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USEN健康保険組合・中川達也氏に聞く!

インタビュー 特集

近年、保険財政はいよいよ厳しくなるいっぽうである。そういった中で、健康保険組合は様々な努力を強いられている。

昨年3月に厚労省からの通知が出されたことで、適正化の名目で患者照会調査があたり前になり、しかも民間への委託が増加の一途である。また、今年の4月24日に柔道整復師の施術に係る療養費の算定基準の一部改正が行われ、厚労省から一定の見解は示されたものの現場の混乱は解消されないままである。

果たして健康保険組合は柔整業界をどのように見て、またどのようであって欲しいと考えているのであろうか。

スペシャルインタビュー「保険者に聞く!」
USEN健康保険組合   中川  達也  氏

―先ずはじめに貴保険組合の設立の経緯と理念についてお聞かせ願います。

設立は昭和56年7月1日になります。会社は昭和36年の創業になりますが、当初は社会保険事務所のほうに入っておりまして、だんだん規模も大きくなり、自分たちの健康保険組合を持って事業運営をしていこうということで、立ち上げました。現在、被保険者数は3715名、家族数は約3512名、計7227名の規模で、12の事業所で運営しております。

―中川さんは、柔整療養費において何が問題であるとお考えでしょうか?

制度の統一化がなされていないことでしょうね。ウチは、こうやる。でも我々はこういう風にやる、俺たちはこうやるんだと。その中に団体が居て、個人が居て、夫々様式も違いますし、見ていると団体も夫々カラーがあり、どこも独自でやられています。結局、独自でされて夫々違う形で請求されているので、こちら側としても合せていかなければいけない部分があります。ただ、合わせられなくて〝どうなんだろう?〟ということも多々あります。今日明日で出来るものではないので難しいとは思いますが、統一しないとダメですよね。この問題は最近になって特に話題となっていますけど、元々こういう問題はありました。しかし、解決がみつけることが出来ない為にこうなっていると思います。ここ数年、個人とか団体が乱立してきて、施術者同士で競争が激しくなり、患者さんの奪い合いをしているように感じます。でもこうなってくると実際に請求がきても、ここの団体は何をしているのかというのが全く解らないところが沢山あります。問題だといわれながら、一つも解決することなく、ここまで来てしまった結果だと思います。最近特に目立ちますので、どこかで歯止めをかけないとこの制度自体が崩壊してしまうと思います。なんでもかんでも決まりだからダメということではなくて、実際にこういうことをやった上でこの分を請求しますというのであれば、問題はないんです。でも、今までダメだったのが急によくなると、〝じゃやっとけやっとけ〟と、これをするからダメなんです。じゃ、そんなことになるのならもうこれもアウトにしましょうとなってしまうのです。

―療養費適正化の徹底をはかるということで2012年3月に厚労省から各保険者に通知が出されましたが、貴組合ではそれより以前から療養費の適正化に取り組まれていらっしゃいましたか?またこの通知以後、どのように取り組みを開始されましたでしょうか?

当組合では通知が出される以前から適正化に取り組んでいました。決して毎回請求があるから戻すということではなく、内容的におかしいと思われるものだけに照会をとり、返戻する場合があります。一応以前より行っていますが、ここまで取り上げられ出したのは最近です。昔から適正化は行われていた訳ですが、余り話題にはならなかったです。繰り返しになりますが昔は今ほど乱立していなかったので、ある程度、制度が守られてきていました。でもこれだけ競争が激しくなってくると、〝取れるところから取れ〟みたいになって来たからおかしくなってきているのです。統一させるべきなんです。一般医科のレセプトのように支払基金、ちゃんとした審査機関をもって団体・個人関係なく先ず一回そこで集約して、キッチリ審査してダメなものはダメ、適正なものだけが保険者に届いて、支払が出来る。学校が乱立して、結果柔整師さんが増えているということですが、何故そんなに人気があるのか?制度が統一されていなくて、比較的楽な支払がされてしまうからです。

