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運動器超音波塾【第24回:指関節の観察法2】

特集 運動器超音波塾

株式会社エス・エス・ビー
超音波営業部マネージャー
柳澤 昭一

近年、デジタル技術により画像の分解能が飛躍的に向上した超音波は、表在用の高周波プローブの登場により、運動器領域で十分使える機器となりました。この超音波を使って、柔道整復師分野でどのように活用できるのかを、超音波の基礎からわかりやすくお話してまいります。

第二十四回 「ミレニアム・ファルコンとはやぶさは、同じイオンエンジンで飛ぶのだ」の巻
―上肢編 指関節の観察法について 2―

とうとう月旅行が現実味をおびてきて、このところ興奮気味です。枕元でジュール・ヴェルヌを読んでもらい、「鉄人28号」の水筒と「スーパージェッター」のお弁当箱で幼稚園に通い、「ウルトラマン」、「ウルトラセブン」はもちろん欠かすことなく、アポロ11号の司令船コロンビアから分離した月着陸船イーグルが「静かの海」へ着陸、ニール・アームストロング船長が月面に降り立った姿をテレビにかじりついて観ていた世代です。その後は映画へも興味が広がり、「2001年宇宙の旅」、「惑星ソラリス」、「スターウォーズ」、「ブレードランナー」、「風の谷のナウシカ」、「攻殻機動隊」等へと、かくして宇宙大好きのSFオタクの大人が一人出来上がったわけです。地元のつくば市にはJAXAの筑波宇宙センターがあるのも幸いして、今月末の特別公開にはその聖地に禊(みそぎ)に伺う予定です。こうなるともはや、魂の浄化を求める信仰みたいなものです。

中秋の名月(十五夜)は2018年の場合9/24ですが、満月は9/25になります。関東地方は満月の夜は曇りで残念でしたが、ちなみに十三夜は10/21で栗名月とも呼ばれ、十五夜と同様に収穫を感謝してススキやお団子をお供え物にします。
月を望遠鏡や双眼鏡で覗くと、ちょうど真ん中あたり、嵐の大洋の東にコペルニクス(Copernicus)という大きなクレーターを観ることができます。その上には、嵐の大洋と島の海の間にケプラー(Kepler)というクレーターがあり、コペルニクス(地動説)はポーランド、ケプラー(ケプラーの法則)はドイツの天文学者の名前にちなんで付けられています。そのクレーターからは光条(ray system)と呼ばれる隕石の衝突で放出された噴出物が放射状に広がった、美しい模様を観ることができます。何度見ても見飽きない、不思議な光景です。

日本は少子高齢化社会へと突き進む中、唐突な自然災害の猛威にも見舞われ、何かと暗い側面がクローズアップされて損失感と閉塞感が漂う今日この頃です。この月旅行のような夢の実現が様々な分野にも波及して、今一度我々の目指す未来像のほころびを紡ぎ直すきっかけとなれば良いなと思います。宇宙の尺度から見れば、人間の営みは小さな出来事ですが、それでも追い続ける何かを忘れないようにしたいものです。

さて、月旅行の天文学的な旅費を払える当てはどこにもありません。そのうち、商店街の福引きの特賞が月旅行になる日が来るでしょうから、宇宙旅行はその日まで、気長に待つことにします。”Space, the final frontier….”

図 JAXA筑波宇宙センター 小惑星探査機「はやぶさ」1/2展示模型
図 JAXA筑波宇宙センター 小惑星探査機「はやぶさ」1/2展示模型

「ミレニアム・ファルコン」は「はやぶさ」と同じ、イオンエンジンが搭載されています。

今度のはやぶさ2プロジェクトでは、地球から3億㎞彼方のたった900mの小惑星リュウグウへ、探査機を飛ばしています。リュウグウは、太陽系が生まれた頃(今から約46億年前)の水や有機物が今でも残されていると考えられている小惑星で、地球の水はどこから来たのか、生命を構成する有機物はどこでできたのか、その謎を解くのが「はやぶさ2」の目的です。2018/9/21、「はやぶさ2」から分離され、小惑星表面に降りた世界初のローバ(移動探査ロボット)からは、移動探査の写真が送られてきました。地下のサンプルを採取して、2019年末にリュウグウを出発、2020年末に地球に帰還する予定という事で、わくわくしています。”D’où venons-nous ? Que sommes-nous ? Où allons-nous ?”

