柔道整復師と介護福祉【第58回:少子高齢社会に伴う児童・家庭福祉のあり方①】
日本の社会は、高度経済成長以降、経済状況のみならず、人々の倫理観、地域との繋がり、核家族化などの生活状況まで変容し、社会の激動に伴い、児童やそれを取り巻く環境が変化してきました。また、この現状化に伴い少子高齢化も大きな問題となってきています。
少子化の始まり
少子化は、1955 年頃から始ったと言われており、厚生労働省の調べによると、2005年の合計特殊出生率は過去最低の1.26となり、2013年でも1.43と依然低い状態が続いています。このような社会から、自分たちの立場を守る力の弱い児童を、保護者とともに、国、地方公共団体及び社会全体がその生活と発達、自己実現を保障するためのものが児童・家庭福祉の位置づけとなります。そして、これは、児童の成長、子育てのあり方などの社会環境、児童・家庭福祉の理念、制度、方法(援助活動)などが示されています。
少子高齢化社会に伴う児童・家庭福祉のあり方
少子高齢社会が及ぼす社会経済への影響少子化の要因を以下に示します。
- 婚姻年齢の上昇
- 非婚傾向
- 夫婦の出生力低下
があげられる。
厚生労働省の調べによると、女性の平均初婚年齢の統計では、平成7年(1995年)時点で女性の初婚平均年齢は26.3歳になり、この段階で25歳は早い方と言えるようになっていました。直近の統計ではさらに上昇し、平成28年(2016年)は29.4歳となっています。20年間で3歳以上も上昇しました。さらに、夫婦の出生力については、低下傾向にあります。
これら理由として、養育費などの経済的なことや、年齢・健康上のことから子どもを生むことができない等の課題があげられます。
出生力低下の原因
核家族化や共働きの夫婦などライフスタイルの都市化によって、仕事と家庭の両立が困難になり、祖父母や親戚が遠方にいるため、子育てのアドバイスや援助が得られにくいことが推察されます。
少子化の影響
労働力人口の減少と、これに伴う、経済成長へのマイナス影響があげられます。
高齢化の影響
年金や医療、介護費の増大が毎年増加しています。
少子化は、児童の成長発達にも大きな影響を与え、小・中学校の数は減少し、学級規模が減少した結果、地域で一緒に遊び、切磋琢磨して社会性を培いながら育つ機会が減少したため、人間関係が築きにくく、孤立化が生じてしまう社会現象が現在社会課題とされています。
児童・家庭福祉の原理、理念、権利保障
1922年、国際児童救済連合による「世界児童憲章」では、世界で初めて子どもが成長、発達する権利が宣言されています。そして、1924年、国際連盟において「児童の権利に関するジュネーブ宣言」が採択されています。 日本では、日本国憲法の基本理念に基づいた児童福祉を明確にしたものが、1947年に制定された「児童福祉法」になります。また、1951年に「児童憲章」を制定し、子どもが人として尊ばれ、良い環境で育てられるという内容が謳われています。
1989年に国際連盟では、「児童の権利に関する条約」が採択されています。これに伴い、日本では、これまでの救済的・保護的といえる子どもの権利観(受動的権利)を変化させ、子どもが1人の人間として保障される能動的権利へと変化を遂げています。また、社会の変革に伴い、児童福祉では子どもとその家族の問題の深化に対応できないことが生じてきたことから、制度の改正がされるようになり、児童福祉が児童・家庭福祉の位置づけが確立されています。
児童・家庭福祉
従来福祉の利用者が児童だけでなく、その保護者、家庭が含まれることが特徴です。
親や保護者による子育ては、子どもが生まれ育つ環境における基本的かつ私的な営みであり、家庭における子育てはまさに私的責任(自助)に基づくものです。そこへ、国や地方公共団体による公的責任(公助)とともに、法人、企業、私人などによる社会的責任(共助)が子どもの育成に積極的に関与することを明記しています。つまり児童・家庭福祉は、自助を基本としつつ、自助を支援し、場合によっては自助とともに公助や共助が子どもの育成、親や保護者の自己実現に、積極的関与をする制度と言えます。そして、親や保護者、家庭における養育を社会、行政が支援することによって、福祉上の問題を未然に防止し、子どもや子育て家庭の発達、自立を促進し、その自己実現を促すことが基本理念としています。
児童・家庭福祉に関わる法制度と実施体制
- 児童・家庭福祉の法体系児童福祉に直接関係する法律として、児童福祉6法に示されています。「児童福祉法」は1947年に制定され、当時の日本は終戦直後であり、戦争の影響により劣悪な社会的環境や衛生状態から子どもを保護する目的があった。しかし、それにとどまらず、全ての子どもが対象とされ、次世代を担う子どもたちの健全育成と福祉の積極的増進を基本理念とされています。
- 児童扶養手当法1961年に制定され、父または母と生計を同じくしていない子どもについて手当を支給することで家庭生活の安定と自立促進を通じて子どもの健全育成を図ることを目的としています。
- 特別児童扶養手当等の支給に関する法律1964年に制定され、精神または身体に障害を有する子どもについて手当を支給するものであり、障害の重さに応じて、特別児童扶養手当、障害児福祉手当、特別障害者手当のいずれかが支給されます。
- 母子及び寡婦福祉法1964年に母子福祉法として制定され、1981年の改正により現行名となっています。母子家庭及び寡婦の生活の安定と向上のための措置を講ずることで福祉の向上を図ることを目的とされています。
- 母子保健法1965年に制定され、母子保健の理念を明らかにするとともに、母性及び乳児・幼児に対する保健指導、健康診査、医療などを講じ国民保健の向上を目的としています。
- 児童手当法1971年に制定され、子どもを育てる家庭の経済的支援として児童手当を支給し、家庭における生活の安定、子どもの健全な育成及び資質の向上を目的とされています。
- 児童・家庭福祉の実施体制児童・家庭福祉の実施体制は、行政機関・審議機関・実施機関があります。
日本の児童・家庭福祉行政は、国、都道府県、市町村の3段階のレベルで行われています。 - 政府機関厚生労働省雇用均等・児童家庭局を中心に企画調整、指導監督、予算措置などの中枢的な役割を担います。
- 都道府県機関都道府県内の福祉事業の企画・予算措置、施設の認可・指導・監督を行い、実施機関の設置運営、市町村を包括する広域業務を行っています。
- 市町村機関保育所等の設置・保育の実施、妊産婦・乳幼児の保健指導・健康診査等を行っています。
- 審議機関各都道府県に児童福祉審議会を設置し、児童福祉に関する施策の方向づけのため、広く一般社会から意見を求め(パブリックコメント)、また、専門家の意見を聞いて適切な施策を展開していきます。
- 実施機関直接児童や親・保護者と関わり、相談援助などの業務を行い、福祉の増進に携わる機関です。公的機関は、都道府県で設置運営されている児童相談所、指導福祉事務所、保健所などがあり、市町村では、保育所など地域住民に密着した福祉施設の設置及び保育の実施を行っています。私的機関としては、里親、私立施設などがあげられます。最近では、児童養護施設等の小規模化や里親の推進が図られています。
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