―貴組合は民間調査会社を利用されていらっしゃいますか?もし利用されているのであれば、そのメリットとデメリットなどについて教えてください。

当健保は独自で行っていますので、民間業者に業務委託していないため、他所でやってもらうとどういうことになるのかというのは、よく知りません。今後も民間業者に頼む予定はありません。話だけ聞くと、民間業者は事務的なことしかやらないそうであまり良い話は聞きません。やはり自前でやっていれば、今までの流れで、この人は長い間通っているなとか、ちょっとおかしなことがあれば直接話も出来たりしますので、〝あ、そうだね〟〝今回ちょっと見直すわ〟ということも出来るんですね。ですから、外に出してしまうと全く見えなくなりますし、見えなくなった中で「不備です」「返戻です」と戻ってきて、これについてどうされますかということでの判断はとても難しい。単一健保組合ですが、全国規模なので鹿児島や北海道の人もいますが、しかしそこはお互い皆社員なので、電話一本かけて〝こういうことになっていますけど、どうですか?〟という話もお互いに出来る訳です。それをするためにはやはり内部で点検して、全体的なことを把握するためにも自分の目で見ていかないと出来ないことです。適量範囲であれば内部で行ったほうが良いと思います。

―患者調査が当たり前のようになってきましたが、患者さんにとって毎回接骨院にかかる度に照会状が届いて、とても不愉快ではないかと思います。まして後期高齢者の方が2月も3月も経過してから、その内容について記述回答することは困難ではないかと思われます。しかも「痛めたのか、慰安なのか」について、患者さんの主観的な部分が大きい上に医療者ではない保険組合の方や民間調査会社が判断することは可能でしょうか?

患者さんに毎回照会文書が届くことはストレスですよね。しかし中には、誰が見ても素人が見ても明らかにおかしいなというものがあるんです。返戻の場合、そういうケースが一番多いです。後は、やはり長期ですね。昔でしたら5部位までありましたので、長期にわたって5部位でずっと転がされたら誰が見てもおかしい。しかも当健保の場合、社員ですから、社内で本人を見れるんです。元気なんですよ(笑)。また医療費の通知を出していますから〝最初一回だけしか行っていないのに、毎月記載されているのはどうしてですか?行っていないんですけど〟ということもありました。それについて施術者の方に連絡して、こう言われているんですけど、と伝えると〝あ、すみません。請求ミスしました。同じ名前の方がいらっしゃってその方と間違えました〟と。おかしいじゃないですか、保険者番号も違いますし生年月日も違うんですから。それで〝間違ってました、請求ミスしました。返してください〟と。連絡しなかったら絶対向こうから言ってこない事例だと思います。こちらから言われたから、〝じゃ返してください〟と。ただ〝ウチはちゃんとやっている所なのでそれだけは解ってください〟と言われます。当健保は、単月でみると照会を出しているのは月数件です。内容的におかしくないということであれば、それだけで終わることもありますし、当健保も何でもかんでも照会したり保留にするということではなく出来たら直ぐに支払をしたいのです。やはり柔道整復師の方も生活がありますので早く支払をしてあげたいとは思いますけど、中に先ほど言ったように「明らかにおかしいでしょ」というのが出てくると照会したり保留になってしまうんです。だから全件返されるところもあるのだと思います。しかし、そういう保険者ばかりではないということを柔道整復師の方に分ってもらいたいです。つまり、一言で言ってしまえば〝ちゃんとやって下さい〟ということなんですけどもね。

―受領委任払いを償還払いに戻すといった声がよく聞かれますが、それについて中川さんはどのようなお考えをお持ちですか?

