運動器超音波塾【第23回:指関節の観察法1】
株式会社エス・エス・ビー
超音波営業部マネージャー
柳澤 昭一
近年、デジタル技術により画像の分解能が飛躍的に向上した超音波は、表在用の高周波プローブの登場により、運動器領域で十分使える機器となりました。この超音波を使って、柔道整復師分野でどのように活用できるのかを、超音波の基礎からわかりやすくお話してまいります。
第二十三回 「この夏の、ある日」の巻
―上肢編 指関節の観察法について 1―
この所の暑さは「夏が好き」などとは言っていられないほどで、日中、外に立っているだけで滝のように汗が滴ってきます。蝉の鳴き声が、静かに聞こえています。
震災による災害の爪痕も癒えない中、西日本豪雨が起きてしまいました。大規模な土砂崩れや浸水が相次ぎ、短時間のうちに濁流に飲み込まれて被災された方が多数おられる状況に、言葉も見当たりません。犠牲になられた方々のご冥福をお祈りいたします。
平成を振り返ると、雲仙普賢岳火砕流や北海道東方沖地震、阪神淡路大地震、東日本大震災、御嶽山噴火、熊本地震、それ以外にもたくさんの自然災害に見舞われた時でした。子供の頃に台風の影響で膝上まで道路が冠水したことがあって、長靴の中にも水が入ってしまい重い足取りで家へ帰る途中、大人になる頃にはこんな災害は無くなっていればいいなと、ゴム長靴がきゅるきゅると鳴く音を漠然と聞きながら、今にも泣きだしそうな幼馴染の手を握っていた事を想い出しました。
夕暮れの空、地元の街では、夏祭りの練習の笛太鼓が聞こえています。元来、秋祭りが農作物の豊作に感謝を表す祭りであるのに対して、夏祭りは死者を供養し災いを鎮める慰霊、鎮魂の意味が強いと言われています。京都の祇園祭も、平安時代に流行した疫病、天然痘やはしかによって多数の人が亡くなった事が発端とされており、当時の市井の人々は埋葬の習慣もなく、そのまま道端に放置され、或いは川に流されることで、更に伝染病や食中毒などが発生して、命を落とす人が増えていったと伺ったことがあります。同じように隅田川の花火も、享保の大飢饉による餓死者と疫病が流行って犠牲になった人々の慰霊と、悪病退散を祈願した水神祭が由来と習いました。日本各地には、水除け地蔵や水天宮を祀り、治水を祈願した祭りもたくさんあって、その地域で起こった水害などの自然災害との関係が深いようです。今年の夏は、夏祭りや様々な祭祀、儀礼や伝承の起源に災厄が隠れていないかを紐解きながら、その意味を考えてみたいと思っています。
暮れなずむ空を吹く風は生暖かく、打ち水をしてもかすかな涼しさを捉えるだけで、室外機の、息も絶え絶えな音が辺りに響いています。西南西の空から姿をあらわした「きぼう」からは、そんな今日の日がどのように観えているのか。その姿は輝きながら、北東の空へと消えていきました。
きぼう : ISS国際宇宙ステーション日本実験棟
日本三大水天宮のひとつとされ、久留米藩有馬頼徳の三女、竹姫が土浦藩主の土屋寅直(ともなお)のところへお嫁入りの時、護り本尊として総本宮の久留米水天宮よりの分霊を捧持し、土屋藩邸内に祀ったものがはじまりで、現在は霞ケ浦湖畔に遷宮され水神宮と並んでひっそりと建っています。その昔土浦は、水路には舟が行きかい岸辺には柳という水郷の風情で、陸前浜街道と併せて水陸交通の要として発展しました。その反面、度々水害に遭って、土浦城はその際にも水没することなく、水に浮かぶ亀の甲羅のように見えたことから亀城(きじょう)の異名を持ち、今も城址公園は亀城公園と呼ばれています。
今回の「運動器の超音波観察法」の話は「指関節の観察法」として、弾発現象について考えてみたいと思います。
手指の運動の多様性と障害
