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デンソー健康保険組合・赤塚常勤顧問に聞く!

インタビュー 特集

毎年約1兆円ずつ増え続ける医療費。超高齢化社会が進展する中、健康保険組合はますます厳しい財政を強いられている。

国民の健康増進をはかることが健康保険組合の第一の役割として保険者機能を十分に発揮することを促し、提唱し続けるデンソー健康保険組合常勤顧問・赤塚氏に今後の方向性と取り組み等について、忌憚なく話していただいた。

果たして健康保険組合は柔整業界をどのように見て、またどのようであって欲しいと考えているのであろうか?

スペシャルインタビュー「保険者に聞く!」
デンソー健康保険組合 常勤顧問   赤塚  俊昭  氏

―はじめに貴健康保険組合の概要と方針、理念等についてお聞かせ願います。

デンソー健康保険組合の概要について簡単にご説明すると、加入事業所数は、㈱デンソーと国内グループ会社を合計すると53事業所です。加入者数は、被保険者7万人(平均39歳)、被扶養者8万人です。また財政規模は、約400億円です。

デンソー健保の方針は、加入者のQOL・生活の質を如何に維持・向上・改善するかということですが、それらは保険者機能と役割でもある訳です。従って加入者のQOLの向上に役立つかどうかが重要な点で、それがなければ総て意味がありません。つまり、我々のやることは総て其処に繋がるようにしなければダメだということです。二つ目は、疾病にかかった場合、セイフティネットとしての役割、経済的な面でもサポートしましょうということで、しっかりとした医療を提供するということです。3つ目が財政の健全化で、QOLの向上と十分な医療を提供するためには財政が健全でなければいけません。結局、財政の健全化は1番と2番を達成するための手段な訳です。3番のために1番2番を削減したり節減することは、本末転倒であると思っています。多くの場合、ここの観点がやや欠如しているように感じます。様々な保健事業を行い、いろいろな活動をするにも財政の制約で出来ないという保険者が多く、考え方が逆転しています。当然のことながら厳しい財政状況の中、また高齢者医療が増える中で更に厳しくなるのは当り前です。しかし、その中でも、自分たちができることは何なのか、やるべきことは何だろうかということを考えていかなければなりませんし、その辺が一番大事であると思っています。厚労省や関係団体とお話ししても其処がポイントで、そのためにはどうしたら良いかという方法論はいっぱいあります。健康の増進をはかるためには、患者と医療提供側と我々保険者が共同でやれることはないだろうかとして、やはり三位一体で働かないと目指すところには到達出来ないと思っていますので、常にそういう意味で医療提供側の意見若しくは立場を我々も尊重しなければいけませんし、医療者の方々にも我々の立場を尊重していただいて、患者のために何ができるかという観点を育てていかなければならないと思っています。

―これまで保険者と医療者側が共同で進められた事業がありましたら教えてください。

実際に、医師会とのコラボレーションで事業を立ち上げています。一番大きなものは、生活習慣病の特定保健指導制度を4年前に立ち上がりました。しかし、それに向けて大きな問題点がありました。代表保険者が何千もの個別の医療機関と契約しなさいという前提要件でしたので、実現不可能なものであり、制度を推進するのに大きな障害でそれを改善するためには困難を極めましたが、愛知県の医師会が医療機関を統合して、医師会と保険者代表が1対1の契約をしましょうという制度を構築することにしました。という経緯で愛知県情報処理センターを創設、医療機関を一本化し、更にIT化で効率化しました。其処に血液を採取して送っていただければ総ての分析とそれに基づく保健指導の要項を全部纏めてアウトプットしたものを送り返します。それに従って患者さんは保健指導の給付を受けられます。そういう仕組みにしましたから、お爺ちゃんお婆ちゃん、主婦の方達などが隣の診療所に行けば検診が出来て保健指導も受けられるようになりました。医者は保健指導を行なわず看護師さんが保健指導を行えるようにしました。そういうことで愛知県は受診率が高いんです。健保だけではなく国保や協会健保・共済組合にも開放しており、最近は他の保険者さんのほうが寧ろ利用率は高い。健保は様々な保健事業を行ってきましたので、元々受診率が高かったんですが、他の保険者さんはそういう経験や仕組みをあまり持っていないところが多く、結果的に健保の使い勝手が良いということで、最近参加が多くなってきました。