考えとしては、半々くらいです。私も一時期は償還払いでと思っていましたが、償還払いにしてしまうと、患者さんが請求の仕方が分らずに自己負担で10割払ったままになってしまいます。10割を支払ったとしても保険者には何も分からないので、こちらから何も見えないものに対して通知も出来ません。そういうことを考えてみると、受領委任払いもやむを得ずなのかなと思います。窓口で手続き等について詳しく丁寧に説明されないと伺っていますし〝加入している保険組合で払い戻しの手続きをとってください〟と言われるだけだと思います。そうなると被保険者さんやその家族の方はどうしたら良いかとなって、じゃ面倒くさいから何千円位ならもういいとなって請求しない人が増えると思います。それは良くないと思うんです。かかったものはかかったものですからね。こちらは保険料をいただいて運営していますので、キッチリお支払いしなければいけない。という訳で全部が全部償還払いが良いという風には考えてはおりません。受領委任払いを適正に行ってくれれば、良い訳で全てはそこなんだと思います。要は適正にやっていれば「償還払いに戻す」という話も出てこないと思います。適正にされていないから償還払いに戻そうという話になるので、もっとルールを明確にしないといけないと思いますし、グレーの部分が多すぎるので、其処を不正に利用しようと考える施術者が多いんじゃないのかなと思います。

―病院にかからず接骨院にかかって治った場合の医療費は格差があると思います。整形外科が沢山できた今日でも、良いから接骨院にかかり、接骨院が生き残っているという意見には中川さんはどう思われていますか?

確かに整形外科と比較するとレントゲン等の検査もないため料金は安いと思います。ただ一回負傷すれば、柔整師さんにかかるとどうしても長いです。中には1回だけで終わりという方もいますが、殆どの場合、3か月4か月かかって治癒して、翌月にはまた違う負傷名でかかっているケースが多くみられます。何処で受診するかは、受診する方の自由なので、整形外科に絶対行けとは言いません。どこの町にでも接骨院はありますし、やはり体の不自由な方が行く所なので、家から近くて便利であれば接骨院に行くことは反対ではありませんし、行くなとも言いません。

―医療費の適正化という名の受診抑制だという批判もあります。またそれが効を奏して受診抑制ができたとして、受診抑制によって医療費が抑制されたとしても、患者さんの病状が改善されないということでは本末転倒のように思いますが、そうしたことに関して何かお考えがありましたならお聞かせください。

怪我でずっと接骨院にかかっている受診者の方はおります。一応負傷原因は書いてありますが、本当かどうか分らない。非常に分かり難く、〝こんな負傷原因でどうして?〟っていうようなことも書いてきます。負傷原因にしても例題文とかがあるのでしょうね。〝どうして痛くなったんですか?〟と聞くと〝なんか分らないけども最近痛くなってきたのでちょっと診てほしい〟と患者さんが言われるので原因をつけられない。そうなってくると、「こけました」、「つまづきました」、「かがんだ時に力を入れすぎて」というような理由をつけてくるんです。本当にキッチリしている所は凄く詳しく具体的なことを書いてくるところもあります。以前は結構職人気質でやっている人が多かったと思うんですけど、最近若い方が沢山開業されてからサービス業という意識を持った方が多いように思われます。

―一部の柔道整復師の方からは、治療のガイドラインが必要であり、保険者や患者さんも参加される中で、作ることが望まれるとして、作り始めているとも聞きますが、そうしたことに関してもし参加の依頼がありましたなら、参加してみたいというお考えはありますか。

さきがけでそういうことをやっていただければ有難いです。内容にもよると思いますが、あまりにも理想ばかりを追い求めているガイドラインであれば、どうかなと思います。どの辺を見て作られているかです。その内容や考えに賛同出来れば参加してみたいと思います。どこまで共鳴してもらって、それならやろうと思ってもらえるかまでがとても大事であって、1割の方だけがきちんとされていても後の9割の方がきちんとされていなければ、何も変わりませんしね。

