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運動器超音波塾【第8回:肘関節の観察法 1】

特集 運動器超音波塾

株式会社エス・エス・ビー
超音波営業部マネージャー
柳澤 昭一

近年、デジタル技術により画像の分解能が飛躍的に向上した超音波は、表在用の高周波プローブの登場により、運動器領域で十分使える機器となりました。この超音波を使って、柔道整復師分野でどのように活用できるのかを、超音波の基礎からわかりやすくお話してまいります。

第八回 指の関節が鳴るのはなぜ? (指パッチンfinger-snapの事ではない)」の巻
―上肢編 肘関節の観察法について 1―

膝関節の屈伸運動を行った時に、関節周囲でボキッと音がする経験は誰しもあると思います。また、指を過伸展させた時にボキボキッと音が出るといった事も、日常的に経験している事ではないでしょうか。では、どのような仕組みでこの音が出るのか。現在の所最も有力な説は、「キャビテーション」という現象であろうとされています。 「キャビテーション現象」は、超音波の安全基準のところでも触れた話なのですが、簡単に言うと、液体が減圧されると液体に溶け込んでいた気体が出てきて弾けて、衝撃波が発生するという事になります。身近なところでいうと、ビールや炭酸飲料の栓を抜くと、泡がたくさん出てきます。これは、栓が抜かれた事で、加圧状態から常圧に減圧されて、それまで溶けていた二酸化炭素が気泡として現れて、はじけている状態です。これには物理で言うところの「ヘンリーの法則」が関わっているのですが、「気体の液体への溶解度は、その気体の圧力に比例し、圧力が2倍になれば、気体が溶ける量(物質量や質量)が2倍になる」というものです。

超音波が液中に照射されたときに、正・負の圧力がその気体分子に交互にかかります。正の圧力で圧縮された気体分子は、次の瞬間には負の圧力により激しく膨張します。この繰り返しによって圧縮時に気体分子は非常に高い圧力を持ち、その 限界で弾けて消滅します。この非常に大きな衝撃的圧力の発生を「キャビテーション現象」といいます。この現象の人体への影響をMI(メカニカル・インデックス)という指標で安全基準が決められており、超音波の機種によっては画面上に表示されています。

話を戻しますが、指が鳴る理由は「Real-Time Visualization of Joint Cavitation」*1という論文によると、気泡がはじける音ではなく、気泡が形成されて空洞ができた時の音であるとした報告があります。これは、MRIを使った実験で、空洞ができ、次の瞬間に消失する様子を捉えています。とても興味深い実験ですが、検討の余地もありそうです。

*1 Real-Time Visualization of Joint Cavitation
Gregory N. Kawchuk,等
2015 Apr 15;10(4):e0119470. doi: 10.1371/journal.pone.0119470. eCollection 2015

では、超音波では、どこまでこの身体の音が見えているのか。実際に超音波で膝関節の上部を伸展動作で観察してみると、膝蓋骨の上部の脂肪体と大腿骨の前部の脂肪体が膝蓋上包(滑液包)を介して衝突を起こして、次の瞬間に膝蓋骨上部の脂肪体の下を大腿骨前部の脂肪体がくぐっていく状態が観察できます。この時、圧迫されていた滑液包が次の瞬間には急速に開放されるわけです。どうも、この時に音がしている。肘関節に於いては、尺骨神経が脱臼するのを観察した時や、MP関節での弾発現象、いわゆる肘内障の整復の観察時にも、鈍い轢音がします。解剖学的に特徴的な動きが各々で起こっていますが、このような動きに伴う解剖学的な観察ができるのは、超音波の独壇場と言えます。この、身体が発する音の原因についても、かなり正解に近い所まで来ている気がしますが、まだまだ研究が必要です。こんな事にも、運動器を動態で解剖学的に観る事の重要性を、改めて感じています。

図 最初に指パッチンを覚えたきっかけ Addams Family(1964米ABC-TV)
図 最初に指パッチンを覚えたきっかけ
Addams Family(1964米ABC-TV)

今回からの「運動器の超音波観察法」の話は、「肘関節の観察法」として肘関節の解剖と超音波でのアプローチについて考えてみたいと思います。

肘関節を外観から見ると、屈曲伸展という単純な運動を司っているように見えますが、実は複雑にして精緻な3つの関節構造で、その働きを行っています。肘関節を構成する3つの関節は、腕橈関節、腕尺関節、近位橈尺関節で、1つの関節包で包まれています。*2

