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日鐵住金溶接工業健康保険組合・伊藤義徳氏に聞く!

インタビュー 特集

近年、保険財政はいよいよ厳しくなるいっぽうである。そういった中で、健康保険組合は様々な努力を強いられている。

昨年3月に厚労省からの通知が出されたことで、適正化の名目で患者照会調査があたり前になり、しかも民間への委託が増加の一途である。結果的に受診抑制を招き、柔整の存続は危機に瀕している。果たしてそれが全体の医療費を抑える効果に繋がるのかどうかは、全く不明である。

健康保険組合は柔整業界をどのように見て、またどのようであって欲しいと考えているのであろうか。

スペシャルインタビュー「保険者に聞く!」
日鐵住金溶接工業健康保険組合   伊藤  義徳  氏

―先ずはじめに貴保険組合の設立の経緯についてお聞かせ願います。

設立は、昭和47年6月です。福利厚生の一翼を担うということで、会社の中に健保を設立しようという動きがあり、独立して単一でやってみようということで東京都から人を迎えて立ち上げ、スタート致しました。以来、常務理事は私が4代目、設立約40年になります。現在、被保険者・被扶養者を合わせて約2000人です。私共は新日鐵の中で溶接部門のエキスパートという形でずっとやって来ましたが、住金溶接部門と新日鐵の溶接部門が合併、日鐵住金溶接工業になって10年になります。その間、900人に増えたり、700人を切ってみたり、そういった時期平成14年に指定組合になってしまいました。というのは人数の問題と経常利益が3年連続赤字であると指定組合の要件に該当するためです。しかし、不思議なもので平成14年から黒字転換しまして平成22年までずっと黒字で、保険料率も一切変わっていません。

トータル的に健保運営の場合には健康度を上げておけば医療費というのはそんなにかからない訳です。基本的に社員同士が仲良くするということで全体的に様々な触れ合う機会をつくったり、もちろん検診も大事ですし、勉強会も大事です。健康に関するものに触れさせることによって健康に対する関心を高め、その後に健康度を上げていくという方針で、通常約3%ずつ医療費が伸びる中で当健保は下げております。この仕事をやって面白いのはやれば必ず結果が一つ一つ出て、決して無駄ではないということです。いま問題になっている納付金は、国から言われるから仕方がないものではありますが、しかしその中で本当に下げられない部分があるのかどうかを検討していくと、この部分がまだ残っていること。当健保では見方、考え方を変えていくことによって、3億5千万円位の予算ですが、納付金を去年は5千万下げました。やはり流れを見ながら、こうなるはずだという予測のもとで国を相手にして行った結果であり、別に違法なことは何もやっていません。啓蒙していくことで少しずつ蓄積する訳です。経営がおかしくなったことで私の前の常務理事が歯科検診を全部止めてしまいました。歯というのは消化機能の入口ですからとても大切で、一昨年から再度検診をテストランということで事業所に限ってやってみたところ、10年前に受けた人とその間なにもしない人の差が歴然と出て、ケアをしている人は歯も健康であるし、歯が残っている人のほうが健康度が高いと分りました。産業医と話をした時に、いま医師も歯や口腔衛生を見直していると言われました。なんでもそうですが早期発見と早期治療がベースです。というように産業医と年に何回か、いろんなデータ交換会を行って、どうしましょうこうしましょうと決めていく訳ですが、データを提供して〝先生にやって頂いたお蔭で好結果になっている〟とお伝えすると先生もやる気になってくれます。こっちを向いてくれますからね。

―目標や理念についてもお聞かせください。

当健保の運営目標は、

  1. 健全財政と黒字運営の確保
  2. 被保険者と家族の健康推進
    • 健康管理対策→生活習慣病健診、主婦健診他
      (早期発見、早期治療…受診率の向上)
    • 健康指導宣伝→けんぽニュース、保険手帳、 家族向広報雑誌
    • 体力向上対策→歩け歩け運動の推進、スポーツクラブ利用他

でありますが、健保組合そのものは私は「健康互助会」という思想でずっと通しています。〝とにかく貴方が主役よ、貴方のために我々は一生懸命やるし、常に貴方であり、貴方の家族であり、貴方の家庭であり、そのために我々は居るんですよ〟とした小さいけれども互の顔の見える楽しい健保です。私は平成12年に当健保にきまして、来た2年後に指定組合になりました。理事長が厚生労働省に怒られに行く訳です。それはあまりにも失礼であると思いまして、なんとか改善する方法はないかなと必死になりまして、辿り着いたのが「健康互助会」という発想です。やはりいろんな意味で構成員が仲が良くないと医療費は下がりません。今は高齢者医療費は別になりましたが、終末医療というのは、家族仲が良くないと本当に青天井で医療費が嵩んでいきます。

―伊藤常務は、柔整療養費において何が問題であるとお考えでしょうか?

