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柔道整復師と介護福祉【第77回:介護保険が目指す「通いの場」とは?】

柔道整復師と介護福祉 特集

現在、少子高齢化が進む状況下で医療や介護に充てる財源、そしてケアに携わる家族の時間やホームヘルパーの労働力の確保といった問題が山積しています。
政府は、将来的に要介護状態にならないための予防施策を掲示、厚生労働省は介護予防のあり方に関する有識者検討会を開き、高齢者が集う「通いの場」の実現に向けて議論。同省が提唱する「通いの場」について解説します。

地域の高齢者が主役の介護予防に向けたプログラムの実践

「通いの場」の定義とは、地域に住む高齢者が定期的に集まり、さまざまなアクティビティを通じて仲間と楽しく交流し、日々の生活に活気を取り入れてもらうための取り組みです。その中で大きな柱となるのは、「介護予防」に直結するための取り組みになります。具体的には、イスに座った状態でもできるストレッチや運動、認知機能低下予防を目的としたテキストやドリルを用いた頭の体操、口の中を清潔に保つための口腔ケアなどを示します。また、それ以外では、参加者同士でお茶やお菓子を飲食しながら語らう茶話会、パソコンやタブレットといったIT機器の操作を教える教室。男性の場合は、囲碁・将棋サロン、女性にはお花や料理教室などがあります。料理をレクチャーする場合、管理栄養士などが講師として招かれ、高齢者に必要な栄養素を多く取り入れたメニューの提案など健康面に配慮した献立を取得します。このように「通いの場」の内容は多岐に渡り、様々な人の趣味や嗜好、ライフスタイルに合致、専門職との協業による介護世オブの実践と言えます。

「通いの場」を支える制度、総合事業

「通いの場」の活動は、全国の自治体による「新しい総合事業」が中心となり、住まいのある自治体に住む65歳以上の高齢者であれば誰でも参加可能となります。

現実的には、「事業対象者」、「要支援1・2」または「自立」(要介護または要支援にも該当しない)の人が利用することになります。
費用面は、「通いの場」は介護保険外のサービスになりますが、自治体が主催する取り組みのため原則費用は公費で賄われます。そのため参加者は1回につき数百円程度の参加費で、家計を圧迫する心配もありません。近年は社会貢献に対する国民の意識も高まり、ボランティアを募り、講師や運営スタッフとして協力してくれる人も増えているため、今後益々充実した活動が期待されます。

「通いの場」ができた背景

政府は、介護予防の必要性になぜ着目しているのでしょうか? 一つ目のポイントは、人生の最期まで他人の力に頼らずに自分らしく生きることが人間の尊厳に繋がり、健康長寿の秘訣と考えられているからです。寝たきりや認知症になれば手厚い介護は必要不可欠となり、食事やトイレなどはできるかぎり自力で済ませたいと思うのは当然のことです。そのためには、適度な運動や生活習慣病予防を実践し、比較的若いうちから取り組むことで重度の要介護になるリスクを少しでも減らしていくことが重要です。

介護予防の実践は、介護にかかる費用の抑制につながるとされています。介護保険の財源の約半分は、40歳以上の国民が納める介護保険料で成り立っています。しかし、このまま少子高齢化が進めば、納める側の保険者は減る一方で被保険者の数は増え続け、介護保険の仕組み自体が破綻し、本制度の持続可能性が危惧されています。

介護保険の財源に少しでもゆとりを持たせる目的で、2015年の介護保険法改正時に、要支援者が利用する通所介護と訪問介護を介護保険の適用から外し、全国の自治体の「新しい総合事業」に移行されました。要支援者の多くは手厚い介護サービスを必要ではありませんが、若干介護サービスを受けていた人たちに対する対応施策が必要となり、全国の自治体で介護予防に対する動きが活発化しています。

「通いの場」を継続していくためのポイント

各自治体では「新しい総合事業」がスタートして間もないところもあるため、今後継続的に、より多くの高齢者に参加してもらうことが喫緊課題となっています。

実際には、告知にしても、近所づきあいも少なく、普段からパソコンも利用しない高齢者に対して「通いの場」の情報を伝えることは困難です。代替策として、定期的に高齢者宅を訪問する民生委員・児童員などに告知を依頼、案内チラシを手渡してもらうといった方法がとられています。特に男性の場合、女性が多く集まる会合に参加しないため、連合町内会などの自治会長に「通いの場」のイニシアティブを取ってもらい、率先して活動してもらうことで男性や夫婦同士での参加ハードルを解消している現状です。

「通いの場」による運動プログラム

介護予防エクササイズの場合、内容がマンネリ化飽きて次第に参加しなくなるケースが多数見られます。この場合、月別でエクササイズの内容を変えることや、皆勤賞の人を表彰するといったことで、モチベーションの向上に工夫が必要となります。

本取り組みは、自治体主導とはいえ、やはり主役は地域の高齢者となります。与えられたプログラムをこなすだけではなく、「あれをやりたい」「〇〇に挑戦したい」といった具体的な声、楽しく取り組むためのアイデアが大変重要となります。様々な要望を実現するためにも、参加者の中からリーダー格になる人を選出、場を提供する自治体や協力するボランティアの人たちとコミュニケーションを図り、「通いの場」を充実させていくビジョン共有が重要となります。

地域コミュニティが人と人のつながり

「通いの場」の存在意義には、プログラムの内容に関係なく「参加してもらう」ことがあります。現在、日本では65歳以上の高齢者が単身で暮らす、いわゆる独居老人が増え、安否確認の重要性が叫ばれています。ここで「通いの場」が普及していくことで、地域で暮らす独居高齢者の安全や健康状態も周囲が確認できるため、孤独死を減少させることにつながります。参加した先で「元気そうでよかった」「また、来てくださいね」など声をかけてもらうことで、社会の中で必要とされているという自覚が芽生えます。こういった些細なことからでも、人は生きる活力を与えられるものなのです。高齢者が楽しくいきいきと参加できるために「通いの場」をはじめとする介護予防取り組みは、まだ歴史も浅く効果に対する科学的根拠が乏しい面ため、今後専門家を交えながら実証実験を進めていくことが重要です。

「通いの場」は専門職が地域コミュニティに溶け込むきっかけづくりとなる可能性が秘められています。

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