はやぶさ2プロジェクトサイト 
http://www.hayabusa2.jaxa.jp/

今回の「運動器の超音波観察法」の話は「指関節の観察法」として、PIP関節について考えてみたいと思います。

手は口ほどにものを言い?

PIP関節に関する文献を読んでいると、いかに「手」の機能が重要であるかに気づかされます。人が他者と相対する時に顔以外に着目するのは、手の表情や仕草とよく言われます。上海の大学で超音波画像診断装置を持ち込んで運動器への有用性を探るべく解剖実習を行った時に、ご献体を前にして最初に畏怖の念に打たれたのは、全く感情や意志を示す事のない「手」でした。また、人間が類人猿の中から飛びぬけた存在になれたのは、二足歩行・音声言語・道具の発明と、拇指がほかの指と対向できることを挙げる人もいます。つまり「手」の機能が人間を人間たらしめる重要な要因であったというわけです。それゆえに手の疾患は、運動機能や知覚機能以外にも生活の質(QOL : quality of life)に大きく影響するという事になります。生理学的運動機能を把握し、関節疾患や傷害による機能低下をどのように治療・改善できるのか検討する上で、改めて超音波による解剖学的な観察が必要であると感じるところです。

PIP関節の解剖

通常、PIP関節は蝶番関節に分類されており、屈曲・伸展運動のみの一軸関節として側方運動はできないとされています。*1
基節骨頭の関節面は滑車の形状をしており、中節骨基部は滑車の凸状面に対応する2つの凹状の関節窩になっています。MP関節とはまた異なった関節形状であり、人体の構造の巧妙さには感嘆するばかりです。プロテーゼ関節(埋め込み型人工関節)では、指節間の関節は横方向、すなわち水平方向の回転機能が組み込まれていないものが好ましいとしています。では、本来の人体の構造ではどうでしょう。

PIP関節の回旋許容角度について調べてみると、健常男性ボランティア10名40指を対象として、指伸展位にて徒手的動態CT撮影を行い、基節骨頭と中節骨頭掌側面のなす回旋角度および変化量を算出した論文がありました。*2

これによると、PIP関節の無ストレス下での回旋角度は平均3.9°外旋位であり、橈側指が外旋位をとる傾向にあるとした上で、ストレス下での平均変化量は内旋8.9°、外旋9.0°、内外旋合わせた総変化量は平均17.9°であり、いずれも各指間に有為差を認めなかったと報告しています。PIP関節が比較的大きな回旋許容角度を持つ事が明らかになり、高い柔軟性が手指の動作において重要な役割を担うと考え得ると書いています。そもそもPIP関節は、一軸関節として、屈曲・伸展方向以外の運動許容範囲に関しては注目されてこなかったわけで、これには驚きです。確かに関節の形状を良く観察すると、膝の脛骨大腿関節のような要素も持っているように感じますし、「なじむ」という機能にとっては都合が良い構造であると考えられます。

*1
Kuczynski K.: The proximal interphalangeal joint. Anatomy and causes of stiffness in the fingers.J Bone Joint Surg Br,50:656-63,1968.
*2
真壁光、淺野祐一、田村正吾、高畑直司: 近位指節間関節の回旋許容角度の検討, 北海道勤労者医療協会医学雑誌, 36 ,19-22 ,2014.
図 PIP関節 関節面の形状
図 PIP関節 関節面の形状

PIP関節が比較的大きな回旋許容角度を持つ事で、その「あそび」により接触を安定させているというのは、興味深いところです。物をつまむ動作や安定把持を可能にしているのは、単純なトルク調整だけではないということで、この事はロボットアームの制御のヒントにもなるはずです。

