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柔道整復師と介護福祉【第87回:介護保険の基礎知識】

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所得で異なる自己負担割合

介護保険の自己負担割合は、所得に応じて1~3割と幅があります。これはなぜでしょうか。
2000年の介護保険制度開始当初は、自己負担額は所得に関わらず一律1割でした。中高所得層が福祉サービスよりも負担の少ない病院に入院する「社会的入院」問題、福祉サービス利用時に所得調査が必要で抵抗があるという問題を解消するためにも、所得とは無関係に少ない負担で介護サービスを利用できる制度になっていました。
しかし一律の負担では、所得によって生活への影響が大きく異なります。さらに少子高齢化も急激に進行するなか、一律負担のままでは介護保険制度の持続が危ぶまれるようになりました。
そこで世代内・世代間の不公平感を解消し介護保険の制度を存続させるため、個人の負担能力に応じて自己負担割合を変える方針に転換されました。

現行の利用者負担割合の判定方法は次の通りです。

利用者負担割合の判定方法

本人の合計所得金額が160万円未満の人は、すべて「1割負担」となります。利用者負担が2割、もしくは3割になる可能性があるのは、本人の合計所得金額が160万円以上の人です。
合計所得が160万円以上でも、年金収入とその他の合計所得金額の合計額が単身世帯で280万円未満、2人以上世帯で346万円未満の場合は「1割負担」となります。
反対に合計所得金額が220万円以上、かつ年金収入とその他の合計所得金額の合計額が単身世帯であれば340万円以上、2人以上の世帯であれば463万円以上ある場合は、負担が最も大きい「3割負担」です。
どちらにも当てはまらない人は「2割負担」となります。
このように負担割合の区分は複雑でわかりにくい部分もあるため、市区町村は介護保険サービスの対象者に毎年「介護保険負担割合証」を発行し、ひと目で割合がわかるようにしているのです。

介護保険サービスには1カ月の利用上限がある

1~3割の少ない負担で利用できる介護保険サービスですが、要介護認定が下りれば無制限にサービスを利用できるわけではありません。「区分支給限度額」として、要介護度に応じて利用できる上限が定められています。上限を超過してもサービスを利用することは可能ですが「全額自己負担」となりますので、注意が必要です。
介護保険サービスは、金額ではなく「単位」で計算されるため、利用上限も「単位」で決まっています。単位数に1単位当たりの単価をかけ合わせることで利用金額を求める仕組みです。
1単位当たりの単価はサービスごと、地域ごとに10~11.40円の間で設定されています。単価に差があるのは、人件費の地域差やサービスごとに異なる人件費の割合を金額に反映させるためです。

下の一覧表は、1単位を10円として計算した場合の区分支給限度額と自己負担額を示したものです。地域や利用サービスによっては多少の差異が生じます。

要介護度(要支援度)別の支給限度額と自己負担額

※2019年10月~の金額

高額な介護サービス費を払い戻す制度

2・3割負担の人で要介護度が上がると、自己負担額も相当に大きくなります。なかには10万円を超えるケースもあるほどです。

月額の介護サービス費が一定の上限を超過した場合、各市町村に申請することで超過分が払い戻される制度があります。それが「高額介護サービス費」制度です。
所得によって上限金額は異なりますが、最大でも世帯当たり4万4,400円に抑えられます。なお老人ホームの居住費や食費、差額ベッド代、生活費などは対象に含まれません。
高額介護サービス費に該当する人には、サービスを利用した約3カ月後に市区町村から通知と申請書が送付されます。申請書に必要事項を記入し市区町村の窓口に提出すれば、申請完了です。一度申請すれば、それ以降は条件に当てはまるときに自動的に支給されます。申請期間は、介護サービスを利用した月の翌月1日から2年間ですので、期限を過ぎてしまうことのないよう気をつけましょう。

3年ごとに改正される介護保険制度

介護保険制度は2000年の創設以来3年ごとに、これまで計7回見直されてきました。自己負担割合が「一律1割」から「所得に応じて1~3割」と変更されたのも、制度改正の一環です。
少子高齢化の進行スピードの変化や要介護人口の増加、消費税増税など社会情勢は大きく変化しています。時代のニーズを捉えた持続可能な制度にするため、定期的に見直しを実施し必要に応じて改正しているのです。