手指の運動の多様性は、その働きが精密で繊細なことで良く理解できます。また、それを実現するための構造も同様に繊細で、超音波画像診断装置の持つ分解能はこれらの観察にとても適していると考えています。特に超音波画像診断装置の動態で観察できる長所は、静止画からは想像もできなかった情報となって運動器の振る舞いを教えてくれます。手指の超音波観察は、あらためて運動器における動態観察の重要性を感じさせてくれます。
手指に発症する様々な疾患にも、その繊細なメカニズムゆえの障害が観察され、日常的なちょっとした動作が上手くできなくなってしまいます。手指の疾患としては、骨折、変形性関節症(ヘバーデン結節・ブシャール結節)・腱や靱帯損傷 (慢性および急性Jersey Fingerなど)・関節液貯留・膿瘍、浮腫、嚢胞・RA・デュピュイトラン拘縮(手掌線維腫症)・ボタンホール変形・スワンネック変形・ボクサー骨折、MP関節脱臼、PIP関節脱臼骨折、槌指(mallet finger)などがあり、充分に注意して観察することが大切です。
その中で、特に腱や靭帯の障害として特徴的なのは弾発現象で、手指の疾患の中でも多く観られます。
屈筋腱と腱鞘の解剖
では、改めて屈筋腱と腱鞘の解剖に触れます。屈筋腱はDIP関節(第1指節間関節)を屈曲させる深指屈筋腱とPIP関節(第2指節間関節)を屈曲させる浅指屈筋腱の2種類からなっており、MP関節のやや中枢側から末梢まで伸びる腱鞘に包まれています。この腱鞘には骨から離れないように靭帯性腱鞘(線維性腱鞘)と呼ばれる強靭な線維部と柔らかい膜性腱鞘があり、靭帯性腱鞘は中枢側から母指の場合A1~A2、他の4指はA1~A5(Annular:輪状)と呼ばれ、膜性腱鞘の周囲を輪状に取り囲んでいます。輪状部の間には、斜めに十字に交差して網目状になっている十字部があり、C1~C3(Cruciform:十字型)と呼ばれています。これらは、滑車のような働きからプーリーと呼ばれています。但しこれらの腱鞘は、A1が分割している場合とA1とA2の間にC0腱鞘がある場合などがあるようで、個体差には注意が必要です。
PIP関節から遠位手掌皮線までのZone 2と呼ばれる区間には、深指屈筋腱と浅指屈筋腱の交叉(腱交叉 Chiasma)部があることも知っておきたい知識です。
浅指屈筋腱(FDS)と深指屈筋腱(FDP)が交叉する部位があり、腱交叉(Chiasma)と呼ばれています。同部位での腱断裂は高率に癒着を生じることで、早期の運動療法が有効とされています。
靭帯性腱鞘は屈筋腱が浮き上がってしまわないように掌側板や指節骨に付着して保持しています。その滑車のような働きから、プーリーと呼ばれています。
弾発現象について
指関節の弾発現象は「ばね指」或いは「弾発指」と呼ばれ、諸家の報告によると、一般罹患率は約3%*1、更年期や妊娠出産期の女性に多く*2、スポーツや指を良く使う仕事の人(柔道整復師の方にも意外に多い印象があります)、糖尿病患者の20%*2 *3 *4、リウマチ、透析患者にもよく発生すると言われています*5。統計的に母指、中指、環指に多く、示指、小指はそれほど多くないとされています*6。ちなみに指関節以外での弾発現象は股関節、膝関節などがあり、関節内、関節外の病変が知られています。
指関節の場合、どのようにして曲げたり伸ばしたりができるのかを観ていくと、肘関節から手関節にある筋肉により、腱を介して指節骨を引っ張っているのが観察されます。これはマリオネットと同じ構造で、単純に腱だけの構造であれば最短距離を通って腱が浮き上がってしまったりずれたり、或いは捻じれたりするわけですが、これを制御して指に沿って動くように押さえているのが腱鞘というトンネルということになります。日本整形外科学会のホームページでは、ベルト(腱)とベルト通し(腱鞘)のようだと表現していますが、これはとても解りやすい例えであると思います*7。
