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運動器超音波塾【第27回:股関節の観察法2】

特集 運動器超音波塾

株式会社エス・エス・ビー
超音波営業部マネージャー
柳澤 昭一

近年、デジタル技術により画像の分解能が飛躍的に向上した超音波は、表在用の高周波プローブの登場により、運動器領域で十分使える機器となりました。この超音波を使って、柔道整復師分野でどのように活用できるのかを、超音波の基礎からわかりやすくお話してまいります。

第二十七回 「身近で美しい花にはくれぐれもご注意を」の巻
―下肢編 股関節の観察法について 2 ―

七十二候の雷乃発声(かみなりすなわちこえをはっす)となり、桜前線の北上が話題になる時節となりました。春の訪れを告げる春雷はまだ来ていませんが、庭先の様子も春らしい装いになってきました。そんな花々を眺められるだけでも、少しはこれまでの庭掃除の甲斐があったというものです。グランドソレドールにしろ、シラー・シベリカにしろ、球根を分けて適当に埋めただけだったのに、鮮やかな黄色や深い青紫の花を咲かせてくれました。寒椿や沈丁花の隣に、春色が足されていきます。向かいのコブシには食欲旺盛なヒヨドリが二羽、大きな声でなにか話しながら、むしゃむしゃとその白い花を食べては残りの花びらを宙に舞わせています。

適当に頭の上のアンテナの受信範囲や処理速度を落として、目の前のことだけに集中して汗をかく楽しみに浸っているのは至福です。普段は何事にも雑念が多く、加えて幾つもの事柄を平行に処理する生活をしているわけで、時々軌道修正しないと軸がぶれてしまう気がします。私の場合、スマホの電源を切って庭掃除(庭をいじれるほどの技量はまだありません)という作業も、その軌道修正のひとつと言える訳です。考えてみると、あらすじだけ読んで解った気になって、実は本文を十分に味わっていなかったという事柄が、自分の暮らしの中にはたくさんあります。ある意味非合理的で実益をたいして産まない事柄を、「道楽」や「遊び」と呼ぶ訳ですが、それこそが両天秤の片側にないとバランスが取れない。そのような訳で、山積みになったまま、まだ十分に味わっていないことや知りたかったことを、軌道修正を兼ねて少しずつ実体験にしていきたいと考えています。さて、とりあえずは、先程からヒヨドリの食欲に押されて、グーと唸りながらお腹の中を駆け回っている、小さな天使達を黙らせることにします。

図 庭先に春の訪れ
図 庭先に春の訪れ
グランドソレドール(和名:キブサスイセン黄房水仙)

スイセン(水仙)の属名はナルキッソス(Narcissus)と言い、名前の由来はギリシャ神話の美少年ナルキッソス(Narcissus : ナルシストの語源でもある)が泉に映った自分の姿に恋こがれ、その場から離れることができずに憔悴して命を落とし、その亡くなった跡に咲いた花がスイセン(水仙)であったという伝説からきています。スイセン(水仙)の下に向けて花首をかしげてうつむいているような姿が、水面をのぞきこむナルキッソスのようにも見えて、この名前がついたと言われています。

ラッパスイセン(喇叭水仙)は西洋ネギ(リーキ)と共に、英国のウェールズ(Wales)の国花で、海外ではスイセンは「希望」の象徴と言われているそうです。

その一方でナルキッソス属には、有毒成分のリコリン(lycorine)、ガランタミン(galanthamin)、タゼチン(tazettine)、シュウ酸カルシウム (calcium oxalate)などが含まれ、全草が有毒で、特に鱗茎( : 球根)に有毒成分が多いそうです。 食中毒と接触性皮膚炎の症状を起こすとの事。詳しくは厚生労働省の自然毒のリスクプロファイル を参照してみて下さい。考えてみると、日本三大有毒植物と呼ばれるトリカブトやドクセリ、ドクウツギは比較的よく知られていますが、水仙やすずらん、福寿草、シクラメンや夾竹桃(キョウチクトウ)などは、それ程有毒と想っていませんでした。身近で美しい花にはくれぐれもご注意を、ということです。いくらお腹が空いていても、「美味しそう」なんてヒヨドリみたいな食欲で、むやみに摘まんではだめということです。

今回の「運動器の超音波観察法」の話は「股関節の観察法2」として、ひきつづき前方走査について考えてみたいと思います。股関節の観察法は下肢の重要な起点となりますので、今回も行きつ戻りつ、道草を食いながら丁寧に話を進めていこうと思います。