一つ前の2018年で改正されたポイント

介護保険制度が直近で改正されたのは、2021年(令和3年)です。そちらの詳しい変更内容は後述します。
こちらではまだ記憶に新しい2018年(平成30年)の改正内容についてご紹介しましょう。
2018年には「地域包括ケアシステムの深化・推進」「介護保険制度の持続可能性の確保」の2つを主軸として、介護・医療・障害福祉の総合的なサービスの創設や財源の確保などに踏み込んだ改正が実施されました。そのなかでも、特に重要な部分をピックアップして説明します。

介護医療院の創設

新たな介護保険施設として「介護医療院」が創設されました。介護医療院は、日常的な医学管理や看取り、ターミナルケアといった医療的ニーズを持つ要介護者向けの施設です。介護医療院には、重篤な身体疾患を持つ人や要介護度の高い人を対象とするⅠ型と、容態が比較的安定した人向けのⅡ型があります。
従来、医療的ケアと介護の双方が必要な人を対象とする施設には「介護療養型医療施設」がありましたが、2017年度には廃止が決定しています。運営可能な経過措置期間も2024年3月末までと決まっており、その転換先として設けられたのが「介護医療院」です。

共生型サービスの登場

介護保険法、障害者総合支援法、児童福祉法にまたがる「共生型サービス」が新たに位置づけられました。
この背景にあるのは、障害を持つ高齢者のサービス利用に関する問題です。障害者総合支援法より介護保険法に基づく介護保険サービスが優先されることから、障害を持つ人が65歳になると、利用する事業所の変更を迫られることがありました。この問題を解決し、65歳以上になっても使い慣れた事業所でサービスを受けられるようにすることが「共生型サービス」の目的です。また、これによって限りある福祉人材を適切に活用することも見込まれています。

有料老人ホームの入居者保護のための施策強化

介護施設が増加するなか、問題のある有料老人ホームによるトラブルも跡を絶ちません。そこで、入居者保護を目的とする施策が強化されました。ポイントは3つです。

  1. 有料老人ホームの設置者は、ホームの情報を都道府県知事に対して報告しなければならない。また、都道府県知事は報告された事項を公表しなければならない。
  2. 都道府県知事は、運営に問題のある有料老人ホームに対して「事業の制限または停止」を命令できる。
  3. 有料老人ホームが事業の制限または停止の命令を受けたときや、入居者が安定して生活できないと認められるときは、都道府県が必要な助言などの援助をおこなう。

また、有料老人ホームの「前払金の保全措置義務」も対象を拡大し改正されています。改正前は2006年(平成18年)4月1日以降に届け出た有料老人ホームの入居者のみが対象でしたが、それ以前に届け出を出した有料老人ホームの入居者も対象となり、より幅広く保全措置が受けられるようになりました。

自己負担割合「3割」の導入

介護保険サービス利用時の自己負担割合はそれまで1割または2割でしたが、2018年8月より所得に応じて「1~3割」と改められました。

第2号被保険者の保険料に総報酬割を導入

第2号被保険者のうち被用者保険を通じて介護保険料を納める人、つまり会社員など給料をもらっている人に関係します。 それまでは、各被用者保険が担うべき保険料の総額は加入者数によって決められていました。しかし企業によって所得も大きく異なるため、加入者数ではなく報酬額によって保険料を決定することになったのです。総報酬割は2018年より段階的に導入され、2020年度から全面導入されています。

2021年改正のポイント

では直近の2020年改正(2021年4月施行)についてご紹介します。こちらでは抜本的な改正はありませんが、地域包括支援センターの役割の強化されるなど地域が大きなテーマとなっています。具体的な判断は、市町村に委ねられているため、地域によっても施策にも差が開くと考えられるでしょう。また財源確保のための見直しも決定しています。ではそれぞれの内容についてご紹介します。

介護予防・地域づくりの推進

健康寿命を延伸するため、介護予防への注力を求めています。具体的には「通いの場」を推進するなど、地域全体でのサポートに着目しています。

地域包括ケアシステムの推進

1つ目のポイントとも共通する考え方として「地域共生」が挙げられます。地域特性に応じた介護基盤を整備できるよう、地域包括ケアセンターの運営に市区町村が適切に関与することを求めています。そのため、市区町村による管理機能が強化されるでしょう。また保育分野における「小規模保育所」「保育ママ」などの制度を参考に、介護分野でも多様な在り方を模索し、地域の実情にあったサービスの提供を目指しています。さらに質の高いケアマネジメントができるよう、多分野の専門職の知見活用やケアマネジャーの労働環境整備なども挙げられています。

「地域包括ケアシステム」については以下の記事で詳しく説明していますので、参考にしてみてください。
地域包括ケアシステムとは|構成要素や4つの「助」、今後の課題など

