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運動器超音波塾【第25回:指関節の観察法3】

特集 運動器超音波塾

株式会社エス・エス・ビー
超音波営業部マネージャー
柳澤 昭一

近年、デジタル技術により画像の分解能が飛躍的に向上した超音波は、表在用の高周波プローブの登場により、運動器領域で十分使える機器となりました。この超音波を使って、柔道整復師分野でどのように活用できるのかを、超音波の基礎からわかりやすくお話してまいります。

第二十五回 「落ち葉焚きに焼き芋は欠かせません」の巻
―上肢編 指関節の観察法について 3―

11月初旬には2年ぶりとなる「エルニーニョ現象」の発生が発表され、暖冬といわれる今年の冬ですが、今日からは七十二候の朔風払葉(きたかぜこのはをはらう)に入るということで、此処つくば市でも、さすがに寒さが厳しくなってきました。炬燵をだして蜜柑をかごに盛って、本格的な冬に備える時節です (あまり備えになっていない気もしますが) 。猫の額ほどの我が家の庭にも、北風にうながされて舞い降りた落ち葉が一面に広がって、熊手で掻き集められるのを待っているようです。

子供のころの記憶をたどると、庭掃除を手伝いながら「たきび」の歌のように落ち葉焚きをして、火の扱い方や注意事項を学びながら、お決まりの焼き芋を食べたことを想い出します。この時節になると近所のあちこちでそのような風景が観られ、穏やかな冬の風物詩といった感じがしていました。最近は、「焚き火禁止」といった風潮もあり、そのような姿があまり見られなくなったのは実にさびしい限りです。

焚き火は、古くは北京原人の遺跡からも見つかっているそうで、暖を取り、危険な野生動物を遠ざけ、もちろん明かりとしての役割もあり、熱による調理もできた。更には狼煙(のろし)のような通信手段や、護摩を焚くなどの宗教儀式にも結び付いて今日に至るわけです。つまり、人が人としての生活やその文明の発達の上で、欠かせないものであったことが解ります。
考えてみると、ほんの少し前の日本、都市ガスやプロパンガスが普及する前までは、風呂を焚くのも薪を使い、かまどや囲炉裏、七輪でご飯を炊くのが当たり前の時代があったわけで、どこの家にも煙突がありそこから煙が出ていたわけです。あの太さの煙突では、サンタは入って来られないなと想っていましたが。

落ち葉の降り積もる年の瀬に、1度か2度の焚き火は気兼ねなくできる世の中であってほしいと思います。ご近所への迷惑にならないように配慮するマナーはもちろん大切ですが、ダイオキシンが少しでもでるようならやめるべきという「焚き火禁止」論は、少々行き過ぎという気がします(落ち葉焚きは、ごみの焼却に比べると、PCDD/Fs 発生による環境への悪影響は小さいと考えられるとの発表*)。自然からの循環型資源の利用である落ち葉焚き(灰は肥料となり、火鉢にも使われる)と、そもそも石油やガスなどの地下資源の消費が基盤となっている社会構造。すこしだけ寛容な気持ちで、何かうまい落としどころはないものかと考えてしまいます。これはもうみんなで焚き火を囲んで、その炎をぼおっと眺めて、いったん穏やかな気持ちになる必要があるのかもしれません。
洗濯物が取り込まれ、寒くなって窓が閉められた夕方の時間帯に、焚き火を囲んで子供たちに火の取り扱い方や煙の怖さを教え、「今年ももう終わりですね」なんて談笑しながらご近所さんや通りすがりの人がちょっとだけ集う風景。良いと想うのですが。そうそう、もちろん、その場に、焼き芋は欠かせません。

*
宇都秀一,久保田彰子,樋口隆哉,浮田正夫:焼却に伴うダイオキシン類(PCDD/Fs)発生に関する研究,土木学会第57回年次学術講演会講演概要集第Ⅶ部門,pp.569-570,札幌,2002.9
図 つくばの寒空に柿ひとつ
図 つくばの寒空に柿ひとつ