―健保の財政が厳しい状況が続く中で、本来の健康増進事業に取り組めないという話も耳にしますが。

ご存知の通り、健保組合は拠出金を半分位召し上げられて他の保険者のために使われている訳で、これまで健保はそのことに対して様々な反対活動を行ってきましたが限界があり、一定程度の効果はあったものの殆ど効果がないといったほうが良い程です。従って少しでも多くの被保険者や国民の健康増進をはかることが出来て、医療を必要とする人達を減少することが可能であれば、拠出金に波及するという考え方に立ち、健保が行っている様々な活動を全ての保険者が行うことで国民の健康が増進され、結果的に医療の適正化をはかることが出来れば、回りまわって自分達に還元されるというところまで見越して臨まないとダメだろうということです。〝なんで自分たちのお金で他の保険者の世話をするんだ〟という意見が必ず出てきます。当初5%から始まった拠出金が今や50%になっているにも関わらず、目の前のお金のほうが大事になってしまいます。そういった反対者もおられますので、信念をもって取り組まないととても出来ません。その辺が一番苦労するところで、自分たちの仲間の理解を得ることのほうが寧ろ難しい。

―先ほど健保の理念について話していただきましたが、保険者機能と役割について、少し詳しく教えていただけますか?

保険者機能と役割について若干詳しく説明しますと、人間の健康のステージには、まず「健康」が基本です。次に「予備軍」といわれる検査値で少しメタボであったり、リスク値が上がっている発症前の人たち、それから既に「発症した人」、最後は「要介護」、大きく4つぐらいのステージがあります。ということで保険者機能と役割において〝健康増進をはかりましょう〟〝予防を推進しましょう〟〝早期治療を促進しましょう〟この3つの〝進〟があるので我々は「3進活動」と称して、悪化を防いで、体の改善をしていきましょうというのが、我々の仕事です。しかし、それらの活動が効果を上げているのかどうか分からないので、しっかりデータで検証をして、計側的に改善していくことが必要になってきます。いくらお金を投じてどれだけの人がどういう風に健康状態が変化していったか、良くなった人がどれだけ居て、悪くなった人がどれだけ居るのか等。更には、予防推進活動の一貫で健康増進が目的の〝ウオーキング〟〝健康教室〟〝栄養教室〟〝保健指導〟にどれだけの人が参加したか、それが増えているかどうか。継続的な変化度を見なくてはいけません。つまり、継続的な観察と検証が大事なんですね。

実は、日本で医療費をデータで見ることが出来るのは健保だけです。支払い基金にしても、6ヶ月しかデータを保留できないので、去年はどうだった、10年前はどうだったというのは分かりません。結局、縦覧点検も6ヶ月前までで限定的です。また、厚労省にデータはありますが、厚労省はそれを誰も活用できる状態にはしていません。公的な機関の公的サービスにしか使えないため、これも非常に限定的です。従って、健康保険組合だけが検診と医療のデータを持っており、定量的に検証できる唯一の機関です。カルテをもう少し分析し活用ましようという話もありますが、電子カルテの普及率は未だ半分位ですし、カルテの様式が様々で統一されていないため、データ分析が難しい。結局、日本の医療で標準化されていて、様式が統一されているのはレセプトだけなんです。それを活用出来るのは健保なので、検証しなければならない立場にあります。私が10年前に当健保に来た時にも最初にやったことは、実は医科レセプトデータの検証と分析でした。

繰り返しになりますが、保険者機能で最も重要なことは健康増進活動であり、その内容をデータで検証・分析していくことが大事で、しかもデータで交渉することが重要です。ということで今後は「データヘルス」の時代です。ただの保険事業、地域計画ではないのです。過去にいろいろ行われてきましたが、掛け声ばっかりで、目指すものはいいんですが、それをどのように行うという具体性が欠けていました。これから厚労省で、『データヘルス計画』というのが始まります。健保の存在意義が何処にあるのかというと、保険事業を行って国民の健康の向上をはかる、医療費を適正化していくことが基本的な役割であり、保険者機能です。これまで取り組んできた健保の活動は効果があるとして、その活動を標準化していきたい。今まではバラバラに夫々が勝手にやっていたことを制度的に纏めていきたい。しっかりエビデンスを作り上げていくと、健保のヘルス事業がパターン化され標準化されます。その標準パターンを協会健保なり国保に展開しましょうという計画です。つまり、健保が取り組んでいることは、医療費の増加抑制です。毎年1兆円と云われる医療費の増加を抑制するにはやはり保険者機能で健康を増進するしかありません。また、その健康増進をはかるためにはもう少し「見える化」をしましょうと。その辺のことはデンソー健保が先進的モデルとして紹介されることになっています。

―医療費の適正化ではないということですね?

