柔道整復師と介護福祉【第76回:コロナ禍における介護保険改正のポイント】
現在、COVID-19によって介護サービス事業所を取り巻く環境は非常に厳しい状況にありますが、2022年度の介護保険制度・介護報酬改定に向けた議論は着々と進められています。2019年12月の社会保障審議会・介護保険部会で「介護保険制度改正の概要」が公表され、2020年3月には介護給付費分科会が開催され介護報酬改定に向けた議論が開始。改定に向けては、主要論点に関する討議や事業者団体へのヒアリングを実施して具体的な方向性を議論し、12月に基本的な考え方の整理・とりまとめを行った上で、令和3年、年明けに諮問・答申が行われる予定です。
介護保険制度改正の論点
2018年12月に行われた社会保障審議会・介護保険部会では、地域包括ケアシステムの構築に加え、いわゆる団塊ジュニア世代が65歳以上となり高齢者人口のピークを迎えるとされる2040年を見据えて、以下のテーマに重点的に取り組む方針が打ち出されました。
- 介護予防・地域づくりの推進
- 地域包括ケアシステムの推進
- 介護現場の革新
- 保険者機能の強化
- 制度の持続性の確保
- データ利活用のためのICT基盤整備
介護崩壊を招きかねないとして注目されていた、「要介護1・2などの軽度者に対する訪問介護の「生活援助サービス」や食事等の日常生活上の支援や生活機能訓練を日帰りでサービス提供する「通所介護」の地域支援事業への移行」や「ケアマネジメントの自己負担導入」について今回は見送られるなど、消費税増税の影響等にも配慮して、大規模な改正は行われない方針となりました。今回見送られたものに関しては今後も議論は継続していくものとみられ、「保険者機能の強化」の一環として保険者機能強化推進交付金が拡充されたのも、介護予防の通いの場を充実させ、将来的に「軽度者を地域支援事業へ移行」するための受け皿づくりであるとも推察されます。制度の持続性を確保する観点からも軽度者に対するサービスの在り方については長年議論されているテーマであり、軽度者中心にサービスを展開している事業者においては、今後の移行の可能性も踏まえながら、経営戦略を更に多面化(共生型)する必要性に迫られております。
新型コロナウイルス感染症に係る経営状況への影響について
次期介護報酬改定に向けては本年3月に社会保障審議会・介護給付費分科会が開催され、平成30年度介護報酬改定に関する審議報告や認知症施策推進大綱、介護保険制度の⾒直しに関する意⾒等を踏まえ、以下の4つのテーマについて横断的に議論していく方針が提示されています。
- 地域包括ケアシステムの推進
- 自立支援・重度化防止の推進
- 介護人材の確保・介護現場の革新
- 制度の安定性・持続可能性の確保
提示された主要テーマは前回の介護報酬改定の論点を引き継いだ内容となっており、前回の改定で評価された「医療介護連携の強化」や「アウトカム評価」、生産性向上の観点からは「介護ロボットの活用」などについて今後も一層強化されることが予想されます。介護保険サービスは行政市場である以上、収益を確保しながら事業を持続的に運営させていくには、制度改定に柔軟に対応することが重要です。加算が少額であったこと、業務負担の増大などを理由に前回の制度改定で評価されたことに対応できていない介護サービス事業所は多いと思いますが、次期改定においても前回改定の内容が引き続き強化される方針が打ち出されている以上、早期に対策を講じておく必要があります。本年6月1日に開催された介護給付費分科会においては、「介護の質と関わる各種加算を算定している事業所においては、ADL維持・向上につながりやすい可能性が示唆された」と報告。自立支援に資するサービスに取り組む事業所は加算上で引き続き評価される一方で、それらに取り組まない事業所は基本報酬が引き下げられるなど、質の高いサービスを提供する事業所とそうでない事業所の差別化が明白となる改定と推察します。
コロナ禍における事業継続性
COVID-19により介護サービス事業所は深刻な状況にありますが、この問題が収束方向に向かったとしても感染予防に対する意識は以前とは異なるものとなります。不要不急のサービスを控える動きは今後も継続され、活動の機会が減少することで心身機能や認知機能の低下などによる「利用者の重度化」という新たな課題が懸念されます。このような状況下で次期介護報酬改定がマイナス改定となると、事業の存続が困難となる事業所が増加、倒産やM&Aが今後益々加速することが推測されます。危機的な状況に対して、介護報酬引き上げを期待する声も上がっていますが、前回の改定では+0.54%、さらに2019年10月には消費税増税に併せて、報酬改定と特定処遇改善加算の創設が実施され+2.13%の改定が行われており、2年連続でプラス改定が行われたことを踏まえると、次期改定で更にプラス改定になるか否か疑問視されています。
今後、経営努力をなくして収益が出るような報酬改定は期待できない以上、介護サービス事業所においては感染予防に配慮しながら、改定の準備を行い、さらに生産性を向上させていく活動が大変重要です。共生型への返還や限られた人材の中で業務の効率化と感染対策を講じるには、介護ロボットやICTなどの最先端技術を積極的に活用、安全かつ質の高いサービスを実現するためには人材育成が重要です。
介護サービス事業者において取り組まなければならない課題は多岐にわたりますが、今後も持続的な経営を行っていくためには、課題を先送りすることなく、しっかりと向き合い、丁寧な対応が必要不可欠です。
2021年度介護報酬改定に向けた議論は夏以降に本格化します。介護報酬改定の波に乗り遅れ、来年4月以降経営の危機に陥ることがないよう、議論の動向に注視、できる限り早い段階から改定に向けた対策を講じておくことが必要となります。
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