このトンネル部分で、常時、腱が腱鞘の壁をこするような状態が続くことや、或いは何らかの理由で炎症が進むと、トンネルの内壁が厚く腫れることになります。するとトンネルが狭くなって腱が通り辛くなっていきます。これがいわゆる手指のこわばりの状態で、さらに進行すると腱自体も腫れてくることが解ってきています。この膨らんだ腱の部分が狭窄した腱鞘を通ろうとする時に、通り辛い所を無理に通る現象として、一度狭窄位置で止まって一気に通過する現象が「カクッ」となる感じとなるわけです。
この状態が進行すると、動かす時の痛みをより感じるようになり、関節の可動域が制限され関節拘縮ということになります。前回までに書いたように、指は連携もしており他の関節や隣の指にも影響していきます。
走査型透過電子顕微鏡を用いた組織病理学研究では、健常のA1プーリーは2層構造で浅層は疎な結合組織、深層は密な結合組織であるのに対して、罹患(りかん)したA1プーリーは3層構造を持ち、最深層に小さなコラーゲン線維および豊富な細胞外マトリックスにより形成された不規則な結合組織、”chondroid metaplasia”(軟骨性化生)が観察されたとの報告があります*8 *9。
これらを受けて、超音波による屈筋腱と滑膜性腱鞘の厚みを測定した研究では、非RA症例は屈筋腱肥厚による痛みが主原因とし、RA症例では滑膜性腱鞘肥厚に加え炎症を起こしていることが強い痛みに関係していると結論した上で、RA症例のばね指において、複数ヵ所に滑膜増生を伴うもの、滑膜が腱を圧排しているもの、リウマチ性肉芽の腱内侵入、滑膜が屈筋腱を巻き込んでいるような状態で測定不能な症例も経験し、すなわち、検討した計測や血流観察のみでは評価できない様々なバリエーションが存在していることも明らかとなったと報告しています*10。
ここまで文献を調べてくると、かなり様々な病態が解ってきているようで、しかしながら、また深みにはまってしまった感もあります。加齢や更年期による女性ホルモンの減少、妊産婦、糖尿病やRA(関節リウマチ)の影響、抗がん剤治療で起こる例など、スポーツや仕事などでの指の酷使以外にも様々な原因が挙げられており、逆に酷使しているのに罹患(りかん)しない場合もあるわけで、的確な分類や包括的なメカニズムの究明には、もう少し時間が必要なのかもしれません。弾発指の重症度の分類としては橋詰・名越の分類やグリーンの分類がありますが*11*12、運動器超音波の場合、腱や腱鞘の肥厚の計測や毛細血管の拡張が占める割合等による定量化が基礎的な積み上げとして先ずは重要であると思います。更にその上で、動態観察による現象の機能解剖学的な分析が可能であるという長所を生かすことで、それらの動態所見によりさらに様々なバリエーションの分類が可能となるだろうと考えているところです。
- *1
- 皆川洋至 超音波でわかる運動器疾患 メジカルビュー社
- *2
- Schubert C, Hui-Chou HG, See AP, Deune EG, Corticosteroid injection therapy for trigger finger or thumb: a retrospective review of 577 digits, Hand (N Y). 2013;8(4):439-44
- *3
- Stahl S, Kanter Y, Karnielli E. Outcome of trigger finger treatment in diabetes. J Diabetes Complicat. 1997;11:287–90. doi: 10.1016/S1056-8727(96)00076-1.
- *4
- Strom L. Trigger finger in diabetes. J Med Soc NJ. 1977;74:951–4.