健保が目指すものは、先ほども話した通り、「健康の向上」と「給付の充実」、それから「財政の健全化」で、これを実施するためには、限られた財源の中で、効率的で費用対効果がしっかりしたものでなければなりません。従って医療費の適正化ではなく、適正な医療の提供に努める。医療費を適正化するということは、かかった医療費を簡単に言うと安くするや値切るということではなく、不必要な医療をどうやってカットしていくか、不必要な医療はやめましょうと。その上で〝不必要な医療とは何か?〟ということになる訳で、そこがポイントなんです。「必要な医療」を「必要な時」に「必要な人」に「必要なコスト」で提供する訳ですが、それらを業績に照らして正しいか否かをみましょうと。

―赤塚常勤顧問は、柔整は必要であるとお考えでしょうか?また柔整療養費において何が問題であるとお考えでしょうか?

柔整は必要か必要じゃないかという議論は、意味がありません。必要だからあるんであって、問題は〝必要でない行為がされていないか〟というところです。其処が一番のポイントであり、其処が信頼感を損なっている原因の一つなんですね。信頼を損なった背景にはいろいろあります。施術者が多すぎること、様々な団体が乱立していること、教育が徹底されていないこと等が挙げられます。しかも管理監督する所が不明解で、厚労省の中での位置づけ、医療の中の位置づけが非常に不明解です。受領委任制度一つとってみても課長通達で、それも昭和11年から継続されており、既に半世紀以上を経ています。監督官庁がやるべきことをやって来なかったことも然ることながら、それに甘んじてきた業界が問題です。他にもやはり業界内部の問題ですが、教育と人材育成の問題があります。施術者ですから技術的な面は当然勉強されると思いますが〝社会にどう貢献するか〟〝社会にどういう役割を果たすか〟という観点の勉強といいますか、そういった面での教育をされていないのでは?と。その辺を皆さん軽んじられている人が多いように感じます。

我々企業は極めて厳しく人材育成を行っています。特にモラル教育を徹底的にします。そういう制度をやはり柔整業界でも取り入れてほしいですね。更に申し上げると、企業は収益を上げるのが第一、これは何所でも一緒で、これはやむを得ないことで、そのために財務的な基盤をしっかりするというのは当たり前です。しかし、問題は達成手段で、その達成手段で一番大事なことは、CS(Customer Satisfaction)といいますが、それに応える品質、品質というのは物だけではなく、サービスの品質であり、柔整でいうと施術の品質〝患者様に品質の高い施術をしていますか?〟が問われるのです。日本は、何故「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われるまでに発展したかというとCS品質管理、QCクオリティコントロール、PDCAプラン・ドウー・チェック・アクションを日本は徹底的にやったからです。デンソーの製品は100万分の1単位の徹底した品質管理をしてここまで来ている訳です。従って、そういう企業から見ると柔整業界があまりにも緩いというか、しっかりした品質管理がされていない。ですから色々ある問題の中でも大きな問題は〝世の中が求めている品質のサービスを提供していますか?〟〝それを切磋琢磨してやっていますか?〟と。

医療分野に所属している人たちであるのに、患者のため国民のためという観点で施術を行っている人があまりにも少なすぎる感じを受けます。不正が多いと言われ続けていることは、確かなことなのでハッキリ言いますが〝何故不正が多いのか?〟やはりモラルの欠如、学問的知識の足りなさ、これは本人だけの問題ではなく、やはり業界として、行政としてそういう公的な仕組みを持っていないからです。医師会・歯科医師会等には統一機関があり其処の公的な場で主張すれば全て広報されることになっています。医療との棲み分け、医療としての法的な根拠、保険診療が意味するところが明確化されていない。ただ保険請求は別枠のものであり、医療を受けたかどうかに対してお金を支払うものです。出来高払いとはいうものの、治ったか治らないかに対してお金を支払っていないのです。また医療行為に対する保険料の支払いには法的なルールがあり、それが医科であれば保険点数だったりする訳ですが、柔整はそういうものが特に明確になっていない。例えば医科では適応外使用になると、極めて明確な医学的判断と保険点数解釈に基づいて厳しい査定が行われます。医療行為は自分の信念や医療的判断で何をやってもらっても結構ですが、お金に換算し請求するのはルールに従って行うというのが保険診療です。これがダメなら自由診療しかない訳です。従って、保険診療である以上はルールに従ってください。其処の理解があまりにもされていないので不正請求になってしまう可能性がある。そこが一番の問題です。