やはり一番は不正でしょうね。柔整というのはいろいろ問題があるということを聞いていたものですから、長期施術・頻回施術も疾患であるとして毎月データをとって細かく分析していくとある意味面白いのかなと思います。年間纏めて傷病名、負傷部位がどこなのかなということを追っかけようと思っていながら未だやれていません。実をいうと当健保の場合、柔整師さんにかかる療養費は平成20年で全体の0.837%、今は上がって倍の1.613%にはなっているんですが、となると、もっとやるべきことがあるんですね。役割は夫々ある訳ですし、歴史的な流れもあって、整形外科医が出てくる以前から医業を行っていたのですから、そこに立ち返って期待に添うような施術等、もっとPRしてもいいんじゃないかと思います。さらに自分達はこれで生きてきたんだからという主張もあっていいんじゃないでしょうか。私は工場にいた時に衛生管理、安全管理をやっていた関係で労災とか起きますと、よく整形外科に行きました。脇で治療行為を見ていると、整形外科に行っても赤外線等を照射して終わりなんですね。少し視野を拡げて柔整師さんが安い単価でやれるならば、そのほうが保険者としても良いし、本人だって良い訳です。そういう意味で夫々自分の役割を再認識して自分の仕事をちゃんと全うしていく。競合する必要なんか無いと私は思います。例えば特定健診・特定保健指導にしても指導は全て医者がやっているのではなく、看護師さんや栄養士さんも行っており、それでもめているかといったら全然揉めていない。整形外科医も接骨院も仲良くやってくれたら、それを受ける患者というのは一番いい筈なんですよ。お互いにせめぎ合いをやっていてもしようがないですね。

蛇足になってしまいますが、赤字体制から黒字に変わる時に私は何をやったかというと、やはり老人の拠出金が非常に重かった。中身を詳しく見ていくとやはり終末医療にかかっていたりする訳です。それで、思いついたことは「老人の健康度を上げよう」ということで、老人に好きな看護師さんを選んでもらって良いから〝何かあったら彼女に相談してください〟と各家に全部看護師を貼り付けました。その時で一億円位の拠出金があったんですが、看護師はりつけ運動によって一億をだったものが、900万まで落ちました。その分を保健事業に回していました。

―療養費適正化の徹底をはかるということで2012年3月12日に厚労省から各保険者に通知が出されましたが、貴組合ではそれより以前から療養費の適正化に取り組まれていらっしゃいましたか?またこの通知以後、どのように取り組みを開始されましたでしょうか?

支払の時にはデータが出てきますので、金額が高いところやおかしいところについては個別に〝何かあった?〟と本人に電話をします。そうすると、何をいわんとしているのか相手が分かります。特に療養費に限るのではなく、気になるところは、産業医に相談しながら病院のかかり方とか〝今の病院で満足してる?〟といった言い方で〝もしダメだったら主治医にちゃんと話をして変えてみたら〟等、伝えます。従って療養費適正化の通知が出たからということで更に適正化をはかることは基本的にはありません。まずは健保組合が被保険者を守ってあげるというスタンスです。毎月のレセプトのデータは10年以上とってあります。何が起こっているか、何が変化しているか、やはり最後まで見ていって、このくらい医療費がかかっていると私共が納得することで、逆に次が読めてくる、今度はこうなるはずだと。トレンドというのは、そういう良好な状態が何年か続いて又メチャクチャになる、それが終わると安定する。私達が一人でやれる力なんて限られていますので、共通の認識を持ってもらって如何に賛同者を増やすかということなんですね。

