これだけは知っておいて【第23回:柔道整復師学校養成施設カリキュラム等改善検討会を終えて】
明治国際医療大学 教授 長尾 淳彦
昨年の第1回の検討会から5回に渡り議論と検討を重ね、9月16日、医道審議会提出「報告書(案)」の最終打ち合わせが終わった。あとは文字校正などが済めば(案)が取れる。
この検討会の主旨と検討内容・方針・改善策を議事資料に沿って紹介する。
1.はじめに
柔道整復師学校養成施設(以下「学校養成施設」という。)については、「柔道整復師学校養成施設指定規則」(昭和47年文部省・厚生省令第2号、以下「指定規則」という。)において、入学又は入所の資格、修業年限、教育の内容等が規定されている。
指定規則については、平成12年に教育科目から教育内容による規定への変更や単位制の導入など、カリキュラムの弾力化等の見直しを行って以降、大きな改正は行っていない。
その後、学校養成施設は大幅に増加しており、平成28年度(4月現在)において、全国109施設の定員数は約8千6百人であるが、平成10年度(4月現在:施設数14施設、定員数約千百人)と比べ、約8倍の増加となっている。
これら柔道整復師を取り巻く環境も変化していることから、学校養成施設における臨床実習の充実等を通じた、柔道整復師の質の向上などが求められている。
このため、本検討会では、国民の信頼と期待に応える質の高い柔道整復師を養成するため、カリキュラムの改善、臨床実習の在り方、専任教員の要件などの指定規則の改正も含めた見直しについて幅広く検討するため、これまで5回に渡り議論を重ね、今般、その結果を報告書(案)としてとりまとめた。
2.総単位数の引上げ、最低履修時間数の設定について
1)基本的考え方
柔道整復師を取り巻く環境の変化に伴い、開業権を有する柔道整復師の養成に必要な教育内容や単位数、最低限の履修時間数について検討を行った。
(1)総単位数の引上げについて
総単位数の検討に当たっては、現行の85単位は引き続き履修することとした上で、新たに必要な教育内容(単位数)を加えることとした。
(2)最低履修時間数の設定について
単位の計算方法は、大学設置基準第21条第2項の規定の例によるとさされており、最低履修時間数については、現在設定されていない。1単位の授業科目は45時間の学修を必要とする内容をもって構成することを標準としており、授業時間数は、例えば講義及び演習については15時間から30時間の範囲で、授業の方法に応じ、当該授業による教育効果、授業時間外に必要な学修等を考慮して定めるとされている。
現行の85単位について、1単位の授業時間数を最低時間数とした場合の授業時間数は1,530時間、最大時間数とした場合の授業時間数は2,790時間(以上)と大きな差があり、養成される柔道整復師の資質にも差が生じる恐れがあることから新たに最低履修時間数を設定することとした。
なお、カリキュラムについては、平成12年に「総履修時間数2,480時間以上」から「総単位数85単位以上」という単位制に改正された際、カリキュラム内容についての改正は行われていないため、今回の検討に当たっては、新たに必要な教育内容に対応する時間数を、過去に総履修時間数として規定されていた2,480時間に加えることとした。
2)改定の内容
(1)総単位数の引上げについて
現行の85単位に、以下のカリキュラムを加え、総単位数を99単位以上とする。
なお、教育内容及び単位数は別添1、教育の目標は別添2のとおりとする。
(2)最低履修時間数の設定について
平成12年の改正前に総履修時間数として規定されていた2,480時間に、以下のカリキュラムを加え、2,750時間以上と設定する。
また、各養成施設が特色のある教育を行うべきとの意見があったことから、総単位数99単位以上、最低履修時間数2,750時間以上ということだけでなく、各養成施設における独自のカリキュラムを追加することが望ましいとする努力規定を設けることとする。
[追加等カリキュラム]
①高齢者の生理学的特徴・変化(専門基礎分野) 1単位 15時間
高齢者への施術に当たり、高齢者の特性を理解したうえで施術を行うことが求められることから、高齢者に関する身体機能維持・改善における運動訓練の影響などに係るカリキュラムを追加する。
②競技者の生理学的特徴・変化(専門基礎分野) 1単位 15時間
競技者への施術に当たり、競技者の特性を理解したうえで施術を行うことが求められることから、競技者に関する身体的機能維持・改善における運動訓練の影響などに係るカリキュラムを追加する。