―貴健保の療養費適正化への取組みについてと民間調査会社に委託しているメリット・デメリットなど教えてください。

当健保は、実は非常に少ない職員、10数人で運営しておりますので、とても自分たちで柔整療養費のレセプト点検まで行うことは不可能です。当健保の柔整療養費のレセプト件数は月4千件位です。それをちゃんとチェックして、一定程度の効果を出していこうとすると外部業者を頼るしかないということで、外部業者に委託してから、やはりコストが下がっています。それがメリットと言えば、メリットです。不正受給の問題も一定程度はそこで改善されていますから、大きなメリットです。デメリットとしては、やはり自分たちにノウハウが蓄積されませんし、自分たちで本来やるべきことが出来ていないといったことがありますが、しかし優先順位からすると当健保の医科のレセプト件数は月に10万枚で、その10万枚を放っておいて4千枚をやれない訳です。結局、専門業者に外注して点検や照会等を実施している訳ですが、今はそれをやらざるを得ません。ただし啓蒙活動は当健保で行っています。自分たちでは限界があって難しいことでありますが、そこは1つの課題と思っています。

―柔整の取扱い疾患について、赤塚常勤顧問はどのようにお考えですか?

柔整の方達が取り扱えるものは〝急性期の怪我以外はダメ〟という基本的な業務範囲があります。私に言わせれば緩和ケアと思いますが、亜急性と称される所謂慢性期の疾患は、実際には出来ないことになっています。そのことが根本的な問題だと思っている訳です。緩和ケアと慢性期の医療について、今は未だエビデンスに基づいた知見がされていません。そのために、今は急性期の骨折・脱臼・打撲・捻挫・挫傷の5つに業務範囲が限られている訳なんですね。但し限られているために、業務範囲以外のものは支払えないのが保険のルールです。という訳で、グレーと言われる5疾患以外の治療行為で効果があるものは、エビデンスがあるならばしっかり認めていかなければなりません。これについてはお役所の問題ではなく、業界としてそれを検証していくべきで、それを標準化して欲しいと思っています。必要で効果があったとしても今のルール外だから全て不正とされているのです。〝合法的にする努力をされているんですか?〟と申し上げたい。というのは、そういう活動をしていることは存じ上げないし、されていないと思います。何故ならその理由はそれを行う団体が無いからです。〝必要だからやっているんです〟と言いながら何故非合法なんですか?合法的に変える努力をしましょうということです。保険診療は合法的な対処しかできませんし、非合法のものは認められないんです。それでも、今までは暗黙のうちに了解し合ってきただけ、知らんふりしていただけです。しかしもう制度的に認めてもらわないと無理です。我々も対処の仕様がありません。頻回・多部位そういった目にあまるものは別として、必要だと言われているところのものは、その必要性を証明して欲しいし、それを認めさせて欲しいのです。それが無いから何時までたってもエンドレスに繰り返すんです。しかも、繰り返している中で、曖昧なゾーンがどんどん拡がっています。

―受領委任払いを償還払いに戻すといった声がよく聞かれますが、それについて赤塚常勤顧問はどのようなお考えをお持ちですか?