- *5
- Uotani K, Kawata A, Nagao M, et al. Trigger finger as an initial manifestation of familial amyloid polyneuropathy in a patient with Ile107Val TTR. Intern Med. 2007;46:501–4. doi: 10.2169/internalmedicine.46.6008.
- *6
- Bunnell S. Injuries of the hand. In: Surgery of the hand. Philadelphia: JB Lippincott; 1944.
- *7
- 日本整形外科学会のホームページ
https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/snapping_finger.html - *8
- Sbernardori MC, Mazzarello V, Tranquilli-Leali P. Scanning electron microscopic findings of the gliding surface of the A1 pulley in trigger fingers and thumbs. J Hand Surg [Br] 2007;32:384–7.
- *9
- Sbernardori, M.C. and Bandiera, P. Histopathology of the A1 pulley in adult trigger fingers. J Hand Surg. 2007; 32B: 556–559
- *10
- 西森美佐子, 尾崎鈴子, 野口政隆, 贄田隆正, 有光幸生, 中島利博, 中谷孝.関節超音波像からみた屈筋腱腱鞘炎(ばね指)の病態的特徴.超音波検査技術38(1): 13-20, 2013.
- *11
- 橋詰博行,名越 充:弾発指に対する皮下腱鞘切開―私はこうしている―.整形外科最小侵襲手術ジャーナル.2005; 34: 26‒30.
- *12
- Wolfe SW, Hotchkiss RN, Pederson WC, Kozin SH, Tendinopathy, in: Green’s Operative Hand Surgery, 6th edition, Churchill Livingstone, Chap. 62, p. 5, 2011.
浅指・深指屈筋腱とA1プーリーの超音波観察法
それでは、弾発指の好発部位である中指(第3指)を例にして、MP関節位置での浅指・深指屈筋腱とA1プーリーの超音波観察法です。掌側から長軸と短軸で観察していきます。
観察の準備として手置台やタオルを下に敷くなどして、屈曲・伸展動作がしやすい肢位で観察します。MP関節を屈曲させると、中手骨の骨頭を触知することができます。この時の骨頭位置を把握しておくと、掌側からの観察時にMP関節位置が理解しやすくなります。Focusを合わせるためには、音響カプラ(ゲルパッド)やゲルを増量して距離を稼ぐなどの工夫をすると、明瞭な画質が得られると共に動態観察が容易となります。
MP関節位置を触知したら、指節骨に長軸にプローブを調整して浅指・深指屈筋腱を描出していきます。この時にプローブをあてる角度を微調整して、腱の線維性の構造(fibrillar pattern : 線状高エコー像の層状配列)が明瞭に描出されるようにします。MP関節から中手骨骨頭にかけて、深指屈筋腱の下には掌側板(Volar Plate)が描出されます。掌側板は伸展動作で制動に働き、屈曲時には中指骨側の膜様部がたわむのが観察され、柔軟性が画像から読み取れます。
では実際に弾発現象が観られる症例の、超音波画像を観てみます。これは、大学病院で「運動器分野での超音波画像の有用性」の研究に技術協力した際に採取したデータです。