七十二候の雪下出麦(ゆきくだりてむぎのびる)は、降り積もった雪の下でも次の春を待つ麦が芽を出しはじめる頃ということで、正月の頃を表しています。そのような自然の中の生命の営みを観ていると、すこし元気がもらえます。

今回の「運動器の超音波観察法」の話は「指関節の観察法」として、DIP関節について考えてみたいと思います。

指の微妙なコントロール

指の伸展を行う伸筋系は指伸筋だけであるのに対して、屈曲を行う屈筋系は深指屈筋(DIPの屈曲)と浅指屈筋(PIPの屈曲)が作用しています。この2つの系列は前腕にあるので、外在筋系と呼ばれています。指の動きを微妙にコントロールするためには、指伸筋と指屈筋の2系列だけでは達成できません。そのために、手内在筋(手掌の中に存在する筋)の作用が必要になってくるわけです。*1

前にも触れたように、手内在筋(Intrinsic muscle)とは骨間筋(Interosses muscle)が背側に4つ、掌側に3つと、虫様筋(Lumbricales muscle)が4つで配置されています。骨間筋は、中手骨の間にあって、指の開閉(MP関節での外転・内転)を行うのと同時に、指に側索を送ることによって、屈伸にも関与していることが知られています。骨間筋の支配神経は主に尺骨神経ですが、橈側の筋の一部には正中神経からの枝も入ってきています。
虫様筋は深指屈筋から起始し、側索から伸筋腱膜(Extensor digitorum tendon)に合流する独特な筋で、掌側からMP関節の橈側を通って背側に連絡しています。骨から起始しない唯一の筋肉で、筋紡錘が多いのも特徴です。この筋も指の屈伸の微妙な調整に関与しているとされています。*2

指の微妙で滑らかな動きを実現するためには、ドライビング技術のヒール・アンド・トゥのようにアクセルとブレーキ、つまり屈曲時にも伸筋、手内在筋が同時に作用しています。また、指の屈曲・伸展を考える場合、手関節の掌背屈も考慮すべきであるとされています。手関節が背屈すると、屈筋は過緊張となり、握力が上がります。力を抜いた状態で手関節を背屈位にもっていくと、自然にMP関節は屈曲位となって、小指側ではPIP関節も屈曲位となります。逆に手関節が掌屈すると伸筋腱が過伸展となり、屈筋に対し抵抗が大きくなり、握力は減ってしまいます。力を抜いた状態で手関節を掌屈位にもっていくと、MP関節以下すべて伸展位になるのが自然な腱のバランスです。したがって、橈骨神経麻痺で屈曲力に問題がないのに握力が落ちるのは、手関節が背屈できないことも関与するわけです。*2

このように、指の屈曲・伸展についても相互の筋が絶妙にバランスをとっています。更には知覚機能として表面感覚の触覚、圧覚、温覚、冷覚、痛覚があり、深部感覚の立体覚、位置覚等があることで、それらがフィードバック(sensory feedback)されて卵を割らずに掴めるわけです。実に精巧な仕組みです。また、指関節に限らず超音波観察をしていると、その画像描出の性質上、ともすれば近視眼的に事象をとらえがちですが、相互のバランスという意味においては、時々俯瞰で考えることが大切とも言えるわけです。

*1
Tubiana, R.: Examination of the Hand and Upper Limb, 1-97, W.B. Saunders, 1984
*2
池田和夫. 生体をもっと知ろう 義肢装具士のための生体機構学 手・上肢筋の機能解剖. 日本義肢装具学会誌15号,204-212,1999

DIP関節の解剖

DIP(distal interphalangeal joint)関節もPIP関節(proximal interphalangeal joint)と同様に蝶番関節に分類されており、側副靱帯、副靱帯、掌側板がありますが手綱靭帯(checkrein ligament)は存在しないため、過伸展が可能であるとされています。