受領委任制度は諸悪の根源って言われる保険者も多くいらっしゃいますが、私自身は償還払いに戻すことは現実的に無理だと思っています。しかし、今のまま受領委任制度を継続するのであれば、正式に公的な審査支払機関を作る必要があるでしょうね。受領委任払いは法的な制度ではありません。あくまでも課長通知で認められているだけで、柔整の点検システムはあまりにもアバウトです。ただ、保険者からみると柔整の金額が1割2割増えたとしても全体からみると目立たない。もっと大きな問題がいっぱいあって、そのほうが重要なので、どうしても無視されがちというか見逃されてしまう訳です。それに対して悪く言えば甘えて、つけ込んでいる様に見えます。自分たちで自制する仕組み、自浄作用が必要だと思います。自浄作用と一口に言っても実際は非常に厳しいものです。医科の世界がかなり厳しく公正に行っているのに比べると私に言わせると甘すぎます。保険者が成り立たなくなって、保険者は解散しているのです。柔整師界だけが厳しいんじゃないんです。日本の保険者が厳しいのです。我々も変わっていっています。医療業界だって常に変革を求められているんです。だから柔整師界も変わらなければいけないんです。

―整形外科が沢山できた今日でも接骨院にかかり、接骨院が生き残っているという意見には赤塚常勤顧問はどう思われていますか?また、一律整形外科に掛かりなさいと言うだけでは、患者さんにとっては何の解決にもならないように思いますが、どうでしょうか。

いろんな意味があって、整形に行くより柔整に行ったほうがいいという人は心情的にいっぱい居ます。これまで歴史的に長く生き残ってこられたように柔整は国民に必要な医療です。ですから現在も国民に必要な施術とされているのであって、それがニーズです。その国民のニーズに応える必要があり、〝オールオアナッシング〟で応えてはダメです。ただ、何回も言っているように問題は制度的に不完全、特に不正で一番多いのは緩和ケアです。その緩和ケアが多くやられている背景がある。その事実をちゃんとエビデンスで示し、医科に準じるような保険点数化を制度的に認めてもらう努力をすることが正当な活動です。それをしないで裏で必要だからいいだろうと言っているようではダメです。それは子供の喧嘩です。正当であるならば、正当の手続きをするように業界内外、公けに投げかけたらいいではないですか。そういう投げかけをするのであればもしかして保険者も納得して支援する人もいるかもしれません。保険者にとって痛みをとる施術というのは、QOL向上のために必要で、超高齢化社会が進むこれからの医療の大きな課題です。薬を飲んで痛みをとるのは、当り前に認められていて、良い悪いを言う人はおりません。しかし、マッサージ等の施術をして痛みをとることに関して、それはノーだといわれている訳です。簡単に言うと保険的には薬で治すのはOK、施術で治すのはNOというのは、ちょっと片手落ちです。本音を言うと、それを認められるように業界自身が証明し、手続きをして下さいということなんですね、それを保険者である我々がやるんですか?ちょっと待ってくださいよ(笑)

―医療費の適正化という名の受診抑制だという批判もあります。受診抑制によって医療費が抑制されたとしても、患者さんの病状が改善されなければ本末転倒とも思いますが、赤塚常勤顧問のお考えをお聞かせください。

医療費の適正化のための受診抑制とされていますが、本当はそうではなく、受診の適正化です。受診の適正化であって、それを取り違えて言われています。何故なら方法論としての医療費の適正化はあっても、医療費の適正化はあり得ません。正しくは「医療の適正化」と言っています。どうしてかというと予防医療・診療医療・要介護者の医療等、3つのジャンルの医療がある中で、それらの医療をどのように組み合わせて適切な医療を行うべきか、極力無駄な医療をやめましょう、限りある資源で効率的な医療をしましょうということで、それらが受診するにあたって効果的・効率的な受診を行いましょうということに繋がっていく訳です。また、医療費の適正化、受診抑制となると何か対決構造で、そこに患者は不在です。医療側と保険者側の喧嘩であってはならないのです。そうした誤解を払拭して〝患者に必要な受診の適正化をしましょう〟〝適正な医療を提供しましょう〟という方向に持っていくべきで、本来あるべき姿を求めるべきです。我々保険者はお金を払わないのが仕事ではない。払わないのが仕事であれば意味がない。しかし、無駄はしませんということです。

―JBさんがやられている活動について赤塚常勤顧問はどのように思われていますか?

