股関節上前方の痛みは、上前腸骨棘(ASIS)の剥離骨折に注意
図 成長期の股関節上前方の痛みは、上前腸骨棘(ASIS)の剥離骨折に注意

上前腸骨棘(ASIS)は、外側下方より大腿筋膜張筋と内側下方より縫工筋、恥骨結合から鼡径靭帯が付着することで、大きく転位することは稀であるとされています。*4

*1
Lanz, V.W.:ランツ下肢臨床解剖学:30-33, 医学書院,1979.
*2
日本整形外科スポーツ医学会の資料 スポーツ損傷シリーズ22
*3
敦賀 礼、舟崎 裕記、林 大輝ほか:中学、高校生のサッカー選手に生じた上前腸骨棘部痛- MRI における検討- : 整スポ会誌, 33 ⑶ : 267-271, 2013.
*4
皆川 洋至 超音波でわかる運動器疾患 メジカルビュー社

ASIS 裂離骨折の国内外の論文を見てみると、受傷後55 日目に単純X 線像上に裂離部の仮骨形成が確認されたが、エコーにて観察するとASIS 骨端には初診時よりは軽減したものの依然健側と比較して患側の血流増加を認め、受傷後73日で健患側差を認めない程度まで血流反応が消失したとしています。これを受けて、ASIS 裂離骨折後の競技復帰に向けた段階的な復帰基準として、従来の単純X線や理学所見だけでなく、エコーでの血流評価も補助診断として有用なツールとなる可能性があると報告しています。*5

また、パワードプラで血管新生を評価する可能性をテストした動物実験では、骨折手術後のエコーの血流反応は術後20 日間は増加し、71~80日で消失するとして、血流反応の消失は骨折治癒の進行の指標となるとの報告などがあります。*6
いずれもパワードプラによる血管新生や血流増加を観察しており、前述の骨端症などが前駆症状としてあることなどを踏まえると、前駆症状での予防措置や初期症状から治癒過程の指標、競技復帰の基準としても、超音波の観察が有用であることがよく解ります。

*5
三田村信吾、中宿伸哉、太田憲一郎ほか:超音波検査所見を指標とした上前腸骨棘裂離骨折に対する段階的復帰プログラム: 東海スポーツ傷害研究会会誌, 32: 44-45, 2014.
*6
Risselada M ,Kramer M,Saunders JH,et al. Power Doppler assessment of the neovascularization during uncomplicated fracture healing of long bones in dogs and cats. Vet Radiol Ultrasound2006; 47(3):301-6.

股関節前方の超音波観察法 上前腸骨棘ASIS

前回の下前腸骨棘AIISの観察位置から近位側へ移動していくと、上前腸骨棘ASISがあります。脂肪の蓄積が起こらない箇所(上前腸骨棘や鼡径靭帯など)は、触診でもわかりやすい位置なので安易に捉えがちとなります。必ず肢位や必要に応じての音響カプラーなど、準備を忘れないように注意をして下さい。この場合も観察部位によって肢位を的確に選択すると、良好な画像情報を得ることができます。骨化していない軟骨状態の上前腸骨棘ASISや縫工筋の観察の場合は仰臥位(背臥位)、大腿筋膜張筋からの腸脛靭帯を観察する場合は、側臥位として大転子を目印として観察を始めることをお勧めします。解剖学的な位置関係や、徒手検査を前提に考えると、その意味が解ります。また、focusが結べない浅層部の観察の場合は、必ず音響カプラーやゲルを多めに塗布して距離を稼いで観察して下さい。

では、最初に上前腸骨棘ASISと縫工筋、鼡径靭帯を観察します。触診で上前腸骨棘ASISの位置が把握できたら、プローブを短軸に置いてやや遠位に移動してくると、外側に大腿筋膜張筋、内側に縫工筋が広がってきます。縫工筋の位置が解ったらプローブを長軸にして、上前腸骨棘ASISから広がる縫工筋の様子を観察します。成長期の未だ骨化していない軟骨状態の場合は、その軟骨部分から縫工筋が付着している様子を観察することができます。骨端線離解がある場合には、本来のなだらかな山なりの形状に溝があって波型のような形の様子が観察されます。併せて、前駆症状としての軟骨の腫れにも注意が必要です。この場合も健側患側を、必ず比較観察するようにして下さい。