PIP関節の安定性を保ち、脱臼を防ぐ支持機構としては、側副靭帯(collateral ligament)・副靭帯(accessory collateral ligament)・掌側板(volar plate)・その他の支持組織があります。側副靭帯は基節骨頭側方の陥凹部と背側中央から、中節骨基部掌側に向かって広範囲に走行しており、通常見られる部分的な解剖図とは異なるとする論文があります。*3

図 PIP関節の側副靭帯の概略図
図 PIP関節の側副靭帯の概略図

靭帯性腱鞘は屈筋腱が浮き上がってしまわないように掌側板や指節骨に付着して保持しています。丈夫な側副靭帯は、屈曲時には緊張する事でPIP関節の外転・内転を抑制し、より精密な把持とグリップを可能にしています。この機能的なストレスと、ジョイントの大きさが影響して、特に微小断裂が起こりやすいとされています。

*3
Allison DM:Anatomy of the collateral ligaments of the proximal interphalangeal joint. J Hand Surg Am 2005;30:1026-1031

PIP関節の側副靭帯が広範囲に走行しているという事で、副靭帯は指節骨の長軸からやや斜めに掌側版に向かう部分という事になります。PIP関節の特徴としては、掌側板近位縁から連なる2本の手綱靭帯(Check rein ligament)があります。掌側板から伸びる様子から、「ツバメの尾」または「手綱(たづな)」のような形態をしているため、この名前がついています。主にPIP関節の過伸展を抑制し、掌側板は手綱靭帯で基節骨掌側に固定されていることで、屈曲・伸展に伴い近位・遠位方向にスライドして動きます。この構造により、PIP関節を屈曲位で固定すると、手綱靭帯が短縮した状態になり、屈曲拘縮が起きやすいと言われています。PIP関節は伸展位固定が原則とされるのはこのためです。

図 掌側板と手綱靭帯
図 掌側板と手綱靭帯

靭帯の付着部は腱と同様に、エンテーシス(enthesis)構造を持つとされています。エンテーシス(enthesis)とは、線維組織層、非石灰化線維軟骨層、石灰化線維軟骨層、骨層と複数の層に分かれた構造で、徐々に腱や靭帯実質の柔らかい構造物から硬い構造物へと移行して骨に付きます。つまりエンテーシス(enthesis)は柔らかい部分と硬い部分の境目で、繰り返される張力により力学的ストレスが発生し、微小外傷が生じ、その外傷と修復のバランスが崩れることで症状が引き起こされる事になるわけです。張力を骨に伝えることで機械的損傷が生じやすく、障害が起きやすい部分と言えるわけです。このエンテーシス(enthesis)部の退行性変化、線維軟骨の欠損や軟骨細胞の肥大、軟骨下嚢胞性変化など変形性関節症との関連が「enthesis fibrocartilage OA」の総称で研究されています。*4,*5

変形性関節症を病理学的にみると、骨膜の線維軟骨において生じ得るとことや、靭帯の障害が骨経路を介して関節軟骨に影響するという記述があります。微小損傷の靭帯の付着部から、変形性関節症の炎症が生じていたなんて、まさに驚きです。

図 エンテーシス(enthesis)の構造
図 エンテーシス(enthesis)の構造

エンテーシスとは、腱・靭帯・関節包などの緻密性結合組織の線維が直接骨に入り込む部分で、direct insertion (fibrocartilage insertion) と indirect insertion (fibrous insertion) の二つに大別されます。

*4
Tan AL, Grainger AJ, Tanner SF, et al. High-resolution magnetic resonance imaging for the assessment of hand osteoarthritis, Arthritis Rheum , 2005, vol. 52 (pg. 2355-65)
*5
Benjamin M, McGonagle D. Histopathologic changes at “synovio-entheseal complexes“ suggesting a novel mechanism for synovitis in osteoarthritis and spondylarthritis, Arthritis Rheum , 2007, vol. 56 (pg. 3601-9)

