これだけは知っておいて【第82回:柔道整復療養費における「負傷(傷病)名」について考える Ⅱ】
明治国際医療大学 教授
長尾淳彦
柔道整復療養費の算定負傷名には、「骨折」「不全骨折」「脱臼」「捻挫」「打撲」「挫傷」しかありません。
転倒した時、手を衝き右側橈骨遠位端を骨折した場合、医科では「右橈骨遠位端骨折」という負傷名になり、柔道整復療養費では「右前腕骨骨折」。橈骨か尺骨か分からない。「下腿骨骨折」も脛骨か腓骨か分からない。「肋骨骨折」第何番目の肋骨か分からない。「手根骨骨折」「足根骨骨折」「指(手・足)骨骨折」においても同様です。
所謂、左ふくらはぎの肉離れは医科では「左下腿三頭筋筋断裂」や「左腓腹筋筋断裂」「左ヒラメ筋筋断裂」という負傷名となりますが、柔道整復療養費では「左下腿部挫傷」となります。
施術録には詳細な部位が記載されているが支給申請用紙においては、摘要欄にその旨、記載されていることもあるが決まり事では無い。
国民健康保険や協会けんぽの審査会において、有識者側で学識経験の審査委員または支払い側で保険者の審査委員の方は「柔整の申請は捻挫と挫傷ばかりだね?」とおっしゃる。
学識経験者や保険者の審査委員は医科歯科調剤の保険審査もされてきた方々ですから前述した柔道整復療養費の負傷名の特異性を理解してもらわないとこんなに「捻挫」や「挫傷」が多いっておかしい?と思われる。
柔道整復療養費には「骨折」「不全骨折」「脱臼」「捻挫」「打撲」「挫傷」に左右、上下の負傷部位を付けるという以外の選択肢はありません。
「骨折」「不全骨折」「脱臼」を除けば「捻挫」「打撲」「挫傷」の3つしかありません。
例えば、長距離ランナーに多い「腸脛靭帯炎」や鵞足部に起こる「鵞足炎」足底筋(腱)膜の炎症は「足底筋(腱)膜炎」と記載し算定は出来ません。
公的柔道整復療養費審査会規程や規約などには、そのことを記さなければ、歴史的な背景からこの負傷名となったことなど柔道整復師以外の審査委員は理解出来ない。
そろそろ、抜本的な柔道整復療養費の改定とともに柔道整復師へのタスクシフトを考えていただく時期だと思う。
柔道整復師資格を持つ全員に当てはめるということではなく、タスクシフトするに足りる知識と技術を持ち合わせた柔道整復師であることは言うまでもない。
業界全体で取り組んでいる「階層的認定制度」もその一環である。
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