加齢で後方骨頭被覆率が増加

股関節はball and socket jointと呼ばれる球関節で、肩関節と同様に多軸関節に属します。正常な股関節では、寛骨臼は腸骨と座骨が80%、残り20%を恥骨が形成しており、周囲は関節唇で縁取られています。また、骨頭が寛骨臼の中に包み込まれていることにより、運動時の安定性と体重支持において重要な役割を果たしています。

正常な股関節での前方骨頭被覆率は、男性52.1%、女性52.4%で、後方骨頭被覆率が男性76.6%、女性82.1%という話があります。更に、加齢により後方骨頭被覆率が増加するとして、骨盤の後傾が要因として考えられるとしています。しかしながら、骨盤が後傾すれば必然的に前方骨頭被覆率は減少すると考えられるはずですが、前方骨頭被覆率は加齢による減少を認めなかったと報告しています。*1 骨棘の形成か、関節裂隙の狭小化か、原因は不明としていますが、加齢変化により後方骨頭被覆率が上がるというのはとても興味深い話です。

また、日本人成人男女の骨盤、大腿骨を計測した結果、女性では男性に比べて臼蓋の形成および骨頭の被覆が低下しているだけでなく、大腿骨頭中心そのものが外側化しており、股関節のバイオメカニクスから不利な形態をしていたとの報告がありました。これは、注意を要する事項です。*2

骨棘形成については、大腿骨頭の骨棘形成が強い症例は骨盤が前傾し、骨棘形成が少ない症例では後傾を認めるという報告*3 と、臼蓋嘴部骨棘(きゅうがいしぶroof osteophyte : 臼蓋外上縁)の増生が強い症例は骨盤が後傾する傾向にあり、臼蓋内側の骨棘(tent osteophyte)の増生が強いほど、前傾する傾向があるとの報告があります。*4 変形性股関節症は変形の進行ととともに疼痛が増強するとされていますが、その一方で、進行期や末期の股関節症のなかには、自然経過の中で十分な骨棘形成(臼蓋外上方の骨棘形成)が見られると疼痛が減少する症例もあるとした報告があります。*5

以前にも書いたように、骨棘自体は本来そんなに悪者ではなく、安定や保持の為の仮補修の作用であると思っています。骨棘の形態分析をした文献でも、非荷重面に発生した小さな骨棘はOAの進行と共に増大して荷重面として機能していることが、骨梁の走行より示唆されると書いています。ただし、本来の硝子軟骨ではないために、ある期間限定で荷重面として機能するわけです。*6

*1
楠城誉朗、岡野徹、山本吉蔵ほか.正常股関節における臼蓋による骨頭被覆度.中国・四国整形外科学会雑誌.9:2:193-195:1997
*2
藤井玄二、桜井 実、船山完一ほか.変形性股関節症X線計測.日本人成人股関節の臼蓋・骨頭指数.整形外科.1994;45(8):773-80.
*3
千葉 恒,岡野邦彦,榎本 寛,土井口祐一,川原奈津美,進藤裕幸.骨盤傾斜と股関節症.変形性股関節症における大腿骨頭の骨棘形成と骨盤傾斜の関連.Hip Joint. 2004;30:298-301.
*4
土井口祐一,岡野邦彦,進藤裕幸.変形性股関節症における臼蓋骨棘形成と骨盤傾斜との関連.Hip Joint. 2005;31:192-5.
*5
武田浩一郎,菊地臣一,佐藤信也,ほか.変形性股関節症の自然経過―10年以上の追跡調査.日本整形外科学会雑誌.1995;69(2):s427
*6
岩崎勝郎,平野徹,池田定倫,山根芳道.変形性股関節症における骨頭骨棘の形態分析.整形外科と災害外科.1988;36:(3):742~745.