DIP関節に作用する主要筋は、屈曲が深指屈筋、伸展が骨間筋と虫様筋ということになります。先に書いた通り虫様筋の働きは特殊で、指屈曲運動において深指屈筋が収縮すると虫様筋の起始部は中枢方向に移動し、同時に深指屈筋の作用によってPIP関節・DIP関節が屈曲するため、虫様筋の停止部は逆に末梢へ引かれることになります。つまり3つの指関節の総てが屈曲する際には虫様筋はさほど強く収縮しないとなるわけです。*3

また、指の伸展時には屈筋鍵を末梢方向に引き出して伸筋の作用を容易にし、完全伸展位から屈曲運動を開始する際にはMP関節の屈曲を起こして指屈筋の作用を導き出す、誘導装置の作用をもつと推定されています。*4

DIP関節は、屈曲時に約2~8°回内するとのVICON(光学式三次元動作分析システム)を使った報告があります。*5
同様に献体をmicrotomography (microCT)で測定した報告でも、末節骨底の尺側の曲率半径が橈側よりも大きいということ、しかも示指から薬指にかけて増加し小指で減少するとして、屈曲時にわずかに回内すると報告されています。更にこの論文では、伸展から屈曲していくと関節の接触面積が増大して、単位面積あたりにかかる圧はDIP関節が最も大きいこと、PIP関節のような手綱靭帯がないことで、掌側板の動きや関節の潤滑に作用するなどの機能がない点を指摘して、DIP関節がPIP関節と比較して変形性関節症(OA)が生じやすい原因として推測しています*6

*3
Stack, H. G. : Muscle function in the fingers. J. Bone and Joint Surg., 44-B : 899 909 , 1962.
*4
上羽康夫. 手指屈曲運動に関する実験並びに臨床研究-組織損傷による指屈曲運動変化について. 日本外科1976; 45: 135-74.
*5
Degeorges R, Parasie J, Mitton D, et al. Three-dimensional rotations of human three-joint fingers: an optoelectronic measurement. Preliminary results. Surg Radiol Anat. 2005;27:43–50.
*6
Kraig S. Graham, Robert J. Goitz and Robert A. Kaufmann, Curvatures of the DIP Joints of the Hand, HAND, 9, 4,(522), (2014).
図 DIP関節 関節の位置と骨標本の画像
図 DIP関節 関節の位置と骨標本の画像

DIP関節(distal interphalangeal joint)もPIP関節(proximal interphalangeal joint)と同様に蝶番関節に分類されていますが、屈曲時にわずかに回内するとされています。

斜支靭帯(oblique retinacular ligament)について

DIP関節の自動屈曲の低下は、関節拘縮または斜支靭帯の拘縮による場合があります。
斜支靭帯は骨幹に隣接した屈筋腱の腱梢に固定されています。それは、PIP関節の屈曲軸の前を通り、終末腱のレベルで伸筋システムに接合します。この靭帯は、屈曲および伸展においてDIP関節とPIP関節の間の機能的協調に働いています。DIP関節の屈曲時には、斜支靭帯が緊張して自動的にPIP関節の屈曲を引き起こし、PIP関節が伸展するとDIP関節も伸展し、また、PIP関節の屈曲に伴いDIP関節も屈曲弛緩するという動的な腱性制動(dynamic tenodesis)としての働きを持つとしています。*7

更に斜支靭帯は、動的というより伸展機構を背側に固定し、PIP関節の側方安定性に働くという静的な靭帯であるという報告もあります。*8
いずれにしても斜支靭帯は、その走行から単独でDIP-PIP関節の協調運動を保ち、かつ、PIP関節の過伸展を制御する靭帯と捉えることができます。*9

*7
Zancolli, E.: Structural and Dynamic Bases of Hand Surgery, pp. 98-115. Edited by J. H. Boyes., Philadelphia and Toronto, J. B. Lippincoott Co., 1979.
*8
Harris, C. et al.: The Functional Anatomy of the Extensor Mechanism of the Finger. J. Bone Joint Surg., 54A: 713-726, 1972.
*9
上本宗唯 他: 外傷性 swan neck 変形に対する治療経験. 整形外科と災害外科,47: 3 : 1004-1007,1998.
図 斜支靭帯の働き
図 斜支靭帯の働き

