これだけは知っておいて【第98回:「柔道整復師」「柔道整復術」を考える ―Ⅴ―】
長尾淳彦
(広告の制限)
- 第24条
- 柔道整復の業務又は施術所に関しては、何人も、文書その他いかなる方法によるを問わず、次に掲げる事項を除くほか、広告をしてはならない。
- 柔道整復師である旨並びにその氏名及び住所
- 施術所の名称、電話番号及び所在の場所を表示する事項
- 施術日又は施術時間
- その他厚生労働大臣が指定する事項
- 2
- 前項第1号及び第2号に掲げる事項について広告をする場合においても、その内容は、柔道整復師の技能、施術方法又は経歴に関する事項にわたってはならない。
- 本条は、柔道整復の業務又は施術所に関する広告の制限につき規定したものである。
- 医業、歯科医業、病院又は診療所の広告に関しては医療法において厳格な制限が設けられている。これは、これらのものが患者誘引のために徒らに虚偽誇大な広告をなすことを避けしめようとするのが主たる目的である。柔道整復業においても医業等との権衡を考慮し、規定されたものである。
- 「厚生労働大臣の指定する事項」に関しては、従来からの経緯もあり、これら業務の特殊性からして指定事項として認めることも止むを得ないものがあると予想されるので、特に設けられた規定であるが、法律の規定に従えばこれが指定に関しては、あん摩、マッサージ、指圧、はり、きゆう、柔道整復等審議会に諮らねばならぬことになっており、昭和45年10月同審議会において審議の結果、同七月十日、厚生省告示第二百四十五号をもって「法24条、第1項第4号の規定に基づき広告し得る事項」として次のように指定された。
ほねつぎ(又は接骨)
以上の広告制限の規定に違反して広告した場合は、30万円以下の罰金に処せられる。(法第30条参照)
柔道整復師法第24条第1項第4号の規定に基づく広告し得る事項の指定
(平成11.3.29厚告70)
柔道整復師法(昭和45年法律第19号)第24条第1項第4号の規定に基づき、柔道整復師の業務又は施術所に関して広告し得る事項を次のように定め、平成11年4月1日から適用し、昭和45年7月厚生省告示第245号(第24条第1項第4号の規定に基づき広告し得る事項を指定する件)は、平成11年3月31日限り廃止する。
- ほねつぎ(又は接骨)
- 医療保険療養費支給申請ができる旨(脱臼又は骨折の患部の施術に係る申請については医師の同意が必要な旨を明示する場合に限る)。
- 予約に基づく施術の実施
- 休日又は夜間における施術の実施
- 出張による施術の実施
- 駐車設備に関する事項
また、①及び②に掲げる事項について広告する場合においても、その内容は柔道整復師の技能、施術方法又は経歴に関する事項にわたってはならない。(柔道整復師法第24条第2項)
したがって、「腰痛によく効く」「○○大学病院で研修」「○○式除痛法」などは広告することは出来ない。
④のその他の事項として「各種保険取扱」「健康保険取扱」などは広告することは出来ない。
これら広告の制限に違反した者は30万円以下の罰金に処せられる。(柔道整復師法第30条第5号)
*広告を制限する理由
患者の立場からすれば、正確な情報量が多いほど施術所の選択が容易になるが、広告とは、本来自己宣伝のためにするもので、主観的・不正確な内容になりがちである。ともすれば、自己に有利な事項のみ強調したり、誇大な広告や虚偽の広告とならないとも限らない。一般的に、患者は専門知識に乏しく、また疾患による苦痛を回避したい欲求は一般商品を欲するより強いものがあるから広告による影響が大きいものと考えられる。万一、不当な広告により失敗した場合でも一般商品と異なり人命や機能障害などは代償が困難なものであることが多い。したがって、広告を当事者間の問題として、自由にさせることは適当でなく、客観性と正確性を維持出来るよう広告出来る事項を限定し、広告を制限する。 近年の接骨院・整骨院の看板やカッティングシートなどによる広告は目を覆いたくなる事項が多い。いったい何をする職業の店なの??という内容のものが多い。
- *
- 「広告」とは随時又は継続してある事項を不特定多数に誘引の目的を持って知らせることをいい、その方法としては、看板、印刷物等いかなる方法によるとを問わない。
- *
- 広告の制限の適用を受けるのは施術者(柔道整復師)に限らず、「何人も」である。
- *
- 両罰規定
法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従事者がこの法第24条に規定する広告の制限に違反する行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても刑を科する(柔道整復師法第32条)。
*名称の制限
患者が誤解をすることのないように施術所等の名称には使用を禁止されているものがある。
- ①
- 医師法に違反するもの
医師でない者は医師又はこれに紛らわしい名称を用いることは禁止されている(医師法第18条)。したがって、「接骨医」「整骨医」「東洋医学医」など「医」を付け た名称を用いてはならない。 - ②