JBさんが今やられていることは、未だ不十分なところもありますが、一歩進もうとしているところがあります。本来、公益社団である日整がやるべきことをJBさんが代わられて取り組まれているというのは、非常に困難で厳しいと思います。小さいながらもスタートして一石を投じることになれば、又その実績がエビデンスになれば変わってくるのかなと思います。JBさんがされている活動をこの業界が抹殺するようなことがあれば、もっと大きな法的規制の網がかかってしまうことになるでしょうね。

―柔整治療のガイドラインが必要であり、保険者や患者さんも参加される中で、作ることが望まれるとして、作り始めているとも聞きますが、もし参加の依頼があれば、参加してみたいというお考えはありますか。

私が参加するのは専門知識がありませんし、それは勘弁して貰いたいと思いますが、保険者がそこに関与することは大事と思います。医科の審査委員会でも保険者が出席してちゃんと見ていますので。

―療養費の支給・不支給の決定権は保険者にあるとされておりますが、無知な被保険者は困りますが、必要があって接骨院で治療を受けたにも関わらず、不支給になったというのであれば、国民皆保険の理念に反すると思われますし、保険料を支払っている被保険者の健康は守られないことにならないでしょうか?

必要な治療を受けて不支給になっているということは、これは間違いですし単なるミスです。しかし、それが総てではないのです。必要な治療の不支給よりも不必要な治療の支給のほうが圧倒的に多いことが大問題なのです。ただ、総てに必要な治療が給付されているとも限らない訳で、やはり医科でも間違いが多いし、過剰な繰り返しもあります。的を得たツボを得た処にまで辿り着かない医療というのもしょっちゅうありますから、そういう意味でも不必要な医療は多い。必要な医療であってもたまたまそういう事例があったからといって、総てにノーと言っている訳ではありません。

―今年の4月24日に柔道整復師の施術に係る療養費の算定基準の一部改正について通知がありました。その後、疑義解釈についての説明もありましたが、その解釈と影響などについてお考えをお聞かせください。

細かい解釈については把握しておりませんが、6月にも出ましたね。その時に少なくとも電話番号くらいは記するように、そして事前に合法的な施術とはこういうものだとちゃんと説明をするようにとされました。しかし、それは医科でも同じで、昔はレセプトに電話番号の記載がありませんでした。一応、保険者が問合せを出来るようにとした配慮もあるとは思いますが、結局今までそういったことが不十分だったということです。また施術者も疑義のあるものは自分たちで抑止力が働くようになると思います。今までは、何もないからラッキーみたいなことで通ってしまう。そういう意味では連絡先1つでもキチンと書くことで是正に繋がっていくんですね。

―今後どのような方策をとれば、全ての国民にとって健康に役立つ方向に向かうことが出来ると思われますか?それについてどんなお考えでもよろしいのでお聞かせください。

当面何をやらなければならないかというと、やはり自主規制です。業界が変わらなければなりませんし、変わる努力をする。国民の信頼を得る努力をする、それを具体的に形で示していかなければなりません。2つ目に中長期に考えなければいけないことは、所謂レセプトの審査支払い機関として、一括して支払う機関、公的な審査支払い機関を作ることです。受療委任をなくすことは現実的に無理ですから、審査支払い機関を公的なものにする、若しくは業界が一本化する、どっちかだと思います。3つ目は、オンライン化してデータ化すると標準化が出来ます。こういう疾患には、どういう施術をしてどういう効果があり、どのくらいのコストだったかをデータで分析、その分布も出ます。医療の世界では医療の標準化といいますが、施術内容の標準化が出来るようになります。もっと進むと医療の質の評価が出来るようになります。それが法律化に繋がって、制度化に繋がります。何度も言いますが柔整を必要ではないと全く思っておりません。それが世の中の現実でありますし、必要な人が多いということは、制度化してちゃんと表舞台に出しましょう。陰でやるのはやめましょう。結局、陰でやると前に進まないんです。企業でいう「見える化」を行って問題の所在を明らかにして、周知徹底をはかることです。ある部門の限られた人だけではなく、目標や理念、ビジョンを明確に掲げなければダメなんです。〝柔整はどうしたいの?〟という部分を早く作りましょう。〝どうしたい〟をやるためには次に〝どうする〟が来る訳で、これが無いんです。最早曖昧にしておくことは、得策ではありません。

赤塚俊昭氏プロフィール

平成15年、デンソー健康保険組合常務理事に就任。健康保険組合連合会愛知連合会・会長、健康保険組合連合会本部・常務理事、社会保険診療報酬支払基金・理事、愛知県医師会健康情報処理センターあいち・副理事長等、4団体役員を兼務する。

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