斜支靭帯は、その走行から単独でDIP-PIP関節の協調運動を保ち、かつ、PIP関節の過伸展を制御します。

爪だって運動器? 爪先に力が入るのは…

DIP関節の安定性を保ち、脱臼を防ぐ支持機構として、側方安定性は伸展位の場合、側副靱帯掌側成分と副靱帯遠位成分が関与しており、屈曲位では側副靱帯背側成分が関与しています。驚きなのは、指伸筋腱や周囲組織が爪とも繋がっていくところです。爪が筋骨格系と機能的に統合されているというのは、実に興味深いところで、伸筋腱は骨への停止位置から爪根を包み込むまで続き、側枝の靭帯は関節の側面に一体化したネットワークを形成して、爪を末節骨に固定するのを助けています。この結合組織構造の連続体は、末節骨上の太い骨膜と、指の脂肪体を皮膚に固定する多数の皮膚靭帯と併合しています。*10

MRIと組織学的研究による同様の報告によると、更に詳しく解説されていました。指伸筋腱は末節骨の基部に付着しますが、さらにその停止位置を越えて伸びており、表層と深層に分かれているとしています。2つの薄層の間には脂肪が満たされており、血管や神経が顕著に存在しています。また、表面の薄層は爪を包んでいる構造で、更に近位の皮膚にも伸びてエポニチア(キューティクル)を形成しているとのことです。深層の薄層は腱の停止位置の遠位にある骨頭の表面に厚い骨膜を形成するのに寄与し、末節骨の遠位に伸びていたとしています。*11

末節骨は爪の中央の途中までしかなく、幅は爪よりも狭いわけですが、上記の構造のおかげで爪先に力が入り、しっかりと歩くことができ、感覚は鋭敏になり、手先の精密な作業が可能となるわけです。母指から中指に多いスプーンネイル(爪甲が反り返った匙状化変形)は、よく使われる指での、この力学的な理由から起こるという話があります。*12
爪は皮膚の付属機関の位置づけですが、役割的には立派に運動器であると考えているところです。

*10
McGonagle D, Tan AL, Benjamin M. The Nail as a Musculoskeletal Appendage – Implications for an Improved Understanding of the Link between Psoriasis and Arthritis. DERMATOLOGY. 2009; 218 (2):97-102.
*11
Tan AL, Benjamin M, Toumi H, et al. The relationship between the extensor tendon enthesis and the nail in distal interphalangeal joint disease in psoriatic arthritis–a highresolution MRI and histological study. Rheumatology (Oxford) 2007;46:253-256.
*12
東禹彦:匙状爪の発症機序,皮膚,27 : 29―34, 1985.
図 DIP関節と爪甲とその周囲組織の解剖
図 DIP関節と爪甲とその周囲組織の解剖

指伸筋腱は末節骨の基部に付着するだけではなく、爪床を囲んでつながり、周囲の結合組織と連携して末節骨と爪甲を強固に固定する構造になっています。

DIP関節の超音波観察法

それでは、DIP関節の超音波観察法です。指の背側・掌側・側方から、長軸や短軸で観察していきます。
この観察の場合も手置台やタオルを下に敷くなどして、屈曲・伸展動作がしやすい肢位で観察します。特に骨折が疑われる方の観察の場合は、音響カプラ(ゲルパッド)や塗布するゲルを増量するなどして浮かせて撮るような工夫をすると、明瞭な画質が得られると共に患者さんに無用な痛みを与えなくて済みます。超音波による観察の場合、観察肢位やこのような下準備をすることがとても大切で、安定した再現性のある画像にするためにも心掛けておきたいところです。