- 医療法に違反するもの
施術所には、病院、診療所、助産所と紛らわしい名称を付けてはならない(医療法第3条)。また、病院等であっても医療法に定められた診療科名以外は使用することができない(医療法第6条の6、同法施行令第3条の2)のであるから、定められた診療科目を使用することは勿論、「科」のついた名称は用いることができない。
この医療法に違反するものの例として「○○病院」「○○診療所」「○○療院」「○○治療院」「○○接骨科療院」「○○柔道整復科治療院」などがある。
- *
- 現状においては「整骨院」の名称で開業している施術所も多いが行政上の判断で許容されているだけであり、法的には現在も許されてはいない。したがって国家試験等の問題で正式な表記を求められる場合では「整骨院」を使用することはできない。法令と現状の認識が早期に一致することが望まれる。
- *
- 現在「○○整骨院」の名称が施術所名として使用されている。使用できる旨の明記された文章はないが、患者にわかりやすい名称ということで都道府県にまかせて いる。(平成19年7月13日厚生労働省医政局医事課企画法令係回答)
- *
- 単に業務の種類を明記しただけのものならばよい。
(例)「○○柔道整復院」「○○接骨院」 - *
- 「柔道整復師法第24条第1項第1号における「柔道整復師である旨」の解釈について、柔道整復師である旨に含まれる表現として「柔道整復師(厚生労働大臣免許)」と広告することは差し支えありません」と答えています。(平成21年2月27日厚生労働省医政局医事課医事係回答)
(緊急時における厚生労働大臣の事務執行)
- 第25条
- 第18条第1項の規定により都道府県知事の権限に属するものとされている事務は、緊急の必要があると厚生労働大臣が認める場合にあっては、厚生労働大臣又は都道府県知事が行うものとする。この場合においては、この法律の規定中都道府県知事に関する規定(当該事務に係るものに限る)は厚生労働大臣 に関する規定として厚生労働大臣に適用があるものとする。
- 2
- 前項の場合において、厚生労働大臣又は都道府県知事が当該事務を行うときは、相互に密接な連携の下に行うものとする。
(権限の委任)
- 第25条の2
- この法律に規定する厚生労働大臣の権限は、厚生労働省令で定めるところにより、地方厚生局長に委任することができる。
- 2
- 前項の規定により地方厚生局長に委任された権限は、厚生労働省令で定めるところにより、地方厚生支局長に委任することができる。
(経過措置)
- 第25条の3
- この法律の規定に基づき命令を制定し、又は改廃する場合においては、その命令で、その制定又は改廃に伴い合理的に必要と判断される範囲内において、所要の経過措置(罰則に関する経過措置を含む)を定めることができる。
第7章 罰則
- 第26条
- 第8条の7第1項(第13条の7において準用する場合を含む)の規定に違反した者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
- 第27条
- 第8条の13第2項(第13条の7において準用する場合を含む)の規定のよる登録事務又は試験事務の停止の命令に違反したときは、その違反行為をした指定登録機関又は指定試験機関の役員又は職員は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
- 第28条
- 第11条第2項又は第13条の5の規定に違反して、不正の採点をした者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
- 第29条
- 次の各号のいずれかに該当する者は、50万円以下の罰金に処する。
- 第15条の規定に違反した者
- 第17条の2の規定に違反した者
- 虚偽又は不正の事実に基づいて免許を受けた者
- 2
- 前項第2号の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
- 第30条
- 次の各号のいずれかに該当する者は、30万円以下の罰金に処する。
- 第8条第1項の規定により業務の停止を命ぜられたもので、当該停止を命ぜられた期間中に、業務を行ったもの
- 第17条の規定に違反した者
- 第18条第1項の規定に基づく指示に違反した者
- 第22条の規定に基づく処分又は命令に違反した者
- 第24条の規定に違反したもの
- 第19条第1項又は第2項の規定による届出をせず、又は虚偽の届出をした者
- 第21条第1項の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又は同項の規定による職員の検査を拒み、妨げ、若しくは忌避した者
- 第31条
- 次の各号のいずれかに該当するときは、その違反行為をした指定登録機関又は指定試験機関の役員又は職員は、30万円以下の罰金に処する。