③柔道整復術の適応 (専門基礎分野) 2単位 30時間
柔道整復師が業務を行うに当たり、患者に対する医療安全の観点から、対象となる運動器疾患が業務範囲にあるかどうかを適切に判断し、柔道整復術を適切に実施できる能力を身に付けるためのカリキュラムを追加する。
④職業倫理 (専門基礎分野) 1単位 15時間
柔道整復師は開業権を有しており、免許取得後すぐに開業する者も一定数いることから、職業倫理に関するカリキュラムを追加する。
⑤社会保障制度 (専門基礎分野) 1単位 15時間
柔道整復師は開業権を有していることからも、医療費等の社会保障制度を理解することにより、健康や障害の状態に応じて社会資源を活用できるよう必要な知識を身に付けるためのカリキュラムを追加する。
⑥外傷の保存療法 (専門分野) 1単位 15時間
柔道整復師として備えるべき外傷性疾患への対応能力の強化のため、外傷の保存療法についての教育の充実を図り、外傷の経過及び治療判断に関するカリキュラムを追加する。
⑦物理療法機器等の取扱い (専門分野) 1単位 15時間
柔道整復領域で使用する物理療法機器等の原理、作用等を学び、その適切な取扱いに関するカリキュラムを追加する。
⑧柔道整復術適応の臨床的判定(医用画像の理解を含む) (専門分野) 2単位 30時間
新たに追加する柔道整復術の適応で得た知識を活用し、臨床所見から判断して施術に適する損傷と、適さない損傷を的確に判断できる能力を身に付け、また、安全に柔道整復術を提供するため、医用画像を理解するためのカリキュラムを追加する。
⑨高齢者の外傷予防 (専門分野) 1単位 15時間
柔道整復師への社会的要請の一つである高齢者の外傷予防に対し、新たに追加する高齢者の生理学的特徴・変化で得た知識を活用し、高齢者に対する具体的な外傷予防の手法を身に付けるためのカリキュラムを追加する。
⑩競技者の外傷予防 (専門分野) 1単位 15時間
柔道整復師への社会的要請の一つである競技者の外傷予防に対し、新たに追加する競技者の生理学的特徴・変化で得た知識を活用し、競技者に対する具体的な外傷予防の手法を身に付けるためのカリキュラムを追加する。
⑪臨床実習 (専門分野) 3単位135時間
柔道整復師の臨床における実践的能力を向上するため、臨床実習を1単位から4単位へ拡充する。
上記追加等カリキュラムのなかには、既に既存カリキュラムで教育されているものが部分的に含まれていることから、これらを調整する必要がある。(重複するものとして1単位、45時間を削減する。)
3.臨床実習の在り方について
1)基本的考え方
臨床実習については、主として、学校養成施設附属の臨床実習施設において行われているところであるが、臨床実習の拡充に伴い、臨床実習施設の拡大及びその要件等について検討を行った。 また、臨床実習において実習生が行うことのできる行為については、これまで必ずしも明確にされていなかったことから、その検討も行った。
2)改正の内容
(1)臨床実習施設について
臨床実習施設については、学校養成施設附属の臨床実習施設、柔道整復を行う施術所を基本として、整形外科や救急を行っている医療機関、スキー場等における救護所等のスポーツ施設及び機能訓練指導員を配置している介護施設等に拡大する。
なお、機能訓練指導員を配置している介護施設等で行う臨床実習については1単位を超えない範囲とする。
(2)柔道整復を行う施術所の要件について
柔道整復を行う施術所の要件を以下のとおりとする。
- 臨床実習における到達目標が設定されており、これに沿って実習が実施できること。
- 5年以上の開業経験があること。
- 専任教員の資格を有する柔道整復師、又は5年以上実務に従事した後に厚生労働省の定める基準に合った「柔道整復師臨床実習指導者講習会」を修了した柔道整復師である臨床実習指導者が配置されていること。
- 過去1年間の施術日の平均受診者数が30名以上であること。
- 臨床実習の実施に関し必要な施設及び設備を利用することができること。
- 過去も含め療養費申請資格停止等の行政処分を受けていないこと。
- 臨床実習を行うに当たり、患者に対して臨床実習を行うことを文書により同意を得ること。
なお、学校養成施設附属の臨床実習施設以外の柔道整復を行う施術所等において臨床実習を行おうとする学校養成施設は、あらかじめ行政庁に対して届け出ることとする。(変更になった場合にも届け出ることとする。)