DIP関節を背側から観察する場合の患者さんの肢位は、座位、前腕回内位、指伸展位ということになります。DIP関節の観察では、屈曲位で完全伸展が不能となった槌指(つちゆび : mallet fingerマレットフィンガー)に注意をします。末節骨付着部での終止伸筋腱の断裂を腱性マレット、末節骨付着部での裂離骨折を骨性マレットと言います。いわゆる「突き指」で良く起こる損傷として、球技を中心としたスポーツで多く見られる障害です。骨性マレットは靭帯や腱に強い力が加わることで、末節骨の腱付着部から末節骨の一部が引きはがされることで生じます。この場合、損傷位置が判り辛い時には、少しだけDIP関節の屈伸をさせると、伸筋腱の動きから損傷部位を判断することができます。*13

その他に注意しておきたいのが、変形性関節症のへバーデン結節です。DIP関節の背側中央にある伸筋腱付着部を挟み、2つの結節ができるのが特徴とされています。また、指先に刺さった棘(とげ)などの外傷についても超音波は得意分野で、棘が刺入した方向まで観察することができます。特に、木片やガラス片、魚の骨など様々な材質に対しても有効で、手指以外の足底部などの部位においても発見することができます。*14
このような観察が可能なところが、超音波の面白さであると思います。

*13
皆川洋至 超音波でわかる運動器疾患 メジカルビュー社
*14
山崎政城:皮膚内の棘の超音波像.MEDIX Vol.47,27-32,2007.
図 背側からのDIP関節の超音波観察法(長軸・短軸)
図 背側からのDIP関節の超音波観察法(長軸・短軸)

DIP関節の観察では、屈曲位で完全伸展が不能となった槌指(つちゆび : mallet fingerマレットフィンガー)に注意をします。終止伸筋腱の付着部に注意して、損傷位置が判り辛い時には、少しだけDIP関節の屈伸をさせると、伸筋腱の動きから損傷部位を判断することができます。*13

次に、掌側からの超音波画像を観てみます。肢位は、前腕回外位となります。

図 掌側からのPIP関節の超音波観察法(長軸・短軸)
図 掌側からのPIP関節の超音波観察法(長軸・短軸)

深指屈筋固有の筋力を評価する場合は、PIP関節を固定してDIP関節の筋力を診ます。中指から小指については個別に動かすことはできないので、3指同時に動かして観察していきます。併せて前腕の位置で深指屈筋の筋腹での観察を併用すれば、より運動を理解することができます。また、各指を伸展させて手を開いた時の指列は第3中手骨底部に集まり、屈曲して手を握った場合には舟状骨結節に集まる事も、可動域訓練に必要な解剖の知識です。*15

*15
林典雄 運動療法のための機能解剖学的触診技術 上肢 メジカルビュー社

それでは側方からの観察です。上段が橈側で下段が尺側です。

図 側方からのPIP関節の超音波観察法(橈側・尺側)
図 側方からのPIP関節の超音波観察法(橈側・尺側)

これらは私自身の指ですが、橈側は骨棘があり関節が腫れているようです。そこは差し引いて観て下さい。中節骨から側副靭帯を介して伸びる結合組織が爪甲までつながり、外側でもしっかり爪を固定している様子が観察されます。爪にストレスをかけると連動しているのが解り、側副靭帯や関節包のストレッチ効果があるかもしれません。この点については、もう少し研究が必要です。

続いて、マレットフィンガー(mallet finger)陳旧例とヘバーデン結節の観察です。悲しいかなこれも私自身の指です。第4指が骨性マレットで、高校時代に野球で受傷し整形外科にて保存的治療で固定しました。第5指が数年前から疼く、へバーデン結節です。

図 骨性マレットとへバーデン結節の超音波による比較観察(背側)
図 骨性マレットとへバーデン結節の超音波による比較観察(背側)

骨性マレットもヘバーデン結節もDIP関節で屈曲し骨が突出していますが、へバーデン結節の方は関節裂隙の狭小化が観察されています。これは、骨棘が成長して可動域を制限している様子と推察されます。掌側から末節骨を押し上げてみると、骨性マレットは完全伸展の位置まで簡単に動きますが、へバーデン結節の場合には動かない事でもそれが解ります。