縫工筋は薄筋と半腱様筋と共に膝の鵞足を形成しており、下腿の外旋強制に対して制動を掛けています。鵞足部に疼痛が発現した場合、股関節伸展・内転・内旋位で膝関節を伸展させて痛みが誘発されるかを確かめると、縫工筋が関与しているか解ります。*7

また、平泳ぎのキックではこの運動が行われ鵞足炎を起こしやすいために、「平泳ぎ膝」という名前があります。
平泳ぎの泳法は、ウィップキック(爪先を外に向けて、土踏まず(足底弓蓋)で水を真後ろに押すようにキックし、キック後は足を揃えて股関節を内旋させる)とウェッジキック(股関節を外旋させ、膝を開いて、足を回して水を挟み込むようにしてキックする)がありますが、推進力があり抵抗が少ないウィップキックが近年の主流となっているようです。ただしこのウィップキックには、その動作からも解るように、膝に負担をかけやすい弱点があります。ウィップキックは、股関節外転角度の大きさが膝へのストレスにつながり、その上、外旋と内旋が繰り返されことで、もともと回旋運動に弱い膝が悲鳴を上げるということになるわけです。いくらウィップキックが抵抗の少ない泳ぎ方と言っても、水の中の抵抗は想像以上に負担になります。ある報告では36人の平泳ぎ選手中、86%に膝痛があったとしています。*8

おっと、今回は股関節の話でした。

図 ウェッジキックとウィップキック
図 ウェッジキックとウィップキック

脱線ついでに作画してみました。運動器の解剖や或いは動態解析にしろ、一度絵に描いてみると理解しやすくなります。

短軸での観察の場合、鼡径靭帯(IL: inguinal ligament)の深部に外側大腿皮神経(LFCN: lateral femoral cutaneous nerve)が通っている様子を観ることができます。この部位の場合、梨状筋症候群に合併する外側大腿皮神経LFCN障害は26.7%あったとの報告があり、それらの所見の有無も大切な情報となります。外側大腿皮神経LFCNは、骨盤内から骨盤外へ出る境界部で非常に狭いスペースを鋭角に曲がっており、そのため、機械的に絞扼や摩擦がされやすい部位です。更には鼠径靭帯や腸腰筋、縫工筋に被覆されているため、これらの筋に攣縮や短縮に伴う筋内圧の上昇が発生した場合には、その絞扼はより顕著になるわけです。

また、同報告によると、梨状筋と外側大腿皮神経LFCNは、股関節の内転運動で伸張されるという共通の特徴を有しており、梨状筋に攣縮が生じて伸張ストレスが加えられると、坐骨神経を絞扼すると同時に、外側大腿皮神経LFCNも共に伸張されると考察されています。*9

神経の走行には個体差もあり、分枝は変化に富んでいるようですが、併せて注意しておくべきポイントであると思います。

*7
林 典雄 運動療法のための機能解剖学的触診技術 下肢・体幹 メジカルビュー社*
*8
Rovere GD, Nichols AW. Frequency, associated factors, and treatment of breaststroker’s knee in competitive swimmers. Am J Sports Med. 1985;13(2):99-104
*9
斉藤 正佳ほか : 梨状筋症候群に外側大腿皮神経障害を合併する割合と機序. 東海北陸理学療法学術大会誌 28 : 50.2012
図 股関節前方の超音波観察法
上前腸骨棘AIIS周辺筋の短軸画像
図 股関節前方の超音波観察法
上前腸骨棘AIIS周辺筋の短軸画像
図 股関節前方の超音波観察法
上前腸骨棘AIISと縫工筋の長軸画像
図 股関節前方の超音波観察法
上前腸骨棘AIISと縫工筋の長軸画像
図 股関節前方の超音波観察法
鼡径靭帯(IL : inguinal ligament)の長軸画像と外側大腿皮神経LFCN
図 股関節前方の超音波観察法
鼡径靭帯(IL : inguinal ligament)の長軸画像と外側大腿皮神経LFCN
図 腸骨稜と外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋の観察
図 腸骨稜と外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋の観察

