調査票の実態【第16回:健康保険組合による患者調査】
読者の皆様にはこれまでに、保険者サイドの適正化として4課長通知が発出されていることを何度もお伝えして参りました。この通知は受診者に対して、保険者へ提出された柔道整復療養費支給申請書の内容に誤りがあるか否かを確認することが目的であり、その延長線上には柔道整復療養費が適切に取扱いされるよう保険者への協力を求めています。
例えば、多部位・長期又は頻度が高いなど注目すべき基準を設けて、それらに値する請求事案について、速やかな支払いを実施するために受診者調査を行い、その請求内容の信ぴょう性をより明らかにすることになります。
また、調査の時期も受診者の記憶が曖昧とならない時期に行うように定められていますが、治療が実施された時期より3~4ヵ月の期間を経て行われることが殆どであり、多くの保険者が通知内容を真摯に励行しているとは言えません。
柔道整復師の皆様にもルールを逸脱した請求や、管理行政から業務停止等処分を科せられる例も散見されますので、決して保険者のみならず双方ともにマナーと節度ある対応をとっていただきたいと願います。
今回お示しする資料は健康保険組合による患者調査ですが、よくご覧ください。
紙面中ほどに「・本件の回答にあたっては、わかる範囲でご記入ください。」と記載されています。
ですが、回答にあたって僅かでも支給申請書と整合しない回答が見られれば、オートマチックに申請書の返戻が行われます。
申請書の内容と受診者回答が一致しない場合には、疑義の解消に努めることと通知規程されています。ところが多くの例では、安易に返戻処理がなされています。
また、資料には「整(接)骨院」と記載されていますが、院名として法的に認められているのは「接骨院」であり、「整骨院」は慣例的に容認されているだけです。
正しくは、「接(整)骨院」と表記すべきであり、当該の健康保険組合や委託された返戻屋は正しく柔道整復の認識がなされていないことが垣間見えます。
さて照会質問の構成は、いかがでしょうか?
4課長通知では、「調査票の作成に当たっては、患者にわかりやすい照会内容や記述しやすい回答欄の作成に努めること。」と規程されています。患者目線において比較的回答しやすい構成に見えますが、記載内容は明らかに意図的だと言えます。
受診の理由を問う回答の選択肢は、ケガ・慢性・その他のみです。外傷性の急性の骨折・脱臼は一般に「ケガ」と認識される度合いが高いと思われます。
関節や筋組織の損傷もケガに違いありませんが編集部におきまして、職員同士で確認致しますと、「ケガ=出血を生じるイメージが強い」結果でした。いわゆる寝違いによる損傷であったり、日常の生活動作などにより筋や関節などを痛めた場合、この回答選択肢では「3.その他」を選ぶことになり受診者が原因記載を行わなければなりません。
記述しなければならない回答は、受診者の皆様の文章能力に大きく左右されることでございましょう。「就寝中に不安定姿勢を生じ、寝返り動作による筋の牽引様作用から首を痛めました」などと記載されれば問題ありません。
一方「朝起きたら首が痛かった」と記載されれば、「急性又は亜急性の外傷とは言えません」などの指摘を添えた返戻となる可能性が考えられます。
損傷の機転を問う場合の選択肢は、噴飯ものでございます。
回答1.は、いわゆる筋肉疲労。 2.は、急性・亜急性の原因と言えません。3.は、当然原因不明。4.は、疲労や肩こり(正しくは単なる肩こり)、は対象外。5.は、問題なく認められます。6.は、これらの疾患を有する受診者は誤って回答選択される場合も十分あり得ます。
7項目の回答選択肢の中で5.と7.が支給決定の根拠となる回答となります。
いずれにしましても、転倒、尻もち、足首を捻るなどのアクションを明確に自覚できない損傷では正しく回答ができない構成となっています。
最近では、医師の受診履歴がある場合、医師が下す病名と柔道整復師が判断した傷病名が同様であるならば、いかなる理由があろうとも重複した受診を理由に柔道整復申請書が返戻される例が増えているようです。
また医師の受診を得た後に柔道整復を受けた場合、その傷病名が医師の病名と異なる場合においても、認められない例が散見されるそうです。
柔道整復療養費特例受領委任の方式は、導入されてから今日まで約一世紀に至る経緯があります。一部の医師や保険者には、柔道整復廃止論や業務範囲制限論を唱えられる方がおられます。ですが柔道整復師は我が国が資格を認め、国民の保護を大きな目的として実用される受領委任方式は、今や制度と言える歴史を重ねています。
この根本的理由は、不正行為が無いことを大前提として、且つ柔道整復に対するニーズが継続されている外にありません。
しかしながら、そのニーズをも裏切る行為は許されるものではございません。
柔道整復師の先生方も、保険者の皆様も国民の健康の一翼を担う特例的療養費制度である旨を十分に理解し、正しい点はより推進し、誤りは是正し、互いに歩み寄って他国に例を見ない柔道整復をどうか大切に維持いただきたいと編集部では願っております。
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