PIP関節の超音波観察法

それでは、PIP関節の超音波観察法です。第3指の背側・掌側・側方から、長軸や短軸で観察していきます。

この観察の場合も準備として手置台やタオルを下に敷くなどして、屈曲・伸展動作がしやすい肢位で観察します。焦点(Focus)を合わせるためには、音響カプラ(ゲルパッド)やゲルを増量して距離を稼ぐなどの工夫をすると、明瞭な画質が得られると共に動態観察が容易となります。最近のプローブは、比較的表在で焦点がつくれるようになっていますが、それでもパッドやゲルを盛って観察した方が画像は鮮明となります。更に、プローブは先端を持ち、小指などを手置台などに添えて、プローブで患部を圧迫する事のないように観察します。懸命に観察していると、気が付かないうちに圧迫しがちですが、過剰なプローブ圧力は患者さんに痛みをもたらすばかりでなく、遅い血流を止めてしまう事でカラードプラ機能での血流の検出感度を低下させ、炎症症状が解らなくなる可能性があります。

図 運動器超音波観察法の基本 プローブは先端を持つ
図 運動器超音波観察法の基本 プローブは先端を持つ

なかなか想うように良質な画像が撮れないと感じている方は、もう一度持ち方からチェックしてみて下さい。

PIP関節を背側から観察する場合の患者さんの肢位は、座位、前腕回内位、指伸展位ということになります伸筋腱正中索、終止伸筋腱は指を動かしながら観察すると理解しやすくなります。腱実質は、fibrillar pattern(線状高エコーの層状配列)に観察されますが、手背への直達外力による腱断裂の場合、断裂部のfibrillar patternが認められず、断端が肥大した様子が観察されます。進行した関節リウマチでは長期の炎症により指背腱膜がボタンの穴のように開き、PIP関節が飛び出してくるボタン穴変形をきたします。*6

*6
皆川洋至 超音波でわかる運動器疾患 メジカルビュー社
図 背側からのPIP関節の超音波観察法(長軸・短軸)
図 背側からのPIP関節の超音波観察法(長軸・短軸)

次に、掌側からの超音波画像を観てみます。肢位は、前腕回外位となります。

図 掌側からのPIP関節の超音波観察法(長軸・短軸)
図 掌側からのPIP関節の超音波観察法(長軸・短軸)

突き指の場合注意を要するのが、掌側板損傷です。多くはPIP関節で起こり、中節骨近位端掌側で小さな剥離骨片を伴っていることもあります。PIP 関節掌側に皮下出血がある場合は、上記の中節骨近位端掌側の骨折を伴っていることが多いとされ、腫脹の位置とともに観察時の注意点となります。

掌側板は線維軟骨のためやや高エコーに描出され、長軸では中節骨基部から基節骨頭掌側に続く三角形に見えます。掌側板損傷の場合、掌側板近位に断裂を示唆する低エコー域を認めます。超音波による観察の場合、損傷部位や損傷した掌側板が指屈伸時に不安定性があるか、裂離骨片は過伸展時に動くかを、動態観察で確認することができます。*6腫脹が屈筋腱にある場合は、骨と屈筋腱の間にある滑膜を囲む脂肪組織と腱実質を動態で観察して区別することも大切です。この時に、滑膜を囲む脂肪組織を滑膜肥大と間違えないよう、注意して観察して下さい。

それでは側方からの観察です。上段が橈側で下段が尺側です。

図 側方からのPIP関節の超音波観察法(橈側・尺側)
図 側方からのPIP関節の超音波観察法(橈側・尺側)

関節の横(橈側・尺側)の圧痛が強い場合は側副靭帯の捻挫・断裂・靭帯付着部の裂離骨折などを疑う必要があります。

正常な側副靱帯は長軸でfibrillar pattern(線状高エコーの層状配列)を呈し、基節骨と中節骨の付着部のくぼみに収まっています。損傷すると、靱帯がくぼみからはみ出すように腫脹してfibrillar patternが不明瞭となります。超音波の強みは、靱帯を見ながら側方ストレスをかけて、どの位置が損傷して不安定になっているかを判断できることです。

続いて、手綱靭帯(Check rein ligament)の観察です。

図 手綱靭帯の超音波観察法
図 手綱靭帯の超音波観察法

手綱靭帯(Check rein ligament)の観察は、プローブを中心軸より少し橈側、尺側にスライド(平行移動)させて其々観察します。指過伸展に静かにストレスをかけると、靭帯が緊張する様子を観ることができます。手綱靭帯は基節骨の骨膜に付着しており、柔軟な組織で屈曲位では撓んでいきます。掌側板は互い違いのコラーゲン線維の方向を持つ線維軟骨で、3層で構成されているとされています。*7

*7
Williams EH, McCarthy E, Bickel KD. The histologic anatomy of the volar plate. J Hand Surg Am. 1998 Sep;23(5):805-10.