へバーデン結節は、全身性変形性関節症(Generalized Osteoarthritis : GOA)が無い場合には利き手に多く、GOAがある場合は発生頻度に差がないという疫学調査の報告があります。このことから、発症要因を整理すると、環境による力学的な要因と遺伝的な要素を含む全身的要因との、大きくこの2つの因子が関与すると考えられています。

へバーデン結節は50歳以降の女性に多く見られ、無症状も含め50%の有病率という話があり、手関節の変形性関節症(HOA)として捉えた場合、DIP関節、CM関節等が多いとして、55歳以上の女性の67%、男性の54.8%の有病率との話(ロッテルダム研究)があります。*16
これに対して日本国内での大規模住民コホート研究(ROAD Study)では、手の変形性関節症:HOA(KLグレード≥2 明確な骨棘、関節列隙の狭小化(25%以下)の可能性)の有病率は、男性で89.9%、女性で92.3%であり、年齢に有意に関連していたとし、DIP関節におけるOAが最も多いとの報告があります。*17
つまり、高齢になれば手部のOAが発症することは、およそ避けて通れないというわけです。

最近の変形性関節症(OA)の知見としては、病的な軟骨内骨化現象の主な原因が、HIF2A蛋白質の発現亢進によって引き起こされているとする発表*18や、リコンビナントhuman BMP7蛋白(rhBM7)が、関節軟骨基質の発現促進作用、軟骨基質分解酵素の発現抑制作用、関節軟骨細胞の生存の促進作用、関節内炎症性サイトカインの発現抑制作用を有している可能性などが示唆されており、関節機能維持に重要な役割を果たしているとの論文があります。*19
OAは従来、関節軟骨の疾患と捉えられてきました。しかし最近は関節を構成する軟骨以外の組織、滑膜や軟骨下骨に生じる変化も着目されるようになっており、痛みや腫れといったOAの主な症状の発現には軟骨以外の組織の変化がむしろ重要であるという話もあります。非可逆性と考えられていたOAが、近い将来には関節機能改善薬や予防薬と言ったもので改善する可能性の糸口が見えてきました。これらの研究により、OAや骨折、骨の大きな部分的欠損の再構築といった事への、画期的な治療方法が開発されることを期待しています。

参考
Kellgren-Laurence(KL)分類は、主に関節軟骨の減少程度と骨棘の形成程度による重症度分類です。変形性膝関節症のX線重症度分類として使われています。

Grade 0 :
正常
Grade Ⅰ:
関節裂隙狭小のないわずかの骨棘形成, または軟骨下骨硬化
Grade Ⅱ:
関節裂隙狭小(25% 以下)あるも骨変化なし
Grade Ⅲ:
関節狭小(50%~75%)と骨棘形成, 骨硬化像
Grade Ⅳ:
骨変化が著しく,関節裂隙狭小(75% 以上)を伴う

*16
S. Dahaghin, S.M. Bierma-Zeinstra, A.Z. Ginai, H.A. Pols, J.M. Hazes, B.W. Koes : Prevalence and pattern of radiographic hand osteoarthritis and association with pain and disability (the Rotterdam study).Ann Rheum Dis, 64 (2005), pp. 682-687
*17
Kodama R, Muraki S, Oka H, Iidaka T, Teraguchi M, Kagotani R, Asai Y, Hashizume H, Yoshida M, Morizaki Y, Tanaka S, Kawaguchi H, Nakamura K, Akune T, Yoshimura N: Prevalence of hand osteoarthritis and its relationship to hand pain and grip strength: The third survey of the ROAD Study. Mod Rheumatol 26: 767-773, 2016
*18
Saito T, et al. Transcriptional regulation of endochondral ossification by HIF-2alpha during skeletal growth and osteoarthritis development. Nat Med. 2010;16:678–686.
*19
Abula Kahaer, MunetaTakeshi, Miyatake Kazumasa, Yamada Jun, Matsukra Yu, InInoue Makiko, Sekiya Ichiro, Graf Daniel, Economides Aris N, Rosen Vicki, Tsuji Kunikazu: Elimination of BMP7 from the developing limb mesenchyme leads to articular cartilage degeneration and synovial inflammation with increased age FEBS Lett. 2015.05; 589 (11): 1240-1248.