短軸画像による観察では、隣の正常な部位との比較も容易なことから、浅指屈筋腱(FDS)や深指屈筋腱(FDP)、A1プーリー(白矢印)の肥厚や炎症の程度を簡単に知ることができます。この観察時には、腱鞘由来のガングリオンの有無にも注意をして観察します。
次に、長軸で弾発現象を動態観察した症例を検証してみます。
この症例の場合、浅指屈筋腱(FDS)や深指屈筋腱(FDP)、A1プーリーとも、肥厚している様子が観察されています。A1プーリーは卵円形に肥厚しており、画面右下方向に浅指屈筋腱の動作を止めています。それによって、浅指・深指屈筋腱共、腱の走行がクランク状に蛇行した形状に観察されています。
やがて、直接圧迫されていない深指屈筋腱が滑走をはじめると、A1プーリー最深層と思われる部分が時計方向に回るように動き始め、それと同時に浅指屈筋腱も滑走をはじめます。屈筋腱が伸びて伸展動作が完了すると、A1プーリー再深層と浅指・深指屈筋腱共、指節骨に対して平行な位置におさまった状態になっています。ここで注意すべきは、この時のA1プーリーがより扁平した卵円形になって、浅指屈筋腱を圧迫している様子に観察されていることです。つまり、この状態の時は、広い範囲に均一に圧が分散していると予想されるわけです。
そこで、屈曲動作を行うと、この逆の動きが観察されました。このことから、この症例の場合、A1プーリーの最深層と思われる部分が回転するようにして動くことによって(屈筋腱が働く時には、肥厚した部分がA1プーリーを引き連れて回転させている)、浅指屈筋腱に対する圧迫を強めた位置にA1プーリーが変形して、その動きを堰き止めていたという例でした。A1プーリーが変形、回転するように動くとは、まるで予想もできなかった様子が観察できた症例で、大学の先生とも思わず顔を見合わせた事を思い出しました。このような現象が全てではありませんが、傷病の過程での重要なファクターであることは、間違いありません。
では、動画です。
MP関節位置での屈曲・伸展の正常画像を長軸走査で観察してみます。
中手骨骨頭の上に掌側板(VP)があり、その上に深指屈筋腱(FDP)、浅指屈筋腱(FDS)が観察されます。屈筋腱の遠位での走行を観ていくと、浅指屈筋腱(FDS)と深指屈筋腱(FDP)が交叉する腱交叉(Chiasma)が観察されます。浅指屈筋腱(FDS)の上を良く観ると、A1プーリーを観察することができます。掌側板(VP)は、屈曲動作をしていくと盛り上がって、伸展動作で引き伸ばされて、過伸展を制動している様子が解ります。
運動器の超音波観察法の場合、健側患側を比較する場合は特に、健側から観察を始める事が大切です。正常画像でどのような振る舞いがあるのかをしっかり理解してから患側を観察すると、個々の病態の程度や運動療法のヒントとなる情報が沢山ある事に気づくことができます。
動態を機能解剖学的な視点で観察、評価していく「動態解剖学」(勝手にそう呼んでいます)が、運動器の超音波観察法には必要であると思っています。
ところで、プーリー自体の断裂はどうであるのかを調べてみると、前回触れたボルダリング同様、ロック・クライミングのケースが古典的なようです。ロック・クライミングは通常、MP関節およびPIP関節の屈曲およびDIP関節の伸長を伴い、滑車に大きなストレスを与え、完全または部分的な断裂を生じるとして、環指のA2プーリーが最も負傷しているとの報告があります*13。また最近では、野球選手の損傷も報告されており、観察時の注意事項となります*14。
- *13
- Crowley TP. The flexor tendon pulley system and rock climbing. J Hand Microsurg 2012; 4:25–29
- *14
- Lourie GM, Hamby Z, Raasch WG, Chandler JB, Porter JL. Annular flexor pulley injuries in professional baseball pitchers: a case series. Am J Sports Med. 2011 Feb;39(2):421-4.