股関節周囲の血管と神経

寛骨臼前方には大腿神経、大腿動脈・静脈が通っており、後方には大坐骨切痕から骨盤外に出る上殿神経、上殿動脈・静脈と下殿神経、下殿動脈・静脈、坐骨神経があります。また下方の閉鎖孔には閉鎖神経、閉鎖動脈・静脈があり、前上腸骨棘付近を大腿外側皮神経が通過しています。

前方の大腿神経の支配領域は、腸腰筋・縫工筋・大腿直筋・外側広筋・中間広筋・内側広筋・膝関節筋・恥骨筋(閉鎖神経との二重神経)です。

股関節の筋肉

前回も触れたように、股関節前方の筋としては、寛骨内にある腸腰筋、上前腸骨棘(ASIS)の下方から始まる縫工筋、下前腸骨棘(AIIS)からと臼蓋上縁から始まる大腿直筋、恥骨櫛(ちこつしつ)およびこれより外方にある恥骨枝の寛骨臼部の面からとその他に恥骨筋膜から起る恥骨筋などが挙げられます。

前回の観察でも目印にした大腿動脈・静脈は大腿神経とともにスカルパ三角を通過しています。スカルパ三角( Scarpa’s triangle)は、鼠径靭帯・縫工筋・長内転筋に囲まれた部分で、底面は腸腰筋と恥骨筋、長内転筋があり、腸恥筋膜でおおわれており、腸腰筋と恥骨筋の接合部はへこみとなっています。このへこみの部分を fossa iliopectinea腸恥窩といいます。*7

スカルパ三角は大腿動脈が通過している事で、表在からの触知もしやすい部位で、やや外側の深部には大腿骨頭が触知されます。ちなみに縫工筋の名称は、服の仕立屋があぐらをかいて仕事をする時に盛りあがって見える筋肉が由来との話で、人体で最も筋線維が長い筋として脛骨粗面内側に薄筋及び半腱様筋の停止腱と合体し、鵞足となって停止しています。
鼡径靭帯の直下で観ると、外側に筋裂孔があり、腸恥筋膜弓に隔てられて血管裂孔があります。筋裂孔には外側大腿皮神経と腸腰筋、大腿神経があり、血管裂孔には恥骨筋と大腿動脈・静脈と大腿輪という膜にリンパ管(ローゼンミューラー腺 Rosenmüllersche Drüse)が通っています。*8

図 スカルパ三角の解剖
図 スカルパ三角の解剖
図 鼡径部 筋裂孔と血管裂孔
図 鼡径部 筋裂孔と血管裂孔
図 股関節前面から大腿への筋肉
図 股関節前面から大腿への筋肉

股関節を動かすための筋肉を考えてみると、補助的なものも含めて次のように分類されます。

股関節屈曲に主に作用するのは腸腰筋です。さらに縫工筋、大腿直筋、恥骨筋と大腿筋膜張筋などが関与しています。股関節伸展は主に大殿筋、大内転筋が作用しますが、膝伸展位の場合、半腱様筋、半膜様筋、大腿二頭筋長頭が補助しています。股関節外転は、主に中殿筋、小殿筋が作用し、大腿筋膜張筋が関与しています。股関節内転は主に大内転筋、短内転筋、長内転筋と薄筋で、恥骨筋が補助しています。股関節の内旋は小殿筋、大腿筋膜張筋が主に作用します。股関節の外旋は、梨状筋、内・外閉鎖筋、上・下双子筋、大腿方形筋)、大殿筋が作用します。*9

股関節の運動は膝関節の運動、足関節の運動と連動し、影響し合っています。これらは二関節筋により連携され、Schenau(シェノー)らは、単関節筋と二関節筋には異なる役割が存在するとして、単関節筋および二関節筋の制御は、異なる過程および異なる情報源に基づいていることにより、単関節筋(一関節筋.)は主に機械的な力を発揮し、二関節筋は主に外力の方向の制御や末梢の求心性神経からの運動関連のフィードバッグにより、柔軟に応答していると報告しています。*10,11 つまり、二関節筋は剛性制御、軌道制御さらには出力制御に関わるということになります。

下肢の筋肉は垂直方向の負荷が常にかかっているため、それを代償できるような筋配列になっています。福井勉先生によると、一関節筋は重力対応、二関節筋は制御、したがって寝たきりになるとまず一関節筋が衰えると言っています。だから熊本水頼(くまもと・みなより)先生が書かれているように、水中にいる魚類には二関節筋はなく、魚類はおそらく多関節筋(機能的三関節筋)で、S字状に身体を動かして泳ぐ。それが両性類になると機能的三関節筋は消滅し、二関節筋が登場するという話があります。つまり、重力下では多関節筋(機能的三関節筋)は役に立たないというわけです。*12
鰭(ひれ)はもともと三関節筋がひとつの機能的単位となっていたというのは、おもしろい。もう少し、魚の動きを観察してみたくなりました。ちなみに両生類や爬虫類も体をくねらせて移動するわけですが、このあたりの意味も知りたいところです。