この、滑膜、関節包によって閉じられている構造により滑膜性関節に分類されます。 超音波で観察できる肘関節構成体としては、骨性が橈骨、尺骨、上腕骨、軟部組織として、上腕二頭筋、上腕筋、腕橈骨筋、長橈側手根伸筋、短橈側手根伸筋、総指伸筋、回外筋、円回内筋、上腕三頭筋、内側側副靱帯、外側側副靱帯、橈骨輪状靱帯など。その他の構成体として、軟骨、関節遊離体、正中神経、尺骨神経、橈骨神経、関節包など、触診ができるものを含めて、そのほとんどすべてが超音波で観察可能です。

*2 参考資料 皆川 洋至 超音波でわかる運動器疾患 メジカルビュー社

図 肘関節の構造
図 肘関節の構造
図 肘関節を構成する3関節
図 肘関節を構成する3関節

腕橈関節は上腕骨小頭(上腕骨遠位端)と橈骨頭(橈骨近位端)による球関節で、腕尺関節は上腕骨滑車(上腕骨遠位端)と滑車切痕(尺骨近位端)による蝶番関節です。腕橈関節と腕尺関節は、屈曲と伸展が主な運動で、その中心軸は、上腕骨滑車と上腕骨小頭を結ぶラインにあります。さらに、肘関節の屈曲と伸展に伴い、内外方への運動、尺骨を中心に内旋・外旋運動も生じていることがわかっています。*3

近位橈尺関節は、橈骨頭と尺骨にある橈骨切痕による車軸関節で、主に前腕の回内、回外に関与しています。この前腕の回内、回外は、橈骨頭の関節窩(橈骨小頭窩)の中心と尺骨頭(尺骨遠位端)を結ぶ線を軸にして、動いています。肘関節で生じる回内・回外運動は、固定された尺骨を中心に、橈骨がその周囲を運動すると理解されていますが、最近のバイオメカの研究で、橈骨が尺骨の周囲を運動するとき、尺骨遠位端も橈側に変位していることが明らかになりました。45

これらの複雑で精緻な構造(尺骨を軸にして最大回内時、軸は外側方向に1~2%ずれ、前腕の回旋運動時に5~10°程度の側方偏位がおこる)だからこそ、骨折などの肘関節特有の疾患が生じるとも考えられるわけです。

*3 Werner FW, An KN: Biomechanics of the elbow and forearm.. Hand Clin. ; 1994 Aug;10(3):357-73.
*4 Linscheid RL. Biomechanics of the Distal Radioulnar Joint. Clin Orthop Relat Res. 1992(275):46-55. 6.
*5 Weinberg AM, Pietsch IT, Helm MB: A new kinematic model of pro- and supination of the human forearm.. J Biomech. ; 2000 Apr;33(4):487-91.

肘関節の超音波観察法 基本肢位は座位

重要なポイントなので、今回も肢位について触れます。超音波での観察法の場合、最初に考慮すべき点としては、観察肢位が挙げられます。被験者はもちろん、観察者も楽な肢位での観察が的確なプローブワークにつながり、より情報の多い画像が得られます。この場合、大切なことは、動態観察を想定しての肢位を検討すべきだという事です。

肘関節の場合、肩との連動で動態観察する事もあるため、肩甲骨が床面と接触してしまうと、内外旋運動や外転運動のような自然な肩の動きができなくなるという理由によって、肩関節の観察と同様に、基本肢位は坐位が良いと考えられます。

肘関節の前方アプローチの観察肢位は、肘伸展位で手置台などを利用して。なるべく楽な姿勢を取ってもらい行います。この時、第一指の向きに注意して前腕の回内、回外運動、手関節の掌屈、背屈による変化にも併せて注意しながら、観察します。

図 肘関節の観察法 前方アプローチの基本肢位とプローブワーク
図 肘関節の観察法 前方アプローチの基本肢位とプローブワーク

プローブは先端を持ち、薬指小指などを患者さんに触れて、プローブを支える支点をつくります。

肘関節前方の超音波画像と解剖学的構造

プローブの位置は、最初上腕骨に短軸に当て、上腕骨と滑車の位置をしっかりと同定します。上腕骨遠位の関節構造が把握できたら、上腕骨小頭をほぼ画面の中央にして、長軸方向に上腕骨に平行になるようプローブを回して、上腕骨小頭と橈骨頭を描出します。関節裂隙を画面の中心にするよう少し調整すると、よりわかりやすくなります。場所が同定できたら、前腕を回内、回外に運動させながら観察します。橈骨頭の回転する様子と、輪状靭帯の位置が、理解できます。

図 肘関節の観察法 前方アプローチ 上腕骨遠位端 短軸画像
図 肘関節の観察法 前方アプローチ 上腕骨遠位端 短軸画像

X線では描出できない関節軟骨は、その組成の約80%が水分の為、超音波画像では低エコーに描出されます。これにより超音波では、成長過程の肘関節の様子を安全に検査する事が可能で、野球健診にも活用されています。

