これだけは知っておいて【第81回:柔道整復療養費における「負傷(傷病)名」「業務範囲」について考える】
明治国際医療大学 教授
長尾淳彦
1970(昭和45)年4月14日にあん摩マッサージ指圧師、はり師、きゆう師、柔道整復師等に関する法律から単独法として柔道整復師法が制定された。
第4章 業務としては(業務の禁止 第15条)、(外科手術、薬品投与等の禁止 第16条)、(施術の制限 第17条)として定められている。
第15条(業務の禁止)
医師である場合を除き、柔道整復師でなければ、業として柔道整復を行ってはならない。
第16条(外科手術、薬品投与等の禁止)
柔道整復師は、外科手術を行い、又は薬品を投与し、若しくはその指示をする等の行為をしてはならない。
第17条(施術の制限)
柔道整復師は、医師の同意を得た場合のほか、脱臼又は骨折の患部に施術をしてはならない。ただし、応急手当をする場合は、この限りではない。
と柔道整復師法には柔道整復師の業務の範囲について細かく詳しくは記載されていない。
療養費の支給基準(社会保険研究所発行)の柔道整復師の施術に係る算定基準の実施上の留意事項 第1 通則 5 療養費の支給対象となる負傷は、外傷性が明らかな骨折、脱臼、打撲及び捻挫であり、内科的原因による疾患は含まれないこと。なお、介達外力による筋、腱の断裂(いわゆる肉ばなれをいい、挫傷を伴う場合もある。)については、第5の3の(5)により算定して差し支えないこと。また、外傷性とは、関節等の可動域を超えた捻れや外力によって身体の組織が損傷を受けた状態を示すものであり、いずれの負傷も、身体の組織の損傷が慢性に至っていないものであること。
と「外傷性が明らかな骨折、脱臼、打撲及び捻挫」と記載されている。
日常的に柔道整復師の施術所で行われている例を下記にあげる。
(症例)中学2年生男子が令和3年9月15日、クラブ活動のバスケットボールでプレー中、相手とぶつかりバランスを崩し右足首を捻じった。痛みはあったものの学内試験期間に入る時期でクラブ活動も休止で医療機関に行くまでも無いと中学2年生男子自ら考え放置していた。その後、風邪をこじらせ静養していて11月15日からクラブ活動再開したがジョギングで右足首の可動域制限があり疼痛もあったため、翌日、接骨院を受診。当該柔道整復師は、前述の内容も聴取し、さらに問診、視診、触診、理学的徒手検査を行った。圧痛部やエンドポイントもあり、右足関節部の前距腓靭帯損傷Ⅰ~Ⅱ度と判断して超音波観察装置にて断裂の無いことを確認した。
柔道整復施術療養費支給申請書(様式第5号)における
- 負傷名:右足関節捻挫
- 負傷年月日:令和3年9月15日
- 初検年月日:令和3年11月16日
- 施術開始年月日:令和3年11月16日
となる。
このような例では、負傷日令和3年9月15日、初検日11月16日で2ヶ月間空いているので保険者や外部委託の調査会社から「慢性である」「外傷性でない」「負傷日から2ヶ月も空いている理由は?」と疑義返戻される。
最近の保険者の一部と外部委託の調査会社のほとんどが確定的に「外傷性でない」「慢性である」「協定外施術である」「外的要因外である」として返戻されてくる。
もちろん、疑義返戻であり不支給ではないので疑義への理由を書いて再請求出来る。
さて、ここで問題となるのは保険者の一部と外部委託の調査会社の「外傷性でない」「慢性である」「協定外施術である」「外的要因外である」ということを誰が判断しているのだろう?医科・歯科・調剤においては支払基金や国保連合会の審査会で三者構成(学識経験者、保険者、医師・歯科医師・薬剤師)で審査が行われ不支給、疑義返戻される。きちんとしたルールの上での不支給、疑義返戻であるので請求側(医師・歯科医師・薬剤師)もルールに沿って処理が行える。
柔道整復師の施術における療養費についての現状に則した「逐条解説」が早急に必要だと思う。
協会けんぽや国保連合会の柔道整復療養費審査会に審査の委託をしていない健康保険組合においても審査内容の平準化とともに審査をする人的要件の厳格化を図っていただきたい。それが、支払い側も施術者側もお互いに事務的作業と精神的なストレス軽減につながることであるともいえる。
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