―JBさんが出されている案については、どんな風に思われておりますか?治療計画書等も添付するようにしていくと言われています。また、先日開かれたJBさんの総括大会では、最後にこの案を11月にスタートし、JB接骨院の申請書には傷病名を書かないで提出するとも話されましたが、そのようなことは可能なものでしょうか。

〝書いてもしょうがない傷病名なんて、もうナシにします〟と言っておられました。これについては、どう判断して良いのかちょっと分かりません。ただ直ぐに「認めます」という訳にはいかないと思います。治療録又は書類を添付すれば良いという問題ではないと思いますし、傷病名はやはり必要だと思います。さきがけで実施されて成功して、全国に拡がっていけば良いのでしょうが、中々難しいでしょうね。

―今年の4月24日に「柔道整復師の施術に係る療養費の算定基準の一部改正について」の通知がありました。またその疑義解釈についての説明もありましたが、その解釈と影響などについてお考えをお聞かせください。

幅をもたしておいて、後は保険者の裁量でということだと思います。保険者のほうにある程度裁量で幅をもたしているのは、悪いことではないと思います。ピシッと線を引いてしまうと1日でも多ければ、不正請求だとして戻されたりということになりますので。しかしながら本当に体が痛くて毎日でも行きたい人が接骨院に来られて実際に施術をしているのに、例えば15回しか請求できない。後の10回分は請求できない。その料金は誰が持つの?と言ったら、自分の所で持つしかない。線を引いてしまうとそういうことにもなりかねない。16回行っていても15回しか保険では診れないとなれば、その診れない分をどうするのか?自費診療にするのか?自費診療だと患者さんが来なくなることも考えられるので、そこを繋いでおきたいとなれば接骨院側が持つしかないってなると不正請求に繋がる可能性があります。3回しか来ていない患者さんがいれば、後12回はまだ余裕があるので、こっちの10日分を違う患者さんで請求したりということにもなりかねない。一方、保険者は医療通知を出すので、この人が3日しか行ってないのに通知書を見たら13回行っていることになっていて、〝13回も行ってないんですけど〟と保険者に問い合わせがきて、それをまた戻す。それの繰り返しになってくるのであれば今の状況とそんなに変わらない。余計関係が悪くなるというか、全部に対して悪循環です。従って日数は何日までとか、そういうのは決めないほうが良いと思います。ある程度幅をもたしておかないといけないところもあるかなと思います。

―今後どのような方策をとれば、全ての国民にとって役立つ方向に向かうことが出来ると思われますか?それについてどんなお考えでもよろしいのでお聞かせください。

所謂私がよくないと思うのは、例えば腰痛で接骨院に行って〝肩も揉んでおきましょうか、肩もやっておきましょうか〟と、そうすると〝痛いかもわからない。やっておいて〟と。これを保険でやろうと思うからダメなんです。保険で出来るのは、やはり原因があっての腰痛だけだと思うんです。それを肩も膝もというのは、もうそれは接骨院側のサービスじゃないですか。仮に患者さんに要求されて仕方無くやるのはいいと思いますが、その料金をどこに請求するの?という話です。本人が施術しくれと言っているんですから自費診療でやればいいじゃないですか。〝じゃ、ここから保険効かないですけど、いいですか?〟ということで〝ああ、いいですよ。払いますからやってください〟と。それでいいじゃないですか、いくらでも全身やってあげれば良いと思います。しかし料金が高くなったりすると、また来てもらえないからと窓口を安くして、その分を保険診療で請求するからおかしくなるんです。本人が希望していれば、施術を行うことは自由だと思います。何故悪いのかというと、他所で保険請求をしているんだったら、ウチも保険請求しようとなって、横に拡がっていく訳で非常に悪循環です。それを防止するためには明確なルールを統一して、不正には罰則を課すようになればいいと思います。統一されると健全化に繋がると思います。

中川達也氏プロフィール

平成3年、USEN健康保険組合に入社。 5年後、総務部に3年間異動になる。 以後、保険組合に戻って、現在に至る。

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