魚の筋肉は普通筋と血合筋(Blood Muscle)に分けられ、「赤身」と呼ばれているものは、ミオグロビンとヘモグロビンが多く、持久力に優れた筋肉です。酸素を使って脂質を燃やすか、グリコーゲンを燃やすかの違いで、このあたりは人間の筋肉と一緒です。サーモンピンクは摂取するエビのアスタキサンチン(カロテノイドの一種)からきているそうで、分類的には白身魚だそうです。
ロボットの世界を見てみると、いくつかの脚ロボットは、ヒトの脚の一関節筋と二関節筋による筋配列を模倣することで安定した歩行運動を実現しており、その立位静的安定性は複雑なコンピュータ制御を必要とせず、二関節筋のもつ機能によって改善できるという話があります。*14二関節筋の優位性が、バイオメカニクスでも証明されてきたわけです。だいぶ話が脱線しました。

二関節筋の大腿直筋や腓腹筋は俊敏な対応が必要なため速筋線維の割合が高く、瞬発力を持っています。さらに二関節筋は身体が大きく移動する際に活動しやすい筋とされ、単関節筋は関節の固定を担うとされています。*13 姿勢異常を有する多くの症例は単関節筋が機能不全を起こし、多関節筋が過剰に機能しているとの話もあり、二関節筋についてはまだまだ知りたいことだらけです。

*9
種子田 斎:股関節の痛みと機能障害. 理学療法科学. 2000,15 (3), 89-94
*10
Van Ingen Schenau GJ. From rotation to translation: constraints on multi-joint movements and the unique action of bi-articular muscles. Human Movement Science. 1989;8:301–337.
*11
Van Ingen Schenau, G.J.n; Pratt, C.A.; Macpherson, J.M. Differential use and control of mono- and biarticular muscles. Human Movement Science. 13(3-4): 495-517, 1994
*12
編集:熊本 水賴.二関節筋 運動制御とリハビリテーション.医学書院
熊本 水賴.二関節筋その意味とはたらき.Sports medicine 2008 NO.105
*13
福井 勉:スポーツ傷害の治療(下肢).理学療法学 13:151-155,1998.
*14
大島 徹, 藤川 智彦, 本吉 達郎, 小柳 健一: 二関節筋機能を有する脚ロボットの立位静的安定性の実証. バイオメカニズム学会誌.41(4):221-229,2017

股関節前方の超音波観察法

それでは、股関節前方の超音波観察法です。前回把握した全体像を想い出しながら、前方からの観察を続けていきます。

前回同様、この観察の肢位は仰臥位(背臥位)です。もう一度、復習です。股関節屈曲の場合、大腿骨頭頸部の前捻角によって骨頭が下がり筋肉が緩んでしまうため、股関節中間位(屈曲0度)で観察します。また、骨頭や腸腰筋を触診する場合は、やや伸展位にすると骨頭が前方へ出て理解しやすくなります。この時に、正常ではベッドと腰椎との間に手の平ひとつ分の腰椎前弯が存在し、腸腰筋拘縮がある場合には腸腰筋に骨盤や腰椎が牽引される事で腰椎前弯の程度が増大するとの話があり、観察前に注意しておきたいポイントです。*13 超音波による観察の場合、観察肢位やこのような下準備をすることがとても大切で、安定した再現性のある画像にするためにも心掛けておきたいところです。

図 股関節前方の観察肢位
図 股関節前方の観察肢位

股関節屈曲の場合、大腿骨頭頸部の前捻角の為、骨頭が下がり筋肉が緩んでしまいます。
骨頭や腸腰筋を触診する場合は、やや伸展位にすると骨頭が前方へ出て理解しやすくなります。

股関節前方の観察では、大腿骨頭の位置を触診で確認して大腿骨頭と大腿動静脈を観察後、大腿動脈に沿って上り腸恥隆起に合わせてプローブを置きます。この時、拍動する大腿動脈を目印として位置関係を確認します。*14 大腿骨頭は、下肢を内外旋するなど動かすと回転する様子を観察することができます。超音波画像診断装置の2画面機能などを利用して幅広く観察すると、全体が把握しやすくなります。