上腕骨遠位端を短軸に観察すると、外側に隆起する小頭と、内側にやや陥凹した滑車が観察できます。また、その両者を低エコー域に描出された関節軟骨が覆っており、肘関節の変形の状態や骨棘の有無も観察することができます。その前方には、上腕筋、上腕二頭筋、腕橈骨筋などの筋組織の断面構造が観察され、上腕筋と腕橈骨筋との間には、橈骨動静脈と橈骨神経の運動枝、知覚枝、上腕二頭筋の内側には、上腕動脈と正中神経が、それぞれ観察されます。*2

*2 参考資料 皆川 洋至 超音波でわかる運動器疾患 メジカルビュー社

図 上腕骨小頭の関節面は楕円形状
図 上腕骨小頭の関節面は楕円形状

上腕骨小頭は、前後径に比べ左右径が短く楕円形状の関節面であることによって、前腕両骨の接触を回避しながら回旋が可能となり、また橈骨回旋軸を外側へ移動することで、車軸運動における関節可動域も確保する仕組みがあります。

図 肘関節の観察法 前方アプローチ 長軸画像
図 肘関節の観察法 前方アプローチ 長軸画像

プローブ位置を腕橈関節の長軸に当てて観察(正中より外側にアプローチ)すると、中枢側(近位)に隆起する半円形の小頭と、末梢側(遠位)に橈骨頭が観察できます。小頭、橈骨頭とも、低エコー域に描出される軟骨と高エコーの関節包に覆われており、間隙にはその間を埋めるように滑膜ひだが存在しています。さらに、橈骨頭の低エコー域を覆うように、やや高エコーな輪状靭帯を観察することができます。この時に、前腕を回内、回外に動作させながら観察すると、橈骨頭が回転し、輪状靭帯が締ったり緩んだりする様子を見る事ができます。

図 肘関節の観察法 前方アプローチ 長軸画像 やや近位
図 肘関節の観察法 前方アプローチ 長軸画像 やや近位

プローブを中枢側(近位方向)に移動してくると、橈骨窩とその前に脂肪体の存在を観察する事ができます。この位置では、橈骨窩と脂肪体の間に低エコーに描出される関節水腫や、野球肘などで見られる関節内遊離体(高エコーで骨成分により音響陰影を示す)を観察する事がある為、十分に注意します。

それでは、肘関節の腕橈関節位置で、伸展動作をしながら動態観察をしてみます。プローブは、正中よりやや外側の位置で長軸走査です。

肘関節前面の超音波画像 伸展動作の動態観察

上腕骨小頭レベルで長軸に観察すると、伸展動作の終末で小頭が前方に突出して、腕橈関節の関節包はその動きを許容するように伸張するのが観察できます。この事で解るように、関節包にはある程度の柔軟性があり、拘縮が進んだ症例では、十分な伸張が出来ていないという事です。*6

つまり、腕橈関節では、早期からECRL(長橈側手根伸筋)の収縮を反復する事によって、腕橈関節の関節包の柔軟性維持に努めること、すでに拘縮が進んだ症例では、関節包とECRLの接合部へ選択的伸張を加える運動療法が必要だということが、ひとつの答えとして導き出せるわけです。超音波の観察から考察していくと、必要な治療方針まで導き出せる良い例です。

超音波による動態解剖学の視点での考察をしていけば、まだまだ様々な事が解りそうで、楽しみです。

*6 参考資料 中部学院大学リハビリテーション学部 林 典雄  JPTA IN GIFU

日本整形外科学会によると、肘関節の周辺の病気として、下記の病名を挙げています。

  • 肘部管症候群
  • テニス肘(上腕骨外側上顆炎)
  • 肘内障
  • 上腕骨顆上骨折
  • 野球肘
  • 変形性肘関節症
  • 前骨間神経麻痺・後骨間神経麻痺
  • 尺骨神経麻痺

この章では、これらの病態にも触れながら、超音波による観察法の解説を進めていこうと考えています。

さて、まとめです。今回の観察法でポイントとなる事項をまとめると、下記のようになります。

  • 肘関節前方アプローチの基本肢位は、座位で行う
  • 第一指の向きを意識しながら、前腕の回内、回外運動、手関節の掌屈、背屈による変化にも注意して観察する
  • 上腕骨と滑車の位置をしっかりと同定し、上腕骨遠位端での短軸の観察と、腕橈関節の長軸で、上腕骨小頭と橈骨頭、関節包などを描出する
  • 関節内水腫、関節内遊離体、関節包の拘縮、癒着などに注意する
  • 肘関節の伸展動作を動態観察し、伸展終末での関節包の柔軟性を観察する

次回は「上肢編 肘関節の観察法」の続きとして、内側アプローチについて、考えてみたいと思います。

情報提供:(株)エス・エス・ビー

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