全身性変形性関節症(Generalized Osteoarthritis : GOA)については、改めて別の回で、詳細に考察してみたいと思います。

では、動画です。DIP関節位置で爪先を押した様子を長軸走査で観察してみます。

爪先を押しながら超音波で観察してみると、伸筋腱の停止部から伸びた表面の薄層は爪根を包んでいる構造で、一体になって動いているのが観察されます。この画像からは、爪が筋骨格系と機能的に統合されているという事が良く解ります。

動画 DIP関節長軸で爪先を押した動態観察

少子高齢化社会に突入した日本において、変形性関節症(OA)の問題はこれから益々注目されていく事と考えています。その中でも生活の質(quality of life: QOL)に直結するDIP関節の問題は、これからも重要な運動器超音波観察法の課題です。なぜなら変形性関節症(OA)は、すでに痛みや機能的損失が起こってしまった状態(後期)であり、大切なことは初期段階での観察の指標と進行の構造的変化の把握で、それらに基づいた予防であり早期治療だからです。毛細血管の拡張や血管新生の関与とその部位の解析など、まだまだ運動器超音波の仕事は山積みであると思っています。

それでは、まとめです。
今回の観察法でポイントとなる事項をまとめると、下記のようになります。

  • 指の微妙で滑らかな動きを実現するために、屈曲時にも伸筋、手内在筋が同時に作用している
  • 橈骨神経麻痺で屈曲力に問題がないのに握力が落ちるのは、手関節が背屈できないことも関与する
  • 指の知覚機能として表面感覚の触覚、圧覚、温覚、冷覚、痛覚があり、深部感覚の立体覚、位置覚等がある
  • 超音波観察は近視眼的に事象をとらえがちで、時々俯瞰で考えることが大切
  • DIP関節は、手綱靭帯(checkrein ligament)は存在しないため、過伸展が可能である
  • DIP関節に作用する主要筋は、屈曲が深指屈筋、伸展が骨間筋と虫様筋である
  • DIP関節は、手綱靭帯がないことにより掌側板の動きや関節の潤滑に作用がない点と、単位面積あたりにかかる圧が最も大きい事で、PIP関節より変形性関節症(OA)が生じやすいと推測されている
  • 斜支靭帯は、DIP-PIP関節の協調運動を保ち、PIP関節の過伸展を制御する靭帯である
  • 爪は、筋骨格系と機能的に統合されている
  • 指伸筋腱は末節骨の基部に付着するだけではなく、爪床を囲んでつながり、周囲の結合組織と連携して末節骨と爪甲を強固に固定する構造になっている
  • DIP関節の観察では、屈曲位で完全伸展が不能となった槌指(つちゆび : mallet fingerマレットフィンガー)に注意する
  • 損傷位置が判り辛い時には、少しだけDIP関節の屈伸をさせると、伸筋腱の動きから損傷部位を判断することができる
  • 変形性関節症のへバーデン結節は、関節裂隙の狭小化に注意する
  • 深指屈筋固有の筋力を評価する場合は、PIP関節を固定してDIP関節の動きを観察する
  • 手の変形性関節症:HOA(KLグレード≥2 明確な骨棘、関節列隙の狭小化(25%以下)の可能性)の有病率は、男性で89.9%、女性で92.3%であり、年齢に有意に関連していたとし、DIP関節におけるOAが最も多いとの報告がある
  • 変形性関節症OAは従来関節軟骨の疾患と捉えられてきたが、最近は軟骨以外の組織、滑膜や軟骨下骨に生じる変化も着目されるようになっており、痛みや腫れといったOAの主な症状の発現には軟骨以外の組織の変化がむしろ重要との話がある

次回からは、いよいよ下肢編に移りたいと思います。「下肢編 股関節の観察法」として、前方走査について考えてみたいと思います。

情報提供:(株)エス・エス・ビー

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