ここまでが前回の復習です。今回は、この骨頭を画面の中心にして、大腿骨頸部に沿うようにプローブを90°回転させ、大腿骨頭と関節包、関節唇の様子を観察します。小児の場合、前方関節腔に低エコーを示す水腫の貯留等に特に注意をします。単純性股関節炎やペルテス病も念頭に入れ観察を進めます。*14
更に、腸腰筋の長軸像を観察します。この画像では、骨頭と関節唇の位置関係とその上を通る腸骨大腿靭帯のfibrillar patternと腸腰筋を描出していきます。

股関節の関節唇は、骨盤側の寛骨臼の辺縁を取り巻く柔らかい線維軟骨組織で、大腿骨頭を包み込むようにしてパッキングしています。この関節唇が損傷すると骨頭が不安定となり、次第に軟骨が破壊されて変形性股関節症(OA)へ移行すると考えられています。

変形性股関節症については、日本人の場合、圧倒的に女性の発症が多く、9割近いとの話があります。骨盤側の屋根が浅い寛骨臼(かんこつきゅう)形成不全や寛骨臼による骨頭の被覆過剰もしくは後捻に伴う股関節を深く曲げたときに骨同士がぶつかる 股関節インピンジメント(Femoroacetabular impingement : FAI)、大腿骨頭軟骨下脆弱性骨折(Subchondral insufficiency fracture of the femoral head : SIF)が要因と言われています。着目する事として、寛骨臼形成不全における関節唇損傷は、変形性股関節症の病期の極めて早い時期から大部分の症例で観察されるという事で、損傷部位は関節唇前上方から上方に多いとされている点です。*15 
関節唇の状態を観察することは、アスリートの問題だけではなく、超高齢社会の股関節症の早期発見や予防に於いて、極めて重要なポイントであると解ります。

変形性股関節症については、また別の機会に詳しくエビデンスを調べてみたいと思います。宿題が増えている気もしますが。

関節唇損傷の観察では、関節唇の肥大以外に、関節外のガングリオンや関節水腫、腸骨大腿靭帯の変性肥大が低エコーに観察されることもあると指摘されています。*14

*13
林 典雄 運動療法のための運動器超音波機能解剖 文光堂
*14
皆川洋至 超音波でわかる運動器疾患 メジカルビュー社
*15
変形性股関節症診療ガイドライン2016 監修 日本整形外科学会 日本股関節学会 南江堂
図 股関節前面の超音波観察法(長軸) 腸腰筋と関節唇
図 股関節前面の超音波観察法(長軸) 腸腰筋と関節唇

股関節伸展位の場合、腸腰筋の停止部の小転子は大腿骨後方に位置するため、腸腰筋は大腿骨頭を斜めに走行しています。そのため、軽度屈曲(30°程度)にすると、水平になります。

肥厚した滑膜や血管増生を伴う関節包炎が疑われる場合には、積極的にドプラ観察を行って、内部の血流の様子を観察して下さい。

前回も書いたように、股関節屈曲拘縮の主要因は、腸腰筋の拘縮であるとされ、腸腰筋の拘縮は腰椎の代償的前弯を引き起こし、しばしば腰痛の原因となるとされています。*13
静止画で骨頭と臼蓋、関節唇の状態や位置関係を観察し、さらに屈曲動態での観察をしていきます。超音波による腸腰筋の硬さを観察することや、腸骨大腿靭帯にも着目していきます。股関節では腸腰筋はよく話にのぼりますが、腸骨大腿靭帯は余り着目されていない印象があります。腸骨大腿靭帯は腸腰筋との間に滑液包もある事から、股関節の中では注意すべき構成体であると思っています。腸骨大腿靭帯はとても強い靭帯ですが、拘縮すると股関節の可動域制限をもたらすと考えられており、この位置で観察される腸骨大腿靭帯の上部線維については、その解剖学的走行から股関節外旋で伸張を促しながらの観察も有用であると考えています。

では、動画です。大腿骨頭位置の腸腰筋長軸で、屈伸動態を観察してみます。

表在の腸腰筋筋膜と脂肪、その間の縫工筋からと観られる膜状組織の滑走にも注意して観察します。

股関節を少しだけ屈伸動作して観察すると、骨頭が臼蓋に滑り込む様子とともに、腸腰筋の収縮の様子と腸腰筋と腸骨大腿靭帯の間にある滑液包の位置も理解しやすくなります。この位置での観察は関節唇が引っ掛かるような様子や、その場合に臼蓋の形成不全や関節外にガングリオンを観ることもあります。*14
また、腸骨大腿靭帯の肥厚や関節水腫にも注意して観ることが、股関節の前方での超音波観察法の重要なポイントです。