―審査会に関することで何かご意見がありましたらお聞かせください。

特にありませんが、支払基金にしても各県それぞれ判断が違います。私は何年間か勉強会に行っていましたが、医科においての裏話もよく聞きました。そういう意味ではそんなに差はない。どうも柔整師さんだけが割をくっているというのがあるのかもしれません。なかなか理想通りやるというのは私は難しいと思っています。品質管理と一緒で、クレームが発生した時点でキチッとした対応をすることが大事です。組織がしっかりして〝このルールで行こう〟ということをキチッと業界全体で通していくようになれば、それはみんなが認めてくれるでしょう。進学校でも、中には不良もいます。しかしそれを認める社会かどうかがその全体としての位置づけになる訳です。不良が学校の中で大手を振って歩いていれば〝なんだあの学校は!〟となります。私の卒業した学校でも不良は居ました。しかし誰にも相手にされない。そういうものです。柔整師界だって、一生懸命やった人が残る。そうじゃなければ排除されるということがやはり理想でしょう。

―貴組合は民間調査会社を利用されていらっしゃいますか?もし利用されているのであれば、そのメリットとデメリットなどについて教えてください。

他健保ではいっぱい使っているようですが、当健保では民間調査会社に業務委託をすることはありません。やはりそれは仏作って魂入れずで、それが目的ではないハズです。もう一つ踏み込んでいって、いったい何故、長期療養を続けなくてはならないのか、その原因を追及するような姿勢、患者さんの立場に立った視点を持つことが大切だと思います。国はやらせっぱなしで、責任はとろうとしません。私はなんでこんなに踏み込むかというのは指定組合になって、自力で這い上がっていかないとダメだということが骨の髄までしみ込んでいるからで、ウチの組合員を必ず守ってやるということです。そのためにはどうやったら健康度を上げられるかとした一貫した思いと強い信念を持っているからです。

―受領委任払いを償還払いに戻すといった声がよく聞かれますが、それについて伊藤常務はどのようなお考えをお持ちですか?

償還払いにすればチェック機構がかかるということだと思います。もし、請求してこなければその分儲けたみたいな考えが中には含まれているのかもしれませんが、それは今の時代は無理です。昔、我々が賃金を貰うときは、耳をそろえて現金でもらわなければダメでした。それがもう銀行振り込みが当たり前、カードが当たり前です。それよりも費用がどの部分に、どのようにかかっているのかです。他に求めるよりも自分達の効率化をはかって、もっと分析することに時間をかけていったほうが私は得策と思います。今は出産にしても、高額医療にしても、一定料金以上は現金を用意しなくてもいいようになりました。やはり有難いものは有難いと受け、逆に歯止めをするべきことはキチッとすればいいんであって、我々健保も適正化に限って考えても、やるべきことはもっと他にあると思います。

―やはり一番は、財政問題と思います。そういう中で療養費の適正化をはかるという名目で患者照会をシステム化し削減するよりも、医療費全体の中で病院にかからず接骨院にかかって治った場合の医療費は格差があると思います。整形外科が沢山できた今日でも、良いから接骨院にかかり、接骨院が生き残っているという意見には伊藤常務はどう思われていますか?

先ほども少しお話しましたが、やはり夫々の機能が発揮できて、重症化にする前に軽症で終われば費用としては安くなりますし、トータル的に安く出来れば私は良いと思います。共存共栄ということで、きちっと役割分担を行えばお互いに良い訳です。どの世界でもゼロから百まで全部は出来ないハズです。患者にとって一番よくて、保険者にとって負担がかからない、しかも治療効果が上がる、それを狙うべきだと思います。やっと専門検討委員会が出来たくらいですから、柔整の問題というのは、まだそんなに大きな問題にはなっていないと私は思っています。

―接骨院などには掛からずに、一律、整形外科に掛かれば良いという考えもあろうかと思います。しかし現状は、整形外科を知らなくて接骨院に掛かっている患者さんは殆どいないと思いますし、むしろ、あえて整形外科ではなく接骨院に掛かっているという状況だと思われます。そうした状況において、一律、整形外科に掛かりなさいと言うだけでは、患者さんにとっては何の解決にもならないように思いますが、どうでしょうか。

レントゲンに映っていないから痛くないはずだとは言えない訳で、打ち身等も分らないと思います。病院に行ってやってもらえなかったことをキチッと適正な料金でやってもらえるのであれば良いと思うんですよね。もうちょっと広い目でみての役割分担、ここまでは面倒をみる、悪化することがないように連携システムを構築して社会復帰させることが重要です。

―医療費の適正化という名の受診抑制だという批判もあります。またそれが効を奏して受診抑制によって医療費が抑制されたとしても、患者さんの病状が改善されないということでは本末転倒のように思いますが、そうしたことに関して何かお考えがありましたならお聞かせください。