成長期スポーツ障害として、この観察位置でもう一つ押さえておくべきなのは、腸骨稜骨端症、或いは裂離骨折です。女性では14歳前後、男性は16歳前後の、骨性癒合の完全でない時期に発症することが多いといわれています。腸骨稜の前1/3に多く、この部分が腸骨稜の他の形状と比べて外側に向って唇状に突出していることと、上前腸骨棘には縫工筋と大腿筋膜張筋が付着しており、その緊張が反牽引力として働きやすい為といわれています。発症機転としては、付着する内・外腹斜筋と中臀筋により、中臀筋の牽引力により剥離した骨片が下方へ転位する例と、腹斜筋の牽引力により剥離し上方へ転位する例が報告されています。また、文献上、本骨折の報告例は少なく、しかしながら、発生機転から考えて決して稀な骨折ではなく、保存的に治療された上前腸骨棘骨折の中に本骨折が少なからず含まれているのではないかと結んでいます。*10 上前腸骨棘と、併せて観察しておきたい部位となります。

経産婦のみならず、成人女性の30~40%以上に、尿失禁の経験があるとの報告があります。*11
女性の健康問題の中で、尿失禁はとりわけ深刻な課題です。腹圧性尿失禁の場合、その予防・改善のためには、骨盤底筋群の機能が重要とされています。この骨盤底筋群の収縮には、一般的に横隔膜、腹横筋、多裂筋の同時収縮が必要であると考えられており、理学療法分野では、超音波によるバイオフィードバック療法の研究も進んでいます。バイオフィードバックとは、超音波の画像で筋の収縮状態を被験者に見せながら、動作課題を遂行できるように自分で力の入れ具合やその感覚を調整してもらう方法です。腹横筋のように自分で意識しづらい筋肉の場合、画像を観ながらいろいろ試している内に、正解の力の入れ具合や感覚が解るようになり、意識的に収縮させるコツが習得できるわけです。*12
超音波による動態観察で、普段あまり意識することのない筋肉を選択的に収縮させる感覚を養うということは、安全性の高い超音波ならではの療法であり、アスリートや経産婦、高齢者に限らず、運動器分野の様々なシーンに応用できる方法であると思っています。

*10
佐々木賀一:腸骨稜裂離骨折の1例 ,整形外科と災害外科 27, 42-44, 1978
*11
坂口けさみ, 他:尿失禁を有する一般成人女性のQOLと関連する要因について, Japanese Lournal of Maternal Health 48(2),2007, 323-330.
*12
布施陽子, 他:超音波診断装置による腹横筋厚計測の信頼性の検討(原著)文京学院大学保健医療技術学部紀要2010;3:7-12

それでは、動画です。腸骨稜の位置にプローブを置いて、立位で上体をやや後屈して捻る動作での内・外腹斜筋と腹横筋の様子を観察します。

被験者の右の腸骨稜で、腹横筋の長軸に合わせるようにプローブを置いています。ゆっくりと上体を捻っていくと、腹横筋や内腹斜筋が伸張されていく様子を観察することができます。この場合の外腹斜筋は、筋線維の模様が画面上平行に描出されない事からも解る通り、ほぼ短軸像で描出されています。また、腹横筋は呼吸に伴う腹圧の影響も受けており、併せて観察します。