関節リウマチ(RA)に関しては、以前の骨への浸食、関節破壊の検出から、滑膜炎の段階での早期検出に移行しつつあり、早期に抗リウマチ薬を開始すると高い改善度をもたらすとされています。*8

関節リウマチ(RA)の初期症状としての滑膜炎の場合、DIP関節よりPIP関節に多く見出せるとの報告があります。*9 更に、MP関節では伸筋側で滑膜肥厚の80%が検出されるのに対して、PIP関節の観察の場合、掌側と背側両方に滑膜炎を呈しているのはわずか1/3で、大多数において滑膜炎は1つまたは他の区画に限定され、43%が手掌に限定され、2%は伸筋側に限定されていたとの報告もあり、多角的に観察することが重要であることが解ります。*10

観察時には、滑液貯留と滑膜肥厚、骨棘形成や骨びらん、パワードプラ機能による滑膜への異常血流シグナルの状態などに注意して、疑いがあれば直ちに医科へ対診して血液検査をして頂くなど医接連携が大切となります。骨びらんの有無が骨破壊の予測因子であるとの報告もあり*11、超音波観察はこれらの関節リウマチ(RA)の初期段階での発見が可能ということで、患者さんのQOLの向上のためにも、必ず考慮すべきポイントです。

関節リウマチ(RA)については、改めて別の回で、詳細に考察してみたいと思います。

*8
van der Heide A, Jacobs JW, Bijlsma JW, Heurkens AH, Booma-Frankfort C , van der Veen MJ, et al. The effectiveness of early treatment with “second-line” antirheumatic drugs. A randomized, controlled trial. Ann Intern Med1996;124:699–707.
*9
Scheel AK, Hermann KG, Kahler E, et al. A novel ultrasonographic synovitis scoring system suitable for analyzing finger joint inflammation in rheumatoid arthritis. Arthritis Rheum 2005; 52: 733–743.
*10
Ostergaard M, Szkudlarek M. Ultrasonography: a valid method for assessing rheumatoid arthritis? Arthritis Rheum 2005; 52: 681–686.
*11
Funck-Brentano T, et al : Prediction of Radiographic Damage in Early Arthritis by Sonographic Erosions and Power Doppler Signal : A Longitudinal Observational Study. Arthritis Care Res 65 : 896-902, 2013.

では、動画です。PIP関節位置での屈曲・伸展の画像を長軸走査で観察してみます。

PIP関節の屈曲・伸展に伴い、掌側板が近位遠位方向に移動するのが観察されます。
PIP関節の屈曲に伴い、中節骨舌部との間隙をたどりながら掌側方向に上昇し、中節骨舌部は背側方向に回転するとの報告があります。また、この時の掌側上昇は、屈筋腱の緊張がA3を介して伝達され能動的に起きる可能性が示唆されたとしています。つまり掌側板の掌側上昇は能動的に生じ、その後の中節骨舌部の回転を誘導して円滑な関節運動を提供していると考察しています。*12

動画 PIP関節の屈曲・伸展による掌側板の動態観察

MP関節にはPIP関節のような手綱靭帯がないために、過伸展が可能となっています。
PIP関節の掌側板が剥がれるのは6~21kgの力が必要で(MPでは5~6kg)、これが過伸展をMP関節よりも強力に制動している理由であるとされています。*13

*12
齊藤晋. 動的超音波法による近位指節間 関節の掌側板の運動生理に対する研究.京都大学学位論文,2012
*13
池田和夫. 生体をもっと知ろう 義肢装具士のための生体機構学 手・上肢筋の機能解剖. 日本義肢装具学会誌15号,204-212,1999