本質はキチッと伝えることだと思います。最近歯科でも口腔内の細菌数が見えるような検査法を取り入れています。口腔内の細菌数と脳梗塞の関係とか、角度を変えて新しい展開が医師の側からも出てきました。そういう意味ではお互いが協力しないとダメなんです。健保組合もそうです。納付金の制度を考えてみると出せる人が出している仕組みです。となると退職し、健保を卒業していった人も、やはり我々の気持ちの中に入れておいて健康度を上げていくことが大事であると思います。昔し老人保険の対象者に看護師をつけたように、最近は若い人でも家族に看護師をつけています。ちょっと具合が悪ければ病院に行くということを日常的に繰り返しているようでは、医療費はもたないですからね。健康互助会の一員としては、病院へ行く前に看護師さん或いは保健師さんというフィルターを一つかける。電話相談という手段があっても顔が見えない人と何が相談できるのかというのは私の持論です。やはりいろんな情が通って普段の状態をしっかり観て分っていれば〝貴方それはやめたほうがいいよ〟と言っていただくほうがずっと良いと思います。そういう意味でも健保は家族までもを巻き込んで全体の医療費を下げる努力をしていくということです。保健事業を行った後に必ず効果が現れます。ダメだったら止めればいいんです。まずやることです。

―JBさんが出されている案については、どんな風に思われておりますか?

今回、柔整師会のJBさんが一生懸命やっている姿を見ました。内部から襟を正そうというのは、方向としてはとても良いことだと思うんですよね。あの活動は拡げていくでしょうし、整形外科医とも調整していって、私はやるべきだと思います。お医者さんは上から目線で見るからダメなんです。同じ医療従事者じゃないですか。ただ柔整師さんを叩く整形外科医が圧倒的に多いのは何故かということです。いろんな考え方は当然ある訳で、ただし取り込めるものがあるのか無いのかです。折角同じジャンルにいながら、もったいないですよね、もっと大人であるべきですよ。

―療養費が支給・不支給の決定権は保険者にあるとされておりますが、無知な被保険者は困りますが、必要があって接骨院で治療を受けたにも関わらず、不支給になったというのであれば、国民皆保険の理念に反すると思われますし、保険料を支払っている被保険者の健康は守られないことにならないでしょうか。その辺はどのようにお考えでしょうか?

例えば不支給というのは1回や2回の話では多分ないと思います。やはり度を越すとダメなんです。当健保には12年分のデータがありますから、大体ターゲットは絞られます。度を越すようであれば〝どうなの?〟〝最近どうなってんの?〟〝ちょっと少なくなったけど、状態よくなったの?〟など、ストレートには言いません。暗に見ているなというのを分からしめるような攻め方です。頭からぼーんとやるのはそれは大人のやり方ではないと思います。やはり夫々理由がある訳ですし、本人が納得しないと何ごとも絶対変わりません。つまり、見ているということが分かれば良いのです。

―今後どのような方策をとれば、全ての国民にとって健康に役立つ方向に向かうことが出来ると思われますか?それについてどんなお考えでもよろしいのでお聞かせください。

立場、持ち場でということで、やはりよく考えてもらうということです。ベースは「健康互助会」であると。使いたい時は使って問題ありませんが、みんなが使うようになったらパンクしてしまいます。保険料も多くもらわなければならなくなります。そういったバランスの中でよく考えてみて下さいと。私がこの世界に入ってビックリしたことは、正札って何処にもないんです。例えば。風邪をひいて病院にかかって、3000円支払って帰ってきた。その方は1万円払ったことになり、本人の窓口負担は3千円、7千円は健康互助会から出ているんですよと。そういった意識がないとダメです。みんなタダだと思っていますから〝あそこの先生の所へ行くと薬をいっぱいくれて〟とか話しています。「そのお金どこから流れているの?」ということなんですね。

このインタビュー記事は、日鐵住金溶接工業健康保険組合が4月に合併、新日鐵住金健康保険組合になる前に取材させていただいたものです。ご了承ください。

伊藤義徳氏プロフィール

日鐵の本社に入社。習志野市の工場に11年間勤務。その間、人事・総務畑を歩く。研究所勤務、3年半を経て、人事兼務で日鐵住金溶接工業健保組合常務に就任。

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