それでは、まとめです。
今回の観察法でポイントとなる事項をまとめると、下記のようになります。
- 腱鞘には靭帯性腱鞘(線維性腱鞘)と呼ばれる強靭な線維部と柔らかい膜性腱鞘があり、靭帯性腱鞘は中枢側から母指の場合A1~A2、他の4指はA1~A5(Annular:輪状)と呼ばれ、膜性腱鞘の周囲を輪状に取り囲んでいる
- 輪状部の間には、斜めに十字に交差して網目状になっている十字部、C1~C3(Cruciform:十字型)があり、滑車のような働きからプーリーと呼ばれている
- A1が分割している場合とA1とA2の間にC0腱鞘がある場合などがある
- PIP関節から遠位手掌皮線までのZone 2と呼ばれる区間には、深指屈筋腱と浅指屈筋腱の交叉(腱交叉 Chiasma)部がある
- Zone 2での腱断裂は高率に癒着を生じることで、早期の運動療法が有効とされている
- 「弾発指」は、一般罹患率は約3%、更年期や妊娠出産期の女性に多く、スポーツや指を良く使う仕事の人、糖尿病患者の20%、リウマチ、透析患者にもよく発生すると言われている
- 「弾発指」は、統計的に母指、中指、環指に多く、示指、小指はそれほど多くないとされている
- 「弾発指」は、手指のこわばりの状態からさらに進行すると腱自体も腫れてくることが解ってきており、この膨らんだ腱の部分が狭窄した腱鞘を通ろうとする時に、通り辛い所を無理に通ることで起こる現象である
- 電子顕微鏡を用いた組織病理学研究では、健常のA1プーリーは2層構造で浅層は疎な結合組織、深層は密な結合組織であるのに対して、罹患(りかん)したA1プーリーは3層構造で、最深層に小さなコラーゲン線維および豊富な細胞外マトリックスにより形成された不規則な結合組織、”chondroid-metaplasia”(軟骨性化生)が観察されたとの報告がある
- 超音波による屈筋腱と滑膜性腱鞘の厚みを測定した研究では、非RA症例は屈筋腱肥厚による痛みが主原因とし、RA症例では滑膜性腱鞘肥厚に加え炎症を起こしていることが強い痛みに関係していると結論した上で、RA症例のばね指において、複数ヵ所に滑膜増生を伴うもの、滑膜が腱を圧排しているもの、リウマチ性肉芽の腱内侵入、滑膜が屈筋腱を巻き込んでいるような状態で測定不能な症例も経験し、すなわち、検討した計測や血流観察のみでは評価できない様々なバリエーションが存在していると報告している
- 加齢や更年期による女性ホルモンの減少、妊産婦、糖尿病やRA(関節リウマチ)の影響、抗がん剤治療で起こる例など、スポーツや仕事などでの指の酷使以外にも様々な原因が挙げられており、逆に酷使しているのに罹患(りかん)しない場合もある
- 観察の準備として手置台やタオルを下に敷くなどして、屈曲・伸展動作がしやすい肢位で観察する
- MP関節を屈曲させると、中手骨の骨頭を触知することができ、この時の骨頭位置を把握しておくと、掌側からの観察時にMP関節位置が理解しやすくなる
- 腱の線維性の構造(fibrillar pattern : 線状高エコー像の層状配列)が明瞭に描出されるようにプローブを調整する
- 長軸走査では、中手骨骨頭の上に掌側板(VP)があり、その上に深指屈筋腱(FDP)、浅指屈筋腱(FDS)が観察され、遠位には浅指屈筋腱(FDS)と深指屈筋腱(FDP)が交叉する腱交叉(Chiasma)が解る
- 長軸走査で伸展動作をしていくと、掌側板(VP)が引き伸ばされて過伸展を制動している様子が解る
- 腱鞘由来のガングリオンの存在にも併せて注意をする
- 短軸画像による観察では、隣の正常な部位との比較も容易なことから、浅指屈筋腱(FDS)や深指屈筋腱(FDP)、A1プーリー(白矢印)の肥厚や炎症の程度を簡単に知ることができる
- 運動器の超音波観察法の場合、健側患側を比較する場合は特に、健側から観察を始める事が大切で、正常画像でどのような振る舞いがあるのかをしっかり理解してから患側を観察すると、個々の病態の程度や運動療法のヒントとなる情報が沢山ある事に気づくことができる
- プーリーの断裂は、ロック・クライミングで多く、環指のA2プーリーが最も負傷しているとの報告があり、また最近では、野球選手の損傷も報告されてきている
次回は「上肢編 指の観察法」として、PIP関節について考えてみたいと思います。
情報提供:(株)エス・エス・ビー
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