動画 股関節屈伸動作による腸腰筋の動態観察

股関節屈曲の最終域を観察する場合は、臀部に手を添えて骨盤の後傾を止めた上で、大腿骨頸部と臼蓋が衝突しないように、股関節をやや外転・外旋気味に屈曲を誘導する工夫が必要です。また、この方向への反復運動は、腸腰筋の緊張緩和にもなる反回抑制(recurrent inhibition)が働く運動です。*13

それでは、まとめです。
今回の観察法でポイントとなる事項をまとめると、下記のようになります。

  • 日本人成人男女の骨盤、大腿骨を計測した結果、女性では男性に比べて臼蓋の形成および骨頭の被覆が低下しているだけでなく、大腿骨頭中心そのものが外側化しており、股関節のバイオメカニクスから不利な形態をしていたとの報告がある
  • 変形性股関節症は変形の進行ととともに疼痛が増強するとされているが、その一方で、進行期や末期の股関節症のなかには、自然経過の中で十分な骨棘形成(臼蓋外上方の骨棘形成)が見られると疼痛が減少する症例もある
  • 股関節の非荷重面に発生した小さな骨棘はOAの進行と共に増大して荷重面として機能する事が示唆されるが、本来の硝子軟骨ではないために、ある期間限定である
  • スカルパ三角( Scarpa’s triangle)は、鼠径靭帯・縫工筋・長内転筋に囲まれた部分で、底面は腸腰筋と恥骨筋、長内転筋があり、腸恥筋膜でおおわれており、腸腰筋と恥骨筋の接合部はへこみとなっており、このへこみの部分を fossa iliopectinea腸恥窩という
  • 鼡径靭帯の直下には、外側に筋裂孔、腸恥筋膜弓に隔てられて血管裂孔があり、筋裂孔には外側大腿皮神経と腸腰筋、大腿神経があり、血管裂孔には恥骨筋と大腿動脈・静脈と大腿輪という膜にリンパ管(ローゼンミューラー腺Rosenmüllersche Drüse)が通っている
  • 単関節筋(一関節筋.)は主に機械的な力を発揮し、二関節筋は主に外力の方向の制御や末梢の求心性神経からの運動関連のフィードバッグにより、柔軟に応答しているとの報告がある
  • 姿勢異常を有する多くの症例は単関節筋が機能不全を起こし、多関節筋が過剰に機能しているとの説もある
  • 大腿骨頭位置での観察は、小児の場合、前方関節腔に低エコーを示す水腫の貯留等に特に注意をし、単純性股関節炎やペルテス病も念頭に入れ観察を進める
  • 関節唇は、骨盤側の寛骨臼の辺縁を取り巻く柔らかい線維軟骨組織で、大腿骨頭を包み込むようにしてパッキングしており、損傷すると骨頭が不安定となり、次第に軟骨が破壊されて変形性股関節症(OA)へ移行すると考えられている
  • 寛骨臼形成不全における関節唇損傷は、変形性股関節症の病期の極めて早い時期から大部分の症例で観察される
  • 関節唇損傷の観察では、関節唇の肥大以外に、関節外のガングリオンや関節水腫、腸骨大腿靭帯の変性肥大が低エコーに観察されることもある
  • 肥厚した滑膜や血管増生を伴う関節包炎が疑われる場合には、積極的にドプラ観察を行って、内部の血流の様子を観察する
  • 股関節の屈伸動作での観察は関節唇が引っ掛かるような様子や、臼蓋の形成不全、関節外にガングリオンを観ることもあり、併せて腸骨大腿靭帯の肥厚や関節水腫にも注意して観る
  • 股関節屈曲の最終域を観察する場合は、臀部に手を添えて骨盤の後傾を止めた上で、大腿骨頸部と臼蓋が衝突しないように、股関節をやや外転・外旋気味に屈曲を誘導する工夫が必要で、この方向への反復運動は腸腰筋の緊張緩和にもなる反回抑制が働く運動である

次回は、「下肢編 股関節の観察法について3」として、引き続き前方走査について考えてみたいと思います。

情報提供:(株)エス・エス・ビー

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