動画 上体をやや後屈で捻転させながら腸骨稜で内・外腹斜筋と腹横筋を観察

それでは、まとめです。
今回の観察法でポイントとなる事項をまとめると、下記のようになります。

  • 骨盤部の二次骨化核は、おおむね12~15歳で出現し、下前腸骨棘は16~18歳で閉鎖、上前腸骨棘と坐骨結節は少し遅く20~25歳で閉鎖するとされている
  • 上前腸骨棘(ASIS)はスタートダッシュなどによる縫工筋の急激な収縮により損傷し、骨端症などが前駆症状として存在する例もある
  • 上前腸骨棘(ASIS)は、外側下方より大腿筋膜張筋と内側下方より縫工筋、恥骨結合から鼡径靭帯が付着することで、大きく転位することは稀であるとされている
  • ASIS 裂離骨折は、受傷後55 日目に単純X 線で仮骨形成が確認されたが、エコー観察するとASIS 骨端には依然健側と比較して患側の血流増加を認め、受傷後73日で健患側差を認めない程度まで血流反応が消失したとして、復帰基準として従来の単純X 線や理学所見だけでなく、エコーでの血流評価も補助診断として有用なツールとなるとの報告がある
  • パワードプラで血管新生を評価する可能性をテストした動物実験では、骨折手術後のエコーの血流反応は術後20 日間は増加し、71~80日で消失するとして、血流反応の消失は骨折治癒の進行の指標となるとの報告がある
  • 脂肪の蓄積が起こらない箇所(上前腸骨棘や鼡径靭帯など)は、触診でもわかりやすい位置なので安易に捉えがちとなり、必ず肢位や必要に応じての音響カプラーなど、良好な画像を得るための準備を忘れないように注意する
  • 触診で上前腸骨棘ASISの位置が把握できたら、プローブを短軸に置いてやや遠位に移動してくると、外側に大腿筋膜張筋、内側に縫工筋が広がってくる
  • 上前腸骨棘ASISで骨端線離解がある場合には、本来のなだらかな山なりの形状に溝があって波型のような形の様子が観察され、併せて、前駆症状としての軟骨の腫れにも注意する
  • 鵞足部に疼痛が発現した場合、股関節伸展・内転・内旋位で膝関節を伸展させて痛みが誘発されるかを確かめると、縫工筋が関与しているか解る
  • 鼡径靭帯(IL: inguinal ligament)の深部に外側大腿皮神経(LFCN: lateral femoral cutaneous nerve)が通っている様子を観ることができ、梨状筋症候群に合併する外側大腿皮神経LFCN障害は26.7%あったとの報告があり、併せて注意する
  • 外側大腿皮神経は鼠径靭帯や腸腰筋、縫工筋に被覆されており、これらの筋の攣縮や短縮に伴う絞扼が無いかを観察する
  • ASISを近位に上っていくと、腸骨稜上部に外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋を捉えることができる
  • 腸骨稜骨端症、或いは裂離骨折は、女性では14歳前後、男性は16歳前後の、骨性癒合の完全でない時期に発症することが多いといわれている
  • 腸骨稜裂離骨折は腸骨稜の前1/3に多く、腸骨稜の他の形状と比べて外側に向って唇状に突出していることと、上前腸骨棘には縫工筋と大腿筋膜張筋が付着して、その緊張が反牽引力として働きやすい為といわれている
  • 腸骨稜裂離骨折の発症機転としては、付着する内・外腹斜筋と中臀筋により、中臀筋の牽引力により剥離した骨片が下方へ転位する例と、腹斜筋の牽引力により剥離し上方へ転位する例が報告されている
  • 腸骨稜裂離骨折の報告例は少ないが、発生機転から考えて決して稀な骨折ではなく、保存的に治療された上前腸骨棘骨折の中に本骨折が少なからず含まれているのではないかとの指摘がある
  • 成長期のスポーツ障害の場合、上前腸骨棘と腸骨稜は併せて観察すべき部位
  • 成人女性の実に30~40%以上に尿失禁の経験があり、予防・改善のためには、骨盤底筋群の改善が言われ、横隔膜、腹横筋、多裂筋の同時収縮が必要であると考えられている
  • バイオフィードバックは、骨盤底筋群や腹横筋など意識していない筋肉の収縮を超音波画像で確かめながら行う事で、意識的に収縮させるコツを習得させる方法
  • 普段あまり意識することのない筋肉を選択的に収縮させる感覚を養うということは、安全性の高い超音波ならではの療法であり、アスリートや経産婦、高齢者に限らず、運動器分野の様々なシーンに応用できる方法であると思われる

次回は、「下肢編 股関節の観察法について6」として、外側走査について考えてみたいと思います。

情報提供:(株)エス・エス・ビー

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