超音波による観察は、掌側板の安定性や浮腫の軽減の評価などに有用で、保存治療時の経時的な拘縮の可動域獲得の評価も客観的に行えます。腱鞘の腫脹、関節内の滲出液や滑膜の増殖、腱の直接浸潤など、リウマチの特徴的な変化も読み取ることができます。
運動器の超音波観察法は、これから益々その評価や経過観察の方法などが体系化され、運動器分野では「身体所見を取りながら超音波」が当たり前の時代になるだろうと考えています。

それでは、まとめです。
今回の観察法でポイントとなる事項をまとめると、下記のようになります。

  • PIP関節が、比較的大きな回旋許容角度を持つとの報告がある
  • PIP関節の安定性を保ち、脱臼を防ぐ支持機構としては、側副靭帯(collateral ligament)・副靭帯(accessory collateral ligament)・掌側板(volar plate)・その他の支持組織があり、側副靭帯は基節骨頭側方の陥凹部と背側中央から、中節骨基部掌側に向かって広範囲に走行している
  • 側副靭帯は、屈曲時には緊張する事でPIP関節の外転・内転を抑制し、より精密な把持とグリップを可能にしている
  • PIP関節の特徴としては、掌側板近位縁から連なる2本の手綱靭帯(Check rein ligament)があり主にPIP関節の過伸展を抑制する
  • 掌側板は手綱靭帯で基節骨掌側に固定されていることで、屈曲・伸展に伴い近位・遠位方向にスライドして動く
  • 上記の構造により、PIP関節を屈曲位で固定すると、手綱靭帯が短縮した状態になり、屈曲拘縮が起きやすいと言われている
  • エンテーシス(enthesis)とは、線維組織層、非石灰化線維軟骨層、石灰化線維軟骨層、骨層と複数の層に分かれた構造で、徐々に腱や靭帯実質の柔らかい構造物から硬い構造物へと移行して骨に付く
  • エンテーシス(enthesis)は柔らかい部分と硬い部分の境目で、繰り返される張力により力学的ストレスが発生し、微小外傷が生じ、その外傷と修復のバランスが崩れることで症状が引き起こされる
  • 変形性関節症を病理学的にみると、骨膜の線維軟骨において生じ得るとことや、靭帯の障害が骨経路を介して関節軟骨に影響するという報告がある
  • 表在の観察の場合、音響カプラ(ゲルパッド)やゲルを増量して距離を稼ぐ工夫と、プローブで患部を圧迫しないように注意する
  • 運動器の超音波観察では、プローブは先端を持つ
  • PIP関節を屈曲・伸展動作をしていくと、正中伸腱、終止伸筋腱が滑走する様子が解り、併せて腱の連続性、骨の形状、滑膜増生、増殖滑膜(pannus)などに注意して観察する
  • 突き指の場合、掌側板の損傷による肥厚と伴に、近位側の血腫、中節骨近位端掌側の裂離骨折に注意し、その場合、過伸展で骨片の不安定性も動態観察する
  • 滑膜を囲む脂肪組織を、滑膜肥大と間違えないように注意する
  • PIP関節捻挫で断裂を疑う場合には、必ず健側と比較して、腫脹の程度を観る
  • 側方からの観察の場合、基節骨と中節骨の付着部のくぼみに収まる側副靭帯のfibrillar pattern(線状高エコーの層状配列)に注意する
  • 手綱靭帯(Check rein ligament)の観察は、プローブを中心軸より少し橈側、尺側にスライド(平行移動)させて其々観察する
  • 関節リウマチ(RA)は、滑液貯留と滑膜肥厚、骨棘形成や骨びらん、パワードプラ機能による滑膜への異常血流シグナルの状態などに注意して、疑いがあれば直ちに医科へ対診して血液検査をして頂くなど医接連携が大切である
  • 屈曲時の掌側板の掌側上昇は能動的に生じ、その後の中節骨舌部の回転を誘導して円滑な関節運動を提供している

次回は「上肢編 指の観察法」として、DIP関節について考えてみたいと思います。

情報提供:(株)エス・エス・ビー

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