これだけは知っておいて【第36回:今一度、柔道整復師の業を考える】
明治国際医療大学 教授 長尾 淳彦
新年あけましておめでとうございます。
年頭にあたり、柔道整復師という国家資格職種がどのようなものであるのかを考えてみました。柔道整復師の業務についての多くの事柄が法律として規定されておらず、通知や事務連絡で運用されています。
昭和45(1970)年にそれまでの「あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゆう師、柔道整復師に関する法律」から分離し、柔道整復師法として単独法になって50年近くが経ちました。その間、大幅な改定もなく現在に至っています。
柔道整復師法第2条(定義)には、「この法律において柔道整復師とは、厚生労働大臣の免許を受けて、柔道整復を業とする者をいう」柔道整復師法第16条(外科手術、薬品投与等の禁止)「柔道整復師は、外科手術を行ない、又は薬品を投与し、若しくはその指示をする等の行為をしてはならない」としか定められていません。
柔道整復師法に業としての柔道整復が定義されていないのは、「学問の進展や技術の発達、社会情勢の変化等に柔軟に対処するためである」と制定当時の厚生省健康政策局医事課監修の医療関係法質疑応答集に記載があります。
受領委任の取り扱いにおいての負傷の原因については、昭和49年9月に厚生省保険局保健課長及び社会保険庁健康保険課長から発出された内翰(ないかん)によると「負傷の原因は業務災害、通勤災害、第三者以外の災害によるものと記入すれば事足りる」とあり、負傷原因が労災保険と求償権が発生する事象(交通事故など)でない限り何ら問題はなかった。
現在、療養費の取り扱いについては、多部位(3部位以上)、長期にわたる(初検日を含む月から起算して5か月を超える)施術について逓減制が平成4年6月より導入されました。施術部位が3部位以上の場合、平成22年9月より部位ごとの負傷原因を記載するようになりました。
柔道整復師の業務範囲については、平成2(1990)年発刊、厚生省健康政策局医事課編著の逐条解説には「柔道整復師の業務は、脱臼、骨折、打撲、捻挫等に対しその回復を図る施術を業として行うものである」とされています。
現在、柔道整復師は、10万人を超え、大学も15校を数え、大学院博士課程も設置されております。一般社団法人日本柔道整復接骨医学会は日本学術会議の一員として「学問の進展や技術の発達」のため学会活動を行っております。
柔道整復師法制定から50年近くが経ち、患者である国民の多くの支持を得て、柔道整復師は、脱臼、骨折、打撲、捻挫、挫傷などの施術を行い、療養費受領委任の取り扱いをしてきました。
現在運用されている療養費支給にあたっての取り扱いは「急性又は亜急性の外傷性の骨折、脱臼、打撲及び捻挫であり、内科的原因による疾患は含まれず、単なる肩こりや筋肉疲労に対する施術は保険の対象外」と明記されています。
もちろんこれは法令でなく厚生労働省保険局医療課の通知であります。
柔道整復施術の保険適用が急性又は亜急性の外傷性のものに限られることと通知上明記されるようになったのは会計検査院報告(平成5年)や医療保険審議会柔道整復等療養費部会の意見を受けた療養費の給付の適正化対策として打ち出されたことです。
「亜急性」という表現は平成7年9月の医療保険審議会の柔道整復等療養費建議書「柔道整復等の施術に係る保険給付について」で初めて出てきました。
当時各都道府県の民政主管部局の保険課長(地方社会保険事務局長)宛に発出した連絡通知の鏡に「ここでいう亜急性とは、急性に準じたということであり、受傷後一定の時間が経過したものを指すが、その基準は追って示すこととするので申し添える」となっているもその後、「亜急性」に関する定義にかかる基準は示されることはなかった。
柔道整復師法制定当時とは社会情勢も大きく変化しております。
業務の柔軟な対処のために柔道整復師法の整備の時期ではないでしょうか。
法令や規制は何らかの社会要請に応えるために定められているものであり、その内容が社会の実情に適合し柔道整復師個人や組織がそれを遵守する意識が定着しなければなりません。
柔道整復師、行政、保険者などが経済的視点だけでなく、患者である国民のためのよき制度になるよう議論を重ねなくてはなりません。
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