(3)柔道整復師臨床実習指導者講習会について
柔道整復師臨床実習指導者講習会について厚生労働省の定める基準は、別添3に定める内容とすることが望ましい。
(4)臨床実習において実習生が行うことができる行為について
臨床実習において実習生が行うことができる行為については、予め患者に同意を得た上で、臨床実習指導者の指導・監視の下で、当該指導者が主体的に行う施術の介助は行うことができるものとする。
また、施術の介助を行う場合には、学生の技術等に関して、臨床実習前に、施術実技試験等による評価を行い、直接患者に対して施術を行うに足りる総合的知識及び基本的技能・態度を備えていることを確認する必要がある。
4.専任教員等について
1)基本的考え方
総単位数の引上げ等に伴い必要となる専任教員の人数、臨床実習の拡充等に伴う教員の見直しについて検討を行った。
また、教員の質の向上を図るため、専任教員の要件や、専任教員の定義を明確化することについて検討を行った。
さらに、柔道整復師である教員については、教授範囲が専門基礎分野における保健医療福祉と柔道整復の理念(医学史、関係法規、柔道)及び専門分野に限られているが、そのため、専門基礎分野の教育内容を柔道整復師があらためて専門分野で教授しているなどの弊害が生じているとの意見があったことから、今回のカリキュラム等の見直しを踏まえ、教授範囲の拡大について検討を行った。
2)改定の内容
(1)専任教員数等の見直し
総単位数の引上げ等に対応するため、専任教員数を5名以上から6名以上とする。また、学校養成施設附属以外の臨床実習施設で実習を行う場合には、専任教員のうち、専任の実習調整者を1名以上配置することとする。
(2)専任教員の要件の見直し、定義の明確化等
専任教員の資質向上のため、実務経験年数を3年以上から5年以上とする。なお、現在は実務経験が3年経過した後に専任教員となるための教員講習会を受講しているが、見直しに伴い5年の実務経験のなかで教員講習会の受講を可能とする。
また、専任教員の定義を以下のとおり明確化するとともに、カリキュラム等の見直し及び臨床実習の拡充に伴い、専任教員についても臨床能力の向上が求められることから、専任教員も臨床実習施設において自ら臨床能力の向上に努めるよう規定する。
また、各養成施設が特色のある教育を行うべきとの意見があったことから、総単位数99単位以上、最低履修時間数2,750時間以上ということだけでなく、各養成施設における独自のカリキュラムを追加することが望ましいとする努力規定を設けることとする。
[専任教員の定義]
- 教員は、一つの養成施設に限り専任教員となるものとする。
- 専任教員は、専ら養成施設における養成に従事するものとする。
(3)専任教員の教授範囲の見直し
現在、柔道整復師である専任教員の専門基礎分野の教授範囲は、保健医療福祉と柔道整復の理念に限定されているが、カリキュラム等の見直し等を踏まえて教授範囲を以下のとおりとする。
[専任教員(柔道整復師)の教授範囲]
- 社会保障制度
- 人体の構造と機能(解剖学のうち、運動器系の構造に関する事項)
- 人体の構造と機能(運動学のうち、運動器の機能に関する事項)
- 疾病と傷害(リハビリテーション医学のうち、高齢者運動機能の維持・回復に関する事項)
- 保健医療福祉と柔道整復の理念(医学史、関係法規、柔道)
5.その他について
1)基本的考え方
(1)通信教育等の活用について
質の高い柔道整復師の養成に繋がる通信教育の活用について検討を行った。
(2)養成施設において備えるべき備品等の見直しについて
今回のカリキュラム等の見直しや現状の教育内容を踏まえ、養成施設において備えるべき備品等について検討を行った。
2)改正の内容
(1)通信教育等の活用について
基礎分野14単位のうち、7単位を超えない範囲で、通信教育等の活用が可能となるよう、本人からの申請に基づいて個々の履修内容を評価し、養成施設における教育内容に相当するものと認められる場合には、該当する科目の単位として認定することができる旨の規定を追加する。
(2)養成施設において備えるべき備品等の見直し
今回のカリキュラム等の見直しや現状の教育内容を踏まえ、以下のとおり見直すこととする。
- 現在、養成施設に備えるべきものとして規定されている基礎医学実習室を削除し、実技実習室を実習室とする。