- 第8条の8(第13条の7において準用する場合を含む)の規定に違反して帳簿を備えず、帳簿に記載せず、若しくは帳簿に虚偽の記載をし、又は帳簿を保存しなかったとき。
- 第8条の10(第13条の7において準用する場合を含む)の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をしたとき。
- 第8条の11第1項(第13条の7において準用する場合を含む)の規定による立入若しくは検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又は質問に対して陳述をせず、若しくは虚偽の陳述をしたとき。
- 第8条の12(第13条の7において準用する場合を含む)の許可を受けないで登録事務又は試験事務の全部を廃止したとき。
- 第32条
- 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関して、第30条第4号から第7号までの違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても各本条の刑を科する。
- 本条は、次の違反行為をしたときは、行為者を罰するとともに、その法人又は人に対しても同様に罰則を科する旨を規定するものである。
- ①
- 施術所の構造設備が基準に適合していないと認めたとき都道府県知事が行う、施術所の使用の制限、禁止命令、構造設備の改善命令又は衛生上の措置命令に違反する行為
- ②
- 柔道整復の業務又は施術所に関する広告の制限に係る規定に違反する行為
- ③
- 施術所の開設、休止、廃止又は再開の届出を怠り、又は虚偽の届出をする行為
- ④
- 都道府県知事の求める報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又は施術所への立入検査を拒み、妨げ、若しくは忌避する行為
*罪刑法定主義
どのような行為をしたり、あるいはしなかったとき(不作為)に、どのような刑罰が科せられるのかがはっきりと示されていないと国民の人権は保障されない。犯罪とする行為を定め、刑罰を科す旨を定めた成文の法律がなければ、処罰することが出来ないとする原則を「罰刑法定主義」という。の原則から、刑罰が成分で定められたとき以前になされた行為に対しては、その刑罰が科せられないものとする「刑罰不遡及主義」(事後立法の禁止)などの原則が派生する。また、法律の委任がない限り、命令に罰則を設けることはできない。
現在、わが国で科せられている刑罰には死刑のほか身体を拘束する自由刑(懲役、禁錮、拘留)と金銭を略奪する財産刑(罰金、科料)とがある。
- *
- 懲役(刑法第12条)
刑事施設に拘置して所定の作業を行わせるもの、有期と無期とがあり有期は1カ月以上、20年以下で加重、軽減により上限30年、下限は1カ月未満にすることができる。 - *
- 禁錮(刑法第12条)
刑事施設に拘置するが、定役は科さない(請願により作業に従事することはできる)。
懲役と同様に有期(1カ月以上20年以下)と無期とがあるが禁錮は過失犯や破廉恥的動機によらない犯罪に科されるのを原則とする。 - *
- 有期の懲役および禁錮の加減の限度(刑法第14条)
死刑または無期の懲役もしくは禁錮を減軽して有期の懲役または禁錮を加重する場合においては30年にまで上げることができ、これを減軽する場合において1カ月未満に下げることが出来る。 - *
- 拘留(刑法第16条)
1日以上30日未満の期間、刑事施設(通常は代用監獄として警察留置場)に拘置する。軽微な犯罪に科されるが、現状はあまり用いられていない。
注)勾留
罪証隠滅や逃亡などのおそれのある被疑者や被告人を刑事手続上、警察留置場に拘禁するもので、未決勾留ともいい、刑罰である拘留とは異なる。 - *
- 罰金(刑法第15条)
1万円以上とし、これを軽減する場合は、1万円未満に下げることが出来る。罰金を完納できない者は1日以上2年以下の期間、労役場に留置される(法第18条第1項)。 - *
- 科料(刑法第17条)
最も軽い刑罰で千円以上1万円未満とする。科料を完納できない者は1日以上30日以下の期間、労役場に留置される(法第18条第2項)。 - *
- 執行猶予(刑法第25条)
以前に禁錮以上の刑に処せられたことのないなどの一定の要件を備えている者が、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金の言い渡しをうけたとき、情状により裁判が確定した日から1年以上5年以下の期間、刑の執行を猶予することができる。
注)死刑、懲役、禁錮、罰金、拘留及び科料を主刑とし、没収を付加刑とする(刑法第9条)。なお、主刑の軽重はこの順序による(刑法第10条第1項前段)。
(平成28年度版 柔道整復師のための保険請求の手引き 長尾淳彦著 より引用)
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