介護人材の確保は大きな課題です。処遇改善のほか、既存業務の仕分けやロボット・ICTの活用なども取り入れ、介護現場の革新を図るとしています。
これら3施策を進めるため「保険者機能の強化」「データ利活用のためのICT基盤整備」 に取り組み、かつ継続的に見直しを実施し改善していく方針です。データ利活用に関しては、将来的に個人の保健・医療・介護データを連結して解析することなどを見据えており、そのための基盤整備が進められます。

補足給付の見直し

低所得者のなかでも比較的所得の高い層の自己負担割合を引き上げる方針です。

高額介護サービス費の見直し

現状では最大4万4,000円の自己負担額上限を、医療保険の高額療養費にそろえ、高所得者には現状より多くの負担を求めるとしています。
介護保険料の全体的な引き上げや納付開始年齢の引き下げなどは見送られました。しかし、一部の被保険者にとっては負担が増える改正になると見込まれています。
全体として抜本的な改正は想定されていないものの、介護の在り方や地域との関わり方を問う改正となることが予想されます。これからの介護はどう変わるのか、2025年や2040年を乗り越えることができるのか、2021年の改正に注目です。

介護保険制度の歴史に関して詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
介護保険制度の歴史について2000~2021年までの流れを教えてください!

2024年4月スタート予定
第9期介護保険事業計画で重視されるポイントを予想

昨今、介護保険制度を取り巻く問題はさらに複雑化しています。2025年には団塊の世代が75歳以上となり、後期高齢者人口は約2,200万人、介護給付額は総額21兆円程度、介護保険料は全国平均で月額8,200円ほどになると想定されています。
参考:厚生労働省「介護給付と保険料の推移」

こうした状況において「介護保険制度」はより重要性を増すことが予想されます。ここでは2024年施行の介護保険制度の改正内容に関して、過去に発表された資料をもとに方向性について紹介します。

地域包括ケア実現に向けた動き

介護保険は2012年施行の第5期計画より「地域包括ケアシステム」の実現を重視してきました。2018年、2021年の改正でも取り沙汰されたテーマです。
2025年には「団塊の世代」が75歳になります。高齢者数が地域で長く暮らしていくためには、各市区町村内で「介護」「医療」「福祉」といったサービスを通して、生活を支援することが重要です。次回の改正にも盛り込まれることが予想されます。
参考:厚生労働省「介護保険事業(支援)計画の現状と方向性について」

介護の現場の待遇改善

高齢者数が増加することで「介護職員」「看護職員」などの人材の確保が重要になります。2021年施行の改正内容でも「介護の現場」に関する内容が入りましたが、次回も引き続き「人材の働き方」にまつわる内容が入るでしょう。

2022年2月から介護職員の賃上げがスタート

国は「子どもから子育て世代、お年寄りまで、誰もが安心できる、全世代型の社会保障」を見据えて、2022年2月から看護、介護、保育といった現場で働く人の収入を月額9,000円引き上げるための措置を講ずることを閣議決定しました。
具体的には、一定の要件を満たした事業所が都道府県に申請することで、常勤の介護職員1人に対して補助金が支払われる仕組みを検討しています。

岸田総理は「第1回全世代型社会保障構築会議・第1回公的価格評価検討委員会合同会議」にて以下のように発言をしています。

看護・介護・保育・幼稚園などの現場で働く方々の収入の引上げは、最優先の課題です。その第一歩として(中略)今回の経済対策において、必要な措置を行い、前倒しで引上げを実施いたします。

公的価格評価検討委員会においては、その後の更なる引上げに向けて(中略)安定財源の確保と併せた道筋を考えていただき、年末までに中間整理を取りまとめていただきますようお願いを申し上げます。

引用:首相官邸「令和3年11月9日 全世代型社会保障構築会議・公的価格評価検討委員会合同会議」

つまり今回の引き上げはあくまで第一歩であり、今後は段階的に賃金を引き上げていくことを予定しているということです。
高齢化のまっただなかにある日本では、こうした「介護職員の待遇改善」が求められているのは確かです。賃金だけでなく、介護ロボットの導入をはじめとした働き方改革も含めて、次回の介護保険改正に盛り込まれることが予想できます。

介護保険制度は「高齢化」という課題を解決するうえで大切

介護保険制度は日本にとって非常に重要な制度です。少子高齢社会だからこそ、介護保険制度で社会全体を支える必要があります。特に日本の高齢化の課題は、そのスピードが速いことです。そのため介護保険制度も状況、情勢に合わせて改定があります。3年に1回の改定内容も確認して、安心の老後を過ごしましょう。

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