- 実習室の面積は生徒1人につき2.1㎡以上とする。
- 現在、実習室に備えるべきものとして規定されている消毒設備を削除する。
- 現在、養成施設に備えるべき備品として規定されている標本を削除し、備えるべき備品を別添4のとおりとする。
6.適用時期について
今回の報告は、柔道整復師を取り巻く環境の変化に伴い、早急に対応する必要性を踏まえつつ、学校養成施設における体制整備及び学生募集などを考慮し、平成30年4月の入学生から適用することが適当と考える。
また、専任教員数の5人以上から6人以上への見直し、専任教員の要件である実務経験3年以上から5年以上への見直しについては、教員確保の準備期間等を考慮し、新カリキュラムの適用から2年程度の経過措置を設けることが適当である。
7.今後の課題
今回の改正については、質の高い柔道整復師を養成するため大幅な改正をするものであり、新カリキュラムの適用がされた以降、当該改正による柔道整復師の質の向上について検証することが必要であると考える。また、冒頭でも述べたが平成12年の前回改正から約16年経過しており、その間に柔道整復師を取り巻く環境も大きく変化している。今後も高齢化の進展等に伴い柔道整復師に求められる役割も変化していくことが考えられることから、上記の検証も踏まえ、定期的に改正の必要性についての検討を行うことが望まれる。
さらに、今回の改正において、臨床実習施設の拡大を図ることとしたところであるが、柔道整復を行う一般の施術所における臨床実習に伴い、臨床実習生が当該施術所において労働力となってしまうという懸念も指摘されたことから、適切な臨床実習が行われるよう都道府県等における必要な指導をお願いしたい。
最低履修時間数の設定に当たっては、柔道整復師が開業権を有していることから最低履修時間数を更に引上げるべきとの意見もあったところであるが、夜間部においても実施可能な範囲での設定として検討を行った。今後の検討に当たっては、夜間部の在り方も含めた検討が必要と考える。
臨床実習実施前の学生の評価については、現在卒業の判定に当たり行われている、公益財団法人柔道整復研修試験財団が実施する認定実技審査制度と同様に、全国統一の評価とするべきであるとの意見もあったことから、将来的には全国統一の評価方法となるよう検討が必要である。
養成施設に備えるべき備品については、医療安全の観点から超音波画像診断装置を活用することは有用であるという意見がある一方、現在の養成施設及び施術所における整備状況を考慮すると、備えるべき備品に加えるには時期尚早との意見もあった。養成施設において、自主的に整備している実態はあるが、これを医用画像の理解のために養成施設の備えるべき備品として追加することについては、患者への安全な柔道整復術を提供するために、今後、新カリキュラム適用に伴う影響を見極め、改めて検討すべきである。
8.おわりに
本報告の内容は、柔道整復師の教育に関し大幅な見直しを求めるものであるが、いずれも早急に実施されることが必要である。行政は本報告の趣旨を踏まえ、その内容が適切に実施されるよう指定規則等の改正に着手される事を期待する。
柔道整復師学校養成施設カリキュラム等改善検討会構成員名簿
碓井 貞成公益社団法人全国柔道整復学校協会長
釜萢 敏公益社団法人日本医師会 常任理事
○ 北村 聖東京大学大学院医学系研究科 附属医学教育国際研究センター 教授
樽本 修和帝京平成大学 教授 (一般社団法人日本柔道整復接骨医学会)
長尾 淳彦明治国際医療大学保健医療学部 教授 (公益社団法人日本柔道整復師会)
成瀬 秀夫東京有明医療大学 柔道整復学科長
西山 誠国際医療福祉大学 教授
福島 統公益財団法人柔道整復研修試験財団 代表理事
細野 昇呉竹医療専門学校長
松下 隆一般財団法人脳神経疾患研究所 附属総合南東北病院 外傷センター長
※○は座長 (五十音順、敬称略)
柔道整復師学校養成施設カリキュラム等改善検討会開催状況
- 第1回 平成27年12月11日
柔道整復師学校養成施設の現状と課題について - 第2回 平成28年 2月22日
カリキュラム等の改善について - 第3回 平成28年 5月19日
カリキュラム等の改善について - 第4回 平成28年 7月 7日
カリキュラム等の改善について - 第5回 平成28年 9月16日
報告書(案)について
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