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これだけは知っておいて【第73回:柔道整復師の診れる「痛み」 <そのⅠ>】

これだけは知っておいて 特集

明治国際医療大学 教授 長尾淳彦

接骨院に来院される患者さんのほとんどが「痛み」を持っておいでになる。「予診票」や「問診票」の質問欄には「どこが痛いですか?」とほとんどの接骨院が一番に記載されています。例えば、痛い部位が「肩」と記載されていれば、初検における問診時に「肩のどのあたりが痛いですか?」「いつから痛いですか?」「どのようなことで痛くなりましたか?」と柔道整復師が患者さんに問うことが通常です。

接骨院での治療において療養費(保険)の支給基準で算定できるのは「外傷性が明らかな骨折、脱臼、打撲及び捻挫であり内科的原因による疾患は含まれないこと」であり、外傷性の定義としては「関節などの可動域を超えた捻れや外力によって身体の組織が損傷を受けた状態を示すものであり、いずれの負傷も身体組織の損傷状態が慢性に至っていないものであること」とされています。

「痛み」の定義は、1979年国際疼痛学会(IASP)で「組織の実質ないし、潜在的な傷害と関連した、あるいはこのような傷害と関連して述べられる不快な感覚的・情動的体験」と定められており、「痛み」は「感覚的な要素」と「情動的な要素」の2つに分類されます。

「感覚的な要素」は、組織などの損傷に応じて生じる痛みを指し傷害の大きさに比例する。「情動的な要素」は、組織の損傷の大きさとは関係なく、感情や情動などで変化する.
とされています。

上記の「痛み」の定義からいうと柔道整復師の施術の対象は「感覚的な要素」の「痛み」のものであると言えるでしょう。そして、関節などの可動域を超えた捻れや外力によって身体の組織が損傷を受けた状態であるから、損傷の発生機序を詳しく知らなければならない。いつ どうして 骨が折れた.関節が外れた.関節を捻じった.筋肉が伸ばされ切れた.組織を打った.という発生の機序を明らかにしなければ現在の柔道整復療養費では請求出来ない。負傷の原因が柔道整復療養費の支給対象の判別指標となっています。

昭和45年4月にそれまでの「あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師等に関する法律」から法律第19号をもって制定された「柔道整復師法」。分離して単独法になったのは「その施術の対象がもっぱら骨折、脱臼の非観血的徒手整復を含めた打撲、捻挫など新鮮なる負傷に限られており、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師とは異なる独自の存在を有していること」が理由でした。

当時は、患者さん側も「接骨院」に行くべき負傷と「病院」に行くべき負傷の棲み分けは出来ていました。地域密着の柔道整復師には皆が何でも相談をしていました。街の「ほねつぎ」は街の「ゲートキーパー」でもありました。

現在、施術側である柔道整復師と料金の支払い側である保険者には、文言の問題として「急性」「慢性」と「急性期」「慢性期」または「急性痛」「慢性痛」の見識の相違があります。平成30年5月24日までは「療養費の支給対象となる負傷は、急性又は亜急性の外傷性の骨折、脱臼及び捻挫であり、内科的原因による疾患は含まれないこと」とあり「亜急性」という文言も共通の認識ではありませんでした。

厚生労働省で行われている社会保障審議会医療保険部会柔道整復療養費検討専門委員会で上記の文言の整理をして施術側である「柔道整復師」と料金の支払い側である「保険者」、患者である「国民」が共通の認識を持ち、各々の齟齬を取り除き「痛み」に対処したい。

次回は、「痛み」を題材にして、前述した文言の整理をしてみよう。

参考文献:
いちばんやさしい痛みの治療がわかる本:伊藤和憲(明治国際医療大学鍼灸学部教授):医道の日本社:2017

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